モータースポーツコラム

モータースポーツ観戦の基礎講座 どんな競技なの?編

ピエール北川さん、谷口信輝選手に聞く!

2022.03.15
2022.03.15

JAF Mate Onlineでのモータースポーツコラム第1弾は、モータースポーツ観戦の基礎講座です。まずは興味を持つところから始めてほしいのですが、そもそもモータースポーツって何なのかよくわからず「ハードルが高い」イメージがあるのも事実。そこでさまざまなモータースポーツを便宜的に5つに分け、その魅力を「どんな競技なの?編」「観戦のコツは?編」でお届けします。ナビゲーターはモータースポーツをアナウンサーという立場から知り尽くしているピエール北川さんと、現役のレーサーでもある谷口信輝選手! 今回はモータースポーツの基本の基を学ぶ「どんな競技なの?編」です。

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スプリントレース

一番早くゴールした人が勝ち!
単純明快な面白さが魅力

ピエール北川さん:短いもので数十分から、長くても120分ほどで走り切れる距離が設定され、その距離をトップで走り切ったものが勝者となる形式がスプリントレースです。世界ではF1やINDY、国内ではスーパーフォーミュラなどがこれに当たります。

コーナーで駆け引きを行う様子

勝負どころとなるコーナーでは、ライバルより前に出ようと駆け引きが行われる。(提供=Honda)

2時間前後で勝負が決まるスプリントレースの魅力は、単純明快な面白さです。たくさんの車が一斉にスタートを切って、一番早くゴールした人が勝つ。もちろん戦略なんかも関係するのですが、「速いドライバーと速い車との組み合わせ」で勝負のほとんどが決まります。運動会でいうと「短距離走」ですね。

また、短い間に勝負の綾(あや)が凝縮されているのもスプリントレースの魅力です。スタートで出遅れた選手は順位を上げなくてはならないし、逆にスタートで前に出られた選手はその位置をキープしなければならない。ゴールまでの時間が短いスプリントレースにおいて、「待つ」とか「引く」は「負け」に直結しますから、いたるところで熾烈(しれつ)な順位争いが繰り広げられます。

それから後述する耐久レースとは違い、ほとんどのスプリントレースではドライバー交代がないので、マシンをドライバー一人の好みに極限まで合わせてセッティングしていきます。ドライバーとマシンのつながりの濃さというのもスプリントレースの特徴です。

耐久レース

頭脳戦好きにはたまらない!
戦略が勝負を分ける

長丁場のレースでは日が暮れることも。その中でもレーサーたちは時速300km超で走り続ける(提供:トヨタ自動車)

長丁場のレースでは日が暮れることも。その中でもレーサーたちは時速300km超で走り続ける。(提供=トヨタ自動車)

耐久レースは、一定の時間でより周回数の多いチームが勝ちです。世界ではル・マン24時間が含まれる世界耐久選手権(WEC)、国内ではスーパー耐久シリーズなどがよく知られています。

スプリントレースが「短距離走」なら、耐久レースは「リレー」や「駅伝」だと思います。レース時間が3時間や5時間、長いものだと24時間と長丁場になるので、複数のドライバーが交代で1台のマシンを運転しゴールを目指します。リレーや駅伝と違うのは、一度走り終わったドライバーが再び運転することもあるという点。1人目と4人目と6人目が同じドライバーということもよくあります。

競技時間が短いスプリントレースでは「待つ」や「引く」は「負け」に直結しますが、競技時間の長い耐久レースでは違います。たとえばトップ争いをしている2台がほぼ同時にコーナーに差し掛かったとき、スプリントであれば両車ともに何としてでも前に出ようとしますが、耐久ではどちらかが「引く」ことも十分あり得ます。

なぜかというと、2番手になると空気抵抗が減ることで燃料やタイヤの摩耗を節約でき、長時間にわたるレース戦略を経て、終盤でスパートをかけられるチャンスが増える可能性もあるからです。マシンやドライバーの速さはもちろんですが、こうした戦略が勝敗を分ける大きな要因になるのは耐久レースの特徴です。常に100%ではなく、80%に抑えつつ、いつ100%を出すか。そんな戦略を考えるのが好きな方は耐久レースに向いていると思います。

また、違うクラスのマシンが混走するのも耐久レースの魅力です。日本のスーパー耐久シリーズでは、スーパーGTに出られるようなレーシングマシンから、普通に販売されている市販車プラスアルファくらいのマシンまで出場しています。デミオやフィットのようなコンパクトカーも出場しているので、「自分の愛車と同じ車が出てる!」なんて発見があると、親近感がわいて、興味を持てるかもしれません。

