タイヤがパンクした時「パンク応急修理キット」でどこまで修理できる?
検証結果を徹底解説!自動車ユーザーが普段感じている疑問や不安、社会的な課題などを実験・実証を通して自動車ユーザーの目線から検証する「JAFユーザーテスト」。今回は、パンク応急修理キットの有効性や、利用する際の注意点について調べました。ここでは、テストに参加した「ムトゥー先輩」と「イーノ後輩」が、検証結果について振り返ります。
登場人物
- 先輩・ムトゥー
JAFロードサービスで培った経験を生かし、ユーザーテストの運営やテスト機器の開発に携わる。今回のロケ弁で、横浜のシュウマイ弁当が食べられて大満足。
- 後輩・イーノ
2022年からJAFユーザーテストに参加し、ただいまムトゥー先輩のもとで経験を積みながら、テスト結果の分析や映像の記録、編集をこなす。ロケ弁後のおやつに肉まんを食べたかった。
ムトゥー:イーノ君、今まで運転中にパンクをしたことはある?
イーノ:パンクの経験はないですね。きっと日頃の行いがいいからでしょう。
ムトゥー:日頃の行いがいいかどうかはわからないけど、舗装路が増えてタイヤの性能が向上した現在でも、パンクのトラブルは多い。2021年度の JAFロードサービス出動件数のうち、タイヤのパンク・バーストや空気圧不足も含めて2輪・4輪を合計すると401,290件。故障内容ではバッテリーのトラブルに次いで2位となり、全体の約19%を占めている。明日、イーノ君が運転しているときに起きてもおかしくはないんだ。
イーノ:パンクといえば、最近では、スペアタイヤの代わりにパンク応急修理キット(以下、応急修理キット)を備える車が増えているみたいですね。
テストで用いた応急修理キット。右が補修液が入ったボトルで、左が空気入れ。空気入れをシガーソケットへつなぐと、電動で補修液と空気をタイヤへ送り込むことができる。
ムトゥー:それは2つのメリットがあるからだ。スペアタイヤは場所を取るが、応急修理キットはスペースを必要としないというのがメリットのひとつ。今回使った車では、トランクスペース側壁のカバーを開けたところに応急修理キットが収められていた。スペアタイヤを置くはずだったスペースはそのままトランクとして使えて、スペース効率が向上する。もうひとつのメリットは、重量が軽いことだ。重さを量ってみたところ、スペアタイヤやジャッキなどは合計16kgあるが、応急修理キットは1.6kgだった。そんな重いスペアタイヤをトランクから出してジャッキアップして付け替え、パンクしたタイヤをトランクに積むという作業は、決して楽なものではない。応急修理キットはタイヤの脱着などの力作業もなく、手軽に使用できる特徴も持っているんだ。
テスト車の応急修理キットは、トランク側壁部分のカバーを外した奥に搭載されていた。設置場所は車種によって異なるので、あらかじめ確認を。
一方、こちらはスペアタイヤを搭載した車のトランク。スペアタイヤやジャッキはトランクのボードをめくったところにあり、大きなスペースをとっている。
イーノ:そもそも、応急修理キットは、どのような仕組みでタイヤの穴を塞(ふさ)いでいるのですか? 紙で切った指の傷が、かさぶたで塞がるようなものなのでしょうか。あれ、地味に痛いんですよね。
ムトゥー:パンクも修理に時間やお金がかかるので、こちらも地味に痛いかもね。応急修理キットの仕組みを簡単に説明すると、タイヤの穴に補修液が入り込み、車が走行した際にかかる力によって補修液が凝固して、穴が塞がるようになっている。応急的に栓をすることで傷を塞ぐという意味では、かさぶたと似たところもあるかもしれない。
応急修理が終わった後のタイヤの側面を切りひらいた。タイヤに釘が刺さっている部分に補修液が白く固まり、穴を塞いでいる。注入した補修液の粘度はほとんどなく、タイヤ内部で液体のままだった。
テスト1 パンクの応急修理にかかる時間は?
イーノ:テスト1では、モニター3人に実際に応急修理をしてもらい、どの程度時間が必要かを調べました。
ムトゥー:パンク応急修理キットに触れたことがないモニター3名が、取扱説明書を見ながら実際に太さ4mmの釘(くぎ)が刺さった状態でパンクしたタイヤの応急修理を行い、応急修理完了までにかかった時間を調べた。テストでは、モニターが左後輪のタイヤがパンクしていることに気づき、取扱説明書を読むところから計測開始。格納されているパンク応急修理キットを探し、指定空気圧になるまで補修液と空気を充填した後、約5km走行した。その後、もう一度空気圧を測り、応急修理ができていることを確認するまでの時間を調べた。
イーノ:上がその結果です。補修液と空気を充填し終えるまでに15分前後かかることがわかりました。
ムトゥー:穴の大きい場合は充填終了まで時間がかかるはずだから、必ずしも15分で充填できるとは限らないことに注意してほしいね。ところで、使い勝手はどうだった?
