特集

視力は良いのに夜見えにくい! 運転に影響を及ぼす「夜間視力」とは?

知っておきたい、加齢とともに低下する夜間視力の原因と対策

栗原大智
2023.11.29

文=栗原大智(眼科医)

2023.11.29

文=栗原大智(眼科医)

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

夜間視力とは、暗いところで物を見る力を数値化したもので、通常の視力検査の結果よりも低下する場合があります。夜間視力検査は現在、免許更新時の高齢者講習にも導入されており、夜間視力の低下による運転への影響にも注意が必要となります。本記事では“ドクターK”こと眼科医の栗原大智氏が、夜間視力の低下を引き起こす原因や運転中に注意すべきポイントなどについて解説します。

夜間視力とは「暗いところで物を見る力」

視力検査では十分な視力が出ていて、昼間に車を運転する際は問題なく運転できると思っていても、夜は見えづらくて運転しづらい方もいるでしょう。

人間の目の中には網膜と言って、カメラのフィルムに当たる部位があります。この網膜にある細胞(視細胞)に光が届くと、その情報が脳に届きます。

視細胞には2種類あり、明るい場所で主に働く錐体(すいたい)細胞と、暗い場所で主に働く桿体(かんたい)細胞とがあります。

夜間視力に重要な役割を果たす「桿体細胞」

暗い場所での視力である夜間視力では、桿体細胞が重要な役割を果たしています。桿体細胞は少ない光の量でも物を見る力がありますが、色を見分けるのは困難です。

この桿体細胞が十分に機能していると、暗い場所でも色は鮮やかではありませんが、ある程度の物を見ることができます。

夜間視力は加齢によって低下する

夜間運転のイメージ

夜間視力は暗い場所での視力ですが、この夜間視力は年齢とともに下がってきます。夜間視力に重要である桿体細胞など、視細胞は年齢とともに数が減っていきます。そのため、夜間視力は年齢とともに少しずつ落ちていきます。

夜間視力には「暗順応」と「散瞳」も影響

その他にも、夜間視力には暗順応(あんじゅんのう)と散瞳(さんどう)が影響します。この2つがうまく機能していないと、この夜間視力は十分に機能しません。

暗順応とは

明るい場所から暗い場所に移動した際、物が見えるようになるまでには少し時間がかかります。この現象を暗順応と言い、暗順応するまでにかかる時間には個人差があります。多くの場合は瞬時に切り替わりますが、高齢になればなるほど時間がかかるとされています。

散瞳とは

散瞳の解説イラスト

目には、目の中に入る光の量を調整する瞳孔があり、瞳孔が開いた状態を散瞳と言います。暗い場所では光の量が不十分なため、光を十分に取り入れるために散瞳しています。一方で、明るい場所では光が多いため、瞳孔が閉じている縮瞳(しゅくどう)の状態になります。

この瞳孔の開け閉めは筋肉で行いますが、これも年齢とともに動きやすさが変化します。特に高齢になると、瞳孔が閉じていることも多く、暗い場所でも光が入りにくくなることがあります。

このように、夜間視力には暗順応と散瞳という反応が重要になります。暗順応ができていなかったり、散瞳しなかったりすると夜間視力が出づらくなることがあります。

夜間視力が運転に影響する場面とは

では、実際に夜間視力はどのような場面で影響するでしょうか。私(栗原)は夜間視力が影響する場面は大きく3つあると考えます。

夜間トンネルから出るとき

トンネル走行のイメージ

夜間のトンネルはある程度の明るさがありますが、トンネルの外には街灯のない、あっても暗い場所もあります。その際は夜間視力が重要ですが、夜間視力が十分でないと見えるようになるまでに時間がかかってしまうため危険です。

対向車のライトを浴びたとき

対向車のライト

対向車のライトはまぶしいだけでなく、ライトを浴びた後は暗順応と散瞳状態になります。これは夜間にトンネルの中から外に出たときと同じで、見えるようになるために少し時間がかかります。そのため、ライトを見た後も夜間視力が低下し危険です。

道路照明に変化があるとき

暗い夜道のイメージ

たとえば、明るい幹線道路や商店が立ち並ぶ商業地沿いの道路から、街灯の暗い生活道路へ入ったときなどに、歩行者や自転車を見つけるのが難しくなります。

特に、これら3つの状況では、夜間視力が影響するため、何らかの対策が必要となるでしょう。

【参考】高齢者講習における夜間視力検査

免許更新時に70歳以上の方が受講する高齢者講習では、2つの夜間視力検査が行われます。

  • 視力の回復時間
    光を30秒間直視した後、暗闇の状態でランドルト環(通常の視力検査のマーク)の空いた方向を回答し、それに要した時間を測る。
  • 眩光下(げんこうか)視力
    対向車のライトを模した2か所からの光を浴びた状態で、ランドルト環の空いた方向を答えていく。

