文・イラスト=伊藤 梓

ペダル感覚が鋭敏になって踏み間違い防止にも! ドライビングシューズのすすめ

運転の向上は足元から! カジュアルやビジネスでも使える便利さも魅力
伊藤 梓

皆さんはふだん運転するとき、どんな靴を履いていますか? さすがに「厚底サンダル」「ハイヒール」という人はいないと思いますが、消去法でなんとなく普段履きのスニーカーや通勤と同じ革靴などで運転している人が多いのではないでしょうか。 サッカーや野球、ゴルフなどのスポーツに、それぞれ最適な専用シューズがあるように、ドライブにも「クルマの運転のしやすさ」を考えて作られたシューズがあります。 本記事では、自動車ライターの伊藤梓さんが、運転に適した靴「ドライビングシューズ」の特徴と機能を解説します。

目次

ドライビングシューズは「運転のしやすさ」を考えた靴

ドライビングシューズの着用例

ドライビングシューズの着用例。編集スタッフが実際に運転してみたところ、ふだん運転の際に履いているスニーカーと比較して、ペダルの踏み込み度合いが足裏にしっかりと伝わり、細やかな速度調整ができた。また、自分のかかとの位置がどこにあるか把握しやすく、ペダルの踏み替えもスムーズに行える。いつも履いている靴よりも幅がかなり細めなので、自分の足がしっかりとペダルの上にあることが感覚的にわかった。

ドライビングシューズとは「クルマの運転のしやすさ」を考えて作られた靴のことです。
一般的なドライビングシューズは、ペダルを踏み込む感覚をより鮮明にするために靴底(ソール)が薄く、ペダルを踏み替えやすくするために、靴の幅が少し狭く、かかとには丸みがある仕様になっています。
運転しやすい靴というと、「よほどクルマが好きな人たちのための靴なのかな?」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
ドライビングシューズを履くと、より安心して心地よく運転できるようになりますし、おしゃれなデザインのものも増えています。
クルマ好きな人だけではなく、運転が苦手という人にこそ、ぜひ試してもらえればと思います。

靴底やかかとに秘密が! ドライビングシューズと他のシューズとの違い

それでは、ドライビングシューズは、他のシューズとはどんなふうに違うのか、細かく見ていきましょう。

ドライブに適した靴の特徴イラスト

ソール

ドライビングシューズのソールの写真

ドライビングシューズのソールの写真(例)

ドライビングシューズのソールの写真

ドライビングシューズのソールの写真(例)

まず、靴底となるソールは、フラットで薄めです。底面が平らになっているのは、ペダルを正確にしっかりと踏むため。また、アクセルやブレーキを踏むときの力加減をドライバーがきちんと感じてコントロールしやすくするために、ソールはスニーカーなどと比べてかなり薄く作られています。
また、ペダルを踏んだときに滑らないように底がゴム素材になっていることも特徴です。
「スニーカーなら運転しやすいだろう」と思うかもしれませんが、実はスニーカーの種類によっては注意が必要です。たとえば、靴底がデコボコしているようなスニーカーだと、ペダルを踏み替える際に引っかかってしまうこともあるので、「よくあるスニーカーだから大丈夫」などと過信しないことが大切です。
持っているスニーカーのソールが厚すぎないか、靴底がデコボコしているデザインになっていないか、運転する前に一度確認してみましょう。

ヒール

ドライビングシューズのヒールの写真

ドライビングシューズのヒール部分の写真(例)

ドライビングシューズのヒールの写真

ドライビングシューズのヒール部分の写真(例)

ドライビングシューズは、ヒールがないものがほとんどです。教習所などでも注意されると思いますが、ヒールの高い靴や厚底の靴、サンダルで運転するのは絶対にNGです!
ペダルを踏むときには、基本的にかかとを床に着け、そこを支点にしてペダルの踏み替えをします。ヒールの高い靴や厚底の靴を履いていると、かかとの支点が定まらずペダルの踏み替えがしにくいばかりか、かかとが滑ってペダルの下に潜り込んでしまうことも。ペダルの裏に靴が挟まってしまうと、アクセルもブレーキも正常に踏めない状態になってしまうので、絶対にやめましょう。
また、サンダルはかかとを締められず脱げやすかったり、横幅が大きかったりして、ペダルの踏み間違いにもつながります。さらに、素材が柔らかいものはペダルの間に挟まるおそれもあるので、そうしたサンダルも絶対にNGです。

