ご存知ですか?クルマ社会の“もしも”に向き合う専門機関。——自動車事故ゼロの社会をめざす「ナスバ」とは
現代の暮らしに欠かせない自動車。しかし、その便利さの一方で、自動車事故件数は年間約30万件にのぼり、誰もが事故の当事者となるリスクを抱えています。こうした現状のなか、国土交通省とともに、クルマ社会の負の部分に立ち向かい、自動車事故ゼロの社会の実現をめざして活動するのが、自動車事故対策の専門機関「ナスバ」(NASVA 独立行政法人 自動車事故対策機構)です。今回は、ナスバの3つの業務「支える」「守る」「防ぐ」と、その取り組みに込められた思いを、それぞれの担当者にうかがいました。
ナスバの3つの業務が生まれた背景とは
左から:小倉拓也チーフ、島添勝博マネージャー、三浦開理チーフ
マイカーをはじめ、バスやタクシー、トラックといったクルマ社会の発展は、日本の経済発展や生活向上に大きく貢献してきました。しかし、その一方で、年間の自動車事故件数は約30万件にのぼり、自動車事故で重度障害を負う方の数も長年横ばいとなっています。クルマ社会である日本において、交通事故は決して他人事ではありません。
自動車事故を防止するための安全技術は日々進歩し、万が一事故が発生した場合の損害を補償する自動車保険なども整備されていますが、被害に遭われた方への精神的な支援や、事故を未然に防ぐための取り組みなど、技術や保険だけではカバーしきれない側面が残っています。こうした社会課題に対応していく必要性から誕生した機関が、ナスバです。
ナスバは、自動車事故被害者を「支える」、自動車事故から「守る」、自動車事故を「防ぐ」の3つの業務に一体的に取り組むことで、自動車事故ゼロの社会の実現をめざしています。
療護施設運営や介護料支給で自動車事故被害者を「支える」
被害者援護担当 島添さん
「支える」業務は、大きく3つあります。1つ目が、「療護施設の設置・運営」です。自動車事故により脳を損傷し、重度の後遺障害が続く方に対して、専門的な治療・看護・リハビリテーションを行う療護施設を全国12カ所で運営しています。
2つ目の「在宅介護への支援」では、自動車事故によって在宅介護を受けている方やそのご家族を対象に、介護料の支給と合わせて、ご自宅などを訪問してお困りごとなどを伺う介護相談を行っています。また、そうした方々がお互いの悩みや情報を共有できる交流会を開催しています。
3つ目の「交通遺児等の生活支援」においては、生活資金の無利子貸付を中学校卒業まで行うほか、「友の会」という交流の場を設け、思い出に残るレクリエーションを企画しています。
私たちの業務はまさに、自動車事故によって体も心も傷ついている方やそのご家族を「支える」ことです。そのため、どんな小さな不安にも耳を傾け、少しでも心のケアに貢献できるよう日々努めています。現在の医療においても脳や脊髄の損傷から完全に回復することは難しく、皆さまが抱える不安や悩みを私たちがすべて解決することはできませんが、だからこそ、常に寄り添う姿勢を大切にしています。「話を聞いてもらえてよかった」。そうした声をかけていただけることが何よりの励みです。
ナスバは自動車事故の被害者支援を行っていますが、本質的には、被害者を生み出さないことが重要です。そのためには、運転者一人ひとりが安全運転を心がけ、社会全体の安全意識を高めていくことが必要ではないでしょうか。自動車事故ゼロの社会を実現するために、ぜひとも安全への強い気持ちをもってハンドルを握っていただければと思います。
安全性能評価で自動車事故から「守る」
自動車アセスメント部 小倉さん
「守る」業務では、自動車やチャイルドシートの安全性能を点数や「★」マークの数などで評価し、「見える化」する自動車アセスメント及びチャイルドシートアセスメントを実施しています。その目的は、ユーザーが安全性能の高い自動車及びチャイルドシートを選びやすくすること、そして、メーカーにおけるより安全な自動車及びチャイルドシートの開発を促進することにあります。
「自動車アセスメント」では、衝突時に人を守る技術「衝突安全性能」、衝突を防ぐための技術「予防安全性能」、重大な事故が発生した場合に備える技術「事故自動緊急通報装置」の3項目を評価しています。また、これらの試験結果をもとにした「自動車安全性能ファイブスター賞」及び「自動車安全性能ファイブスター大賞」を設け、最高評価を受けた車種に「ファイブスター賞」を、その中から最高得点の車種には「ファイブスター大賞」を授与しています。