運転時の夜間視力低下にはカラーレンズやサングラスが有効

運転時に夜間視力の低下を感じている方もいると思います。そこで、対策方法を2つ紹介します。

イエロー系のカラーレンズのメガネを使う

メガネは色付きのカラーレンズで、色はイエロー系などをオススメしています。理由としては、対向車のライトはブルー系の光を使っており、イエロー系のメガネはそれを軽減することができるからです。

また、度付きのカラーレンズなら、普通のメガネと同じように使うことも可能です。

夜間運転に対応したサングラスを使う

サングラスは太陽の光から目を守ることもできますが、対向車のライト対策にも使えます。日中にサングラスをしていれば、それをそのまま夜用としても使うことが可能です。

ただし、サングラスは全体的な見え方も損ねてしまい、運転には向いていない場合もあります。実際、JIS(日本産業規格)では、視感透過率(可視光線透過率)75%未満のレンズは夜間運転用としての使用が禁止されています。

日頃からビタミンAを豊富に含む野菜やサプリメントを摂ることも重要

眼鏡以外にも、日頃の食生活から目に良い栄養を与えることも重要です。特に、ビタミンAは視覚にとって重要であり、その不足は夜間視力に影響することがあります。

ビタミンAはレバーや、ニンジン・モロヘイヤなどの緑黄色野菜に多く含まれています。夜間視力の低下を感じている場合は、それらの食材を使った料理を取り入れたり、サプリメントを摂ったりするのがよいでしょう。

しかし、本当にビタミンAが不足しているかどうかは採血検査を行わないとわかりません。むしろ、ビタミンAが過剰になる過剰症になってしまうことがあります。まずは眼科を受診していただき、必要であればビタミンAを摂るようにしましょう。

夜間に見えにくさを感じたら眼科の受診を

夜間視力の低下は、運転に大きな影響を与えます。色付きメガネやサングラスなど、夜間視力の低下を防ぐ対策はいくつかあります。

しかし、これらの対策をしても改善しない場合も少なくありません。なかには目の病気が影響している場合もあるため、「夜に見えづらい」「対向車のライトがまぶしい」などの症状があれば、眼科を受診してください。治療可能な目の病気が見つかるかもしれません。

安全で快適な運転に重要な視力を保つために、この記事が皆さんのお役に立てたら幸いです。

夜間視力の低下は病気が原因の場合も

夜間視力は年齢とともに下がってきますが、なかには病気が原因で夜間視力が下がってしまうことがあります。

白内障

白内障は加齢が原因で起こる目の病気で、80歳を超えると全員に起こるとされています。白内障があると、目の中に入る光の量が減ってしまうため、通常の視力はもちろん、夜間視力も下がってしまいます。

また、夜間は散瞳状態になってしまうため、白内障の症状が強く出やすくなります。そのため、対向車のライトがまぶしいなどの症状が強く出る場合があります。

網膜の病気(加齢黄斑変性など)

網膜には桿体細胞が多く存在しますが、これら細胞が障害されると、夜間視力が出づらくなります。加齢に伴うもの(加齢黄斑変性など)や、糖尿病に伴うもの(糖尿病網膜症)などがあります。

これらの病気では夜間視力の低下以外にも、物がゆがんで見えたり、中心部が暗くなるといった症状が見られます。

ビタミンA欠乏症

ビタミンAは視力に重要なビタミンです。これが不足するビタミンA欠乏症では、夜間など光が十分でないと物が見えない状態(夜盲症)になります。

夜盲症は暗い場所にいても暗順応をしないため、時間とともに見えやすくなることがありません。

夜間視力が下がった場合、年齢に伴う変化が原因となることもありますが、なかには上記3つのような病気が隠れていることもあります。しかし、これらの病気は治療可能なケースも多いです。

「暗い場所で物が見えづらくなったのは年のせい」と思うのではなく、まずは眼科を受診して治療が必要な病気がないかを調べることが望ましいです。

栗原大智

くりはら・だいち 2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍ら“ドクターK”としてライター活動もしており、m3.com、日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of Vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。

この記事のキーワード
この記事をシェア

この記事はいかがでしたか?

関連する記事Related Articles