除雪車プロの知られざる「神業テクニック」! 高速道路の路面を守る多車種チームの裏側
NEXCO東日本の出陣式に潜入! 雪に挑む職人の技術力と安全走行のルールを徹底解説「冬の高速道路で、なぜ私たちは安心して走れるのか?」 その答えは、極寒の夜に出動し、雪と氷に立ち向かう巨大な除雪車と、それを操るプロフェッショナルな職人たちの存在にあります。その仕事は、単に雪を掻き分けるだけではありません。最速で安全を確保するための知られざるチームワーク、そして路面を傷つけないための神業のような繊細な操縦テクニックが存在します。今回はNEXCO東日本の除雪車出陣式を取材。冬の安全を最前線で守る彼らの熱き技術力と、ドライバーとして知っておくべきルールに迫ります。
NEXCO東日本除雪車出陣式で「氷雪対策」の安全祈願と士気の高揚
除雪に関わる関係者が集まり、厳粛な雰囲気の中、安全祈願が行われた
NEXCO東日本をはじめNEXCO各社は冬期の路面凍結や降雪時に、雪氷対策作業、いわゆる除雪作業を行っています。そして、そうした作業の安全祈願と関係者の士気高揚のため、毎年、NEXCO各社は担当事業所ごとに安全祈願・出陣式を実施しています。そのひとつとなる、NEXCO東日本の高崎管理事務所の安全祈願・出陣式が2025年11月7日午後に行われました。
当日は、地元の幼稚園児向けの「はたらくクルマ大集合」も併催されており、イベントは子供たちによる除雪作業員に向けての「いつも高速道路の安全を守ってくれてありがとうございます。お仕事頑張ってください」という応援からスタートしました。その後は、厳粛な雰囲気の中での安全祈願が行われ、最後に、勇ましい出陣のデモンストレーション走行が披露されました。「毎年、これをやると気が引き締まりますね。今年も事故のないように頑張ろうという気になります」と高崎管理事務所の関係者は気合の入った顔を見せてくれたのです。
安全祈願・出陣式のために用意された除雪車たちを地元の幼稚園児が見学する「はたらくクルマ大集合」も実施された
イベントの締めとなるのがデモンストレーション走行だ。スタッフが除雪車に乗り込み、会場から高速道路へ走り出た
複数の車両がチームを組んで除雪する
除雪チーム5車種の役割と仕組み
出陣式に登場した除雪車ですが、よくよく見てみれば、いろいろと種類があるようです。NEXCO東日本の担当者さんに話を聞いてみると、除雪車は複数の種類があり、それぞれに異なる役割と、働く場所があるのだそう。
まず、高速道路一番右の追い越し車線は、除雪トラックが担当します。車体の前方に、プラウと呼ばれる板状の除雪装置を備えた大型トラックです。車体のお腹のあたりにも斜めのブレード状の除雪装置となるグレーダーを備えます。金属の板を路面にこすりつけるときは火花も飛び散るとか。
折り畳み式のプラウを一直線に展開して走行する除雪トラック
除雪するためのプラウは、3分割で折り畳むことができる。作業しないときは折り畳んでおくのだ
除雪トラックの中央の車体下には斜めにブレード上の除雪装置であるグレーダーを備える。写真は途中で折れて、L字型に小さく収納されているところだ
そして、中央の走行車線で作業するのが湿塩散布車です。クルマの前に除雪のプラウを備えるのは同じですが、車体に路面凍結を防ぐ湿った塩(塩化ナトリウム)を溜めたホッパー(タンク)を搭載し、車両の後ろの下側にある円盤状の散布口から、粒状の塩と塩水の両方をまいてゆきます。粒の塩は、その場にとどまって、周りの水に徐々に溶けてゆくため、長時間効果が持続するそうです。また、状況によっては、搭載した巨大なタンクから凍結防止剤(塩水)を散布する散水車も除雪に参加します。
湿った塩と塩水を散布する湿塩散布車。車体の前に、除雪装置であるプラウを展開している
湿塩散布車の車体には、塩水と塩をたくわえるホッパー(タンク)が搭載されている
湿塩散布車の車体のリヤバンパー下には、円盤状の散布口が備わっている。塩と塩水を回転させた円盤にあてて、幅広く散布するのだ
シチュエーションによっては、水を散布する散水車も参加する。写真の車両は前方にプラウ、車両後部に追突衝撃緩和装置を備えている
除雪の最後の仕上げを行うのが、ロータリ除雪車です。車両の前面に、積もった雪や氷を削り取るオーガと呼ばれる回転刃を備え、粉々になった雪と氷を吸い込み、シュートと呼ばれる排出口から吹き飛ばします。出陣式に登場したロータリ除雪車は、500馬力ほどのパワーを持っており、最大30mまで雪と氷を吹き飛ばすことが可能。ただし、山間部以外では、道路のすぐ脇に壁のように積み上げて処理します。
車両の前に回転刃のオーガを2つと、その後ろに雪をふき飛ばすシューターを展開させたロータリ除雪車
ロータリ除雪車のオーガの刃には、雪や氷の中に残されたタイヤチェーンをひっかけるための突起がついている。刃に引っ掛けることで、ブロアに吸い込まないようにしている
ロータリ除雪車を横から見たところ。車体の中央が左右に折れることで向きを変える。エンジンからPTO(パワーテイクオフ)で出力を取り出し、チェーンでオーガを回転させている
そして、こうした除雪作業の最後尾で、作業の安全を守るのが標識車です。作業のため低速で走行する除雪車のチームの存在を、搭載した大きなディスプレイで、後ろを走行する一般車両に伝えます。
除雪作業を最後尾から見守り、後続車に除雪車の存在を知らせる標識車。安全のために欠かせない一台だ
プロの神業テクニック!
路面と施設を守るプロドライバーの繊細な操縦技術
こうした除雪の作業には、細心の注意が必要です。凍り付いた雪は非常に強固なため、雪と氷を除去するプラウやグレーダー、ロータリには硬い刃が備わっています。そうした除雪のための刃の扱いを間違えると、路面や施設に傷が付いてしまいます。具体的には、橋梁部の道路の継ぎ目や路側のグレーチング(金属の格子状のフタ)に接触しないように、微妙で正確な操作が必要とされているのです。また、除去した雪を最後にきれいに揃えて処理するのも、高い技術が必要です。また、ロータリ車は、前輪によって操舵するのではなく、車体中央から折れるように曲がってゆくため、走行軌跡が通常とは異なるので滑らかに狙ったラインで走行するだけでもひと苦労。そのため、特に難しいロータリ車は、何年も作業を行ってきたベテランのスタッフが担当しているそうです。
ドライバー必見!
除雪車を追い抜いてはいけない「危険な理由」とは
もしも、高速道路を走行しているときに、除雪を行う車両たちに追いついたときは、どうするべきなのでしょうか。基本的に、除雪作業中の車両は、時速20~40㎞というゆっくりとした速度で走っています。そのため、つい追い越したくなりますが、NEXCOなどの道路管理者は、追い越さないよう呼び掛けています。
無理に追い越すと、その先に積雪が残っている場合があり大変に危険です。また、除雪車が散布している凍結防止剤は塩水ですので、クルマに直接にかかると車体がさびやすくなってしまいます。焦っていても追い越さないようにしましょう。
冬期の雪の日も安心して走れるのは、こうした除雪車による努力があるからこそです。もし、高速道路で除雪車を見かけることがありましたら、今回紹介した除雪車の仕組みや、ドライバーたちのテクニックを思い出してみてはいかがでしょうか。
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