見た目はまるでウルトラ警備隊!? 航空機火災に立ち向かう巨神兵、空港用化学消防車STRIKER6×6!
【特車図鑑】世の中を支える唯一無二の特殊な乗り物たち
建設現場や災害現場、そして輸送の最前線など、人知れず活躍する特殊車両たち。特別な作業のために開発されているだけに、その機能も形状も、どれも常識を超えたものばかりだ。今回の車両は、成田国際空港に配属されている化学消防車。ベース車両は700馬力を発揮する米オシュコシュ社製の「STRIKER6×6(ストライカー6×6)」。15m超の高所放水や機体内部への穿孔(せんこう)放水を可能にし、これまで届かなかった出火点を的確に消火する。
飛行機の機体に突き刺してキャビン内を効率的に消火!
HRETに装備されている穿孔ノズルを航空機の胴体に貫通させ、ノズル先端からキャビン内へ消火剤を放射する
航空機火災時における延焼の主な要因は、多くが航空燃料によるものだ。そのため一般的な消防車の放水では火勢を抑えることが難しく、空港には水に化学薬液を混ぜて放射する化学消防車が配備されている。その中でも成田国際空港が保有する「STRIKER6×6」は、HRET(エイチレット)と呼ばれる特殊な消火装置を備えた化学消防車だ。
HRETとは、高位置伸展型放水銃(High Reach Extendable Turretの略)で、ブームとノズルの動きを連動させることで、ノズルを前方や高所、低所など自在な位置に合わせ、各ポジションから的確に放水できる装置。
HRETとバンパータレットが目立つインパクト満点のフロントまわり。見晴らしの良い開放的なフロントガラスは、視界を広げることで確実な消火作業を行えるように設計されている。写真ではわかりにくいが全幅は軽自動車2台分よりも広い3.1m
全長12.36mの巨大なボディーに6輪タイヤを装着した圧倒的な存在感。ボディーサイドにあるシャッター(白く塗られた部分)の中にはホースリールや消火装置類が収納されている。車両最後部には総排気量15.87Lのディーゼルエンジンが搭載される
後部中央には折りたたみ式はしご、上部左右に照明灯、右下部に110V電源などを装備。右上部に記載されている通り、最大で水10500L、消火薬液880L、粉末消火剤220㎏を積載可能。右下にある黄色いカバーはエアー充填(じゅうてん)口、電動ヒーター接続口、充電コード接続口
15m超の高所放水や航空機内部の出火点を制圧
全長12.36m、全幅3.1m、そして全高3.8mの巨大なボディーに15.87L・700馬力ディーゼルエンジンを搭載。35tに及ぶ車重でありながら、「現場到着3分以内」という規定を満たす0→80km/h加速、35秒・最高速110km/hの動力性能を保持。さらに6×6、すなわち6輪駆動方式によって空港内の不整地でもスムーズに進める。
HRETとバンパータレットを合わせた最大放射量は毎分6600L。航空機の機体を貫通して内部に直接放射できる穿孔ノズルも装備しており、一連の作業はHRETに搭載された赤外線カメラによって確認しながら行われる。
スプリンクラーをイメージするとわかりやすい穿孔ノズル
穿孔ノズルから放水している写真。ノズル先端からは毎分950Lの放射が可能だ
穿孔ノズルは、機体を貫通して機内に直接消火剤を放射できる装置だ。これにより、消防隊員を危険にさらすことなく、また過剰な酸素を機内へ注入することも防ぎながら、機内火災を安全かつ容易に鎮火することができる。ノズル先端からは毎分950Lの放射が可能。さらにブーム先端には赤外線前方監視カメラが搭載されており、機内および航空機全体の火災状況を正確に把握するうえで、極めて有用なツールとなっている。
【化学消防車STRIKER6×6の詳細紹介】
車両の乗車定員は3名だが、HRET型化学消防車のキャビンは運転操作を含め、基本的に1人ですべての操作が行える構造となっている。ハンドル(運転席)は車体中央部にあり、それを囲むように操作パネルが配置されている
