迷える方向音痴な方へ。「傾向と対策」をアドバイス!
方向音痴ってどんなこと? 道に迷わない方法は? 知りたい疑問にお答えします。地図を見ても目的地に辿り着けない。気がつけば「ここはどこ?」と迷子。 そのようなケースが度重なるようなら、あなたは「方向音痴」かもしれません。 専門家のお話とJAF Mate誌の読者アンケートから、 「傾向と対策」について考えてみました。
※JAF Mate 2022年2・3月号「方向音痴のギモン」を再構成して掲載しています。
私って方向音痴? まずは方向感覚テストにトライ!
そもそも、方向音痴とは何なのだろうか? 専門家の石川徹教授にお話を伺った。
「頭の中に二次元的な地図のようなもの(認知地図)が描けて、自分が今どこにいてどっちを向いているかわかる人は方向感覚がいい人、それがわからない人は方向感覚が悪い人、つまり方向音痴といえます。方向音痴の人は、たとえば『ここをまっすぐ行って、3つ目の交差点でコンビニの角を左に曲がってください』と前後左右で指示されれば迷わないのに、『ここから見て南東の方角を指してください』と言われると、指せないことが多いです」
方向音痴になる要因はどこにあるのだろうか?
「先天的な部分も、後天的・経験的な部分もあります。それぞれの程度の境目は行動実験や調査からは調べにくく、遺伝するかどうかもはっきりわかっていませんが、幼少期の経験は方向感覚に関係がありそうです。大事な点は、頭の中の地図の正確さには大きな個人差があるということです」
自分が方向音痴かどうかを知りたい人は、ぜひ次の方向感覚テストに挑戦してほしい。得点が高いほど方向感覚がいいということになり、テストの結果は、実際の方向感覚と高い相関があるという。
【出典】Mary Hegarty et al., 2002, Development of a self-report measure of environmental spatial ability, Intelligence, 30, 425–447, Elsevier (Appendix B, pp. 445–446, 日本語訳: 石川 徹)
実験! 認知地図、正しく描ける?
方向感覚テストの得点が高い人は正しく認知地図(頭の中の地図)が描けるのか、実験を行った。
まず、約40名を対象に方向感覚テストを実施。その得点が特に高い2名と低い2名を全員土地勘のない街に集め、この後地図を描くことは告げずに、先導者の案内のもとスタートからゴールまで歩いた。ゴール地点で紙を配り、歩いたルートを描いてもらった結果、得点が高い人ほど地図を正確に描くことができ、テストの結果と方向感覚の良し悪しに相関性があることが実際に示された。
差が顕著だったのは次の2名。インタビューの結果、今回の実験だけでなく、普段の移動時の意識や行動にも違いがあることがわかった。
方向音痴と性別は関係している?
若い世代ほど方向音痴?
「一般的な傾向を言うと、男性の方が二次元的に空間を捉えて認知地図を描くスキルは高いですが、あくまでも平均値なので、特定の男女を比べたら男性よりも女性の方が空間能力に優れている、ということは当然あります。また、自分の方向感覚を自己判断したときに、男性のほうが自己評価が平均的に高いというデータもあります」(石川教授)
さらに、アンケートの回答を年代別に見ると、若い世代ほど、自分のことを方向音痴だと思っている割合が高いという結果が出た。
「ナビアプリやカーナビの使用経験の多さと関係している可能性もあります。ナビ機能を使い『次の角を右折です』のように前後左右で考えることに慣れてしまうと、二次元的に考える習慣がなくなり空間認識が低下します。ナビの指示に受動的に従うことを続けると、長期的に見ればいずれ人間の方向感覚がなくなる恐れも指摘されています」(石川教授)
※JAF Mate 2021年10月号アンケート結果(Webのみ)
道に迷わないための対策は?
