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ゲリラ豪雨、台風、豪雪! 運転中の災害、そのときどうする?

2022.08.05

撮影=落合憲弘、山岡和正、峯水 亮

2022.08.05

撮影=落合憲弘、山岡和正、峯水 亮

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

昨今、頻発する地震や台風などの自然災害。これらの災害から身を守るためには、避難経路の確認や、気象情報のチェック、食料の備蓄など、日頃の情報収集と準備が大切です。しかし、もしクルマを運転中に、突然これらの災害に巻き込まれた場合はどうすればいいのでしょうか? JAFが行ってきた数々のテストをもとに、特に注意しておきたいポイントを紹介します。

もしもゲリラ豪雨に遭遇したら?

ゲリラ豪雨はその名の通り、突然発生します。もし運転中にゲリラ豪雨に遭遇した場合、どんな危険が待ち受けているのでしょうか? 視界の悪化、水没の危険など、考えられるリスクをテストで検証してみました。

テスト1 豪雨の中でクルマの見え方を比較してみた

豪雨を再現したテストコースを走る車

豪雨の中で、視界はどれくらい悪化するのか調べてみました。テストは、前方の停止車両に向かって、テスト車(自車)が時速40kmで走行し、運転席から停止車両が見えたら急ブレーキを踏み、何m手前で停止できたか停止位置を計測。停止車両の灯火は、無灯火、テールランプ点灯、リアフォグランプ(濃霧の際に後続車に自車の存在を知らせるためのランプ)点灯、ブレーキランプ点灯の4パターンです。走行車両はヘッドライトを下向きで点灯、夜間は下向きと上向きの2パターンで点灯し、比較しました。

〈結果〉 昼夜を問わずライトの点灯を心がける。見落とされない努力が必要!

停止車両の灯火4パターンのうち、走行車両が停止した位置が停止車両に最も近かったのは、無灯火の場合でした。昼間であるにもかかわらず、走行車両が無灯火の停止車両に気づいて停止できたのは、約39mまで接近したところ。夜の場合は、その距離はさらに縮まっています。

豪雨の中の運転は思った以上に視認性が低下しています。昼間でも必ずライトを点灯させましょう。停止中はブレーキを踏んでブレーキランプを点灯させることも重要です。また、走行する際は十分に速度を落とし、不測の事態に対応できる余裕をもつこと。ひどい雨の場合は無理に走り続けようとせず、安全な場所で待機することも大切です。

テスト2 豪雨で増水。水没したクルマに閉じ込められたら?

テストで水没させた車の中にいる女性

ゲリラ豪雨や台風でアンダーパス(道路の下をくぐる構造になっている立体交差)のような低い場所に進入した場合、水圧の影響でドアが開くかどうかをセダンとミニバンで水位を変えて検証しました。

〈結果〉 水深60cmでもドア開けはかなり困難

水深が深くなる過程で後輪が浮き始めると(セダン60cm・ミニバン90cm)、車内と車外の水位差が大きく、車外から強い水圧がかかりドアが開けられませんでした。そのまま更に進んで行くと車内に水が侵入し、完全に水没した状態となりました。その状態では車内と車外の水位差が小さくなり、水の抵抗で重いもののドアを開けることができました。ちなみに水が車内に入り、クルマの後輪が接地するのを待って脱出を試みた結果、セダンもミニバンも水深30cmではすぐにドアを開けられましたが、水深60cmになると、1分弱程度の時間を要しました。

水深90cmで車の後輪が浮いた状態。

水深90㎝で後輪が浮いた状態。車内と車外の水位差が大きいため、
水圧で運転席のドアは開けられなかった。

水深120cmまで車を沈めた状態。

車内に完全に水が入り、水没した状態。車内と車外の水位差がなく
なり、水深120㎝でもドアを開けることができた。

テスト3 水没時、何を使えば窓が割れるのか?

浸水した車の窓ガラスを破る女性

ビニール傘の先端部分でサイドウインドーを破砕し、脱出しようともがくモニター。果たして結果は?

水没してドアが開けられなくなった場合は、窓ガラスを割って脱出するしかない状況もあり得ます。しかし、そんなに簡単に窓ガラスが割れるものでしょうか? 車内にあって窓ガラスを割って脱出するのに使えそうな物(ヘッドレスト、小銭を入れたビニール袋、携帯電話、ビニール傘、車のキー)と専用品(3種類の脱出用ハンマー)を使い、実際にサイドウインドーが割れるか試してみました。

〈結果〉 脱出用ハンマー以外で窓は割れなかった!

