金利上昇局面で自動車ローンはどうなる?

変動型? 固定型? マイナス金利解除でどう選択する
宇野源一

2024年3月末に日本銀行が決定した「マイナス金利」解除により、連日「金利」に関するニュースを見聞きする機会が増えた。
テレビやネットニュースなどでは支払い金額が多く、期間も長い「住宅ローン」に関する情報は出ているが、「自動車ローン」についてはあまり言及されていないように思える。
いま自動車ローンを返済している人や、これから自動車ローンを利用しようと考えている人は、今後の金利がどうなってしまうのか、気になるところだろう。
この記事では、金利上昇局面における自動車ローンの立ち位置と、今後の考え方や立ち回り方についても解説する。


目次

マイナス金利政策解除で金利が上昇中! 今組んでいる自動車ローンの仕組みを確認しよう

2024年3月19日、日本銀行は金融政策決定会合で「マイナス金利政策」を解除し、金利を引き上げることを決めた。これにより、約17年ぶりに国内で「金利ある世界」が復活した。
マイナス金利解除から約2か月半が経過したが、じわりじわりと国内の金利が上昇し、私たちが利用しているローン商品にも影響が出始めている。
ニュースなどで取り沙汰されているのは、借入額の多い住宅ローンの話題ばかりだ。住宅ローンより少額とはいえ、数百万円の借入となる自動車ローンにも影響が出るのでは? と思っている人も少なからずいるだろう。ここで、自動車ローンの仕組みについて再確認してよう。

自動車ローンは、住宅ローンと同様に、金利には「固定型」と「変動型」の2種類がある。しかし、多くの自動車ローンは「固定型」が選択されているケースが多い。
自動車を購入した店舗で手続きが完結する、いわゆるディーラーローンについては、通常の分割払いや残価設定型クレジット(残クレ)ともに固定金利となっているため、契約時から完済まで金利上昇の影響を受けない。
一方で、銀行をはじめとした金融機関で自動車ローンを借りている場合、商品にもよるが変動金利となっている可能性がある。銀行でローンを返済している場合は、ご自身の契約内容を確認したほうが良いだろう。

変動金利で自動車ローンを借りている人は支払いが増えるの?

連日のように報道される金利上昇の話題は、すでに自動車ローンを組んでいる人、これから自動車ローンを組もうとしている人にとってもヒヤヒヤするニュースであることに違いはない。
もちろん変動金利でローンを組んでいる場合は、どこかのタイミングで金利上昇による返済負担の増加が懸念される。だが、いまのところ金利が上がっているのは「長期金利」の話だ。長期金利が上がると国債の価格が下がる。また、住宅ローンの固定金利が上がるなど、私たちの生活にも影響が出てくる。

一方、変動金利型の自動車ローンの多くは、長期金利ではなく「短期プライムレート」と呼ばれる指標に基づいて、半年に一回金利の見直しが行われている。
短期プライムレートとは、銀行が優良企業に対して短期間(1年未満)で貸し出す際に適用される金利だ。このレートは2009年1月13日から今日(5月末時点)に至るまで、上昇も下降もしていない。ただ2007年に短期プライムレートが0.2%上昇した際には変動金利も上昇した。しかしその翌年2008年にリーマンショックが起こり、変動金利は再び低下。それ以降現在の水準まで下がっている。

つまり、短期プライムレートは社会情勢を鑑みて決定されることも多い。物価上昇など社会生活が厳しい中で、すぐに金利を上げる選択を取る金融機関は少ないだろう、ということも予想される。
なのであくまで「今のところ」という条件付きではあるが、筆者としては今借りている自動車ローンにただちに影響が出ることはないだろうと考えて良いと思う。

参考までに、2001年以降の短期プライムレートおよび10年物国債金利の推移を下記表にまとめた。
短期プライムレートは変動があった年月、国債金利は短期プライムレートが変動した月の末日を記載している。なお短期プライムレートが2009年1月以降変動していないため、それ以降は1月末日(2024年は毎月末日)時点での金利となる。

年月 短期プライムレート 10年物国債
金利
2001.3 1.375 1.24
2006.8 1.625 1.677
2007.3 1.875 1.655
2008.11 1.675 1.419
2009.1 1.475 1.303
2010.1 1.475 1.33
2011.1 1.475 1.22
2012.1 1.475 0.974
2013.1 1.475 0.763
2014.1 1.475 0.627
2015.1 1.475 0.288
2016.1 1.475 0.104
2017.1 1.475 0.087
2018.1 1.475 0.085
2019.1 1.475 0.006
2020.1 1.475 -0.061
2021.1 1.475 0.056
2022.1 1.475 0.177
2023.1 1.475 0.511
2024.1 1.475 0.727
2024.2 1.475 0.724
2024.3 1.475 0.75
2024.4 1.475 0.879
2024.5 1.475 1.08

自動車ローンは固定型と変動型のどちらを選ぶべき?