「チャイルドシートアセスメント」については、「前面衝突試験」と「使用性評価試験」を実施しています。チャイルドシートは、使用の有無によって死亡重傷率が約3.2倍に高まることや、使用方法によって死亡重傷率が約5.9倍に高まる統計があります。そのため、使用することはもちろんのこと、正しく取り付けて使用することが重要となります。したがって、「使用性評価試験」では、チャイルドシートを確実に取り付けられるように配慮されているかなどを評価しています。その他にも、Webやパンフレットを通じて、試験結果を元にした評価や統計データなどチャイルドシートの正しい情報を周知しています。
自動車を選ぶ基準は人それぞれですが、事故に遭いたくないという思いは共通するのではないでしょうか。だからこそ、「安全性能」という視点を加えていただければと思います。ナスバのホームページではさまざまな車種の評価結果が検索できますし、YouTubeの自動車アセスメント公式チャンネル
では評価試験の映像も公開しています。ぜひ安全な自動車選びに役立ててください。
私は初めて衝突試験に立ち会ったときのことを、今でも鮮明に覚えています。自動車が衝突する際の凄まじい音や部品が飛び散る光景に、事故の恐ろしさを痛感したからです。自動車の安全技術は進化を続けていますが、完璧とはいえません。ナスバは自動車アセスメントを通じて、今後もより安全な自動車の普及に貢献していきます。
自動車運送事業者への安全指導業務で自動車事故を「防ぐ」
安全指導部 三浦さん
タクシーやバス、トラックなどの事故は被害が大きくなりやすく、社会的影響も計り知れません。そのためナスバでは、自動車運送事業者を対象にした「指導講習」「適性診断」「安全マネジメント」の取り組みを、全国50支所で実施しています。
「指導講習」では、運行管理者への一般講習に加え、資格を取得したい方に向けた基礎講習も行っています。また2025年2月からは、貨物軽自動車運送事業者に向けたeラーニング講習も開始しました。こうした指導講習を通じて、運行管理の実務や関係法令、安全の確保に必要な管理手法を提供しています。
「適性診断」においては、ドライバーの方の性格や安全運転態度などを診断し、その結果に応じたカウンセリングを行っています。これは運転技術を評価するものではなく、その人の特性が運転時にどう表れるかを客観的に確認するものです。意外な結果に驚かれる方も少なくありませんが、自分の特性を知ることが安全運転につながります。
「安全マネジメント」は、経営層を対象にしたプログラムです。自動車運送事業者には、企業全体で安全風土を醸成していく「運輸安全マネジメント制度」が義務付けられていますが、「具体的に何をすればいいのかわからない」といった声もあります。そうしたニーズに応えるため、セミナーやコンサルティングを通じて支援しています。
診断や講習を受講いただいた皆さまからは、「自分の癖を理解できた」、「安全マネジメントに足りない部分がわかった」といった感想を多くいただきます。しかし、そうした気づきは、実際に活用されてこそ意味があります。そこでナスバでは、適性診断活用講座や、ご要望に合わせた講師派遣などにも対応しています。ドライバーの方の安全意識を高め、企業全体で事故を防ぐ取り組みにつなげるためにも、ぜひ一度ご相談ください。
めざすのは、自動車事故ゼロの社会
安全なクルマ社会を見守るナスバちゃん
ナスバの存在や取り組みを知っておいていただくことで、万が一自動車事故に遭われた際にも、すぐにご相談いただけます。ぜひこの機会に、ナスバについて理解を深めていただければと思います。
ナスバの3つの取り組みに共通するのは、「自動車事故をゼロにしたい」という強い思いです。私たちはこの理念のもと、被害者団体や自動車運送事業者、自動車メーカー、自動車ユーザーなど、クルマ社会を構成するすべての皆さまと共に歩みながら、今後も自動車事故防止と被害者支援に注力し続けていきます。
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