注目度ますますアップ! モータースポーツで活躍する女性たち
近年モータースポーツで活躍する女性がどんどん増えています! 今回は「ドライバー」として世界で活躍するJuju選手と、「レースアナウンサー」「オフィシャル」「パフォーマンスエンジニア」として現場で活躍する3人の女性を紹介。加えてJAF WOMEN IN MOTORSPORTで座長を務める飯田裕子さんに、女性のモータースポーツに対する認知拡大に向けた取り組みを語っていただきました。実際に働いている女性たちを知ることで、モータースポーツを身近に感じる女性が少しでも増えれば幸いです。
「世界の神童100人」にも選ばれた!
Juju選手に大注目!
女性活躍の世界的な波は、モータースポーツ界にも例外なく押し寄せている。ただし主役というべきドライバーだけは、今も圧倒的に男性優位なのが実情だ。そんななか、14歳から世界を舞台に戦う女性ドライバーがいる。Juju(こと野田樹潤)選手だ。
現在16歳のJuju選手は、1990年代の英国F3、国際F3000で活躍し、F1参戦経験もある野田英樹を父に持つ。野田は娘が3歳になった時にキッズカートを買い与えたが、特にレーサーにするつもりはなく、「あくまで親子のコミュニケーションツールの一つだった」という。しかしJuju選手はすぐにカートにのめり込んでいく。
ちなみに彼女の母はバレエダンサーで、当然ながらバレエも習わせた。しかし将来に影響を与えるほど熱中したカートとは違い、こちらはすぐにやめてしまったとのことだ。
現役時代、豪放で型破りな走りが身上だった野田は、その教育法も独特だった。4歳でカートレースデビューしたJuju選手は、すぐにレースで勝ち始めた。すると野田は、「年齢に関係なく、乗りこなせる能力と体力があれば、もっと上の車に乗せるべき」と、9歳で本格的なレーシングカーのF4マシンを運転させた。Juju選手も十分に期待に応え、12歳で出場した17歳以下のフォーミュラレースでは、全11戦を全て優勝で飾った。
「車の挙動を感じながら速く走らせられる能力、タイヤのグリップを感じ取れる感覚、ミスをするにしてもそのタイミングだったり、ミスの内容だったり、あとはレース中の駆け引きとか、教えてできることと、できないことがある。教えてできない部分は、本人の感覚でしかない。そこをJujuは持ってると感じましたね」(野田英樹)
14歳になった2020年から去年までは、デンマークF4に参戦。初戦では予選でいきなりポールポジションを獲得すると、そのまま勝ってしまうという衝撃デビューを果たした。
しかしその後は度重なるトラブル、不可解なペナルティなども重なって、2年間の通算勝利数1、選手権6、7位。レース界の「ガラスの天井」を感じ続けた2年間だった。
「いざ結果を出すと、一気に風当たりが強くなる。男同士とは違う敵対意識でした」(Juju選手)
結果を出してない段階では、周りはすごく良くしてくれる。しかしいざ結果を出すようになると、風当たりが強くなる。それまで良くしてくれていた人が、口も利いてくれなくなる。そんな辛い経験を、何度もしてきたという。
さらに度重なるトラブルについては、「また同じトラブルが出たら」と、さすがのJuju選手も本来のイケイケの走りができなくなっていたという。しかしそれらすべての障壁を、彼女なら必ず成長の糧にしてくれるはずだ。
今季からはWシリーズという、新たな挑戦を始める。この選手権は規則の縛りが厳しく、たとえばレースの行われるサーキットではいっさいテストができない。なので多くのレースが、ルーキーのJuju選手にとってはぶっつけ本番となる。周りのライバルたちは多くが2年目、3年目であり、決して楽な展開にはならないだろう。
では、どう戦うか。野田親子は、「1年目は気楽に行こう」と話し合ったという。
「勝ちにいくことだけ意識していたら、レースも楽しめない。プレッシャーばかり感じて、変に力が入って本来の自分を見失ってもいけない。1年目は気楽にやって、うまくいったらそれでいいし、そこそこだったら2年目から結果を出しにいく。焦る必要はないんじゃないのと」(野田英樹)
「女性にしては」などという枕詞がいっさい必要がないほど、Juju選手の速さはカート時代から際立っていた。彼女が本来持っているポテンシャルを100%生かせるような環境を得たら、はたしてどれほどの速さを見せてくれるのか。そんな日が来るのが、待ち遠しくてならない。
Juju選手が参戦するWシリーズとは?
