バックカメラに死角はないの?
検証結果を徹底解説!自動車ユーザーが普段感じている疑問や不安、社会的な課題などについて自動車ユーザーの目線で実験を行う「JAFユーザーテスト」。今回は、車の後方を映すバックカメラの有効性や、利用する際の注意点について調べ、冊子「JAF Mate春号」に掲載しました。ここでは、テストに参加した「先輩・ムトゥー」(以下ムトゥー)と「後輩・イーノ」(以下イーノ)が、結果について振り返ります。
登場人物
ムトゥー:JAFロードサービスでつちかった経験を生かし、ユーザーテストの運営やテスト機器の開発に携わるベテランスタッフ。好物はテストの現場で食べる、カロリー高めのお弁当とカレーライス。
イーノ:2022年からJAFユーザーテストに参加し、ただいまムトゥー先輩のもとで経験を積みながら、テスト結果の分析や映像の記録と編集をこなす。現場ではもう少しヘルシーなお弁当を食べたいと思う今日この頃。
ムトゥー:イーノくんは今年からJAFユーザーテストチームの一員だもんね。初めての撮影、緊張したんじゃない?(笑) 結果について振り返ってみよう! 今回のテーマはバックする際に後ろの様子をモニター画面に映し出すバックカメラだったんだけど……。
イーノ:実はバックが苦手なんです。バックカメラがないと車の後方がまったく見えなくて、バックする時は本当に怖いんです。
ムトゥー:見えないところ(死角)があるから危ないんだよね。後ろに子供がしゃがんで遊んでいたり、三輪車が置かれていることもあり得るし。まあ、うちの子はまだ小さいからガレージ周辺とかは特に気にしてるよ。バックカメラは、そんな真後ろの死角を減らしてくれる安全装備なんだ。テスト前に見える範囲を確認したけど、どうだった?
イーノ:バックカメラは意外と広範囲を映してくれるんだな、と思いました。画面の下に車の後端(バンパー)も映っているから、バックでも寄せやすいですね。
画面の端にマーカーコーンを置いた。
緑色のマーカーコーンの内側が、バックカメラに映る範囲。
ムトゥー: 車の近くは特に目視では見えないから、バックカメラがあると心強い。では、テスト1から振り返ってみよう。テスト1では車の後ろや周辺にマネキンやパイロンを置いて、バックカメラ、目視、左右のドアミラー、ルームミラーでどこまで見えたのかを確認したよね。
イーノ:ムトゥー先輩はマネキンやパイロンの配置にはこだわっていましたね。適当に配置すれば時間がかからずに済んだのに、何か意味があったんですか?
ムトゥー: バックカメラでしか見えないもの、ドアミラーや目視などでしか見えないものを探るのが目的だからね。ミリ単位とまでは言わないものの、わずかな差で見えたり見えなかったりするところを時間をかけて探ったんだ。結果、ドライバーが後ろを振り返って目視した場合、背の高い大人のマネキンしか見えなかったけど、バックカメラには三輪車に乗った子供のマネキン、背が低めの大人のマネキン、さらに遠くには子供のマネキンも! バックカメラがないまま後ろに下がっちゃうと、こんなにいたのに気づかず……。
テスト車の側方や後方に大人や子供のマネキン、パイロンを置き、見え方を比較した。
バックカメラに映った様子。すぐ後ろには三輪車に乗ったマネキン、その側方には大人マネキン(身長150㎝)がいるのが見える。
目視では大人マネキン(170㎝)しか確認できなかった。バックカメラでは見えていた大人マネキン(150㎝)はピラーに隠れて確認できなかった。
テスト1結果
イーノ:事故、ですね。
ムトゥー:そう。子供は三輪車に夢中で、そのうえ視野は狭いから危ないことにも気づいてないかも。バックカメラは、後方の死角を減らしてくれるから、安全確認にとても有効だよね。
イーノ:バックカメラの画面だとハンドルに連動して進行方向が線で示されているので、車庫入れでも大助かりです。バックカメラを見ているだけですんなり車庫入れできちゃいますよ(ドヤ顔)。
ムトゥー:良い顔してるけど、そこだけチェックしていればよい、というわけじゃないんだ。車の後端直近や、すぐ横にあるパイロンはバックカメラで見えてた?
イーノ:うーん、見えてなかったような。
ムトゥー:だよね。でもそのパイロンはドアミラーには映ってたんだ。バックカメラで車の横はチェックできない。たとえば、サービスエリアの駐車場でバックするときにバックカメラだけを見てると、車の横を歩いている人に気づかずにぶつかってしまう、なんてことも起こるかもね。
左ドアミラーの見え方。車の後端のすぐ横にあるパイロンが映っている。
右ドアミラーの見え方。車の後端のすぐ横にあるパイロンと、大人マネキン(身長150㎝)が確認できる。
イーノ:えーっ、動き出している車の横って通りますかね?