イーノ:応急修理キットを使ったのは今回が初めてでしたが、取扱説明書に作業方法がていねいに解説されていたので、日常的に車に乗る人であればそれほど戸惑うことはないという印象です。ただ、空気圧が指定値まで上がれば修理完了というわけではない、というところは意外でした。
応急修理キットを使うモニターA。空気入れの音が大きく、思わずスイッチをオフにしてしまうシーンもあり、慣れない作業に戸惑った様子。
タイヤのパンク箇所に補修液が届かなければ応急修理は完了しない。充填を終えたらすぐに走り出すようにしたい。
一定の距離を走行したら再び空気圧をチェック。テストではほとんど空気が抜けていなかった。
ムトゥー:穴を塞ぐためにはすぐ走り出して補修液をタイヤのパンク箇所に行き渡らせ、そして一定の距離を走ったら再び空気圧をチェックして、応急修理ができているかを確認しなければならないんだ。しかし、充填を終えてから走り始めるまで4分ほどかかったモニターもいた。タイヤに入れた空気は、その間にも抜け続けている可能性があるので、なるべく早く走り出すようにしたいね。
イーノ:今回は左後輪のタイヤを応急修理しましたが、その後走っていても違和感はありませんでした。
ムトゥー:無事に応急修理できていたということだね。ただし、あくまで応急修理だから時速80km以下で走る必要があるし、急発進や急ブレーキなど、『急』のつく行為は原則禁止。応急修理したタイヤは、できるだけ早く本修理か交換をしなければならない。応急修理はスペアタイヤと同じく、自動車販売店などに持ち込んで修理するための、応急的な移動手段の確保と考えてほしい。
テスト2 応急修理キットでパンクはどこまで直せるのか?
イーノ:テスト2では、どのような穴であれば応急修理できるのかを調べましたね。
ムトゥー:テスト車の取扱説明書をみると、4mm以下の傷を応急修理することができ、タイヤの側面の傷などは対象外。タイヤに2つ以上の穴が開いている場合も応急修理はできないという。そこで、テスト2では穴の大きさを変えたり、タイヤに刺さっている異物の太さを変えたりして、応急修理ができるかどうかを調べた。
イーノ:上がテスト2の結果です。異物が抜けた状態では、穴の大きさや位置によっては補修液が漏れてしまい、うまく応急修理することができませんでした。一方で釘やねじが刺さったままのパンクは、それらが多少太くても応急修理できる可能性もあるようです。
4mmの釘が刺さった状態のタイヤ。テスト1と2で使用した。
幅25mmの金属片を踏むことで、大きな傷によるパンクを再現した。
4mmの穴でも、穴の位置が下部にあると充填中に補修液が漏れ出すことがあった。
ムトゥー:タイヤの溝に石が挟まっていたりすると取り除きたくなるのが自然な感情だよね。でも、パンクの場合は刺さった釘などを取り除かないほうがいい。これは覚えておいてほしいね。
イーノ:予想通りですが、金属片(大)による裂傷やタイヤの側面の傷は直せませんでした。
ムトゥー:これらは取扱説明書でも修理不可とされているパンクだが、穴から抜ける空気の量が多く、走り出せる状態になるまでタイヤの空気圧を上げることができなかった。パンクしたタイヤをチェックして、このような傷があったら無理に応急修理せず、JAFへ救援要請してほしい。また、高速道路や幹線道路など作業に危険が生じる場合や、慣れておらず応急修理する自信がないという場合も、同様だね。
イーノ:応急修理中は、慣れない作業ということもあって周囲の安全確認がおろそかになる可能性がありますしね。これらに注意して、安全なドライブを!
ムトゥー:……うまくまとめたみたいだけど、なにか忘れてない?
イーノ:……気づいていましたか。実は、テスト1でひとつミスをしてしまいました。補修液の入ったボトルを空気入れにセットする際に両者がうまく接続していなかったようで、タイヤに補修液が入っていかず、ボトルから補修液が漏れ出してしまったんです。
補修液のボトルと空気入れの接続が甘く、補修液が漏れ出す失敗例があった。
ムトゥー: こんなこともあろうかと、補修液は多めに用意しておいたのでテストに支障はなかった。でも、実際の車には基本的にタイヤ1本分の補修液しか備わっていないから、失敗したら応急修理できなくなるよね。あらかじめ取扱説明書を確認し、応急修理キットの収納場所やキットの内容を確認して、応急修理の方法を調べておくと、いざというときも安心だ。
最近、省スペースや手軽に修理できるといった理由から、スペアタイヤの代わりに車載されることの多い「パンク応急修理セット」。ここまで、先輩:ムトゥーと後輩:イーノ君に、運転歴などがさまざまなモニターが応急修理キットを使った際の修理にかかる時間と、修理が可能なパンク穴の種類に関する2つのテストを行ってもらい、検証結果を振り返りました。
結果を見ると、やはり応急修理キットでは対応できないケースや、修理中に起こった予想外のアクシデントでうまくいかない場合や、応急修理では対応できないケースも往々にしてあるようです。運転中のパンクは、大きな事故に直結しかねないトラブルのひとつ。事前の準備は入念に行いつつ、それでも自分での応急修理に不安を感じる場合は、迷わずJAFにご相談ください。また、パンクをはじめとするトラブルを未然に防ぐためにも、車の日常点検を忘れずにおこなってください。