知れば参拝がもっと楽しくなる! 初詣ドライブで巡りたい、マニア厳選ユニーク狛犬6選
「アイーン」「こまったちゃん」から雨の伝説まで。愛すべき神獣たちの秘密を大公開年始、多くの人が愛車とともに向かう初詣や交通安全祈願。そんな境内の参道で、神域を守る「狛犬(こまいぬ)さん」の姿を、あなたは立ち止まってじっくり見たことがありますか?
実は、その姿や表情は神社によって驚くほどユニーク! まるで「アイーン」のポーズをしていたり、落語家が座布団の形に奉納していたり、なかには唸(うな)り雨を降らせた伝説を持つものまで存在します。
狛犬の魅力に迫った書籍『狛犬さんぽ』の著者である狛犬愛好家・ミノシマタカコさんが、長い歴史を持つ狛犬の中から、「伝統」「ビジュアル」「豆知識」の観点で選りすぐった個性派の6対をご紹介。愛車を停めて一歩踏み込めば、初詣ドライブが「マニアックで愛おしい」狛犬巡りの旅に変わります。次のドライブは、ぜひ彼らの秘密を覗きに行きませんか?
年末年始は、神社仏閣へ多く訪れるタイミング。新しい一年も、愛車と安全にドライブができますようにと、交通安全祈願に行かれる方も多いのではないでしょうか。
そんな神社には、参道に獅子・狛犬が座り、神域を守っていることがあります。しかし、その姿をじっくりと眺めたことがある方は、案外少ないかもしれません。
そもそも狛犬とは何でしょうか。正式名称は「獅子・狛犬」といい、平安時代の文献にはすでにその存在が記されています。現存する最古級の記録の一つに『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』があり、この4巻には次のような記述が見られます。
「左獅子於色黄口開 右胡摩犬於色白不開口在角」
これは「左の獅子は色が黄色で口を開け、右の狛犬は色が白で角があり口を閉じている」という意味です。古代から、神聖な獣を置いて魔除けとする考え方は、メソポタミア文明に見られたライオンやヒョウなどの猛獣、あるいは合成獣を起源としていると考えられています。
日本における歴史を見てみると、古墳時代には青銅鏡に「師子」「獅子」の文字が登場し、飛鳥時代の法隆寺金堂壁画にも獅子が描かれています。そして平安時代には木造の狛犬が登場。12世紀頃からは石造りの石獅子が現れ始め、鎌倉時代には現代につながる石の獅子狛犬が見られるようになりました。
そして、狛犬の制作が最も盛んになったのは、江戸時代中期以降です。
今回はそんな長い歴史を持つ狛犬の中から、私が特に「愛でたい」と感じている伝統、ビジュアル、豆知識の観点から選りすぐった6対をご紹介いたします。
東京都・目黒不動尊(瀧泉寺)
カクカクフォルムが愛おしい、最古級「江戸はじめ」型の元祖
日本三大不動のひとつである目黒不動尊には都内に残る最も古い石造りの狛犬を見ることができる
目黒不動尊(瀧泉寺=りゅうせんじ)は、日本三大不動のひとつで、関東最古の不動霊場としても有名です。こちらには、現存する都内で最も古い承応3(1654)年製の石造りの狛犬があります。
その後に登場する、肉感あふれる写実的な獅子・狛犬さんたちとは異なり、カクカクとしてどっしりとしたフォルムが特徴的。写実性からはほど遠いフォルムですよね。ただ、石造狛犬が登場する以前から存在している平安時代や鎌倉時代の木造狛犬をみてみると、古いものほど写実的なんです。一方、石造りはそうとは限りません。都内の古い狛犬さんたちを見ると、このような素朴なスタイルが多く見られます。愛好家のなかでは「江戸はじめ」と呼ばれている型です。
その後の時代には、台座部分に「誰が彫った」「いつ奉納した」という銘が刻まれるのですが、こちらは狛犬の胴体(体)に直接情報が彫り込まれています。これも古い時代の狛犬によく見られる特徴です。
もうひとつ「江戸はじめ」らしい特徴といえるのが、体に張り付いた尾。愛好家は「付き尾」などと呼びます。まだ体から尾を立体的に表現する技術がなかったのか、身体に張り付いた形で尾が表現されています。尾は、時代や地域によって大きな特徴が見られるポイントなので、ぜひ注目してみてくださいね。
