ナショナル、パイオニア、ナカミチ、JVC! カタログで振り返る、オーディオメーカー製カーオーディオ
昭和・平成の個性的カーオーディオ【アフターパーツ編】5月に公開した純正オーディオ編に続き、今回はオーディオメーカーが手掛けた、後付けのカーオーディオをクローズアップ。自由度が高いアフターパーツには、純正オーディオよりもさらに個性的で、こだわりの強いカーオーディオがたくさんあった。人気があったモデルや独自色の強いモデルを中心に、当時のメーカーの個性を振り返ってみよう。
カーオーディオ戦国時代!
好みの音、機能の追求も先鋭化
現存する当時のカーオーディオカタログ。この貴重な資料を元に懐かしのオーディオを紹介
カーオーディオは、もともとクルマとオーディオの両方が趣味というユーザーにとって、なくてはならない存在だった。1970年代、“カーステレオ”と呼ばれた時代にカセットテープが普及すると、自分の好きなアーティストの音楽を、自分の持っているレコードからカセットテープに録音し、それをクルマの中で聴くというスタイルは、クルマ&オーディオ好きにとって楽しみのひとつだった。
そんなカーオーディオがより広くクルマ好きの間で注目されるようになったのは、70年代半ば頃のこと。きっかけを作ったのは、ホームオーディオ機器メーカーだったパイオニアが発表した「ロンサムカーボーイ」と銘打ったカーオーディオの新シリーズ。これが、まさにホームオーディオのようにテープデッキ、アンプ、チューナー、スピーカーと個々のユニットを組み合わせる“カーコンポ”のスタイルを提案。自分で組み合わせが選べる点、クルマに標準装備されたカーステレオよりも格段にいい音が楽しめる点、クルマに装着した場合に運転席まわりの見栄えが良くなる点などが魅力として、人気を博した。このロンサムカーボーイに追従する形で、オーディオメーカー各社からカーコンポが登場。当時のカーショップやホームセンターのカー用品コーナーでは、各社の販促用カウンターPOPが所狭しと並び、商品をアピール。カーオーディオファンは実機を触ったり、カタログを集めたりと、店頭に足を運ぶだけでも楽しみを味わうことができた。
やがて80〜90年代になると、今度はより高級路線の商品が台頭。国内ブランドの商品「ナカミチ」や「デンオン(デノン)」「テクニクス」、海外ブランドで「JBL」「BOSE」「アルテック」といった、ホームオーディオで定評があるブランドの製品が手に入るようになり、とくにオーディオ好きを喜ばせた。この頃になると、自動車メーカーも反撃(!?)に出て、たとえばトヨタがスーパーライブサウンドと呼んだ、純正ながら高音質をうたうシステムを登場させるなどしている。また大手量販カーショップとは別に、クルマの内装材を外して防振処理を施すなど、それなりの費用を必要としたが、凝った取り付け作業を請け負うプロショップなども出現。カーオーディオや音にこだわるマニアはそういうショップを贔屓(ひいき)にした。
昨今では、Wi-FiやBluetoothを使って手持ちのスマホをクルマとつないだり、ストリーミング再生でごく手軽に誰でも自分の聴きたい音楽を楽しむことができる。だが、カーオーディオが進化の途上にあった頃は、カーオーディオ好きにとって、自分がどの機種を選んで、自分のクルマでどんな音を楽しみたいかが重要だった。だから、たとえシワが寄ったり端がやぶれたカタログでも、今見ると懐かしくいとおしいものなのだ。
ナショナル
度肝を抜いた天井オーディオ“コックピット”
ルームランプとミラーのステーを利用して天井に取り付ける方式。本体の厚みはテープデッキ部で75mm、最薄部で23mmのスリムさ
1957年に市販オートラジオ、1967年に8トラックのカーステレオ、1970年にカセットカーステレオを発売していたナショナル(現:パナソニック)。さらに1977年にはチューナー、アンプ、カセットデッキが分かれたカーコンポ1を発売するなどカーオーディオにも積極的だった。写真の「コックピット」もカーコンポのひとつで、オーバーヘッド(天井)に装着して使う、まさに航空機のコックピット感覚のスタイルを実現したモデルだった。この薄型ボディーにカセットデッキ、チューナー、プリアンプまでも内蔵。別体のメインアンプ、フロント&リアスピーカーなども用意され、スタイルだけでなく音質にもこだわっていた。