ムトゥー:何が起こるかなんて誰にもわからないよ。特に車を動かす際は、周辺の安全確認が大切だ。ぶつかってから「見ていませんでした」では済まされないからね。バックカメラを見ていると、その情報だけに頼ってバックしてしまいがちだけど、バックカメラにも死角があるのだから、ドアミラーなどで確認しないとダメ。車が動いている以上、歩行者の安全を守るのがドライバーの義務だ。そのためには全方位に気を配らなきゃね。
イーノ:(叱られたので、話を進めよう……)テスト2は、車の後方を横切るモノに気づいて止まれるかを、バランスボールを使って確かめましたよね。
テスト2の様子。車の後ろを通過するバランスボールに気がついて、ブレーキで衝突を回避できるかを確かめた。
ムトゥー:速度の違いによって衝突を避けられるかというテストだったよね。たとえば、排気ガスの影響に配慮して「前向き駐車でお願いします」と標示している看板をコンビニなんかで見たことはないかな? 前向き駐車は、バックで駐車枠から出るときに歩行者の往来が多い場面だと意外と事故の危険があるんだよね。テストドライバーにはバックカメラだけを見てバックしてもらったんだけど……。
イーノ:先に結果を言っちゃいますけど、アクセルを踏んでバックするとバランスボールにぶつかっていました。
テスト2結果
テスト車に装備されているソナーはオフにした。クリープとは、ATのポジションをDやRに入れてブレーキを緩めた際に、自動で動く状態。
ムトゥー:急加速でバックしているわけではなかったんだけどね。バランスボールの存在に気づいていても、ブレーキは間に合わなかった。急いでバックすることが、いかに危険か、ってことだよ。
イーノ:ムトゥー先輩も「慌てて運転するな」っていつも言っていますしね。
ムトゥー:ショッピングセンターの駐車場とかで、他の車が待っていることがあるよね。待たせるのが悪いからって、慌てて出るようなときが要注意! 事故になるかもしれないのに、慌ててバックしちゃだめだよね。
イーノ:同じテストで、バックカメラを使わず目視だけでバックしたらどうなるかも検証しました。
ムトゥー:ドライバーに後方を振り返ってもらい、目視でバックしてもらったけど、3回行ったテストすべてでバランスボールにぶつかった。ぶつかるまでブレーキランプがつかなかったことからも、ドライバーはぶつかるまで気づかなかったのだろう。ドライバーは「バランスボールはまったく見えていなかった」と言っていたね。
イーノ:それだけ、バックカメラはバック時の事故を防ぐのに有効だということなんですね。やっぱりバックカメラさえあれば、もう目視は必要ないんじゃないですか?
ムトゥー:いやいや、そうでもない。バックカメラには意外な死角がもうひとつあるんだ。
イーノ:もうひとつの死角、ですか?
プレテストで違う車を使用し、バックカメラが映す高さの範囲を調べたところ、カメラのある場所から伸ばした白い紐より上は映らないことがわかった。突き出ている木の枝などがリアウインドー周辺にあると、見落とす可能性がある。
ムトゥー:そう。バックカメラは車のナンバープレート付近に設置されているけど、それよりも高い場所はカメラには映らないことがあるんだ。テストで使った大人のマネキンなら、足元はカメラで、頭部は目視で見えた。でも、カメラより高い位置に木の枝が飛び出しているようなケースはカメラには映らないから、目視で確認しないとね。
イーノ:そういえばムトゥー先輩、電柱のちょっと高いところにある配電盤のボックスに車をぶつけてリアウインドーを粉々にしたことがありましたね。あれも駐車場に向けてボックスが突き出ていたのが原因でした。そういったものは、目視じゃなければ見えないですもんね。教訓、よく伝わりました。
ムトゥー:……。
バックカメラは有効であるものの、死角もあることも認識して目視やドアミラーも合わせて確認すること。
バックカメラが見えにくくなるケースとは?
バックカメラは、カメラであるがゆえに注意しなければならないことがある。たとえば、雨でカメラのレンズに水滴(左写真の円内)がつくケースでは、その水滴によって見にくくなるところが現れる。カメラについた水滴や汚れは落としておくこと。また、車種によっては夜間、ノイズが大きく現れ、映像が視認しにくくなることもあるので注意。
周囲を確認できるカメラが付いていたら、それもチェック
後部はもちろん、ドアミラーのカメラで側方を、フロントグリルのカメラで前方を撮影し、車の四方の死角を映す「全周囲モニター」があれば、車の死角をさらに減らすことができる。メーカーによって呼び方は変わるが、機能としてはほぼ同じだ。