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知らないうちに危険運転! 酒気残りのメカニズム

一晩寝た翌朝の運転でもご用心。
2023.04.18

監修=樋口 進(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター名誉院長)/イラスト=平田利之

2023.04.18

監修=樋口 進(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター名誉院長)/イラスト=平田利之

※JAF Mate 2022年1月号「知らないうちに飲酒運転!?酒気残りのメカニズム」を再構成して掲載しています。

飲酒後、呼気に出ない「酒気(しゅき)残り」をご存じだろうか。
“酔い”の落とし穴、酒気残りと運転への影響、その予防策をお伝えします。

自覚のない酔い“酒気残り”にご注意!

コロナ禍により、酒の消費傾向には大きな変化が生じた。外出行動の自粛により飲酒の機会は激減し、リモートワークが定着するにつれて“家飲み”を楽しむ人が増えたのだ。
「アルコールの消費量が減るのと比例して、アルコール依存症など深刻な飲酒問題を抱える人の数も減った実感があります」と語るのは、各種依存症の専門医療機関、久里浜医療センターの医師、樋口進さん。一方で、「家飲みの途中で買い置きの酒がなくなり、近所のコンビニまで車で行ってしまうケースや、深夜まで酒を飲み、一晩寝た翌朝の運転で事故を起こしたケースなど、酔いが体に与える影響を甘く見積もった結果が招いた事故は増えた可能性があります」と指摘する。
一晩寝ればアルコールは抜けるだろう、という感覚は多くの人が持っているものだ。しかし、飲酒状況別交通事故件数のうち、この酒気残りが原因のものは思いのほか多い。飲酒状況別交通事故件数のグラフを見ると、アルコール検知が基準値以下・検知不能の割合が18%(約1/5)を占めている。つまり、酒気帯び運転の基準に満たない、“酔いの自覚がない”ドライバーが事故を起こすケースも十分にあり得るのだ。

酒気残りって何?

酒を飲み過ぎた翌日の頭痛や胃のむかつきなどの不快症状(二日酔い)は、多くの人に経験があるだろう。一方の酒気残りは酔いの自覚が薄いにもかかわらず、体内に酒が残っている状態を指す。日本アルコール関連問題学会では、「飲酒運転を予防するため、1時間に分解できるアルコール量は4g(*1)」と規定している。酒量が増えると消失時間も長くなる。二日酔いのような不快症状がなくても酒気が残っている可能性は高いので、十分な注意が必要だ。

種類別に5時間で分解できる酒量の目安

  • ※1)松本博志:アルコールの基礎知識. 日本アルコール・薬物医学会雑誌 46 : 146-156, 2011.
  • ※2)酒の分解速度は個人差が大きいので、あくまで目安と考える。

間違いだらけの酔い覚まし方法

Q.仮眠を取れば酒は早く抜ける?

アルコールには入眠を促す効果がある。酒を飲んで寝て、目覚めれば気分的にはすっきりするかもしれない。しかし、睡眠中は起きているときと比べてアルコール消失の速度も大幅に遅くなるので、“仮眠を取ったから大丈夫”と考えるのは大間違いだ。

Q.水を大量に飲んだり、サウナへ行けば酒の抜けは早まる?

人間の体は約7割が水でできており、アルコールを飲むと体中に満遍なく溶け込む。汗をかいて2Lの水分を体外に出しても、体重60kgの場合、減るアルコールは全体の5%に満たない、微々たる量。サウナも同様で、酒の分解が早まるとは言えない。

Q.ウコンやしじみ汁など、肝臓に良い食材をとれば酒は早く抜ける?

ウコンやしじみなどの食材にアルコールの分解を早めたり、二日酔いの改善効果があることを証明する研究はとても少ない。アルコールの分解は多くのプロセスを踏むため、肝臓機能を高めるだけで解決できるほど単純ではないのだ。

酒気残りと運転への影響

酒気帯び運転の罰則対象となる「呼気1Lあたりのアルコール濃度が0.15mg」の状態は、酔いの段階でいうと「ほろ酔い」にあたり、気分が高揚、抑制がはずれ、気が大きくなり、体温や脈の上昇などの影響が体に現れる。脳にも、集中力、判断力、思考力の低下など多くの影響が及ぶが、「大丈夫、自分はまだ酔っていない」という“認識のずれ”こそが、大きな落とし穴と言える。

飲酒状況別の交通事故件数のグラフ

「飲酒運転による交通事故件数の推移」(警視庁)をもとに作成

飲んだ翌日の酒気残りに要注意

前述のとおり、睡眠にはアルコールの分解を促進する作用はなく、むしろ遅らせることにつながる。それでも飲酒した翌朝にアルコールが体から抜けたように感じられるのは、時間の経過によって酔いの自覚症状が薄れてくることも原因だ。
❷は、血中アルコール濃度を点滴によって一定に保った際、被験者に酔いを自覚しているかどうかを時間を追うごとに聞いた実験で、血中アルコール濃度は横ばいを保っているにもかかわらず、酒に強い人も弱い人も、最初は酔いを感じていても、時間を追うごとに酔いの感覚が減っていくことがわかった。体内にアルコールが残っているかどうかを主観で判断することは難しいことが、この結果からもわかる。
アルコールの分解には時間がかかり、睡眠によって分解時間はさらに延びる。飲酒した翌朝に「時間が経っているので大丈夫」(❸参照)といった軽い気持ちで運転することは、実は危険なのだ。

時間経過による酔いの自覚症状と飲酒運転の理由のグラフ

❷❸は久里浜医療センターより資料提供

酒気残りを完全になくせるのは時間だけ

体内に入ったアルコールは最初に肝臓で分解され、さらに筋肉や心臓で分解される。年齢や性別、体質などによって個人差があるものの、アルコールの分解能力は1時間あたり4gがひとつの目安。体がアルコールを分解するのにかかる時間は下の計算式で求められ、仮にビール500mLと日本酒1合を飲むと分解まで約10時間もかかってしまう。
アルコールの分解には思いのほか時間がかかることを覚えておき、少し休んだからといって安易に運転しないこと。

純アルコール量=アルコール飲料の量(mL) ×アルコール濃度(度数/100)×アルコール比重(0.8)

うっかり酒気残りを防ぐには

寝酒の習慣を控える

アルコールは入眠までの時間を短くする効果がある一方で、睡眠が浅くなるデメリットがあるという。飲酒によって浅い睡眠が長く続くことは脳の休養が不十分になることにもつながり、大量に飲酒すると眠りはいっそう浅くなる。寝酒を続けているうちに寝酒をしないと眠れない体質になったり、次第に酒量を増やさないと寝られなくなったりで、結果としてアルコール依存症に至ることもある。良質で深い睡眠をとるためには、寝酒は控えるようにしたい。

飲み始めの時間と酒量を正しく把握する

通勤や仕事、レジャーなどで、あらかじめ翌朝運転することがわかっている場合は、運転を始める時間までに体内のアルコールの分解を終える必要がある。そのためには、「いつ飲み始めたか」「どの酒を、どの程度飲んだか」の2点を把握しておくことが重要だ。口から摂取したアルコールは、すぐに吸収が始まるため、飲み始めの時間を確認することがポイント。酒量を把握しておけば、何時間後にアルコールを分解し終えるかがわかる。運転前には必ず確認しよう。

樋口 進

ひぐち・すすむ 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター名誉院長・顧問を務める。WHO物質使用・嗜癖行動研究研修協力センター長、慶應義塾大学医学部客員教授、藤田医科大学医学部客員教授。臨床精神医学、アルコール関連問題の予防・治療・研究が専門。

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