栃木県・那須塩原にピラミッド現る!? 裏に秘められた麗しの人類救済計画
ナビが知らない、道ばたの人生哲学。#3 ピラミッド元氣温泉栃木県・塩原温泉郷の玄関口である西那須野塩原ICからクルマで5分、緑に囲まれた細道を抜けると突如現れる謎のピラミッド。一体これは誰が、何のために建てたのでしょうか……。 本企画では、ロードサイド上でたびたび出くわす「ちょっとヘンテコな風景」を切り口に、その先に広がる人や土地の面白さをお届けします。
豊かな自然に潜む、現代のオーパーツ
今回の舞台となる那須塩原市は、豊かな自然に囲まれた栃木県北部の都市。首都圏からも車でアクセスしやすく、夏は避暑地としても人気の高い観光地です。
脇道に入れば、緑の木々と道がせめぎ合う。
そんな那須塩原市に、まるで異国に来たかのような摩訶不思議なパワースポットが存在します。
それがこちらのピラミッド。エジプトさながらのこの建造物、実は「ピラミッド元氣温泉」という温泉宿。その異国情緒あふれるビジュアルと、極上の泉質を誇るというギャップが評判を呼び、メディアでもたびたび取り上げられてきました。
この場所のオーナーは、御年92歳の伊藤雄次郎さん。どんな風変わりな人物かと思いきや、実は会社経営者・発明家・作家と、さまざまな顔を持つすごい人なんです。
元気いっぱいに我々を歓迎してくれた伊藤さん。
いったいなぜ伊藤さんはピラミッドを建設するに至ったのでしょうか。まずはその理由について伺いました。
ピラミッドは例えるなら「野菜の直売所」
——
なぜ伊藤さんはピラミッドを建てたのでしょうか?
ピラミッドっていうのはね、端的に言うと、天とつながって、傷んだ心を修復する場所なんです。みんな宗教に頼りたがるけど、それだと天と自分の間に余計な媒体を挟んじゃうでしょ。野菜の直売所と一緒。卸が間に入ると鮮度も落ちるし、余計なものまで付いちゃうかもしんない。でもね、うちのピラミッドなら、そんなことないの。
——
はぁ。もう少し具体的に教えていただけないでしょうか?
ピラミッドのテッペンに瞑想室があってね。そこで瞑想すると、幽体離脱したみたいな気持ちになって、天と直接つながれる。そのために必要な装置がピラミッドということ。……あ、なんか疑ってるな?
——
いやいや!
でも最初から話が壮大過ぎて。入り口のスフィンクスもその装置なんですか?
あれはアクセサリーだよ。ピラミッドといえば必要でしょ?
スフィンクスのアーチ。
——……
なるほど。ピラミッドの役割はとりあえず理解したんですけど、なぜ那須塩原にこの施設を?
まぁまぁ焦らず、詳しくは後ほどお話ししますから。今現在、精神がボロボロになっていく人が多いでしょう。昔からこんな時代が来ると思っていたわけ。私ね、「ひびこうじ」ってペンネームでこんな本を書いていて。
原爆で地球が崩壊する直前の人類を書いたSF小説でね。25歳の頃に出版したんだけど。その本に書いた未来の世界が今、次々と現実になってる。たとえば空飛ぶタクシーや原子力発電、燃料電池とかね。
——65
年以上前から時代を先読みしていたと。
そうだね。そうやって時代の流れが読めると、いろんなことに挑戦できるんですよ。
好きなのは科学と発明。時代の流れを読み、社長へ
館内至るところエジプト一色。
——
確か、ピラミッドを建てる前は会社を経営されていたんですよね?
うん。東京の大学を出てすぐ、「電解コンデンサ」を作る会社を立ち上げた。ありとあらゆる電子基板に使われている部品でね、簡単に言うとしたら、すっごく小さな充電器だな。
——
なんでまたそんなものを作ろうと思ったんですか?
さっきも言ったように時代の流れを読んで、絶対に社会に必要な製品になると思ってたからだね。世の中のニーズを掴んだんだよ。合弁会社含めると最終的に全部で8つくらい会社があったかな。資本金を出して、社長は現地の人にやってもらって、台湾とか韓国にも工場を進出した。規模で言うと、一つの工場で従業員は
500
人くらいいたかな。
——
大企業!
伊藤さんはなにをされていたんですか?