チューナー部は指針の代わりに16個のLEDを用いた斬新なデザイン。4スピーカー化に備えたフェーダーコントロールも装備した
パイオニア
カーコンポの先駆けとして人気だったロンサムカーボーイ
FMステレオ/TVチューナー、GX-7。かつての家庭のTVのような“TVチャンネルつまみ”がユニーク。ステレオ、モノラルを自動的に切り替えるなど、放送を明瞭に受信する回路も内蔵
カーステレオの世界に“カーコンポ”の概念を最初に持ち込んだのがパイオニアの「ロンサムカーボーイ」。ホーム用のコンポーネントステレオ同様にカセットデッキ、チューナー、アンプなどを別体とし、それらを組み合わせてシステムを構築するスタイル。当然、個々のユニットは性能にもこだわり、音質面でもグレードアップが図れた。写真は1977年頃の初期のモデルだが、ダイヤルを回してTVチャンネルを選局する今は懐かしい方式のチューナー(音声のみ)などが人気だった。システムアップに不可欠なスピーカーにはアルミダイキャスト製の2ウェイ方式なども用意された。
写真は横幅150mmサイズのシリーズのカセットデッキ。車内でも高音質が楽しめるようドルビー回路(ノイズを抑制・軽減する機能)も内蔵した
キャビネットの重さは1個で3kg。前面のアルミパネルの厚みは5mmと大入力にも対応した強靭な造り。ツイーターは2.5cmドーム型
クラリオン
都会的で洗練された「シティコネクション」シリーズ
直線基調のデザインでまとめられたシティコネクション。チューナーなどは、システムアップがしやすいようカーオーディオの外寸サイズ規格(DIN)の半分とした薄型設計
クラリオンは、1951年に日本で初めてカーラジオを発売した老舗ブランドのひとつ。そんな同社がカーコンポのシリーズとして最初に打ち出したのが「シティコネクション」だった。写真は1986(昭和61)年当時のものだが、カセットデッキ、チューナーをはじめ、聴く音楽のジャンル、音の好みで細かな音質調整が可能なグラフィックイコライザーなども用意。パネル面のデザインが統一され、2段重ね、3段重ねにした場合のスマートな見た目も特徴だった。スイッチには押すとピッ!と音を発し確実な操作感を実現するといった機能も盛り込まれていた。
シティコネクションのシリーズはラインアップが豊富で、別体のパワーアンプも用意された。ほかにもスピーカーでは、ドアマウントタイプやリアトレイ埋め込みタイプをラインアップ
アルパイン
音質重視をうたった、ワンボディーのチューナーデッキ
他社がカーコンポに力を入れる中、“理想はワンボディ”をうたい登場。指先で軽く押せば反応するフェザータッチスイッチも採用した
アルパインの名を聞くと、1980年代にラインアップしていたカーコンポの、黒いパネル面にグリーンの四角いボタンが配置されたクールなデザインの機種を思い浮かべる方も多いのでは? その一方で、知る人ぞ知るといったモデルが1979年に発売された「SK-800」。他社が単体のカセットデッキやチューナーなどを組み合わせるコンポ方式に向かう中、ワンボディにチューナー、20W+20Wアンプを収め音質にこだわっており、派手な存在ではなかったが見逃せないモデルだった。ちなみに写真は発売当時のパンフレットと、筆者が当時愛車に装着していた実物。カセット挿入口のフラップがFMチューナーの目盛りを兼ねた設計だった。
アルパインのカーコンポモデル。フラットで四角いグリーンのボタンがシンボルだったヘッドユニットも多数用意。それらを中心にシステムアップも可能にしていた
ナカミチ
ツウ好みの国産高級オーディオシステム
上級機種のTD-700(写真左側)は、走行中の振動に対処した、テープの再生を安定させる機構「ダブルキャプスタン」を車載用デッキで初採用
