モータースポーツコラム

親子三代で楽しめる自動車博物館ガイド!

憧れの名車を見に行こう!

2022.12.21

文=原田 了/写真=原田 了、森山良雄、ホンダモビリティランド、マツダ、日産

2022.12.21

文=原田 了/写真=原田 了、森山良雄、ホンダモビリティランド、マツダ、日産

日本全国に点在する自動車博物館。「自動車博物館とはどのような存在なのか?」「モータースポーツファンにオススメの自動車博物館」について、モータースポーツジャーナリストとして活躍する傍ら、世界中の自動車博物館を160施設以上も取材している原田了さんに解説していただきました。

自動車博物館には自動車メーカーの企業博物館から個人のコレクションを発展させていったプライベート博物館までさまざまなタイプがある。企業博物館では当然のように、そのメーカーの最新モデルも展示されている一方で、ヒストリックなモデルも数多く展示されていて、過去=クルマの歴史を振り返ることも可能となっている。

たとえば、自分が初めて購入したクルマを自動車博物館で見かけると、クルマだけでなく当時の生活シーンも思い起こされる、というわけだ。個人的な例でいうと、小学生の頃、兄が買ってきた自動車雑誌に掲載されていた海外のスポーツカーやレーシングカーに憧れていたが、実際に博物館を訪れることで当時にタイムスリップでき、興味が一層増してきたことが何回もある。

モータースポーツを例に話を続けていくと、昔応援していたチームやクルマ、ドライバーの記憶が、実際に当時のクルマを見ることで、より鮮やかに蘇(よみがえ)ってくる。日本国内でもモビリティリゾートもてぎのホンダコレクションホールや、先頃オープンした富士モータースポーツミュージアムなどが整備されてきているが、海外でも大きなサーキットには必ずと言っていいほど自動車博物館が併設されている。モータースポーツとマシンを展示する自動車博物館は、切っても切れない関係なのだ。

また自動車博物館によっては、雑誌などでリアルタイムに興味を持ったクルマだけでなく、それ以前のクルマ=19世紀末から20世紀初頭のモデルを収蔵展示しているところもあるから、その自動車博物館を訪ねることで自分が生まれる前のクルマについても間近に観察することが可能になってくる。

知識を得るためだけなら、雑誌や書籍、図鑑、あるいは近年ではインターネットで事足りるのかもしれないが、自動車博物館に実際に出かけて旧(ふる)いクルマを間近に見たり、場合によってはエンジン音を聞いたりすることで、より深く感じることができるのは言うまでもない。

海外では各国に数多くの自動車博物館があり、自動車大国のアメリカや、現在のリーディングカントリーであるドイツ、フランス、イタリア、そしてかつて多くの自動車メーカーが存在したイギリスや現在では大きな市場となっている中国はもちろん、自国に自動車メーカーが存在しないベルギーやルクセンブルクにも国立の自動車博物館が存在する。残念ながら現在日本には国立自動車博物館は存在しないが、ぜひとも実現してほしい。

自動車博物館は昔のクルマを懐かしむだけでなく、子供たちの新たな興味のきっかけにもなり得る、親子三代にわたって楽しめる施設だ。私自身も孫の手を引いて(手を引かれて)国立の自動車博物館を訪ねることが、最近の切なる願いとなっている。

それぞれに個性あり!
魅力的なマシンを見に行こう!

富士モータースポーツミュージアム

メーカーの垣根を越えた名車が集結

富士モータースポーツミュージアムは、富士スピードウェイに隣接する富士スピードウェイホテル内にある、2022年10月にオープンした国内で最も新しい自動車博物館である。

トヨタ自動車が主導する“富士モータースポーツフォレスト”の一角をなしていて、国内でも屈指の規模と内容を誇るトヨタ博物館が監修していることもあり、その展示スタイルと内容に関しては十分すぎるほどの満足感がある。

  • 愛知県にあるトヨタ博物館は、日米欧の代表的な車両約140台や、自動車関連の文化資料約4,000点を用いて世界の自動車史を紹介する自動車博物館として、世界的に高い評価を受けている。

何よりも素晴らしいのは、トヨタ自動車が声をかけ、国内外のレースでしのぎを削ってきたライバルでもある日産自動車や本田技研工業など、国産メーカーのほとんどが展示車両の出展を協賛していること。こうした協業は、世界的にも珍しく画期的な取り組みで、日本の自動車産業の底力を見せつけてくれた気がする。

これまで一部の熱狂的なファンに支持されていたモータースポーツが、この博物館の誕生をきっかけに、より多くの人たちにアピールできるなら、モータースポーツの一ファンとしてもうれしい限り。

個人的には、その存在は知っていたものの、こちらで初めて出会ったトヨペット・レーサー。鈴鹿サーキットが完成する以前、1950年代初頭にトヨタが関わって完成させたレーシングカー。レースファンならずとも必見だ。