そしてぜひお尻側にもまわってみてください。尻尾の付け根の下に割れ目があり、これがなんとも言えずかわいらしいのです。
車両祈願は護摩祈願がある日の16時~のみ、事前電話予約が必要。節分までは予約不可となっています。
●東京都・目黒不動尊(瀧泉寺)/東京都目黒区下目黒3ー20ー26
東急目黒線「不動前駅」より徒歩約15分
JR山手線、東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線、東急目黒線「目黒駅」より徒歩約20分。駐車場なし。周辺のコインパーキングをご利用ください。
カクカクとしてどっしりとしたフォルム。「江戸はじめ」と呼ばれている型に分類できます
狛犬の尾は時代や地域によって大きな特徴が見られるポイントです
千葉県・菊田神社
ユニークなポーズで親しまれている通称「アイーン狛犬」
台座にも菊が施され、神社の名前「菊田神社」を強く意識して作られたことが伝わってくる
千葉県習志野市にある菊田神社は、大己貴大神(おおなむちのおおかみ=大国主命) 藤原時平命を祀る神社。御神徳は、縁結び、厄難除、安産、商売繁盛 、家内安全と多岐にわたります。
こちらの神社には何対か狛犬さんがいらっしゃいますが、訪れたら絶対注目してほしいのが、「アイーン狛犬」として親しまれているユニークな狛犬さんです。前掛けの下にある手と前に突き出したアゴが、お笑い芸人・志村けんさんの「アイーン」のポーズを連想させるため、このような愛称で呼ばれています。神社もこの愛らしい狛犬さんを御朱印などのデザインなどに取り入れています。とくに以前購入した、赤い車に乗った交通安全祈願お守りステッカーはお気に入りすぎて、今も持ち歩いているほど。かわいいですよね。
この狛犬は天保9(1838)年に建立されたもの。変わったポーズだから、さぞかし珍しいデザインと思われそうですが、よく見ると尾が後ろに長く流れている「江戸尾流れ(えどおながれ)」と呼ばれる、江戸時代後期の代表的な型をベースにしています。先ほどの目黒不動尊とはまったく異なり、厚みがあり、非常に立体的に造られた尾が勢いよく後ろに流れています。
また、狛犬の体には毛卍紋(けまんもん)と呼ばれる模様が描かれることがあるのですが、こちらの狛犬さんの体をよく見てみると、お花の模様のように描かれています。台座にも菊が施され、神社の名前を強く意識して作られたことが伝わってきますよね。
円を薄く重ねたような前髪の表現や、大きめの耳など個性的なお顔立ちではありますが、よく見ると、細部まで丁寧に作り込まれているので、見応えもあります。奉納者や石工の遊び心が加わった、見ていて楽しくなる狛犬さんですよ。
●菊田神社/千葉県習志野市津田沼3-2-5
JR総武線
津田沼駅より徒歩約15分
京成電鉄京成線「京成津田沼駅」より徒歩約3分。駐車場あり。
前掛けの下にある手と前に突き出したアゴが、お笑いの「アイーン」のポーズ。細部まで丁寧に作り込まれて見応え充分
前掛けの下は御朱印で確認することとができる。神社もしっかりと狛犬をアピール
赤い車に乗った交通安全祈願お守りステッカーを購入して、今年の安全祈願を
群馬県・小幡八幡宮
アニメ的ポップさが魅力! 癒やしの「こまったちゃん」
愛好家の間で「こまったちゃん」という愛称で親しまれている。見る人に癒やしを与えてくれる狛犬
群馬県甘楽町(かんらまち)にある小幡(おばた)八幡宮は、織田宗家の守護神を祀る神社。このエリアは、織田信長の次男・信雄が初代藩主として治めた土地で、小幡八幡宮は2代目信良が計画をし、3代目信昌が建てました。社務所は土日祝日のみ開いているので、御朱印やお守りが欲しい方は注意してください。
こちらの狛犬さんは、昭和7(1932)年の建立。その表情がまるでちょっと困っているかのように見えることから、愛好家の間で「こまったちゃん」という愛称で呼ばれています。
最大のチャームポイントは、センター分けの前髪と、その下に覗くつぶらな瞳、そして困っているように見える表情。その愛らしい顔つきと、全体的に丸みを帯びたフォルムが魅力で、見る人に癒やしを与えてくれます。個人的に狛犬さんは、明治〜大正時代にかけて、江戸時代にはなかったモダンさが出てくると感じているのですが、大正時代〜昭和初期の狛犬さんには、アニメ文化に通じるようなポップさが感じられることが増えてくると感じています。まさにこの狛犬さんもそのパターン。
