文=尾張正博/写真=レッドブルコンテンツプール、Honda、Wシリーズ

角田裕毅の凱旋レース日本GPを見逃すな!

10年ぶりの日本人表彰台へ

日本中のF1ファンが待ち望んだ、3年ぶりの日本GP(グランプリ)。小林可夢偉選手以来の日本人ドライバー・角田裕毅選手の初凱旋ということもあり、日本GPが予定されている10月7日~9日を待ち遠しく思う方も多いだろう。今回は日本GPをより楽しめるよう、現地で取材するF1ジャーナリストの尾張正博さんに、2022年の日本GPの見どころや、2年目を迎える角田選手の成長ぶり、さらに今シーズンから女性最高峰レースであるWシリーズに参戦するJuju選手について紹介してもらった。

ホンダパワーを駆る角田選手が日本に帰ってくる!

コロナ禍の影響により、2年連続で中止となっていたF1日本GPが、いよいよ3年ぶりに帰ってくる。今年、その日本GPタイトルスポンサーを務めるのが、2021年にレッドブルとともにフェルスタッペン選手のドライバーズチャンピオン獲得を支えたホンダだ。

ホンダはF1参戦最終年となった昨年の21年もタイトルスポンサーとなっていたが、コロナ禍により地元でレースができなかった無念がある。ホンダはパワーユニットマニュファクチャラーとしてのF1参戦は終了したが、2022年再び日本GPのタイトルスポンサーになることで、なんとしてでも母国でF1を復活させ、日本のモータースポーツを盛り上げようとする強い意志がうかがえるとともに、カーナンバー1のマシンとともに凱旋する今年は、特別なグランプリになるに違いない。

というのも、ホンダはF1参戦を終えたが、ホンダのパワーユニット(PU)は、2022年もサーキットを疾走しているからだ。2021年までホンダが開発・製造していたPUは2022年からホンダのレーシング部門であるホンダ・レーシング(HRC)が引き継ぎ、レッドブル・グループに対して使用を許諾している。今シーズン、レッドブル・パワートレインズ製としてF1に参戦しているPUは、ホンダのDNAが100%生きているのだ。

またHRCはPUを開発・製造しているだけでなく、レッドブルが新たに創設したレッドブル・パワートレインズに対し、PUの組み立てを支援するとともに、サーキットの現場だけでなく、日本からもレース運営のサポートを行うという新たな立ち位置での挑戦を続けている。

HRCの文字が刻まれたF1マシン

レッドブルのマシン後方には「HRC」の文字が刻まれている。

そのホンダのDNAを受け継いだレッドブルは第6戦スペインGPで今季2度目のワンツーフィニッシュを達成してマックス・フェルスタッペンがチャンピオンシップリーダーに立つと、続く第7戦モナコGPではチームメイトのセルジオ・ペレスがメキシコ人としてモナコGP初優勝を飾り、7戦を終えた段階でドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権の2つのチャンピオンシップでともにリーダーに立つ活躍を見せている。

そのホンダと今季熱い戦いを演じているのがフェラーリだ。2008年以来タイトル(コンストラクターズ選手権。ドライバーズ選手権は2007年以来)から遠ざかっているだけに、フェラーリの熱狂的なファンであるティフォシたちの期待も大きい。

F1にパワーユニットが導入された2014年以降、日本GPを席巻してきたメルセデスは、新しいレギュレーションによってマシンが一新された今季はここまで苦戦を強いられている。そのメルセデスの日本GPでの連勝を止めるのはレッドブルか? あるいはフェラーリか? レッドブルが優勝すれば、2013年以来9年ぶり。ホンダにとっては1991年(マクラーレン・ホンダのゲルハルト・ベルガーとアイルトン・セナによるワンツーフィニッシュ)以来31年ぶりの美酒となる。フェラーリが日本GPで勝利すれば、2004年のミハエル・シューマッハ以来となる。どちらが勝つにしても、今年の日本GPはチャンピオンシップ争いを左右する重要な一戦となることは間違いないだろう。