アッパー

ドライビングシューズのアッパーの写真

ドライビングシューズのアッパーの写真(例)

ドライビングシューズとスニーカー(右)のアッパーの比較写真(例)

ドライビングシューズとスニーカー(右)のアッパーの比較例

ペダルの踏み替えがしやすいように、ドライビングシューズのアッパーの幅(足幅)は狭くなっています。
クルマによってペダルの大きさや間隔などに差が出てくるので、レンタカーや家のクルマなど、さまざまなクルマに乗る機会がある場合は、ご自身の足の形に合う範囲で、踏み替えの際になるべく邪魔にならない細めのアッパーのものを選ぶと安心です。

また、現代の自動車ではなかなかないかもしれませんが、クラシックカーや年式の古いスポーツカーなどは、トランスミッションが高熱になることもあるので、肌の露出するサンダルや、女性であればパンプスも控えたほうがいいと思います。

ドライビングシューズを履けば、こんなドライブシーンで差が出る!

では、実際にドライビングシューズを履くと、どんなシーンで違いが感じられるのでしょうか?
まず、通勤や買い物など、市街地を走行するシーンでは、信号などでのストップアンドゴーが多く、アクセルとブレーキのペダルを頻繁に踏み替えなければなりません。
ドライビングシューズは、かかとの形状が丸く、靴幅が細身なこともあって、ペダルの踏み替えがとても楽なのです。こういった日常的なシーンでも、実はドライビングシューズが役に立つのです。

また、高速道路での長距離移動や渋滞の際には、足の疲労が軽減される効果もあります。長い距離を運転したり、ペダルの踏み替えを頻繁にしたりしていると、すねの筋肉やかかとが痛くなってくることもあります。
その点、ドライビングシューズは、かかとにサポートが付いており、丸みを帯びているものが多いので、かかとをずっと床に着けて踏み替えをしていても、かかとが痛くなりにくくなっています。
ドライビングシューズによっては、すねの筋肉の動きをサポートするものもあるので、長距離運転で足に疲れが出やすいという人は、よりサポート力が強いドライビングシューズを選んでみてもいいかもしれません。

ドライビングシューズが役立つ運転シーンのイラスト

景色のいいところへ出かけて、山岳スカイラインや峠道を走るようなときにも、ドライビングシューズが実力を発揮します。
ソールがフラットで薄く、ペダルを踏んだ時にどれくらい加速するのか、どれくらい減速するのか、力加減が足裏から正確に伝わって来やすいので、安心して運転することができます。
スポーツカーやマニュアル車では、サーキットでスポーツ走行するときなどに、素早いペダルの踏み替えや、ブレーキを踏みながらアクセルをあおってシフトダウンする、ヒールアンドトゥもよりスムーズにできるので、ドライビングテクニックを楽しみたい人にももちろんおすすめです。

ドライビングシューズは運転以外にも使える? どこで購入できる?

ドライビングシューズは、運転をすることに特化していて、運転以外のシーンには向いていないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
下記で説明するように、ドライビングシューズにもさまざまな種類が増えているので、カジュアルやビジネスなど生活のシーンに合わせて使い分けることもおすすめです。
また、ビーチサンダルやヒールの高い靴など、運転に適さない靴を履きたいときにも、車内でドライビングシューズに履き替えて、運転のときだけ使用することもできます。

「ドライビングシューズはどこで購入すればいいの?」という質問もあるかと思いますが、現状ではドライビングシューズを実店舗で取り扱っているところは限られているので、ネットでの購入が便利です。
オンラインショップでも試し履きができるサービスもあるので、それを利用するとより自分に合ったドライビングシューズを選ぶことができると思います。
また、自動車関連のイベントなどでも、さまざまなメーカーのドライビングシューズを試着できることがあるので、イベントを楽しみつつ、ドライビングシューズ選びをするのもいいかもしれません。

運転以外にも使えるドライビングシューズの着用イラスト

カジュアル

ドライビングシューズは、細めのスニーカーのようなデザインのものもあるので、カジュアルなシーンでは問題なく使用することができます。
ただ、足にピッタリとフィットすることと、ソールが薄いため、長時間歩くのにはあまり適していません。
ドライブ先でたくさん歩いて観光する場合や、ジョギングやランニングなど、アクティブなレジャーなどを楽しみたい場合は、スニーカーや専用シューズに履き替えることをおすすめします。