ベースは「江戸尾流れ」の型を継いでいますが、太ももにまとわりつくような尾の表現はユニーク。ボディから足にかけてのラインの造形に現代のアニメーションに登場するキャラクターのような愛らしさを感じます。石なのに、むにむにと柔らかそうな質感を想像させる造形なのです。かわいいのです。一度目にしたら、きっとキュンとすること、間違いなしですよ。
●小幡八幡宮/群馬県甘楽郡甘楽町小幡1
上信越自動車道 富岡ICから車で約10分。
駐車場あり。
「江戸尾流れ」の型を継いでいるが、太ももにまとわりつくような尾の表現はとてもユニーク
小幡八幡宮は、織田宗家の守護神を祀る神社。織田信長の次男・信雄と縁がある
東京都・綾瀬稲荷神社
故・三遊亭圓丈師匠が奉納した「落語狛犬」の粋な仕掛け
狛犬界のレジェンドでもある故・三遊亭圓丈(初代)が奉納をした「落語狛犬」
慶長19(1614)年に創建された綾瀬稲荷神社。明治時代は「五兵衛(ごへえ)神社」という名で、「五兵衛さま」とも呼ばれています。今の拝殿の奥にある本殿は、天保14(1843)年築造の総欅(けやき)造り。今も、地域の氏神様として慕われている神社さんです。
通常、お稲荷さん=おきつねさんが定番ですが、こちらにはおきつねさんの石像物以外に、落語家が奉納した「落語狛犬」さんがいます。1996年に「日本参道狛犬研究会」を立ち上げた狛犬界のレジェンドでもある、故・三遊亭圓丈師匠(初代)が奉納したものです。新作落語の分野で名高い噺家さんで、2026年春には弟子の三遊亭ふう丈さんが2代目円丈を襲名することが決まっています。
奉納されたのは、平成12(2000)年。狛犬さんのそばには小道具が一緒に置かれていたり、台座には文字を書いた5代目柳家小さん師匠のサインがあったりと、落語好きなら二倍楽しめる一対。この狛犬は一対で、落語の始まりと終わりを表現していると言われています。
よくよく姿を見てみると、狛犬さんが座っているのは、なんと座布団。通常、獅子狛犬は「阿吽」で対を成しますが、こちらは「え〜吽」なのだそう。そんなところも、落語らしい表現ですよね。そして、チェックしてもらいたいポイントである尾は扇子形。細部に至るまで江戸で活躍する(圓丈師匠自身は名古屋出身ですが……)噺家さんらしい、粋な表現が随所に見られます。落語好きなら、楽しめるポイントが盛りだくさんですよ。
●東京都・綾瀬稲荷神社/東京都足立区綾瀬4-9-9
東京メトロ千代田線・JR常磐線「綾瀬駅」から徒歩約2分。駐車場あり。
よくよく観察すると狛犬が座っているのは座布団、そして噺家の小道具が一緒に置かれている
狛犬の後ろにまわってみると尾は扇子形をしている。芸が細かくどこまでも落語ファンを楽しませてくれる
慶長19(1614)年に創建された綾瀬稲荷神社は今も、地域の氏神様として慕われている
東京都・新田神社
足利一族を遠ざける? 雨を降らし「唸る狛犬」の悲劇的な歴史
南朝復興のため活躍した武将、新田義興公を祀る神社。雨を降らす伝説も……
大田区武蔵新田に鎮座する新田(にった)神社は、破魔矢発祥の地としても知られます。創建は南北朝時代。南北朝時代に南朝復興のため活躍した武将、新田義興公を祀る神社です。義興公は足利方による謀略で、多摩川の矢口の渡にて壮絶な最期を遂げました。その後、義興公の怨霊が災いをもたらしたため、その御霊を鎮めるために『新田大明神』として祀られ、神社が創建されました。
この歴史が唸る狛犬にも関わってきます。この狛犬さんは、義興公を陥れた足利基氏の家臣である畠山家の一族の者や血縁者末裔が新田神社に近づくと、決まって雨が降って、狛犬が唸るという伝説が残っているのです。かつては阿吽で一対存在したそうですが、戦災で1体は壊れてしまったとのこと。残念ですね。
年代不明の狛犬さんではありますが、そんな伝説があるのなら、かなり古い時代からあるのか……と思いきや、少なくとも現存する狛犬さんは、それほど古くないものだと考えられています。理由は形。尾が垂れた江戸狛犬と呼ばれる形をしているのですが、この型は江戸時代後期以降に現れたスタイルです。