ビニール傘やヘッドレストなどで頑張ってみましたが、結局、脱出用ハンマー以外では割ることができませんでした。やはり車内には日頃から脱出用ハンマーは備えておくべきでしょう。ちなみにフロントガラスにはフィルムが入っているため、脱出用ハンマーを用いても割れません。割るときはサイドウインドーで行いましょう(サイドウインドーが割れない車もあるので事前に確認しておきましょう)。

脱出用ハンマーで窓ガラスを割る女性

3種類の脱出用ハンマーを使ってみたが、どのタイプでも割ることができた。万一に備え、
車内に常備しておこう。

窓ガラスを割るために用意したグッズ

脱出用ハンマーやビニール傘、小銭を入れたビニール袋など、脱出のために窓が割れ
そうなものを用意した。

もしも台風に遭遇したら?

台風に遭遇した場合は、豪雨への対応にあわせて、さらに強風に対しても注意が必要です。運転中であれば突風に進路を乱されることがあるので、安全な速度に落として運転し、危険を感じた場合は無理せず安全な場所にクルマを止めましょう。停車の際は、ハザードランプを点滅させるなどして、後続車に見落とされないように注意しましょう。
また、乗降時のドアの開閉にも注意が必要です。不用意にドアを開けると、強風でドアを押さえられずに手を挟んだり、隣の車に当たってしまったりといったアクシデントが起きがちです。ここでは台風時にドアを開けるリスクについてテストしてみました。

テスト4 大型台風並みの強風の中でドアを開けてみた!

強風テストの様子

風速20~40m/sの強風を再現する送風機で、テストを実施した。

送風機を使って風速20m/s、30m/s、40m/sの風をドアに当て、開けた際に手で押さえることができるか試してみました。テストは6歳男児、10歳女児、30代女性、40代男性の4名のモニターで行いました。

〈結果〉 風速40m/sでは大人でも無理。開け方に注意!

ドアを押さえられたかどうかは、ドア横に設置したパイロンに接触しないかどうかで判定。結果は、6歳男児・10歳女児はすべての風速でドアを押さえることができず、30代女性・40代男性でも風速40m/sになると押さえることができませんでした。強風時は下の正しい開け方を参考に、ドア開けも慎重に行いましょう。

10歳女児の強風テストの様子。

風速20m/sでは、大人2名はドアを押さえることができたが、6歳男児は押し開けるのが精一杯でドアを押さえきれず、10歳女児はドアを保持しながら開けられたものの、結局押さえきれず、パイロンに当たってしまった。

30歳代女性の強風テストの様子。

風速40m/sでは、モニター全員、ドアを押さえられずパイロンに当たってしまった。ドアの開き始めはゆっくりした感じだが、半分近く開いたあたりでドアは一気に全開になり、慌ててグリップを強くつかもうとしても間に合わなかった。ドアを押さえられるかどうかは体力的な問題だけでなく、開け方も影響するようだ。

●モニターがドアを押さえられた風速は?
モニター\風速  風速20m/s 風速30m/s 風速40m/s
6歳男児 × × ×
10歳女児 × × ×
30代女性 ×
40代男性 × ×

強風時の安全なクルマの降り方

[大人の場合]

強風時のドアの開け方。まずは少しだけドアを開ける。

まずドアレバーを引きながら少しだけドアを開ける。その際、右手でドアを持ち、大きく開かないよう押さえる。

強風時のドアの開け方。両手でドアを押さえながら開ける。

次に両手でドアを押さえ、一気にドアがあおられて開かないように少しずつ開ける。

[子供の場合]

子供のドアの開け方。車内からドアを開けられないようにする。

後席ドア側面にあるチャイルドプロテクターを使って子供が車内からドアを開けられないようにしておく。

子供のドアの開け方。先に出た大人がドアを開ける。

大人が先にクルマから降り、外からドアを必要最小限だけ開け、慎重に子供を降ろす。

もしも大雪の中に閉じ込められたら?

突然、豪雪に見舞われ、スキー場の駐車場から出られなくなったり、高速道路上で立ち往生したりしてしまったら……。そんなときに注意すべきなのが、車内での一酸化炭素(CO)中毒です。エンジンをかけ、暖房をつけたまま車内で過ごすことがありますが、その際に排ガスが車内に侵入し、一酸化炭素中毒を引き起こすことがあります。これを防ぐには、どのような点に注意したらよいのでしょうか?

テスト5 エンジンをかけたままクルマを雪に埋めてみた!

車内の一酸化炭素濃度テストの様子。

車内の、一酸化炭素濃度のテストの様子。マフラー周辺を除雪した車と何もせずそのままの車とで、濃度の差を調べた。

同じ車種を2台用意し、ボンネット上まで雪を被せ、1台はそのまま何の対策もせず、もう1台はマフラー周辺を除雪。エンジンをかけた状態で空調を外気導入にして、車内の一酸化炭素濃度がどう変化するか比べてみました。

〈結果〉 わずか16分で車内は危険レベルに!