角田選手の走行シーン

アルファタウリのマシンを駆る角田選手

ホンダのDNAを受け継いでいるもう一つのチームであるアルファタウリには、ホンダの育成システムから世界に羽ばたいた角田裕毅選手がいる。鈴鹿サーキットレーシングスクール(現在のホンダレーシングスクール鈴鹿)のフォーミュラ部門出身の角田選手は卒業後もHondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクトの一員としてレース活動を続け、2019年からヨーロッパへ挑戦。FIA-F3選手権で頭角を現し、翌年ステップアップしたFIA-F2選手権ではランキング3位となり、F1ドライバーとなるために必要なスーパーライセンスを獲得し、2021年に見事F1への切符を実力でつかんだ。「ホンダさんの門を叩いたのは、F1に参戦していて、F1に一番近いと思っていたから。ホンダさんのサポートがなければ、ここまでやってこれなかった」と言う角田選手にとって、2022年の日本GPはF1ドライバーになってから初の母国グランプリ。今季一番楽しみにしているグランプリは「圧倒的に鈴鹿」と、ホンダとともに刻んだ思い出の地への凱旋に胸を膨らませる。鈴鹿サーキットが開場して60周年となる今年の日本GP。日本のモータースポーツの聖地で行われる一戦に世界が注目している。

つのだ・ゆうき
出身地:神奈川県相模原市
ドライビングスタイル:ブレーキングが強み
好きな食べ物:日本食全般。特にもつ鍋
休日の過ごし方:世界中を旅する仕事なので、たまった家事をこなす

JAF Mate2021年11月号より

挫折と成長を繰り返し…
いざ飛躍の瞬間へ!

角田選手

鈴鹿サーキットレーシングスクール出身の角田裕毅選手だが、「鈴鹿サーキットでレースしたのはF4ぐらいで、F1とは走り方も全然違うと思う」と本人が語るように、じつは鈴鹿でのレース経験はそれほど多くない。したがって、F1で何年も活躍しているベテランドライバーのほうが角田選手以上に鈴鹿でレースを行っている。

ただし、角田選手は鈴鹿サーキットレーシングスクール時代にスクール生として鈴鹿を走り込んでおり、自分の庭と言ってもいい。

そのスクール生時代から角田選手自身もドライバーとして成長している。ルーキーだった2021年はさまざまな試練に直面した角田選手だったが、その経験を糧にF1ドライバー2年目の2022年は、著しく成長した活躍を披露している。昨年予選では1度しかチームメイトのピエール・ガスリーを上回れなかったが、今年は第7戦を終えた段階で3勝4敗とほぼ互角。ドライバーズ選手権ではチームメートを抑え、チームのポイントゲッター的存在だ。

角田選手が駆るアルファタウリのマシン「AT03」が高速型コースで好成績を収めており、鈴鹿との相性が良いのも好材料だ。特に鈴鹿の後半セクションには西ストレートや130Rがあり、そこでのスピードがレースでは重要になってくるからだ。

2019年の日本GPの様子

2019年の日本GP。ドライバーは現在ウィリアムズから参戦するアルボン選手。

また、アルファタウリが第7戦までにマシンをあまり改良していないことも後半戦に向けて有利な材料だ。現在のF1はバジェットキャップ制によって年間で使用できる予算が定められており、かつてのように莫大な予算をかけた開発ができなくなった。2022年は年間1億4000万ドル(約173億円)で、その範囲内でしか開発を行うことができない。

「だから、ほかのチームにはシーズン前半にどんどんアップグレードしてもらって、開発に使えるお金が尽きて、後半アップグレードできないほうが僕たちのようなチームにはいいですね」と角田選手は後半戦でのマシン開発に期待を寄せる。チームが角田選手の母国グランプリに向けて鈴鹿スペシャルを投入するようなことがあれば、上位に食い込んでくる可能性もある。

角田選手にとっても鈴鹿はスペシャルだ。「鈴鹿でF1を走らせるのは、特別なモノになると思います。なぜなら、日本のファンの前でF1マシンをドライブすることが、僕にとってずっと夢でしたから。だから、鈴鹿でファンの皆さんに日本人として誇れるようなドライビングができるよう思い切って走りたい。そのうえで特別なリザルトを手にできれば、本当に素晴らしいことになると思います」と語る角田選手。特別なリザルトがもし表彰台となれば、日本人では2012年の小林可夢偉選手以来となる。

新しいF1マシンは接近バトルが面白い!

