モータースポーツコラム

スーパーGTがいよいよ開幕! 観戦がもっと楽しくなる見どころをご紹介

2023.03.21

文=貝島由美子/写真=ホンダ、GTA

2023.03.21

文=貝島由美子/写真=ホンダ、GTA

国内モータースポーツでも屈指の人気を誇り、いわゆる箱車では世界最速とも評されるレースシリーズであるスーパーGT。2023年シーズンもいよいよ開幕ということで、今回は長年スーパーGTをウォッチしている貝島由美子さんに、「スーパーGTとは何ぞや?」というところから見どころまでを解説していただきました。

世界的にも評価されている人気シリーズ

1994年にスタートした全日本GT選手権を引き継ぐ形で、2005年からはFIA公認の国際シリーズとなったスーパーGT。全日本GT選手権時代も含めると、今年で30年目という長い歴史を持っており、今でも国内で最も人気のあるカテゴリーだ。

一方、古くからグランツーリスモなどを通じて、シリーズに参戦しているマシンたちが国内外で広く知られていたこともあり、日本人ドライバーだけでなく、海外のドライバーたちの間でも、「スーパーGTに参戦したい」と望む選手は多数。

古くは元F1ドライバーのエリック・コマスが参戦、コロナ禍前の2018~2019年には元F1チャンピオンのジェンソン・バトンが参戦したことで、大きな話題となった。また、2021年にインディカー・シリーズでドライバーズ・タイトルを獲得したアレックス・パロウも2019年にはスーパーGTに参戦。そうしたことも相まって、世界的にも評価が高いシリーズだ。

ジェンソン・バトン

TEAM KUNIMITSUから参戦していたジェンソン・バトン選手。当時のチームメイト山本尚貴選手とともに。

2クラス混走や勝利チームへのハンデが大会を盛り上げる!

スーパーGTを盛り上げているひとつの大きな要素は、GT500とGT300という2クラスが混走する独自のルール。スピードに勝るGT500クラスのマシンは、レース中、幾度もトラフィック処理(速度の遅い車の追い越し)をすることになり、それが各車のタイム差の変化や順位変動に影響を及ぼす。

一方、後方から迫ってくるGT500のマシンたちに進路を譲りつつ、自らのバトルもしなければならないのがGT300クラス。やはりGT500のマシンが絡んで順位が変動するという場面も多い。タイミングと判断ひとつで展開が変わっていってしまうのが、スーパーGTの見どころのひとつだ。

この2クラス混走は、全日本GT選手権設立当時から、基本的に変わっていない。また、獲得ポイントに応じて、次のレースで車両にサクセスウェイト(以前はウェイトハンディと呼ばれていた)を搭載するのも、シリーズ設立当時からの独自ルール。安全面を考慮して、現在GT500クラスでは搭載ウェイトが50kg(GT300クラスでは100kg)を超えると、エンジンの燃料リストリクターを1段階絞るという形が採られているが、多くのポイントを獲得したマシンは、その分戦闘力を削(そ)がれる。

結果、より多くのマシン、ドライバーに、シーズンのどこかで優勝するチャンスが広がる。どこか1チームだけが勝ちっぱなしということがなくなるのだ。そのため、ファンにとっては“推し”のチームがどこで好成績を出すか、毎回のように楽しめる仕組みになっており、スーパーGTの面白みとなっている。

世界最速のGT500とバラエティー豊かなGT300

全日本GT選手権が設立された当初は車両の改造範囲が広く、それ以前に人気を博したグループAの車両を流用することもできたため、参加車両もスーパーカーをはじめスポーティな車種が多く、池沢さとし(現:池沢早人師)の『サーキットの狼』を彷彿(ほうふつ)とさせる世界観だった。

その後、2000年前後からは自動車メーカーが深く関わるようになり、トップカテゴリーのGT500はワークス対決の場に変化。現在でもトヨタ、日産、ホンダの3社が火花を散らし続けている。

2003年のスーパーGT

2003年にはいずれも初代のNSXやスープラ、R34GT-R、ランボルギーニ ディアブロ、マクラーレンF1 GTRがGT500クラスに参戦していた。

車両に関するレギュレーションは時代の流れに応じて変化してきたが、シリーズのさらなる世界展開を見越して、2014年にドイツツーリングカー選手権(DTM)とエンジンなどを除く車両規定の基本を統一。モノコックやギアボックス、カーボンブレーキ、ダンパー、リアウィングなど主要コンポーネンツが統一された。2019年には、ドイツ・ホッケンハイムリンクと日本の富士スピードウェイで、スーパーGTとDTMによる交流戦も行われている。

その後さらに車両規則の共通化が進められ「クラス1規定」と呼ばれるものができたが、2021年からDTMがスピードに劣るGT3車両でのレースに変化。現在この「クラス1規定」を堅持しているのはスーパーGTの500クラスのみとなったが、これこそスーパーGTが現在でも「世界最速」と言われる所以(ゆえん)だ。

参戦マシンに関して、GT500クラスは車両のベースは同じだが、2020年はトヨタがスープラ、2022年は日産がZをシリーズに投入、そして2024年はホンダがシビック·タイプRをデビューさせることになっており、今後もワークス対決が続く。