1970年代からのホームオーディオマニアにとって、ナカミチの「Nakamichi 1000 Tri‐Tracer」(1973年に発売されたホーム用超高性能カセットデッキ)は、世界で初めてカセットデッキの3ヘッド化を実現した名機だった。そんな最新技術を世に送り出した同社が、満を持してカーオーディオ分野にも進出。最初のモービルチューナー/カセットデッキだった83年のTD-1200(24万8000円)は、ホームの高級ブランドの参入とあって、当然ながら注目を浴びた(当時は多くのデッキが10万円以下)。写真のカタログのモデルはその次のシリーズで、売価が10万円台に抑えられたものの、ワウフラッター(テープ再生時の音の歪み)を0.05%に抑えるなど、同社らしい高性能ぶりは堅持された。柔らかで上品な夜間照明も印象的だった。
ソニー
車外にも持ち出せたウォークマン的カーコンポ
バッテリー駆動も可能な可搬性を特徴としたモデル。ユーザー指向に合わせて、FM派にはチューナー付き、テープ派にはイコライザー付きを用意
1970年代後半のカーコンポ時代の到来に合わせ、実はソニーも、システム構築が可能なコンポの「The Car Stereo」と名付けたシリーズを発売した。その中で屋外での音楽の楽しさを追求していかにもソニーらしかったのが80年に発売された「メディア・ポータブル・コンポーネント」と名付けたモデル。カタログ写真をご覧いただけば話が早いが、カセットデッキ、チューナー、パワーアンプをひとまとめにし、車内だけでなく自宅や屋外に持ち出して使うことを可能としたもの。ある意味であのウォークマンのスケールも超えた、ソニーファンなら無条件で(?)心なびかさせた製品だった。
JBL
人気の北米ブランドはカー用でもおなじみのオレンジロゴ
JBL好きにはおなじみのオレンジ色のロゴマークを配したシンプルなデザイン。ウーファーにはJBLのオリジナル技術を採用し、ゆがみの低減を図り、コーン紙には湿気の吸収を防ぐポリプロピレン・コーティングが施されていた
ラジオ放送局の技師だったジェームス・バロー・ランシングにより1946年に創設されたJBLは、アメリカ・カリフォルニアの音響機器メーカー。とりわけスピーカーには名機が多く、マニアに愛好されている。何を隠そう筆者宅でも、かれこれ40年来使い続けているスピーカーシステムが鳴り続けている。カーオーディオ用のスピーカーが発売されたのは1983年のこと。写真はその最初のモデル群を掲載したもので、楕円形ウーファーを搭載した3ウェイスピーカーのT545から、12cmのコンパクトなコアキシャル(同軸型)2ウェイのT205まで幅広くラインアップ。ホーム用のスピーカーユニットと共通のダイキャストフレームにオレンジのJBLのロゴバッジが付き、カラッと明朗な音に、「ああ、JBLだ!」と思わせられた。
BOSE
おしゃれカフェで見るBOSEのカースピーカーはおにぎり型だった
業務用、家庭用としてもおなじみの箱形デザインの101 MM TFA(写真右)のほか、ドアなどへの取り付けの自由度を高めたオニギリ型のModel 1010(写真中)。「自然に聴こえる音楽の再生」を目的に開発された
数字上の音の研究だけでなく、音響心理学、室内音響学などを加味した独自の観点から開発されるというBOSEの製品。ひと頃流行ったカフェバーの天井から吊り下げられたコンパクトな箱形スピーカーの「101MM」などを連想する人もいるかもしれない。カーオーディオ用としては同じ箱形の「101MM TF」や6角形のユニークなグリル形状の「Model 1010」、専用イコライザー/アンプがセットになったシステムの「1401 Series II」などが初期の代表的モデル。同社は、スピーカーを中心に、車内音響特性に合わせて設計・開発する自動車メーカー各社(各車)の純正システムでも有名。
マッキントッシュ
ブラックパネルにブルーイルミが美しい!デザインも愛された高級ブランド
ブラックパネルとブルーのディスプレイは、ホーム用ユニットのデザインそのもの。トルクを利かせたダイヤルの操作感も上質だった