私がやってたのは社長。会社の方針を決めたりとか。営業とか経理とか、そういうのは全部人を雇ってやってもらってた。あと私は発明家だから、いろんな技術も発明して。特許なんかも取ってね。賞もたくさんもらったよ。国から黄綬褒章を授与されたり。他にも東京都発明功労知事賞
や科学技術庁長官賞とか。当時総理大臣だった中曽根さん、福田さんからも賞もらったな。
——
めちゃくちゃすごい人じゃないですか!
昔からそういう研究とか、発明に興味があったんですか?
うん、子供の頃から科学が大好きだった。旧制中学で科学部の部長をやっていて、発表会で原子爆弾の爆発の再現なんかもやったな。マグネシウムを燃焼させたら閃光を発するだろう。だから模型の地球にマグネシウムを55か所くらい付けて、それを燃やして原爆の爆発に見立ててさ。当時は終戦直後だったからね。
——
当時から発想が飛び抜けてますね……
。それにしてもそんな大きな会社、相当儲かったんじゃないですか。
儲かったね。今まで失敗してないもん。電解コンデンサ自体はそれほど利益率が良いわけじゃないけど、特許があるから他は誰も作れない。でもいろんなところが特許料払ってでも作りたいって言って、最大で売り上げの3%もらった。棚ぼたですよ。
——
羨ましいなぁ。電解コンデンサの仕事は好きだったんですか?
研究は楽しかったよ、発明があるもの。でも売るのを楽しいと思ったことは一度もない。経営を維持するために売ってただけ。
——
経営もしつつ、研究開発に力を入れてたんですね。
開発というよりかは創造だな。開発っていうのはだんだん先細りになって、やることが小さくなっていく。でも創造というのは、応用していくからなくならないの。
——
さっきの話を聞いた後だと、説得力がありますね。ちなみに研究は楽しかったとのことですが、社長業はどうだったんですか?
社長なんかつまんないです。あんなもの責任を持たされるだけ。
私の好きな言葉にね「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。 よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」ってあるの。方丈記ね。川に浮かぶ泡は同じところで留まらないし、ぽっと消えちゃうでしょう。人間も泡と同じ。いつかは必ず消えるんだよ。だから消えるまでの間に、自分の人生を意味のあるものにしないと。
それで「社長業なんかやってたら自分の人生が奪い取られる」って60歳でピシッと辞めて、そっからただ一筋に、ピラミッドを作ることに集中したの。
現代には「駆け込み寺」が必要だ!
——
冒頭少し伺いましたが、なぜそこまでしてこの場所を作ったのでしょうか?
ひと言でいえば、「現代の駆け込み寺」が必要だと思ったからだね。最近陰惨なニュースが多いじゃない。若い子が強盗したりだ、殺人したりだとか。でも、いかなるそろばん弾いたって大切な青春時代を刑務所に入って捨てるなんて、割に合わないよな。
そういうのは悩みがあるからやっちゃうわけでしょう。金の悩み、人間関係の悩み、 恋人の悩み、自分の人生に対する悩み……。そういう時、冷静に考えられるような場になればと思ってここを作ったんですよ。
——
そもそもなんで「ピラミッド」なんですか?
精神的な癒やしとか、エネルギーを建物にどう取り込むかとか、そういうものを私の頭で集約していくと、最終的にピラミッドの形に辿り着いたんだよ。「ピラミッド」という存在が一番私の考えに近かった。
ピラミッドっていうのはね、ただ珍しいってだけの形じゃないの。宇宙人が作ったとか、ファラオのお墓だったという話とかってロマンチックな話もあるけど、それとまったく別に科学的にね、天文学的な形で設計されてて。パラボラアンテナとかレンズのように、宇宙エネルギーを集める道具なんだよ。
館内の至る所に置かれたピラミッド型のアイテム。
——
ピラミッドは宇宙エネルギーを集める道具。ちなみに実際にエジプトで現物を見たことはあるんですか??
そりゃそうよ、作るんだもの。
——
本物を見たときはやっぱり感動しましたか?
しないよ。だって道具の一つですもん。そこに好き嫌いとかないです。作るためにピラミッド見て。どこもかしこも観光客だらけだし、飯はうまくないし。それでつまんねぇなと思った。エジプト自体はすごい存在だと思うけどね。
建設費4億円!? そこにも生きた、流れを読む力と経営力
国道400号の脇道に建てられた小さな案内看板。
——60
歳で経営から身を引いて、「現代の駆け込み寺」として作ったのがこの施設だったと。改めて、なぜ那須塩原だったんですか?
