JAFユーザーテスト

飲酒の影響は翌日まで残る? 酒気残りでの運転は危険大!

睡眠はアルコールを分解してくれない!?

2023.01.13

撮影=落合憲弘

2023.01.13

撮影=落合憲弘

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自動車ユーザーがふだん感じている疑問や不安、社会的な課題について、自動車ユーザーの目線で実証実験を行う「JAFユーザーテスト」。今回は、飲酒と酒気残りがもたらす運転への影響について調査しました。ここでは、テストに参加した「ムトゥー先輩」と「イーノ後輩」が、結果について振り返ります。

登場人物

ムトゥー先輩のイラスト

先輩・ムトゥー(以下ムトゥー):JAFロードサービスでつちかった経験を生かし、ユーザーテストの運営やテスト機器の開発に携わる。酒に強そうな身なりをしているが、酒はまったく飲めない。

イーノ後輩のイラスト

後輩・イーノ(以下イーノ):2022年からJAFユーザーテストに参加し、ただいまムトゥー先輩のもとで経験を積みながら、テスト結果の分析や映像の記録・編集をこなす。ビールと唐揚げが大好物で、酒は飲むより飲まれる派。

飲酒で見落としが増える!?

ムトゥー:イーノくん、学生時代に居酒屋でアルバイトしてたんだって?

イーノ:そうですね。若者に人気の街の、ちょっと有名な焼き鳥店で働いたことがあります。まかないがおいしかったんですよね。仕事終わりに仲間とビールを飲んだりして、楽しかったなあ。

ムトゥー:お酒が好きなんだねえ。アルバイト中、ドライバーにお酒を提供してなかっただろうね?

イーノ:まさかまさか。狭い路地の先にお店があって、車で来られるところではなかったですし、駅からそれほど離れていないところだったので、歩いて来るお客さんだけでした。

ムトゥー:それを聞いて安心したよ。イーノくんはさておき、最近は若者のお酒離れが指摘されているみたいだね。飲酒運転の厳罰化もあって、飲酒運転による事故も近年減少傾向にある。2021年に自動車等の飲酒運転が原因となった交通事故は2,198件で、前年から比べると324件減った。しかし、減ったからOKという単純な話ではない。飲酒運転や、飲酒運転による事故はそもそもゼロにならなければいけないのだから。

もうひとつの問題が、飲酒した翌朝に酒気が残った状態で運転することだ。

イーノ:それで飲酒の運転への影響をテストしたんですね。実車でテストするのかと思いました。

ムトゥー:たとえ公道じゃないクローズドな場所であっても、何が起こるかわからないから実車を使って飲酒運転のテストをするわけにはいかないよ。今回は、JAF愛知支部が2022年に導入した運転シミュレーターを使った。JAFのオリジナルコンテンツや危険予知トレーニングのコースを含めると157種類もあって、それぞれの運転の技量に合ったコンテンツが使用できるんだ。

運転シミュレーターの様子

運転シミュレーターの様子。モニターは3面あり、側方やミラーを介して後方の状況も映し出される。

テスト1 飲酒前、飲酒直後、飲酒翌朝で運転能力を比較

イーノ:最初は、この運転シミュレーターで飲酒の影響を調べましたね。

飲酒しているモニターの様子

飲酒しているモニターの様子。

飲酒直後のテストの様子

飲酒直後のテストの様子。

ムトゥー:男女3人ずつのモニターに、まず運転シミュレーターの運転感覚をつかんでもらうため、練習走行をしてもらった。その後、飲酒する前と飲酒直後、ひと晩寝た後の翌朝の計3回運転シミュレーターに乗ってもらい、ハンドル操作やブレーキ・アクセル操作ミスなどの運転ミス回数や事故の有無を調べた。

モニターの属性や、アルコール呼気濃度は下の表の通り。シミュレーターによる結果は、グラフのようになった。

イーノ:上がその結果で、6人のミスの件数を合わせたものです飲酒前より飲酒直後に運転ミスが増えました。予想した通り、飲酒の影響がありましたね。

ムトゥー: 飲酒直後のテストでは、事故が3件発生したり、ハンドルのふらつきも多かった。翌朝のテストでは、事故は起こらなかったものの、事故寸前のヒヤリハット事象やハンドル、ブレーキのミスがみられ、飲酒の影響があった。

テスト前に呼気検査をしたら2人に酒気残りがあり、うち1人は飲酒運転取り締まりの基準値と同じ0.15mg/Lだった。このモニターは翌朝のテストの際「酒が残っている感覚はない」とコメントしていたが、前日に深酒をすると、自分自身に飲酒運転をしているという意識がなくても「実は飲酒運転をしていた」なんてこともあるんだ。

イーノ:翌朝でも酒気は残るものなんですね。酔っていてもひと晩寝た翌朝は、酒気が抜けたような印象があるのですが。

ムトゥー:ひと晩寝たことですっきりした印象があっても、実際には酒気が残っている場合があるんだね。さらに、アルコールの分解速度は睡眠によって遅くなるという。アルコール関連問題について詳しい樋口進・久里浜医療センター名誉院長は「ひと眠りすると、すっきりしたように感じるが、睡眠中はアルコールの分解速度が遅くなるので、寝たから大丈夫というわけではない」と警鐘を鳴らしているよ。

テスト2 飲酒による視覚機能(視野の広さや目の動き)への影響はないのか?

