JAFロードサービスカー図鑑 File No.7 災害対策レッカー車
構成=ダズ/レポート&動画=吉川賢一/写真=渡部竜征

地震や台風による水害、大雪などの際、被災地の復旧に尽力するJAF特別支援隊が使用する車両

File No.7 災害対策レッカー車

JAFにはクルマやバイクの路上救援対応のほか、地震や台風による水害、大雪などの自然災害に見舞われた被災地で、主に交通路を確保する目的で活動するロードサービスカーも用意されている。それがJAF特別支援隊が使用する災害対策レッカー車だ。今回はそんな災害対策レッカー車について詳しく紹介しよう。

目次

被災地の交通路確保などで活動する特別なレッカー車

災害対策レッカー車は、主に地震や台風などの自然災害によって、動けなくなってしまった道路上の車両を移動する際に活躍する車両だ。

被災地では、電気や水道などのライフラインが寸断され、食料や水といった救援物資が大量に必要になるが、被災して動けなくなった車両によって道路がふさがれてしまい、救援物資の輸送や緊急車両の通行が困難になる。JAFでは、そうした場面を想定した車両の移動訓練や、自治体の防災訓練にも積極的に参加して万一の事態に備えている。災害などが発生した場合にはJAFロードサービス特別支援隊を編成し、迅速かつ適切なロードサービス活動を行っている。その特別支援隊が使用するロードサービスカーが「災害対策レッカー車」だ。

災害対策レッカー車のフロント外観写真

災害対策レッカー車のリア外観写真

災害対策レッカー車は、被災地の道路をふさぐ被災車両や放置車両を移動し、円滑な交通を確保することが目的。車両荷台には通常のレッカー車とは異なり、独立したブームのダブルウインチを備えている

災害対策レッカー車の正面外観写真

災害対策レッカー車の真横外観写真

災害対策レッカー車の真後外観写真

被災地で活動するJAF特別支援隊とは?

2004年に発足したJAFロードサービス特別支援隊の隊員には、技術力や運転操作技量、忍耐力、協調性に優れ、かつ豊富な経験が求められる。そのため、全国のロードサービス隊の中から隊員を選抜し、特別支援隊員として任命。警察や消防、自衛隊などと連携した本番さながらの訓練を行っている。2011年3月11日に発生した東日本大震災の際にも、発生からわずか5日後の3月16日に、中部本部、関西本部、東北本部、秋田・山形支部の隊員24名を選抜して特別支援隊を編成、被災地で活動するための装備を整え、被害の大きかった宮城県と岩手県の被災地を中心に救援活動を行った。2024年1月1日に発生した能登半島地震では3か月間にわたって救援活動を行った。

被災地で作業を行うJAF特別支援隊の様子

被災地で被災車両の撤去作業を行う特別支援隊員。写真は2019年に発生した東日本豪雨での作業の様子

災害支援車両はダブルウインチや電動ウインチを装備!

そんな特別支援隊が使用する災害救援車両の荷台には、通常のレッカー作業で使うレッカーブームのほかに、ダブルウインチのレッカー装置も装備されており、このレッカー装置を使用して、横倒しになった車両の引き起こしなどを行う。被災地の過酷な環境での作業に対応するため、フロント部にも電動ウインチを1基備えている。

災害対策レッカー車の装備と特徴

災害対策レッカー車は通常のレッカー装置のほかにダブルウインチも備えている

災害対策レッカー車は通常のレッカー装置のほかにダブルウインチも備えている

ウインチも備えるため操作レバーは通常のレッカー車よりも多い

ウインチも備えるため操作レバーは通常のレッカー車よりも多い

レッカー装置の先にある2本のウインチを使って、横倒した車両の引き起こしなどを行う

レッカー装置の先にある2本のウインチを使って、横倒した車両の引き起こしなどを行う

フロントバンパー部には電動ウインチを1基備えている

フロントバンパー部には電動ウインチを1基備えている

荷台左右の格納ボックスには消火器をはじめさまざまな装備を搭載

荷台左右の格納ボックスには消火器をはじめさまざまな装備を搭載

通常のレッカー作業や基本的な救援のための資機材も一式備えている

通常のレッカー作業や基本的な救援のための資機材も一式備えている

被災車両であっても細心の注意を払って慎重に作業

では、横転した被災車を引き起こす作業の流れをご紹介しよう。まずは、安全確保のためのパイロンを設置する。災害現場では多くの人が復旧作業していることが多いため、万が一にも通行人や隊員がけがをすることがないよう、作業する車両周辺のスペースを確保する必要がある。次に、災害対策レッカー車を横転した被災車に対して直角になるように近づけて止める。斜めに止めてしまうと車両を引き起こす力が均等にかからず、被災車が別の方向に倒れてしまう可能性があるためだ。

続いて、ダブルウインチで引っ張るために、作業に適したできるだけ頑丈な部分にベルトを2本通す。被災車を引き起こす際は、ダブルウインチで引っ張る方向や高さが重要となる。そのため被災車の特徴を確認し、どこにベルトを通せばよいかを隊員が的確に判断する。その後、ダブルウインチのワイヤーに均等にテンションをかけ、引き起こし作業に入る。

ワイヤーは前後均等に引っ張るだけでなく、被災車の重心を見定めながら引っ張ることが大切だ。車両によって重心の位置が微妙に異なるため、支点になっている(下側の)タイヤが滑らないように、引っ張る方向や角度を微妙に調整し、4輪が接地する最後まで注意深く作業する。

横転した被災車の引き起こし作業

安全確保のためのパイロンを設置、泥でぬかるんだ道での作業では特に重要

1.安全確保のためのパイロンを設置、泥でぬかるんだ道での作業では特に重要

横倒しになったクルマに対して直角になるよう、災害対策レッカー車を止める

2.横倒しになったクルマに対して直角になるよう、災害対策レッカー車を止める

作業に適した頑丈な部分を見極め、被災車に2本のベルトを通す

3.作業に適した頑丈な部分を見極め、被災車に2本のベルトを通す

引き起こす方向や角度を考えウインチワイヤーを接続しテンションをかける

4.引き起こす方向や角度を考えウインチワイヤーを接続しテンションをかける

被災車の重心を判断して下側のタイヤが滑らないよう引き起こしていく

5.被災車の重心を判断して下側のタイヤが滑らないよう引き起こしていく

被災車のダメージが増えないよう4輪が接地するまで注意深く下ろす

6.被災車のダメージが増えないよう4輪が接地するまで注意深く下ろす

災害対策レッカー車の詳細はこちらの動画をチェック!

自然災害によるトラブルや救援も、JAFにご連絡を!

JAF神奈川支部 神奈川西ロードサービス隊 緑基地の平戸翔二郎 隊員

JAF神奈川支部 神奈川西ロードサービス隊 緑基地の平戸翔二郎 隊員

今回取材させていただいた平戸隊員は、2023年に愛知県豊川市で発生した豪雨による被災地で特別支援隊のメンバーとして活動した経験を持つ。「いつ発生するかわからない災害に備えて、日頃から技術を磨いています。災害時にJAFで何かお手伝いできることがありましたら、連絡をお願いします」とのこと。日々の厳しい訓練の効果もあり、安全かつ速やかに進む救援作業は、見ていて安心できた。

次回は11月9日公開予定。
特別編としてJAFの創業当初から活躍した歴代サービスカーを紹介します!

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