ラリー

舞台は公道!?
長距離コースも二人三脚で挑む

土煙を上げながら豪快にコーナーを攻めるマシン。コースの端にはネットしかない Copyright © STI

土煙を上げながら豪快にコーナーを攻めるマシン。コースの端にはネットしかない。© STI

閉鎖された公道にSS(スペシャルステージ)と呼ばれるタイムアタック区間を設定し、その合計タイムを競うのがラリーです。国内では全日本ラリー選手権、世界では世界ラリー選手権(WRC)などがあります。

ほとんどのモータースポーツはサーキットなど、車が走りやすい環境で行いますが、ラリーは僕たちが一般生活で使う道路や山道の一部を貸し切ってコースにします。それからラリーは、タイムを計測するSS(スペシャルステージ)と、「リエゾン」と呼ばれるSSとSSをつなぐ公道区間を交互に走るのですが、リエゾンは貸し切っていない公道なので、他の一般車と混ざって走らなければなりません。となるとナンバーが必要になり、車検も必要です。つまりラリーって、僕たちが普段乗っている車に近いマシンが、日常の生活で使っている道路などでタイムを競うんです。実に生活に密着した競技ですよね。

ラリーがほかのモータースポーツと違う点はまだあります。モータースポーツって基本的に車に乗るのはドライバー一人だけなのですが、ラリーの場合はもう一人、「コ・ドライバー」と呼ばれる人が乗ります。

コ・ドライバーの役割は簡単にいうと道案内。ラリーのSSは長いところだと20km、30kmあって、そのすべての道をドライバーが記憶するのは不可能です。それに見通しのきかないカーブも全速力で駆け抜けるので、事前にそのカーブがどのくらいキツイのか把握しておかなければ、すぐにコースアウトしてしまいます。事前の下見(「レッキ」と呼びます)でペースノートと呼ばれるコースの詳細を記したノートを作っておき、それをコ・ドライバーが読み上げて「この先○メートルでどのくらいのキツさのカーブがあるよ」とドライバーに伝えてあげるんです。

もっとも、ペースノートがあるとはいえコ・ドライバーの指示だけを頼りに、ドライバーは先の見えないコーナーに突っ込んでいくわけですから、ドライビングテクニックだけでなく、二人の力量とお互いの信頼もとっても重要になってくるわけです。

表彰式で喜ぶピエール北川さんの様子

2020年に初優勝を遂げ喜ぶピエール北川さん(左から3人目)。

実は僕がモータースポーツを好きになったきっかけが小さい頃に見たラリーで、しかも現在、僕自身も競技者として参加しているので、どうしてもラリーには熱くなってしまうんですよ(笑)。

話を戻して、スプリントレースは「ドライバーの好みにマシンを極限まで合わせる」と言いましたが、ラリーの場合はちょっと違います。というのも、舗装されたコースもあれば砂利道もあり、また路面が凍結していたり雪が残っていることもあります。秋なら落ち葉で滑りやすくなることもありますね。マシンはこのような幅広い状況に対応しなければならないので、ドライバーの好みや特定のコンディションに合わせすぎてしまうと、それはそれで問題なんです。

スプリントレースが一点集中型のセッティングだとしたら、ラリーはある程度幅を持たせた、懐の深いセッティングとでも言いましょうか。その意味だと、複数のドライバーが乗り、長時間でコンディションが変わる可能性のある耐久レースに車作りの考え方は近いかもしれません。

eスポーツ

ゲームとはもう呼べない。
最先端の「シミュレーター」

シートに座りモニターに向かう選手たちの表情は真剣そのものだ(提供:NGM)

シートに座りモニターに向かう選手たちの表情は真剣そのものだ。(提供=NGM)

これまで紹介してきたモータースポーツとはちょっと毛色を変えて、eスポーツもご紹介したいと思います。eスポーツは、共通のソフトウェアを使用し、その中でレギュレーションを定めて競技を行います。JAF公認のJEGTのような大会から、個人が主催する大会まで規模もいろいろです。

僕ら昭和世代が「レースゲーム」というと、ゲームセンターにある、大きな筐体(きょうたい)にハンドルとペダルが付いて、コインを入れて遊んだものを思い出すのではないでしょうか? 