イーノ:運転シミュレーターでのテスト中、モニターに特殊なメガネをかけてもらっていました。どこを見ているかがわかる装置だそうですね。

アイマークレコーダー

アイトラッキングは、瞳孔の動きからどこを見ているかを表示できる。

アイマークレコーダーの画面

見えている場所は、動画上に赤い丸で表示される。
調査協力=トビーテクノロジー(アイトラッキング)

ムトゥー:どこを見ていたかを可視化して記録できる装置をアイトラッキングというんだけど、視野が狭くなったり、危険に注意が向かなくなったりといった、飲酒による視覚機能への影響を具体的に調べてみたんだ。今回のテストでは、しっかり首を左右に振って安全確認をしているか、歩行者や自転車などの見落としがないか、などをチェックしたんだ。

イーノ:こちらも飲酒前より飲酒直後の方がミスが増えましたね。視覚機能についても飲酒後だけではなく、翌朝も飲酒の影響が見られました。

ムトゥー:飲酒前は首を振って側方の安全に気を配っていたのに、飲酒直後は首を左右に振らないで確認することが増え、安全確認を省くモニターが目立った。また、接近してくるバイクを目でとらえていたのに、対応が遅れて事故に至ったモニターもいた。翌朝は、3人のモニターが歩行者や自転車などを見落としたり、漫然運転を行うなどの結果が出た。ここからも飲酒の影響が翌朝にまで残り、重大事故に発展する可能性があるということが証明されたよね。

飲酒前のモニターが視認したところ

飲酒前、モニターが見ている場所をポイントで示した。横断歩道脇までしっかりチェックしている。

飲酒後のモニターが視認したところ

飲酒後は、正面の一点を見ていることが多くなり、右側の歩行者などに注意が向かなくなっていた。

イーノ:上の写真は、運転シミュレーターに乗っていたとき、一定時間中にどこをよく見ていたかを示したものです。飲酒の有無によって意外と違ってくるものですね。

ムトゥー:緑色のところは視点が向いたところで、凝視した時間が長くなると色が黄色から赤に変わっていく。このモニターは、飲酒前は横断歩道の手前で左右を幅広くチェックしていたのに、飲酒直後は正面の一点だけを注視する傾向がみられた。

イーノ:危険を見落としたり、見ているのに反応できなかったりと飲酒による影響は大きいですね。ところで、テスト当日にはまっすぐに歩けるかどうかも調べていましたが、これにはどのような狙いがあったのですか?

まっすぐ歩けるかをテスト

飲酒直後にまっすぐ歩けるかテストした様子。すべてのモニターでふらつきや線からのはみ出しが見られた。

ムトゥー:飲酒が体のコントロールにどのような影響を及ぼすかを確認したかったんだ。飲酒直後に体がふらついたり、まっすぐ歩けないといった影響がすべてのモニターで見られたが、翌朝は問題なく歩けていた。翌朝の体の回復具合からも、すでにアルコールは抜けていて、「もう運転できる」といった誤った認識につながるのかもしれないね。

モニターに飲酒直後と翌朝にインタビューしてみたところ、飲酒によって反応が遅れたり視野が狭くなるということだった。翌朝は酒気残りを自覚していなかったり、アルコールの影響が残っているとコメントしていた。翌朝でも、酒気残りの影響があるんだね。

飲酒直後(抜粋)

  • 飲酒前より視野が狭くなり、体調の異変も感じた。人を発見していたが、体が反応するまで時間がかかり、事故になった。
  • 自分が万全ではない感じがして運転が怖かった。飛び出しがあるかもしれないと思いつつ、反応できなかった。
  • (運転に対する)障害が多い印象だった。油断もあって予測ができず接触した。酔いで視野が狭くなり、視界もにじんでブレーキが遅くなった。

翌朝(抜粋)

  • 酒が残っている感覚はない(実際には酒気残りがあった)。
  • 時間をあけたのにアルコールが残っていて驚いた。運転では、注意力が落ちていることを自覚していた。
  • アルコールは出ていないがダルさと気持ち悪さがある。それもあって、一時停止する場所などで注意ができなかった。

翌朝運転するなら、飲み始めの時間と飲んだ量の把握を

イーノ:たとえば、明日運転する予定があるのに飲みに誘われたら、どうすればいいのでしょうか。

ムトゥー:翌朝から運転することがわかっているのであれば、前日は飲酒しないこと。「1杯くらいなら大丈夫」「ちょっとそこまでの距離の運転なら事故を起こさないはず」など誤ったドライバーの判断や飲酒が与える運転能力、視覚機能への大きな影響によって、重大な交通事故へ発展する。ドライバー自身が飲酒運転をしないことはもちろんのこと、周囲の人がドライバーに対して運転させないようにサポートすることが大切だ。

体内に残っているアルコールが分解されるまでの時間は、年齢や体重によっても差があって、睡眠による影響もあるので、「8時間くらい寝れば大丈夫」「お酒は抜けたような気がする」といった個人判断で運転するのは危険なんだ。

イーノ: 最近は、会社で車を乗る前、アルコール検知器を使って呼気のアルコール濃度を調べるようになりましたね。

ムトゥー:酒気残りの有無が数値でわかるのはいいことだ。ただ、たとえアルコール検知器で呼気アルコールがゼロだったとしても、眠気や体のだるさが残っていたり、体調が悪い場合は、運転を控えて公共交通機関や運転代行などを利用すべきだ。

たとえアルコール検知器で検出されなかったとしても、眠気や体のだるさが残っていたり、体調が悪い場合は、公共交通機関や運転代行などを利用しよう。周りの人たちがドライバーに飲酒を勧めない、飲酒した人に運転させないことも重要だ。

それと、イーノくんもお酒はほどほどにね。

イーノ:……、わかりました。

より詳しくJAFユーザーテストを解説!

JAF公式ウェブサイトでは、より詳細な情報でこの実験をご紹介しています。

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