何の対策もしなかった場合、わずか16分ほどで車内の一酸化炭素濃度が人体に危険を及ぼすレベルに到達。さらに、除雪は行わないものの、窓を5cmほど開けた場合でも、約40分後にはやはり危険なレベルに達しました。一方、除雪したクルマは、60分を経過しても一酸化炭素濃度はほとんど上がりませんでした。

発煙筒の煙が充満するテスト車内。

除雪しなかったクルマの車内。マフラー付近に発煙筒を置き、排ガスの流れを可視化してみた。車の床下にたまった排ガスは車内に取り込まれ、空調の吹き出し口から侵入。2分ほどで見通しが利かないほど煙が充満した。実際は一酸化炭素に色はなく、無臭なので気づきにくい。

マフラー周辺を除雪する男性。

吹雪などで停止し、救援を待つ場合は、エンジンを停止するのが原則。しかし、防寒着などの用意がなく、暖房を使うためにエンジンをかけざるを得ない場合は、頻繁に車外に出て、マフラー周辺の除雪を行うことが大切だ。

テスト6 暖房をつけたまま過ごすとEV(電気自動車)のバッテリーはどのくらい減る?

EVのバッテリー残量テストの様子。

テストでは4台のEVを用意、それぞれ条件を変えて電力残量を調べた。

大雪などで長時間動けなくなった場合、暖房で多くの電力を使うといわれるEVは、エンジン車よりもその消費が気になるもの。果たして暖のとり方によってEVの電力消費は変化するのでしょうか? 同一車種のEVを4台用意し、テスト開始前に電力残量を70%に統一。モニターが1名ずつ乗車し、それぞれに与えられた以下①~④の異なる条件で暖をとり、5時間を車内で過ごした結果、電力残量がどうなっているか比較しました。

エアコンの操作パネル。

①エアコンをオートモードで25℃に設定。テスト終了までこの状態を維持した。

車内で電気毛布を使用するモニター。

②エアコンは使用せず、電源ソケットを用いて市販の電気毛布を使用。

車内で純正シートヒーターと市販の電気フットヒーター使用する姿。

③エアコンは使用せず、電源ソケットを用いて純正シートヒーターと市販の電気フットヒーター使用。

車内で原則毛布のみを使用するモニター。

④毛布のみ。エアコンは寒いと感じたときに任意で使用。エアコンの設定温度は32℃とし、風量は最大にした。

〈結果〉 エアコンの継続使用が最も快適だったが、電力消費も大きかった。

時間 PM7:00
(開始時)
PM8:00
(1時間経過)
PM10:00
(3時間経過)
AM0:00
(終了時)
バッテリー残量/航続可能距離
テスト① 70%/143km 60%/124km 49%/101km 38%/78km
テスト② 70%/156km 69%/155km 67%/150km 66%/146km
テスト③ 70%/160km 69%/158km 63%/143km 60%/138km
テスト④ 70%/142km 69%/138km 63%/127km 60%/122km

5時間後に電力の残量を見たところ、最も残量が少なかったのが①で38%、最も残っていたのが②の66%、③と④は60%でした。④は個人の体感によって多少なりとも数値が左右されるものの、②〜④は明らかに①より電力消費が少ない結果となりました。電力消費によって航続距離が短くなるのを少しでも抑えるためには、電源ソケットで使える暖房器具や防寒具を積んでおき、併用するのが有効でしょう。

もしも大地震が発生したら?

運転中に大地震が発生したら、まずは安全に停車することを考えましょう。急ブレーキや急ハンドルは避け、ハザードランプを点灯させながら徐行し、落ち着いて道路左側にクルマを止めます。これは緊急車両の通り道を確保しておくためです。
停車したら慌ててクルマから飛び出すのではなく、まず周囲の状況を確認。カーラジオ等から地震情報や交通情報を入手し、冷静に状況を判断しましょう。そのうえで、運転を継続できそうなら、路面状況や障害物の有無に注意して走行します。路面に問題がなくても、停電で信号機が作動していない場合もありますので、交通には十分に注意しましょう。
クルマを置いて避難する場合は、エンジンを停止し、キーは付けたままにしておきます。また、窓は閉めますがドアはロックしないように。これはドライバーがその場にいなくても、必要な場合にクルマを移動できるようにしておくためです。

大地震が発生した場合にとるべき行動

  • 急ハンドル、急ブレーキは避け、安全に道路の左側に停車。
  • 地震情報や道路交通情報をラジオ等で確認。
  • 引き続き運転する場合は道路の損壊や信号機の停止、障害物などに注意。
  • 車を置いて避難する場合は、可能なら道路外に停車し、道路上に止める場合は左側に寄せる。
  • エンジンを止め、エンジンキーは付けたままにして窓は閉じ、ドアはロックしない。
  • 「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)より抜粋・要約

運転中だからこそ、自然災害には、まず落ち着いて対処することが大切です。状況を冷静に判断して、少しでも危険を感じた場合は、無理して運転を続けず、安全な場所にクルマを止めましょう。また、地域のハザードマップで危険箇所を知っておく、気象情報に注意する、防災グッズを車に積んでおくなど、日頃から災害に遭遇したときのために準備をして、万一の事態に備えておきましょう。

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