eスポーツの場合は「ゲーム」とは呼ばずに、「シミュレーター」や「シム」と呼びます。現実に運転するのとなんら変わりのない操作方法で、現実と同じような動きをするプログラムの中で車を走らせる。つまり現実世界がシミュレートされたものという位置づけなんです。事実、やっている操作もリアルのモータースポーツとまったく変わりません。

なので、eスポーツで速く走らせることができるドライバーは、練習を積めば、リアルのマシンに乗ってもちゃんと速く車を走らせることができるでしょう。逆もしかりで、リアルで速いドライバーは練習するとeスポーツでも速いと思います。

そんな速いドライバーたちがしのぎを削るのがeスポーツの大会です。選手たちの表情は真剣そのもの。自らのドライビングテクニックと、さまざまな戦略を駆使してライバルたちと競います。近年ではeスポーツの存在が大きくなり、リアルのレースでもなかなかお目にかかれないような賞金が懸かった大会も増えてきました。コロナ禍でリアルのレースが開催できない状況が続いたこともあり、現役のリアルレーサーがeスポーツに登場する場面もあります。

余談になりますが、マシンのセッティング面でも、シミュレーターの中でいろいろ試し、いいものが見つかればリアルに反映させていくという連携が進んでいます。バーチャルがリアルと大きく異なる点は、あらゆることのコストが低いということです。リアルなサーキットだとクラッシュはケガや修理コストにつながるので、そこまで攻めた走りやセッティングはできませんが、シムならどんどん試すことができます。またF1などで顕著ですが、近年は環境配慮などでテスト走行が制限されていることもあり、シミュレーターはそんなテスト不足を補完する役割でも存在感を増しています。

ドリフト

スピードだけじゃない。
重要なのはいかに「魅せる」か

時速100km以上でコーナーに突っ込み、ありえない角度のままコース上を滑走する(提供:D1グランプリ)

時速100km以上でコーナーに突っ込み、ありえない角度のままコース上を滑走する。(提供=D1グランプリ)

ドリフトは僕より詳しい方に説明してもらいたいと思います。現役のGT300レーサーで、D1チャンピオンの経験もある谷口信輝選手です。

谷口信輝選手:ドリフトはマシンを横方向に滑らせてコーナーを曲がり、「速度」「角度の大きさ」「角度の安定性」などを採点形式で競います。国内ではD1グランプリ、フォーミュラ・ドリフトなどがあります。

ドリフトってもともと、「いかに早く走るか」を追求したレーステクニックの一つだったんですよ。曲がりにくい車を後輪を滑らせてでも強引に曲げてタイムを稼ぐっていう。でも、いまのドリフト競技はタイムではなく「いかに華麗に技を魅せるか」っていうところがメインなのでまったくの別物です。

「スピードスケート」と「フィギュアスケート」のイメージですね。同じ氷上の競技でも、1秒でも早くゴールを目指すスピードスケートと、華麗な演技で観客を魅了するフィギュアスケートでは全然違いますよね? それからスピードスケートの靴とフィギュアスケートの靴が違うように、レースで使うマシンとドリフト競技で使うマシンは方向性がまったく違います。

ドリフトは「魅せる」ことに主眼を置いているだけに、観戦の面でいうとモータースポーツの中でも初心者向けかもしれません。細かいルールを知るよりも「見に行けば絶対に楽しめる!」ということだけ知ってもらって、まずは現地に行ってもらいたいです。

観戦方法、楽しみ方は?
後編では観戦のコツを伝授します!

具体的な観戦方法やモータースポーツの楽しみ方を紹介する「観戦のコツは?編」に続きます!

JAFモータースポーツサイト「モータースポーツを知る・楽しむ」

ウェブサイト「JAFモータースポーツ」では、モータースポーツのさまざまな楽しみ方をご紹介しています。

プロフィール

ピエール北川

ぴえーる・きたがわ 1970年三重県生まれ。小さいころから「クルマ」「バイク」好きで、小学校のときに読んだラリーを題材にしたノンフィクション小説でモータースポーツの虜(とりこ)に。現在は国内主要レースでサーキットアナウンサーを務めるほか、自身もラリーなどに選手として出場している。

谷口信輝

たにぐち・のぶてる 1971年広島県生まれ。18歳でミニバイクレース日本一を獲得したのち、4輪に転向。2001年にD1グランプリシーズンチャンピオンを獲得。スーパーGT GT300クラスでは3冠を達成。現在もスーパーGTなどに出場する現役レーサー。

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