2026年7月から危険運転の基準が“数値化” 改正自動車運転死傷処罰法のポイントとこれまでの経緯
あいまいだった「危険運転」が明確に 改正法の背景と影響を解説危険運転致死傷罪の適用をめぐり、これまで司法判断が分かれるケースが問題となってきた。こうした状況を受け、2026年6月、危険運転の成立要件を明確化する改正自動車運転死傷処罰法が成立。飲酒量や速度に数値基準を導入するなど、大きな見直しが行われた。本記事では弁護士監修のもと、これまでの制度の経緯とともに、7月に施行される改正内容を分かりやすく解説する。
危険運転致死傷罪はなぜ生まれたのか
危険運転致死傷罪は2001年、刑法改正により創設された。飲酒運転や著しいスピード違反など、悪質な運転による事故を通常の過失より重く処罰するための制度だ。その後、制度は段階的に見直されていく。
2000年代:罰則強化(上限20年など)
2013年:刑法から独立し「自動車運転死傷処罰法」成立
2020年:あおり運転など妨害行為を追加
こうして対象行為は拡大されてきたが、依然として問題が残っていた。
「危険運転か否か」の線引きが曖昧だった
最大の課題は、危険運転が成立するかどうかの判断基準が曖昧だったことだ。例えば現行法では、「制御困難な高速度」、「正常な運転が困難な状態」といった抽象的な表現が用いられている。
このため、時速194kmの死亡事故でも危険運転とは認めなかったケースや、同程度の飲酒でも判断が分かれるケースがあらわれ、判断基準の曖昧さが批判され、見直しを求める声が強まっていた
2026年7月施行、改正自動車運転死傷処罰法のポイント
今回の法改正は、こうした実務上の課題に対応するものだ。
政府は法案提出の理由として、「交通事故の実態に即した対処が必要」、「危険運転の対象行為を明確化する必要」を挙げている。つまりポイントは「客観的な判断基準」の導入だ。
1. 飲酒運転の基準を数値で明確化
これまでの「正常な運転が困難な状態」の内容として、次の数値が明示された。
血液:1.0mg/mL以上
呼気:0.5mg/L以上
のアルコールを保有する状態
これに該当すれば危険運転に該当する可能性が高い。
ただし、
その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態
も示されている。
2. 高速度運転の「明確なライン」を設定
危険運転の要件として、速度超過の基準値が追加された。
制限60km/h以下の道路(一般道):+50km以上
最高速度60km/h以上の道路(高速道路など):+60km以上
これまで曖昧だった「危険な高速度」が具体化されることになる。
ただし、
その他道路及び交通の状況に応じて重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度(上記の速度超過の基準値に準ずるものに限る)
も示されている。
3. 危険運転に新しい行為を追加
以下のような行為が新たに対象となる。
意図的にタイヤを滑らせるなど制御困難な走行(ドリフト等)
危険性が高いが従来は評価が難しかった行為が明示された。
4. 「基準値未満でも適用あり」
重要な点として、基準値を下回っていても、上の項目で「ただし」として示した場合には危険運転となる場合がある。
基準値は最低ラインではなく「基準の明確化」という位置づけだ。
5. 酒酔い運転の基準も明確化(道交法)
道路交通法でも、「酒酔い状態」の定義が数値で明確化される。これにより取り締まりと処罰の一体的な整備が行われる。
今回の改正によって何が変わるか
今回の改正の意義は次の2点に集約される。
1. 司法判断のバラつき縮小
客観的基準の導入により、適用の予測性・一貫性が向上する。
2. 抑止力の強化
飲酒・速度違反の程度において、危険運転に該当するか否かの「線引き」が明確化され、運転者への警告効果が高まる。
今回の改正は、「危険運転の定義を曖昧な判断から脱却させる」大きな転換点だ。危険運転となる場合が数値で判断できるようになった。
ただし、数値が基準未満でも危険運転となる可能性があることにも注意。このほか、ドリフト走行など、危険運転となる行為が拡張されている。
今後も、危険運転の認定に関する取り締まりや裁判の動向に注目が必要だ。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律及び道路交通法の一部を改正する法律案(閣法第四二号)(先議)要旨
本法律案は、自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処をするため、危険運転致死傷罪の対象となる行為の明確化及び追加を行うとともに、酒酔い運転を行った者等に対する罰則の対象となる行為の明確化を行おうとするものであり、その主な内容は次のとおりである。
一、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正
1 危険運転致死傷罪の対象行為のうち、アルコールの影響により「正常な運転が困難な状態」との要件について、「身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」と明確化する。
2 最高速度の区分に応じ当該最高速度を五十キロメートル毎時又は六十キロメートル毎時超える速度以上の高速度で自動車を運転する行為や、当該高速度に準ずる速度であって道路及び交通の状況に応じて一 二重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度で自動車を運転する行為を危険運転致死傷罪の対象行為として追加する。
3 殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて、自動車を走行させる行為を危険運転致死傷罪の対象行為として追加する。
二、道路交通法の一部改正酒酔い運転の罪の「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」との要件について、「身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」と明確化する。
三、この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。
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