よく見ると、親獅子の足元には愛らしい子供獅子もいます。状態があまり良くないので、柵の中で大切に保管されているのも好印象。修繕の痕跡も多く見られ、この狛犬さんが地域の方々から大切に守られてきたことが伝わってきます。その歴史と伝説に思いを馳せながら、そっと見学したい狛犬さんです。
●新田神社/東京都大田区矢口1-21-23
東急多摩川線 「武蔵新田駅」 から徒歩3分。
駐車場あり(5台)。
足元には愛らしい子供獅子も。修繕の痕跡も多く見られ、地域の方々から大切に守られてきたことが伝わってくる
群馬県・近戸神社
素朴で胴長な「群馬最古級」。先代狛犬から学ぶ、愛着の歴史
南北朝時代から室町時代に作られたと伝えられている素朴さが愛おしい群馬県最古級の狛犬
近戸(ちかと)神社の創建年代は不詳ですが、現在の社殿は、宝治元(1247)年に作られたものがもとになっていると言います。獅子舞や神事のほか、文化財も豊富な神社です。
こちらにあるのは、素朴さが愛おしい群馬県最古級の狛犬さん。南北朝時代から室町時代に作られたと伝えられています。もともとは拝殿前に置かれていましたが、欠損したことにより、他の狛犬さんが新たに置かれ、以前置かれていたこちらの狛犬さんは現在の位置に移動したとのことです。このように、以前は参道にいたけど、新しい狛犬さんがきたことで移動する狛犬さんは少なくありません。こういった狛犬さんを、愛好家のなかでは「先代狛犬」と呼ぶこともあります。古くなっても、欠損しても、こうやって大切に扱われているのをみると、ついついほっこりと幸せな気持ちになるものです。
なによりも、一対が横並びで置かれている姿、そしてところどころ修復の痕跡が見えるところも愛おしい。残念ながら、片方の狛犬は顔が大きく壊れてしまっていますが、残っているほうの顔を見ると、非常にかわいらしい表情をしていたことが想像できます。特徴的なのは、足の丸さや、胴長で全体的に丸みを帯びたフォルム。これは、古い時代の狛犬に多く見られるデザインで、最初に紹介した目黒不動尊の狛犬さんのように、「はじめ型」と呼ばれています。尾も体についている形です。
もうひとつの特徴はオスの印があること。獅子・狛犬は神獣だからオスメスがない、という説もありますが、時にオスの印、メスの印がついていることがあります。この狛犬さんにはしっかりとオスの印がついていますよ。
●近戸神社/群馬県前橋市粕川町月田1261
上毛線「膳駅」から徒歩23分。
駐車場あり。
一対が横並びで置かれている姿が愛おしい。ついついほっこりと幸せな気持ちになる
足の丸さや、胴長で全体的に丸みを帯びたフォルム。これは、古い時代の狛犬に多く見られるデザイン
獅子・狛犬は神獣だからオスメスがないとの説もあるが、この狛犬にはしっかりとオスの印がある
現在の社殿は1247年に作られたものがもとになっていると言われている。獅子舞や神事のほか、文化財も豊富だ
狛犬は、その時代や場所(地域)によって、表情や型が驚くほど変化します。今回はかわいい系を中心にご紹介しましたが、この他にも、武骨でカッコイイ系、ムキムキな力強い系など、本当に多種多様な狛犬が存在しています。
狛犬の魅力を深く知ることは、神社の歴史や地域の文化を知ることにもつながります。ぜひ、次の初詣ではドライブとあわせて狛犬巡りを楽しんでみてくださいね。
最後に、狛犬を観察する際の注意点を改めてお伝えいたします。神社は、神様にご挨拶をする参拝の場です。
1.必ず先に参拝を済ませましょう。
2.他の参拝者の邪魔にならないよう、配慮を持って愛でるようにしてください。
ルールとマナーを守って、素敵な狛犬さんぽ&初詣ドライブを楽しんでください。
ミノシマタカコ
フリーのウェブ編集・ライター・狛犬愛好家。日本参道狛犬研究会会員であり「狛犬さんを愛でる会」を主宰。狛犬を愛でるライターとして、ラジオやメディア等に出演。著書に『狛犬さんぽ』(監修=川野明正、グラフィック社)がある。
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