対向車に道を譲られて右折する車と、対向車の陰から進む二輪車によるサンキュー事故のイメージ
イラスト=テクノカットスタジオ

対向車が譲ってくれたのに衝突の危機!? 専門家が注意を促す「サンキュー事故」の死角と安全確認【事故鑑定人が解説】

対向車の陰に潜む、すり抜けバイク。衝突を防ぐためにはどうしたらいい? 【本当にあったヒヤリハット】
熊谷宗徳

運転中、対向車から道を譲られた際に「早めに通過しよう」と思ったことはありませんか? 「今のうち」と思って右折したそのとき、対向車の陰から二輪車や自転車が飛び出してくるかもしれません。

今回は、対向車に道を譲られた右折車が、その陰から直進してきた二輪車等と衝突する、いわゆる「サンキュー事故」のヒヤリハット事例をご紹介。重大な事故にも発展する恐れがある「サンキュー事故」の危険と対処法を、元警察官の交通事故鑑定人・熊谷宗徳さんが解説します。

目次

譲られたから右折しようとしたら…
対向車線から滑り込んできた「見えない原付」

岐阜県在住の50歳代男性の体験です。

「信号のない十字路交差点で、右折するために待機していたときのことです。対向車線は渋滞していましたが、一台の対向車が停車し、ドライバーが手振りで『お先にどうぞ』と道を譲ってくれました。感謝しながら右折を開始したその瞬間、対向車の陰からすり抜けてきた原動機付自転車(原付)が、私のクルマの左サイドに向かって突っ込んできたのです。

突っ込んでくる原付が見えた瞬間は、心臓が飛び出しそうになるほど驚きました。幸い『もしかしたら原付や自転車が脇を抜けてくるかもしれない』という思いが頭の片隅にあり、徐行でゆっくり進んでいたため、相手が私のクルマの左前輪に軽く接触した程度でストップ。双方ともにケガはなく、車両の損傷も免れました。


相手の無事が確認できた瞬間は緊張が一気に解け、全身の力が抜けていくのを感じました」

「善意の譲り」に潜む落とし穴
最悪の事態を想定することの重要性

ドライバーは当時をこう振り返ります。
「対向車が譲ってくれた善意はありがたいものでしたが、それに甘えて安心しきってしまうことの危険性を痛感しました。たとえ譲ってもらった場面であっても、常に『死角からバイクや自転車が飛び出してくるかもしれない』と最悪の事態を想定し、慎重に確認しながら進むことが不可欠だと再認識しました」

対向車の陰からすり抜ける直進の原付

対向車の陰からすり抜ける直進の原付

事故鑑定人の見解
徐行であっても防ぎ切れない死角からの飛び出し

こうした事案を避けるためには、どのような心構えが必要だったのでしょうか。
交通事故鑑定人の熊谷氏に伺いました。

「ドライバーが危険を認知してからブレーキを踏み、実際にブレーキが利き始めるまでの『空走時間』は、一般的に0.7~0.8秒だと言われています。それから、その時の走行速度による、停止するまでの時間と距離が加算されます。

速度が時速20kmであれば、危険に気づいてからブレーキを踏み、停止するまでに約1.5秒かかり、約6.3m進んでしまいます。時速10kmで走っていても、危険を感じて制動をかけてから停止するまで、約1.1秒かかり、距離は約2.6mも進みます。

片側1車線道路であれば、片側車道の平均幅が約3mですので、時速10kmで右折し、危険を感じてブレーキをかけたとしても、衝突を回避できない可能性があります。

今回の事案は、対向の原付がこちらの左前輪に接触する程度でした。つまり投稿者の徐行に加え、幸いにも原付側の速度も停止直前程度まで減速していたと考えられます。もし原付の速度が高いままだった場合、左前輪への接触に留まらず、原付の運転者がボンネットに乗り上げる重大な事故に発展していたかもしれません」

それでも問われる右折側の過失
対策法は死角解消までごく低速で

死角が解消するまでごく低速で進行する

死角が解消するまでごく低速で進行する

「道路交通法には、交差点では直進車が優先であり、右折車は対向直進車の進行を妨害してはならないという規定があります。これは、車両の渋滞中に進路を譲られて右折した場合の『サンキュー事故』でも適用されます。

また、過去の事例では、交通整理の行われていない交差点で右折車両と直進バイクが出会い頭に衝突した場合、その過失の割合は右折車両側に多いとされています。

道路を右折するとき、対向車が停止して道を譲ってくれると、『迷惑をかけないように早く右折したい』という思いが先行してしまいます。しかし、進路を譲ってくれた対向車両等の死角に、すり抜けの二輪車や電動キックボード、自転車などが潜んでいる危険性があります。

交差点内に死角がある場合は、その死角が解消される位置までは、ブレーキに足を乗せながらクリープ現象程度の速度で進み、安全確認を徹底する必要があります。譲ってもらった場合でも、停止した車両の陰から自転車やバイクが飛び出してくるかもしれない、という警戒感を持つことが重要です」

「サンキュー事故」には死亡例も
クルマだけでなくバイク側が気を付けたいこと

「バイクのすり抜けは、交差点での右直事故だけでなく、ドア開放事故や左折車の巻き込み事故にも直結します。いずれもバイク側の過失は低いケースが多いですが、その事故で命を落とす危険性が高いのはバイク側です。

バイクのすり抜けは『グレーゾーン』と言われています。道路交通法では、車両は、進路変更を伴って前を走る車両の前方に出る『追い越し』をする際、その車両の右側を走行して前方に出なければならないと定められています(道路交通法第28条第1項)。一方で、進路変更を伴わず前方車両の前に出る『追い抜き』に関しては、道路交通法に明確な規定がありません。

直ちに違反にならなくても、バイクのすり抜けは非常に危険な行為です。バイクも車両である以上、車両が渋滞しているときもすり抜けせずに、基本は前方車両の後方で、車道の左側を通行しましょう」

  • ※この企画で紹介しているのは熊谷宗徳さんの見解です。JAFの見解とは異なる場合があります。

熊谷宗徳

くまがい・むねのり 元千葉県警の交通事故捜査官で、現在は交通事故鑑定人として活躍している。1993年に市川警察署に配属され、交番勤務を経て交通課事故捜査係などに所属。1999年には巡査部長に昇任し、千葉県警第二機動隊水難救助隊にも所属した経験を持つ。現在は交通事故調査解析事務所の代表を務め、交通事故鑑定や事故現場の調査、ドライブレコーダー映像の解析などを行っている。また、テレビのニュース番組でのコメンテーターや、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターとしても活動している。

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