音楽ライター栗本斉氏が選ぶ ドライブ映え「シティポップ」番付
いま聴きたい、時間と国を超えて愛される名曲海外から火がつき、空前のリバイバルブームが続く「シティポップ」。時代や国境を超えて、世界中から愛される音楽の魅力って? 『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』の著者である栗本斉氏に、シティポップ・ムーブメントの背景と、ドライブで聴きたいおすすめキラー・チューンを紹介してもらいました。
世界が注目する「シティポップ」の魅力
最近、ちまたでよく耳にする「シティポップ」と呼ばれている音楽を表す言葉。「ああ、あれね~」という方もいれば、「いったい何なの?」と思っている方までまちまちだろう。それもそのはず、シティポップというと “洗練された都会的な日本のポップス”といった共通認識はなんとなくあるかもしれないが、実はそれ以上の定義は非常に曖昧だ。
一般的には70年代後半以降の日本の音楽シーンにおいて、山下達郎、松任谷由実、大滝詠一といった洋楽志向の強いアーティストや楽曲に対しての呼称のように思われているが、往年のアイドルポップスやフュージョンなどのインストに対してもそういわれることが多いし、2000年代以降の若い世代の中には「ネオシティポップ」と呼ばれるアーティストが多数存在する。
また、竹内まりや「プラスティック・ラヴ」や松原みき「真夜中のドア~stay with me」のように、ここ数年は海外で爆発的にリバイバルヒットする名曲も増えてきた。アンダーグラウンドのクラブシーンのDJたちの間で自然発生的にシティポップ・ブームが起こったのが発端だが、YouTubeやTikTokなどのSNSを通じて世代や国籍を超えてヒットするパターンも一般的になってきている。しかも知られざる名曲のような存在が、海外での評価によって再発見されるという面白い現象まで起きているのだ。
ただ、こういった定義付けやジャンル分けのようなものは、シティポップには似合わない。摩天楼や夜景といったアーバンなイメージや、そこから抜け出して過ごすビーチリゾートやプールサイドなどの情景、そしてその中で繰り広げられる大人の恋愛模様などを思い浮かべられるファンタジックな音楽であれば、それはすべてシティポップと呼んでいいだろう。ここではそんなシティポップの定番の名曲を厳選。番付表に則って対決してもらった。ぜひともシーサイドドライブ気分でお楽しみいただきたい。
ドライブで聴きたいシティポップはこの曲!!
横綱~これぞシティポップの王道
★キング&クイーン対決!
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「LOVELAND, ISLAND」
山下達郎
シティポップの王者タツローの名盤のなかでも、アルバム『FOR YOU』はその金字塔といってもいい存在。当時のツアーメンバーと作り上げた鉄壁のバンドサウンド、吉田美奈子も交えた圧倒的なコーラスワーク、そして明朗かつパワフルな歌声は完璧。CMでも使われたワクワクするようなこの曲は休日ドライブの定番!
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「COBALT HOUR」
荒井由実
シティポップの女王といえば、間違いなくユーミン。この荒井姓時代の名曲は飛行機のエンジン音に乗ってカラフルな情景を描いており、まさしくシティポップの神髄といえる。松任谷正隆や細野晴臣らが在籍したティン・パン・アレーによるグルーヴィーな演奏や、高速道路をミルキーウェイに例えた歌詞も秀逸だ。
大関~シティポップの世界観を堪能できる珠玉の名曲
★エンドレスサマー対決!
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「ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER」
杉山清貴&オメガトライブ
一年中夏男! というイメージの杉山清貴。彼がリードヴォーカルを務めたシティポップのスーパーグループによる特大ヒットナンバーは、疾走感と清涼感に満ちたバンドサウンドで、流星にみちびかれて夜のマリーナで出会う恋物語をマリンブルー色に演出。彼の声がある限り、夏は終わらない!
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「WINDY SUMMER」
杏里
永遠のサマーレイディーこと杏里。もう何を聴いても夏!って感じだが、やっぱり「CAT’S EYE」や「悲しみがとまらない」といったビッグヒットを飛ばしまくっていた時期の角松敏生プロデュース時代がテッパン。華々しいホーンセクションに誘われるようにして始まる夏の風のストーリーに心がときめく。
★キケンなオトナの恋愛対決!