そうはいっても金利の上昇リスクを気にしながら生活するのは精神的に良くないので、変動型から固定型への借り換えを検討することも選択肢の一つだ。
自動車ローンの固定金利は、融資をする金融機関の独自基準(社会情勢等の判断基準)によって決められることが多い。
多くの場合、自動車ローンは返済途中での借り換えが可能だ。
仮に今現在の残債が250万円、毎月均等払い、残り期間3年0か月だとして、変動金利3%から固定金利5%のローンに借り換えた場合のシミュレーションを行ってみる。

  • (金利3%の場合)毎月72,703円×36ヶ月=2,617,308円
  • (金利5%の場合)毎月74,927円×36ヶ月=2,697,372円

この場合の差額が毎月2,224円、年間で26,688円、トータルで80,064円の支払額の増加となった。
ここで、もし変動金利のまま返済を続ける選択をし、かつ金利が上昇した場合はどうなるのか。仮に年に1%ずつの金利上昇が発生した場合、シミュレーションは以下の通りだ。

  • 1年目(金利3%)の返済額:毎月72,703円×12ヶ月=872,436円
  • 2年目(金利4%)の返済額:毎月73,453円×12ヶ月=881,436円
  • 3年目(金利5%)の返済額:毎月73,847円×12ヶ月=886,164円
  • 総返済額:2,640,036円

当初予定していた変動金利3%の場合より支払総額が22,728円増えることになるが、固定金利5%に変更した場合との差額はトータルで57,336円マイナスとなった。

今回の条件では、年1%ずつの金利上昇であれば、総返済額の上振れリスクがあるとはいえ、今すぐ金利の高い固定金利を選択するよりも、様子を見ながら変動金利のまま返済を続けたほうが総返済額は少ない、というシミュレーション結果となった。変動金利が最終的に固定金利と同じ水準まで上がるとはいえ、それまでの間に返済元本が減っていくため、金利負担は少なくなっていくというケースだ。
自動車ローンを手掛けている金融機関のウェブサイトでは、借入額と借入期間、金利などを入力すれば、毎月の返済額と返済総額の目安などを自動計算するシミュレーターを用意していることが多いので、ご自身の状況に応じて試算してみてはいかがだろう。

数年先の金利の状況は誰も予想はできないが、いま借りている変動金利のローンが固定金利の水準まで上がるかどうかはわからない。借り換えることで今後の支払いが安定するという安心を取るか、借り換えせずに金利上昇分の支払いが増える可能性というリスクを取るかは、個々の判断となる。
もちろん、固定金利に借り換えたものの、返済期間中に変動金利が変わらなかった、もしくはそれほど上がらなかったというケースもありうる。

そして、これから自動車ローンを組んで車を買おうとしている人も、変動型か固定型か悩むだろう。審査状況によって適用される金利が変わってくるので、複数社の審査結果をもとに判断することをおすすめする。
ローンで車を買うときの最大のポイントは、変動型でも固定型でも同じだ。物価上昇などによる可処分所得の低下が今後懸念されるから、「今返せるギリギリ最大の金額」でローンを組むのだけは避けるべきだと考える。

これから自動車ローンを組む人は金利動向に注目しよう

報道されているように、長期金利が上昇しているということは景気の拡大が予測される。一般的に景気が拡大すると給与が増えてインフレ(物価上昇)が起こる。そうなると変動型のローン金利も上昇するだろう。
ただし、そのタイミングがいつになるのかは予測できないので、変動金利でローンを借りる際は少額かつ短期間にして、金利が上昇した際の負担増に備えよう。固定金利の場合は返済計画が立てやすいというメリットがあるので、あらかじめ金利負担は増えるが返済期間を長くして毎月の支出を抑えるなど、工夫が必要になるだろう。

今できることは、新聞をはじめとした報道で金利の動向をチェックし、ご自身のライフプランに沿って、固定型か変動型のどちらを選ぶのか最善か、しっかりと判断いただきたい。

宇野源一

うの・げんいち 大学卒業後、大手メーカー系自動車ディーラーに就職。その後、金融業界の業務・教育支援を行う会社に転職し、法人営業に従事しながら、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP資格を取得。2018年よりライターとしても活動。FP視点でのカーライフを提案することが得意。

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