テストの模様もお伝えします
2019年に発足した「Wシリーズ」は、女性ドライバー限定のフォーミュラレース選手権だ。参戦ドライバーは前年上位の結果を残した8名以外、テスト走行による選考で決められる。3月上旬にスペイン・バルセロナのカタルーニャサーキットで行われたテストには、Juju選手も参加した。マシンはいわゆるF3マシンだ。
各ドライバーに与えられたテスト時間は1日半。Juju選手にとっては未知のサーキット、そして未知のマシンだった。そのため、「初日は半日かけて、無理せずコースとクルマを覚えることにした」という。
最初は慣れないマシン挙動や窮屈な運転姿勢に苦労したものの、コースはすぐに習熟できたという。テスト2日目には、かなり使い込んだタイヤでも、2〜4番手あたりの順位をキープし続けた。
ところがニュータイヤでいざタイムアタックというとき、Juju選手は大失敗をやらかしてしまう。コースインして加速した瞬間、リアのグリップを失って、スピンを喫したのだ。ウォールにぶつかるのを回避するために、フルブレーキング。そのためせっかくのニュータイヤが削れてしまい、1セットしか供給されない新品タイヤは使い物にならなくなった。
それもあって、総合順位は19位という不本意な結果に終わった。とはいえJuju選手のそれまでの安定した周回を関係者はしっかり評価してくれていたようで、全17名のうちの一人に最年少で選ばれた。
17名のうち12名は、前年からの継続参戦だ。つまりこのシリーズを1年以上経験したベテランたちばかりの中で、Juju選手は戦うことになる。
今季開催予定の8戦はすべて、F1のサポートレース。鈴鹿サーキットでも初めて行われる予定で、このWシリーズがこれまで以上に大きな注目を浴びることは間違いない。
世界最高峰レース
F1で活躍する女性たち
モータースポーツの最高峰F1は長い間、完全な男社会だった。ほんの20年ほど前まで、この世界で働く女性はケータリングの配膳係か、広報担当しかいなかった。しかし2010年に弁護士出身のモニシャ・カルテンボーンが、女性初のチーム代表に就任。ザウバーで手腕を振るった。それと前後してエンジニア、さらに過酷な職種の代表格であるメカニックにも女性たちは進出している。
今のF1で最も有名な女性といえば、ルイス・ハミルトンの専属フィジオ、アンジェラ・カレンだろう。全レースに帯同し、片時も離れない。王者の身体と精神面をケアする業務を担うカレンの存在を、「常に前向きな、素晴らしいパートナー」と、ハミルトンは評する。2021年シーズン最終戦でマックス・フェルスタッペンとの死闘に敗れ、ミハエル・シューマッハを凌ぐ生涯8度目のタイトル獲得が叶わなかった際にも、アンジェラは大きな支えになったはずだ。
まずは知ってもらいたい!
国内でも草の根運動で認知拡大へ
世界の動きに同調するように、国内でもモータースポーツと女性の距離を近づける運動が活発になっている。「JAF WOMEN IN MOTORSPORT(JAFウィメン・イン・モータースポーツ)作業部会」の座長を務めるモータージャーナリストの飯田裕子さんにお話を伺った。
路上を走るドライバーは女性も多いけれど、自動車業界、ましてやモータースポーツというとまだまだ「男社会」の印象が強く、女性が参加しやすいイメージは少ないかもしれません。1990年代頃は女性だけのレースやイベントもわりと盛んで、実は私自身も、体験イベントへの参加がモータースポーツに興味を持ったキッカケだったりもしました。しかしバブル崩壊以降でしょうか、さまざまな活動が縮小し、せっかく火が灯り始めた「モータースポーツと女性の関わり」に目が向けられる機会が減ってしまった印象があります。
そんななか、2009年にFIA(国際自動車連盟)がWOMEN IN MOTORSPORT委員会を発足させると、日本でも2014年からFIAと連携するJAFウィメン・イン・モータースポーツ作業部会(JAF WIMと略)を設置。女性のモータースポーツ参加を促進する活動が始まりました。
近年特に注力しているのは、モータースポーツを知らない層に向けた認知向上・拡大のための草の根活動のような取り組みです。具体的には誰でも参加できるオートテストの普及と、モータースポーツを支える仕事に携わる女性をロールモデルとして紹介すること。
オートテストはヘルメットやレーシングスーツなどは必要なく、マイカーで気軽にモータースポーツ体験ができるイベントです。JAF登録クラブの皆さんが全国各地で開催していて、私たちJAF WIMも一部のイベントで共催やサポート活動をさせていただいています。オートテストは、完走すると国内Bライセンスが取得できますし、“走る、曲がる、止まる”の体験を通じて自己運転分析もでき、安全運転の再認識にもつながるはずです。サーキットなどの専用施設はもちろん、商業施設の駐車場などでも行われています。近隣で開催されているイベントをぜひチェックして、ご参加いただけたらうれしいです。
また、業界を知っていただく活動として、モータースポーツを支えるロールモデルを紹介しています。ドライバーはもちろん、メカニック、レースアナウンサー、オフィシャル、メディアなど、さまざまな分野で女性が活躍しています。彼女たちの活動をウェブサイトの動画や文章で紹介することで、「こんな現場で女性が働いているんだ!」と知ってもらい、モータースポーツを身近に感じるきっかけになってくれればと思っています。
今後は、キッズやジュニアなど子供たちへの普及活動と、「参加したい!」と思った人が必要な情報にアクセスできるツールとして、ウェブサイトの拡充を行っていく予定です。
JAFモータースポーツサイト「集まれ!モータースポーツ女子~JAF WOMEN IN MOTORSPORT~」
自動車先進国である日本において、モータースポーツ界でも世界で活躍する選手やさまざまなプロフェッショナルが今後数多く現れることを期待したいのは男女関係なくではありますが、将来的なモータースポーツファンを増やすためにも、女性に向けた活動に積極的に取り組んでいきたいと思っています。ぜひ私たちの活動に注目し、さらにご支援いただけたら幸いです。
昨年奈良で行われたオートテストの様子。
日本で活躍するモータースポーツ女子たちに
話を聞きました!