マッキントッシュは、1949年にアメリカで創立した、オーディオマニアご用達ブランド。音の良さや品質の高さに加え、同社のこだわりはデザインにもあった。ブラックガラスパネルにブルーアイズと呼ばれる青いメーターパネルを組み合わせた、ひと目でマッキントッシュとわかる外観デザインは、高級志向を求めるユーザーが惹かれたこだわりのひとつだった。そのデザインを受け継ぎ1995年に登場したのが同社のカーオーディオ。カセットプレーヤーとプリアンプ一体の“MX402 ”を核にCDオートチェンジャー、アンプ、スピーカーをラインアップ。ホーム用マッキントッシュファンに加え、他社にはないシンプルで美しいデザイン、歪みのない高音質に憧れたユーザーは多かった。
マッキントッシュらしい豊かで滑らかな音質を約束したパワーアンプの数々。ほかにスピーカーユニットも単体で用意された
JVC
テープ挿入口が見えない斬新デザインはG・ジウジアーロ
フェイスパネルが開くオープンフラップは当時としては先鋭的。テープ挿入口が見えない美しいデザインが魅力だった。イルミネーションはグリーンとオレンジに切り換え可能
JVCは、アメリカ資本のThe Victor Talking Machine Companyの日本法人として誕生した日本ビクター(現:JVCケンウッド)のブランドで、ホームオーディオやカーオーディオを手掛けてきた。日本ビクターは、ホーム用ビデオVHSの開発メーカーでもある。写真は、1991年春・夏のカーオーディオのカタログ。この時の注目モデルが、CDチェンジャーコントロールチューナーデッキ「KS-CG10」とCDチェンジャーコントロールレシーバー「KS-RG8」。この2機種は、初代フォルクスワーゲン・ゴルフやいすゞ・117クーペなどをデザインしたカーデザイナーのG・ジウジアーロが手がけたもので、クルマそのものはともかく、カーオーディオ単体のデザインは(公表されている限りでは)おそらく最初で最後だったはず。未来的なデザインは他のカーオーディオとは明らかに一線を画したもので、デザインコンセプトは彼が手掛けた未来カー、アスビッドのテールランプをイメージしたとカタログには記載されている。
日本初のカーステレオは
クラリオン製だった
1951年に日本で初めてのカーラジオとして登場したクラリオン製のル・パリジャン
日本で初めてカーラジオが登場したのは、1951年。日野ルノー純正としてクラリオンが「ル・パリジャン」と呼ばれたカーラジオを発売した。63年には、4トラック方式の再生が可能となった日本初のカーステレオが誕生。さらに、68年には日本初のカセットカーステレオが登場。これらはいずれもクラリオン製。このあたりから、カーステレオが一般的にも普及し始めた。
4トラック方式のテープ再生が可能だったクラリオン製カーステレオ(1963年誕生)
クラリオンから日本初のカセットカーステレオが誕生(1968年)。自分の好きな音楽を録音できるカセットテープが再生可能となったことで、市販ソフトを購入する必要がなくなり、カーステレオは幅広く普及した
懐かしのカーオーディオをテーマに、純正編/アフターパーツ編と2か月にわたって特集しました。今はスマホをつなげば音楽でも映像でも簡単に車内で楽しめますが、個性あるオーディオにあれこれ思いや憧れを募らせ、カセットテープやCDを厳選していた時代も、楽しいものでした。当時のカーオーディオに情熱を注いだメーカーの熱が伝われば幸いです。
島崎七生人
しまざき・なおと モータージャーナリスト、AJAJ会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1958年、東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に勤務。1991年よりフリーランスでの活動を始め、さまざまな自動車専門誌やWebでも執筆活動を展開。クルマに対しては、あくまでも一般ユーザーの視点で接し、レポートすることを信条としている。クルマ以外にオーディオやカメラなどにも造詣が深く、1970年代から集めたカタログの山に頭を悩ませる今日この頃。