果たして、方向音痴を治すことはできるのだろうか? 石川教授によれば、有効なトレーニング法はまだ確立されていないという。
では、どんな対策をすれば道に迷いにくくなるのか? 読者アンケートによると、方向感覚がいい人は、「太陽の位置を確かめる」「目印になる建物などを覚える」「事前にネットや本などで行き方を調べておく」といった対策を比較的多くとっているようだ。実は自分も方向音痴だという石川教授も、目印を覚えることを普段から実践しているという。
「曲がり角などのポイントにあるランドマークと曲がる順番を常に覚えるよう注意を払っています。帰りはその逆を行けば帰れます。この〈ルート的〉な覚え方は、方向音痴の人も不得意ではないはずなので、意識してみてください」
とはいえ、ナビアプリやカーナビに頼ってしまうという読者もかなり多かった。
「本当に方向音痴で困っている人は、使うと絶対に楽ですよね。ナビツールが便利で有効なことは言うまでもありません。ただ、GPSは電波状況によって位置がずれることもありますから、信じすぎるのもよくないとは思います」
次の項では、方向音痴向けの防災術を紹介している。時には便利なツールも利用しながら、どんなときも方向音痴とうまく付き合っていきたいものだ。
※JAF Mate 2021年10月号アンケート結果(Webのみ)
万が一に備える、方向音痴の防災術
災害が頻発する昨今、交通マヒなどにより、自力での帰宅や移動を余儀なくされる場合もある。そんなとき、方向音痴は思わぬ危険を招くことも。災害時に必要なのは、サバイバル術ではなく備え。日頃迷いがちな方向音痴が、被災時に迷わずに済むための備えを紹介する。
1.「動かない!」が大前提
大規模災害では「帰宅難民」という言葉をよく聞くが、現在地が安全ならば、そこから動かないのが鉄則。外はガラスや看板など落下物の危険があるし、道路環境も悪くなるので、闇雲な移動・帰宅は絶対に避けたい。
とはいえ避難所への避難や、帰宅途中に被災した場合、被害は大きくないが交通機関が止まってしまった場合など、移動を強いられる場面もある。そんなとき、どの方向に進めば良いか判断できない「方向音痴」ほど、備えておくことが重要だ。
2.動かざるを得ないときに備えて、事前に準備しておく
「実際にやってみる」は一番の備えだ。自宅や会社から最寄りの避難場所、あるいは会社から自宅までの徒歩移動ルートを、スーツや防災リュックなど、想定される格好で歩いてみよう。目印を確認しつつルートを覚えれば、被災時の道しるべになる。
ただし大災害が起こると景色は一変する。小さな店舗や看板ではなく、動きにくい大きな建物や道路標識などが目印に最適だ。道路標識に出てくる自宅付近の大きな道路や地名も覚えておくと、進む方向のおおよその目安になるので確認しておこう。
3.スマホを上手に活用する
被災時のスマートフォンは心強い。ネットが不通でも、事前に地図データをダウンロードしておけば、GPSと連動させて、オフラインでも方向を確認できる(Googleマップ など一部アプリ)。その際、バッテリーを考えてWi-Fiとブルートゥースはオフに。緊急地震速報の受信に必要な携帯電波はオンのまま。
スマートフォンが使えないと紙の地図に頼ることになるが、方向音痴にとって、現在地の特定は至難の業。電柱や自動販売機にある住所表示が参考になる。
最後に、日頃の情報収集もスマートフォンで手軽にできる。「重ねるハザードマップ
」は洪水や土砂崩れなどのリスクをまとめて確認できるので、居住・通勤地域はもちろん、旅行先でも、万が一に備えて把握しておこう。
- ※「重ねるハザードマップ」は水防法に基づき市町村が作成した水害ハザードマップではありません。
石川徹
いしかわ・とおる 東洋大学情報連携学部教授。空間情報科学、認知行動地理学を専門とし、頭の中の地図やナビゲーションなど都市における空間認識の問題を研究している。
高荷智也
たかに・ともや 合同会社ソナエルワークス/備え・防災アドバイザー。「自分と家族が死なない防災」をテーマに講演・執筆・コンサルなどを実施。防災系YouTuberとしても活動中。