実際にモータースポーツの現場で女性はどのように活躍しているのか。ご本人にインタビューを行いました。
- 柿沼佐智子さん(レースアナウンサー)
レースアナウンサーは、実況はもちろん取材で得られたチームやドライバーの最新情報まで、レースに関するさまざまな事柄をお伝えするのが仕事です。取材対象は皆さんプロ意識をもってやってらっしゃるので、たとえば10歳のカートドライバーでも失礼のないよう、一人のプロとして向き合っています。
この仕事の楽しさは、レースにかかわるすべての方と「ワクワク」を共有できること。モータースポーツは1秒先が読めない世界なので、チーム、観客、主催者、全員が「自分たちが勝つぞ!」「だれが勝つんだろう?」というたくさんの期待や闘志を持ってサーキットに来ています。そういったポジティブなエネルギーを感じながら仕事ができる環境というのは、周りを見渡してもなかなかないんじゃないでしょうか。
そんなワクワクが詰まった世界に一人でも多くの女性に興味を持ってもらえるよう、女性アスリートをインスタライブなどに積極的に呼んで、まずその人を知ってもらうための取り組みをしています。同性ならではの踏み込んだ質問も交えながらなので、皆さんもぜひ見てみてください。
ただこれはあくまでも道の途中。将来的にはレースに女性がいることが当たり前になって、「女性ドライバー」ではなく、「一人のドライバー」としてスポットが当たる世の中になってほしいなと思います。その実現のために、私も頑張っていきます!
- 薦田美香さん(レースオフィシャル)
レース運営に携わる方をオフィシャルと呼ぶのですが、私はオフィシャルの中でも計時というセクションを担当しています。計時はマシンのラップタイムなどを計測しながら、レース後にタイムペナルティなどを反映させたリザルト(レースの結果表)を作る仕事です。レース全体をモニタリングするので、レースそのものがよくわかるセクションだと思います。あと基本室内なので、夏でも冬でも過ごしやすいのは良いところかな(笑)。
レースに関わるようになったきっかけは学生時代の友人の影響です。それまで車には興味もなかったのですが、一緒にレースに行くようになると現場で感じる不思議な魅力に取りつかれ、いつの間にかここまで来てしまいました。
オフィシャルはレースのある週末になるとサーキットへ行く、基本的にはボランティアです。私も平日は事務職で働いているので体力的に大変な面もあるのですが、それでも続けているのはレースが好きな仲間がいるからです。自分の好きな話を、同じくらいの熱量で話せる友達ってなかなかできないと思いますが、オフィシャルはみんなレースが好きなので、毎週「あのレースはどうだった」なんて盛り上がっていますよ。
最近はトイレや更衣室の整備など、サーキット側も女性にオフィシャルとして参加してもらうための取り組みを進めています。レースというと男社会のイメージがあるかもしれませんが、実際は若い方や女性に対してかなりウェルカムです。オフィシャル体験などもあるので、興味を持ったらお近くのサーキットに問い合わせてみてください。今までにない非日常な体験と、素晴らしい仲間が待っていますよ!
- 佐藤奈緒美さん(パフォーマンスエンジニア)
私はスーパーGTに参戦しているARTAというチームで、パフォーマンスエンジニアという仕事をしています。走行中のマシンから取得したデータやドライバーからのフィードバックをもとにマシン状況を解析して、チームに報告する役割です。
もともと車が好きな父の影響もあり、いつの間にかレース関係の仕事につくことが目標になっていました。私はレースの専門学校に行きましたが、実際に働き始めてからは「大学で工学の勉強をしておけばよかった!」と思うこともあるので、エンジニアへのルートは人それぞれですね。
さて、一般的にレースの世界って女性が少ないイメージで、女性にとって働きにくい環境だと思われているかもしれません。でも実は私自身、このインタビューのお話をいただくまで、男女についてあまり意識したことがありませんでした。理由は簡単。「このマシンを1秒でも速くしたい!」という思いに性別は関係ないからです。
もちろん体力面でどうしても差は出てきてしまいますが、そこは他の領域でカバーすればいいだけ。とにかく目の前の目標に向かって、自分の手と足と頭を動かし続けることが、とても重要だと私は思います。
なかなか結果が出せない時期が続くと正直かなりつらくなりますが、それだけにマシン調整がうまくいってレースに勝てたときの喜びはもう堪りません! レース関係の仕事に興味があって、情熱をもってやり遂げられるなら、女性だって絶対に活躍できます。私も一人のロールモデルとして頑張るので、一歩を踏み出してみてください。やらないで後悔するなんてつまらないですから。