富士モータースポーツミュージアム
所在地:静岡県駿東郡小山町大御神645
TEL:0550-78-2480
富士モータースポーツミュージアムウェブサイト

ホンダコレクションホール

「レースがDNA」を体現するマシンを動態保存

ホンダコレクションホールは、本田技研工業が創立50周年記念の一環として1997年に開業したツインリンクもてぎ(現モビリティリゾートもてぎ)内に開設した自動車博物館(ホンダコレクションホールは98年にオープン)。ホンダの企業博物館として、4輪だけでなく2輪も多数のモデルを収蔵展示。

もちろん「レースがDNA」と謳(うた)う同社だけに、市販されたロードモデルだけでなく、F1マシンや2輪のGPレーサーなど数多くのレーシングモデルも収蔵リストに入っている。ちなみに現在のホールが完成する以前は、鈴鹿サーキット内に収蔵庫として開設されていた。

ホンダコレクションホールの大きな特徴は、オープン当初から“動態保存”をアピールしていて、最近各自動車博物館でもトレンドとなっている“動態保存”の先駆けとなった点だ。

また定期的に、収蔵車両の走行確認テストが実施され、一般に公開されているのも特徴の一つ。テスト車両はウェブサイトで公開されるので確認を。

富士モータースポーツミュージアムには1965年のメキシコGPで優勝したRA272が展示されていたが、こちらはホンダが日本チームとして初めてF1GPに挑戦したマシン、ホンダRA271。日本のF1GP事始めの一台だ。

ホンダコレクションホール
所在地:栃木県芳賀郡茂木町桧山120−1
TEL:0285-64-0341
ホンダコレクションホールウェブサイト

MAZDA MUSEUM

地域に根付いて成長したマツダの足跡をたどる

マツダミュージアムは、広島に本拠を構える自動車メーカー、マツダの本社に隣接する宇品第一工場の一角に整備された自動車博物館。開業は1994年で、国内メーカーの企業博物館としては“老舗”のひとつ。先頃大幅なリニューアルを実施し、2022年5月に再オープンしている。

マツダの最初の自動車となった3輪トラックのマツダ号から1991年のル・マン24時間レースで優勝したマツダ787Bまで、マツダがこれまでにリリースしてきたクルマたちを収蔵展示しているが、他の自動車博物館と異なっているのは、工場見学も含めたガイドツアーのみという観覧システム(第1土曜日は事前予約で自由見学も可能)。小学校の移動教室で自動車工場を見学し、その一環として自動車博物館で歴史を振り返る……的なプログラムとなっていること。

リニューアルの前後を含めて、これまでに何度か訪れたが、そのいずれでも小学生の一団と遭遇した。マツダは広島の大企業で、原爆が投下された際には、広島県庁や広島県警察本部、NHK広島放送局などがマツダの本社を間借りして活動を続けるなど、地元と一体になって活動してきた。そんな流れから移動教室に対応するプログラムができたのだろうが、子供たちがマツダ好き、クルマ好きになるのを期待したい。

国産車(正確には国内ブランド車)として初めてル・マン24時間レースに勝ったマツダ787B。世界で初めて2ローター・ロータリーエンジンの量産化に成功したマツダならではのレーシングカーだ。

MAZDA MUSEUM
所在地:広島県安芸郡府中町新地3-1
TEL:082-252-5050
MAZDA MUSEUMウェブサイト

日産ヘリテージコレクション

世界を驚かせた日産車を約300台展示

日産ヘリテージコレクションは、日産自動車の座間事業所に整備された施設。1964年に操業開始した座間工場は95年に組み立て工場としての歴史に幕を閉じ、以後は生産設計開発など他の工場の支援業務とリチウムイオンバッテリーの開発生産などを担当している。

組み立て工場の跡地の一部はショッピングモールなどに生まれ変わったが、座間事業所の一角に整備されていた日産座間記念車車庫は継続して運営され、やがて整備が進み、一般公開に至っている。

まず驚かされるのはその台数の多さ。常時展示されているクルマが約300台、収蔵車両は約400台という規模は、さすが日産の歴史を物語る施設だけある。基本的には完全予約制で約2時間のガイドツアーのみだが、自由観覧の時間も設けられている(2022年11月現在新型コロナの影響で、一般見学会は休止中)。訪れるなら事前にウェブサイトなどで目的のクルマを絞っておくと、より効率的な観覧が可能だ。

関連施設として、日産エンジンミュージアムが日産横浜工場のゲストホールに設けられている。こちらは文字通りエンジンが展示された博物館で、初代“ハコスカ”GT-Rに搭載されていたS20エンジンなどが単体で展示されていて、マニアは必見だ。

日産ヘリテージコレクションで必見の一台がプリンスR380 A-1。1965年の日本グランプリに向け、まだ日産に吸収合併される前のプリンス自動車工業で開発された、国産初の純レーシングカー。66年の同レースで優勝。

日産ヘリテージコレクション
所在地:神奈川県座間市広野台2-10-1
TEL:046-298-4355
日産ヘリテージコレクションウェブサイト

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