➀HRET主タレット放水、操作関連のジョイスティック、➁バンパータレット放水、操作関連のジョイスティック、③3HRETブーム操作関連のレバー。モニターは左がポンプ装置の運転状況で、右側が主タレット先端の赤外線カメラで被写体の温度を表示する
HRET化学消防車のエンジンは、車体後部に収められている。総排気量は15.87Lで最大出力は約700馬力を誇る。1基のエンジンで走行と放水ポンプ駆動の両方を担う設計で、極限の現場においても確実な動力を発揮する
HRET主タレットは高流量時に毎分3785L、低流量時に毎分1893Lの放水が可能だ。水と消火薬液を混合した泡消火薬剤のほか、粉末消火薬剤の放射にも対応している。タレットの右に配置されているのは赤外線カメラ
フロントの中央部に取り付けられたバンパータレットは、高流量時に毎分4732L、低流量時に毎分2366Lの放水が可能。射程距離は高流量で約75mに達し、全長約70mのジャンボ機をカバーする性能を備えている
ブロックパターンが配されたタイヤはミシュラン製。約35tの重量を受け止め、滑走路脇の芝地帯など未舗装地帯においても6輪駆動の機能を最大限活かすことができる
ボディーサイドに設けられた2か所のシャッター部は開けるとこの通り。左側にはホースリール、右側には消火装置のコントロールパネルを内蔵。こちらは車体左側だが、右側にも同様の装置が備わっている
HRETを上から見た全体写真。伸縮&旋回&上下動を行うアームに放水銃が加わった構造を持っている。先端に配備されている穿孔ノズルは、一刻を争う航空機内の火災に最大の効果を発揮する
【HRET搭載 化学消防車のスペック】
●メーカー:Oshkosh社 ●通称名:STRIKER6×6(HRET型)
●全長×全幅×全高:12360mm×3100mm×3800mm
●ホイルベース:6780mm ●最少回転半径:11.7m
●車両総重量:34885kg ●乗車定員:3名
●原動機型式:TCD16.0 ●総排気量:15.87L
●最大出力:約700馬力 ●駆動方式:6×6
●最高速度:110km/h、0→80km/h=35秒
●水積載容量:10500L ●薬液積載容量:880L
●粉末消火剤積載重量:220kg
●主タレット最大地上高(最大作業半径):15.2m(10.5m)
●穿孔ノズル最大到達距離:8.5m
重機女子オペレーター Kaoriさんが語る化学消防車の魅力
自称、消防車マニアの私も知らなかった巨大な化学消防車!
私は今年18歳になる息子の幼少期の影響で、かなりマニアックな消防車にも詳しいという自負がありますが、この航空機専用化学消防車(HRET搭載)については今回初めて知りました。早速いろいろと検索をしてみると、空港内だけでなく公道も走行できる仕様とのことですが、そのサイズはとにかく巨大!
バックホウ(ショベルカー)やクレーンを思わせる長いブームは、成田国際空港に就航している大型機の上部にまで届くらしい。そして先端のとがったノズルで、なんと機体に穴を開けて放水するというのだから驚きです。消防隊員が危険な距離まで近づかずに済むよう、カメラも装備。実際に出動する場面がないことを願いますが、訓練などでぜひ一度見てみたいですね。
重機女子オペレーター Kaoriさん(株式会社KSK 代表)
親方として現場で作業を行うKaoriさんは、重機が好きすぎて自ら会社を設立。「ユンボの楽しさを伝えたい!」という思いから、毎日現場で作業しながらもテレビ出演やイベントでの講演のほか、建設業界で働く女性たちが集まるコミュニティサイトなども運営している。
●Instagram:@kao.ksk
●公式LINE(建設業に関わる女性限定):@925dxxzs
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