一方、GT300クラスに関しても、かつては独自に仕立てたマシンが多かったものの、現在はGT3が中心。2012年から世界共通の規格にのっとった車両としては、GT3マシンのみが参戦できることとなり、一気に車種も台数も増えた。これに対して、JAF-GTレギュレーションにのっとったマシンも少数ながら参戦。GT500クラスが15台なのに対して、GT300クラスには毎レース30台近くが参戦しており、シリーズを大いに盛り上げている。

今となっては珍しくなったタイヤメーカーによる競争も

現在、F1や世界耐久選手権をはじめとする多くの世界選手権、また国内選手権は、タイヤワンメイクが主流となっている。しかし、スーパーGTは、今でも複数のタイヤメーカーがシリーズに参戦し、しのぎを削っている稀有(けう)なカテゴリー。GT500クラス、GT300クラスともに、ブリヂストン、ミシュラン、横浜ゴム、ダンロップの4社が参加している。

2022年、GT500クラスでは、ブリヂストン勢とミシュラン勢が激しいタイトル争いを演じたが、予選では横浜ゴムが大健闘。2021年は、ダンロップ勢も予選で強烈な速さを見せていた。一方、GT300クラスでは横浜ゴムとダンロップが毎回丁々発止の争い。そこにブリヂストン勢も加わり、毎回目の離せない展開となっている。

今季からは、「スーパーGTグリーンプロジェクト2030」と名付けられた環境対応ロードマップの一環として、各大会への持ち込み可能タイヤセット数が1セット減少するが、GT500クラスも含めて、それが各チームの戦略にどのような影響を与えるのか。そこも見どころのひとつとなるだろう。

環境問題への適応も開始

近年、世界中で自動車やモータースポーツを取り巻く状況は大きく変化している。CO2の大幅削減のために、ヨーロッパをはじめ、市販車の世界では電気自動車に移行していく未来が決定的だ。その中で、モータースポーツの世界も環境に配慮したものとして変わっていかなければならない。

そのために発表されたのが、前項でも触れた「スーパーGTグリーンプロジェクト2030」。2030年までにCO2排出量を半減させるというプロジェクトだ。これを実現すべく、今年からスーパーGTでは、ドイツ製のカーボンニュートラルフューエル「ETS Renewablaze GTA R100」を全車が使用することになった。

「ETS Renewablaze GTA R100」は第2世代バイオマスとして知られているセルロースから生成された炭化水素と酸素含有物から作られており、バイオ成分100%を達成しているとのこと。昨年の最終戦後には、この燃料を使用しての初テストが実施された。来月に予定されているシーズン開幕前の合同テストからは全車が同燃料で走行。新たなシーズンを迎えることになる。

23年シーズンの注目ドライバー・GT500

今季のGT500クラスに関しては、すでに3メーカーが体制を発表している。その中で、まったくラインナップに変更がなかったのは日産陣営。これに対して、トヨタとホンダは一部に動きがあった。

その中で、注目されるのは、昨年までホンダ陣営に所属していた笹原右京の電撃移籍。笹原はトヨタ陣営に入り、名門TEAM TOM'Sでジュリアーノ·アレジとコンビを組むことになる。この新コンビがどんな活躍を見せるのかは気になるところだ。

笹原右京選手

トヨタへの移籍で注目の笹原右京選手

また、ホンダ陣営では、ARTAが1チーム2台体制に変更。マシンメインテナンスをM-TECが担当することになっただけでなく、ドライバーラインナップも8号車に野尻智紀&大湯都史樹、16号車に福住仁嶺&大津弘樹と変更になっている。2台体制を組むことによって走行データ量が豊富にとれるだけでなく、その共有による躍進が期待される。ここ2~3年、ARTAは不運に見舞われることも多かったが、今季は大きく巻き返しそうな気配だ。

また、今年GT500で唯一のルーキーとなるのが、Modulo Nakajima Racingからデビューする太田格之進。昨年、GT300やSFLで速さを見せていた太田の走りにも注目だ。

23年シーズンの注目ドライバー・GT300

GT300クラスについては、開幕を前に各チームが次々に体制発表を行っているが、大ベテランから若手まで、ドライバーに関しても車種と同様バラエティに富んでいる。その中で、注目されるのは、BMW Team StudieからスーパーGTデビューすることになったブルーノ・シュペングラー。

残念ながら、他のカテゴリーとの日程重複により、フル参戦はかなわないということだが、シュペングラーと言えば元DTMチャンピオンとして、日本でもその名を知られた存在だ。大ベテランではあるものの、初めてのスーパーGTに彼がどう順応していくのか、興味は尽きない。

一方、新規チームとして今季から参戦するYogibo Racingは、ドライバーにもFIA-F4からステップアップする22歳の伊東黎明、21歳の岩澤優吾と若手コンビを起用することとなった。その他、若手の中では、昨年タイトル争いを演じた大草りきや今季シリーズデビューを果たすイゴール·フラガも注目の存在。フラガはリアルとバーチャル、両方の世界で活躍を続けている日系ブラジル人。日本生まれで12歳までは日本で成長した彼が再び日本に戻ってくることとなったが、どんな活躍を見せてくれるのか目が離せない。

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