ビジネス

ドライビングシューズは、見た目がスニーカーのようなカジュアル感だと思われがちですが、ビジネスシーンになじむシューズもあります。
おすすめなのは、スリッポンタイプやローファータイプのもの。素材にはスエードやスムースレザーが使用されており、素早く着脱できるところも便利です。
これらのタイプのドライビングシューズは、おしゃれなデザインとさまざまなカラーリングのほかに、女性用サイズも多いので、男女問わずドライビングシューズを楽しむことができます。

フォーマル

フォーマルな場に適したドライビングシューズの種類は多くありませんが、一見すると革靴のような見た目のシューズも用意されています。
アッパーは本革やスエードで仕立てられており、革靴同様に細身の靴ひもでしっかり結ぶことができます。
アウトソールは、滑りにくいゴム製になっていますが、外から見ても高級感あるデザインとなっているので、フォーマルな場でスーツなどと合わせても違和感なく着こなすことができると思います。

ドライビングシューズのお手入れはどうすればいい?

ドライビングシューズのお手入れ方法は、他のシューズと大きくは変わりません。
まずは、購入した後に防水スプレーをかけることで、雨での汚れなどを防ぐことができ、靴も長持ちします。
汚れてしまった場合は、本革やスエード素材のものは、水洗いすることができないので、まずはブラシで汚れを落とし、それでも汚れが取れない場合は専用のクリーナーを使って汚れを拭き取ります。
合皮などの素材であれば、水洗いすることができますが、洗剤などに長時間浸けてしまうと色落ちする可能性もあるので注意が必要です。
また、水洗いした際にはカビが発生しないようにしっかり乾燥させることが大切です。

スリッポンタイプのドライビングシューズは、素足で履く人も多いかもしれませんが、日本は湿気が多く、特に夏場は蒸れやすいので、薄手の靴下を履くことをおすすめします。
厚手の靴下だと、ペダルの感覚がつかみにくくなるだけでなく、革素材のドライビングシューズだとアッパー部分が伸びて、形崩れしてしまう場合もあるので注意しましょう。
また、ドライビングシューズはかかとの部分を押し付けることが多いので、かかとも摩耗します。靴底の減りだけでなく、かかと部分がすり減っていないか確認しましょう。かかと部分までメンテナンスしてくれるお店は多くはないので、あらかじめお店を調べて定期的にメンテナンスをすると、お気に入りのドライビングシューズを長く使うことができると思います。

運転も取材もバッチリ! 伊藤梓さん愛用のドライビングシューズを紹介

私自身も愛用しているドライビングシューズがあります。それは、ミズノの「ベアクラッチ」です。
もともと、ミズノとマツダが「運転に最適なドライビングシューズを作りたい」と共同開発したドライビングシューズがあり、ベアクラッチは、その技術を受け継ぎながら、より求めやすい価格で気軽に履くことのできるシューズとなっています。
このドライビングシューズの開発の中心となったマツダのエンジニアは、マツダ社内でも開発ドライバーとしてトップレベルの技術を持った方で、ベアクラッチは、マツダの運転のスペシャリストとミズノの靴づくりのプロフェッショナルが妥協なく作り込んだシューズとなっています。

伊藤梓さん愛用のドライビングシューズ

伊藤梓さん愛用のドライビングシューズ

伊藤梓さん愛用のドライビングシューズ

私が特に気に入っているのは、運転のしやすさと普段使いのしやすさです。
私は、仕事で運転するだけではなく、現地に着いたら取材で長い距離を歩くこともしばしば。通常のドライビングシューズだとソールが薄いものも多いので、歩き回ると足が痛くなることもあります。
しかし、ベアクラッチはペダルの感覚をきちんと捉えることができつつ、歩いても足が痛くなりにくい特別なソールを使用しているので、運転だけでなく歩くのにも適しています。
シューズのデザインもスタイリッシュなので、カジュアルな日常でのおでかけやちょっとしたビジネスシーンにも合うのも魅力的なポイントです。

伊藤 梓

いとう・あずさ クルマ好きが高じて、2014年にグラフィックデザイナーから自動車雑誌「カーグラフィック」の編集者へと転身。より幅広くクルマの魅力を伝えるため、2018年に独立してフリーランスに。現在は、自動車ライターのほか、イラストレーターとしても活動中。ラジオパーソナリティを務めた経験を生かし、自動車関連の動画やイベントなどにも出演している。若い世代やクルマに興味がない方にも魅力を伝えられるような発信を心がけている。

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