鈴鹿はコーナーが連続する世界でも屈指の難コース。それゆえオーバーテイクが難しく、予選順位とピット戦略が重要となってきた。だが、2022年はオーバーテイクを促進させる目的で新世代マシンが導入され、例年よりも接近戦が可能になった。F1は空気の流れを利用してマシンを地面に押し付けるダウンフォースによって、コーナリングスピードを高くしてラップタイムを稼ぐ。しかし、これまでは前車に近づくと空気の流れが乱れてダウンフォースが失われるため、なかなか前車に近づけず、結果的にオーバーテイクが難しかった。

それが今シーズンから導入された新世代マシンは、これまで制限されてきたマシン底面とディフューザーが改良されてグラウンドエフェクトカーとなり、前車に近づいてもこれまでのようにダウンフォースが失われにくくなった。モナコGPまでの7戦中3戦がコース上での追い抜きによって首位が入れ替わる熱いバトルが展開されたのも、新世代マシンの投入によるところが大きい。

加えて鈴鹿はタイヤに厳しいコースなので、予選でうまくいかなかったとしても、ロングラン用にしっかりとマシンがセットアップされていれば、決勝レースでの巻き返しも十分可能となるだろう。鈴鹿で開催された日本GPでは2005年にキミ・ライコネン選手が17番手から猛烈な追い上げを披露し、最終周で首位に立った伝説のレースがある。オーバーテイクが行いやすくなったマシンで、久しぶりに最後まで手に汗握るレースが鈴鹿で展開されるかもしれない。

女性最高峰レース‶Wシリーズ″も開催!!

女性ドライバーだけのフォーミュラカーレースであるWシリーズは、2019年にドイツツーリングカー選手権のサポートレースとしてスタートした。コロナの影響で2020年は開催されなかったが、2021年からF1のサポートレースとして復活。今年、初めてアジアに進出し、日本GPのサポートレースとして開催される。

3シーズン目を迎える2022年のWシリーズは10か国のドライバーが集い、そのうち5人はWシリーズにデビューしたばかりの新しい才能たち。その一人が日本人ドライバーとして唯一人参戦しているJuju(こと野田樹潤)選手だ。

Juju選手がレースの世界に入るきっかけを作ったのは、父親で元F1ドライバーの野田英樹さんが3歳の誕生日プレゼントとして与えたカートだった。その後、カートのレースで多くの勝利を挙げたJuju選手は、当時としては世界最年少となる9歳でFIA-F4仕様のフォーミュラマシンを運転し、現役レーサーと遜色ない好タイムで走らせるなど、非凡な才能を披露。12歳から参戦したフォーミュラU17のF3マシンクラスの2019年シーズンでは、出場したレースで全勝したほどだった。

2020年からはデンマークを拠点に海外のレースに挑戦し、今年16歳でWシリーズへ最年少デビューした。開幕戦となったアメリカ・フロリダでのレースではフリー走行でのクラッシュが響いて、思うような結果が残せなかったが、2ラウンド目のスペイン・バルセロナではベテラン勢に混じって力走していた。結果は13位とポイント獲得はならなかったが、ルーキーの中ではトップの成績。一戦ごとに成長を続けているJuju選手が、鈴鹿でどんな走りを披露するのか。Wシリーズでの日本人過去最高位となる4位(小山美姫選手/2019年)以上を目指した戦いにも期待したい。

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