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「ドラマティック・レイン」
稲垣潤一
ドライブ感のあるサウンドに乗せて、激しい雨が降る中で「もしもこのまま堕ちていくなら……」なんていう微妙な男女の関係を描いたアダルトな一曲。秋元康が作詞、筒美京平が作曲という贅沢な布陣の作家はもちろん、この世界観を完璧に表現できたのは稲垣潤一特有の”濡れた”ヴォーカルの力があってこそ。
「プラスティック・ラヴ」
竹内まりや
恋なんてただのゲーム。そう言い切る女性の、実はナイーブな心情を綴ったクールなラブソング。70年代末から今に至るまで数々の名曲を生み出してきた竹内まりやの大人っぽさを感じられる代表作でもある。80'sのブラックミュージックのエッセンスを取り入れたサウンドも見事で、海外受けするのも納得のクオリティ。
関脇~都会的なきらめく夜の雰囲気をまとう通好みの名曲
★摩天楼アダルト対決!
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「SHADOW CITY」
寺尾 聰
お茶の間にシティポップ感覚を持ち込んだ先駆者は、間違いなく寺尾聰だろう。渋い歌声で大人の男のダンディズムを表現し、老若男女にアピールした。「ルビーの指環」もいいけれど、こちらも大ヒットした定番曲。「トゥットゥルットウ~」というスキャットから始まる都会の恋模様に魅了される。
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「頬に夜の灯」
吉田美奈子
きらめく摩天楼が似合うシンガーといえば、なんといっても吉田美奈子だ。圧倒的なヴォーカル力を強みに、ソウル、ファンク、ゴスペルなどの要素を取り入れたシャープでスタイリッシュなナンバーを多数生んでいる。なかでもこのミディアムバラードのメロウなムードには、思わず心が揺さぶられる。
★ディスコ気分でダンス対決!
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「If you...」
角松敏生
今、海外で人気急上昇中の角松敏生も忘れてはいけない存在。リゾートポップからアーバンなコンテンポラリーサウンドまで手掛け、シンガーとしてだけでなくサウンドクリエイターとしても第一級だ。80年代初頭の名盤『AFTER 5 CLASH』に収められたこの曲は、思わず腰が動くグルーヴィーな傑作。
「真夜中のドア~stay with me」
松原みき
海外で人気のシティポップとして真っ先に挙げたい名曲が、松原みきの記念すべきデビュー曲。シティポップの最重要人物といわれる林哲司が作編曲を手掛け、もともとジャズを歌っていたという洗練された声を際立たせることに成功。昨今ではDJたちにも支持されているダンサブルなビートがクール!
小結~シティポップの隠れた名曲からセレクト
★妄想海外リゾート対決!
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「カナリア諸島にて」
大滝詠一
永井博が描いたプールサイドのジャケットで知られる名盤中の名盤『A LONG VACATION』。松本隆による洗練された言葉と大滝詠一のクールな質感の歌声が織りなす世界はまさに理想郷だ。薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべながら、まったりとバカンス気分を味わいたいが、カナリア諸島ってどこ?
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「セイシェルの夕陽」
松田聖子
フリューゲルホーンの音色とゆったりとしたグルーヴに導かれて切ない声を聴かせてくれるのは、スーパーアイドル聖子ちゃん。豪華な作家陣やミュージシャンを起用した彼女の名曲群はまさに王道シティポップといってもいいクオリティ。松本隆と大村雅朗のタッグで、島の風を感じられるようなリゾートポップの名曲。
★週末ワクワク対決!
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「夜間飛行」
南 佳孝
何を歌っても大人の渋味を感じさせる南佳孝こそ、実は最もシティポップの世界観を体現している歌い手かもしれない。スタイリッシュなサンバのリズムを取り入れた坂本龍一のアレンジと、きらめく星空を舞台にしたロマンチックな歌詞がぴったりマッチ。週末の夜のワクワクした気分に似合うはず。
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「土曜の夜はパラダイス」
EPO
もう、このタイトルそのまま! サタデーナイトを礼賛しながらも、実はほろ苦い恋を歌っているところがポイントだ。明るく溌溂としたEPOの歌声は、失恋を歌っていてもなぜかポジティヴな印象があるのも面白い。きらめくようなアレンジを施した祝祭的なサウンドとともに、週末を彩ってくれるだろう。
(クリックすると、音楽配信サービスSpotifyで楽曲の一部を試聴できます。)
※山下達郎と角松敏生の配信はありません
栗本 斉
くりもと・ひとし 音楽と旅のライター、選曲家。1970年生まれ、大阪出身。レコード会社勤務時代より音楽ライターとして執筆活動を開始。退社後は2年間中南米を放浪し、帰国後はフリーランスで雑誌やウェブでの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲などを行う。開業直後のビルボードライブで約5年間ブッキングマネージャーを務めた後、再びフリーランスで活動。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』(毎日コミュニケーションズ)、『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノSpecial』(ラトルズ)などがある。最新刊『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)がベストセラー中。
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