それは簡単、地元が近いからだね。私の生まれはすぐ横の大田原市。この土地はもともと2つの会社が所有してたんだけど、バブルが弾けて売りに出したんだよ。そこを買って、木を切って更地にしたの。
——
じゃあ元々は山林だったんですね。それにしても温泉を掘り当てるなんて相当な強運の持ち主。
そこは私の読む力ですよ。このあたりは、はるか昔からの温泉地だったの。那須温泉神社といって、源平合戦で有名な那須与一が必勝祈願した神社があったり、温泉にまつわる伝承も多い。水は高地から低い場所に流れてくるだろうから、あそこに温泉があるなら、ここにもあるなって、推理力で当てたのよ。
氣柱を通じてピラミッドエネルギーが注入されているという温泉。源泉掛け流しのお湯は薄い褐色をしており泉質抜群!
——
すごすぎる。とある記事に総工費4
億円と書いてあったのですが、それは本当ですか?
うん、温泉を掘るので相当お金かかるからね。1m掘るのに10万円。うちは1,200mだからそれだけで1億2000万円。で、さらにこんな建物、建築業者も建てたことないから、普通のビルの3割増し。でもなるべく費用を抑えようと思って、私が指揮をとったの。土木は土木屋、鉄骨は鉄骨屋、屋根は屋根屋にといった具合で、各々の専門職に直接依頼して。それは経営の力が生きたね。
前代未聞の1/10スケールのピラミッド型建築。
——
じゃあ4
億円でもかなり節約したほうなんですね。
そうだよ。今だっていろいろ節約してるよ。受付だって無人だし。
——
確かにそれはビックリしました(笑)。
私はインターネットのレビューとかSNSの評判とかは一切見ないように心がけてるの。部屋が寒いとか、ふとんが薄いとか、そういうのを毎回チェックして対応していたら、きりがないでしょう。その代わりに掃除とか、美観とか、できることを一生懸命やる。そうやって今の仕事にベストを尽くしているとネットのレビューなんてで見る暇ないんですよ。
松下幸之助さんが「お客さんは王様だ」って言ってたけど、うちでは50対50の関係。こちらは1,200mの深層水をガブガブ使ったお風呂を準備してるんだから。それでもダメな人は、もっとお金を払って、丁寧なサービスを受けられる場所に行ったほうがいい。なんたってうちは宿泊で3,300円、日帰り入浴も600円(平日)なんだから。
いざ、瞑想へ。効果のほどはいかに……
風呂場への廊下に飾られたコレクションたち。
——
では、そろそろ瞑想を体験させてもらってもいいですか?
うん、じゃあついてきて。
——
うわー、廊下にもいろいろ珍しそうなものが飾ってありますね。
そうでしょう。うちのメインは温泉宿だけど、すごい美術館でもあって、奇石とか奇木とか地球に一つしかないようなものもいろいろ飾ってある。台湾に工場があったときに、コンテナで買いつけたりして。さ、着いたよ。上に行こうか。
階段をのぼり瞑想室へ……。
約500平米の広々とした空間。
——
うわ!
思ったより広い!
ここがピラミッドの頂点部分ですね!
真ん中に大きな木も。
これはね、樹齢500年の欅(けやき)の木。1,000体の仏像を仏師に彫ってもらって、全部金箔を付けてある。上の水晶に宇宙の光が集まって「気」を生み出すんだよ。
じゃあ床に寝っ転がってもらって。手のひらは上向きで横に置いて、音楽に耳を傾けて。何考えててもいいです。そのままじっとしてれば自然に脳波がフラットになっていくんで。
——
いやいや、そんなわけ…………
。あれ?
確かになんだかフワフワと心地良い感覚がしてきました!
そうでしょう。だいたいこのまま静かにして5、6分もあれば寝ちゃいます。これで心地が良くないならば、その人はエイリアンです。ここでエイリアンかヒューマンかわかる。だからこの場所を地球の入管の検査場にしようかな、なんて。どうですか、そんなSF小説。入管が見逃したエイリアンの冒険って話は。そのエイリアンが日本人の女性と恋をしてね。エイリアンと人間でお互いの文化を教えあうんです。でも実はエイリアンの惑星が地球を支配するため総攻撃を仕掛けようとしている。人間に恋をしたエイリアンはなんとかそれを食い止めて……。
——
伊藤さん、全然瞑想に集中できないんですけど……
。
ピラミッド元氣温泉のこれから
瞑想を終え、再びロビーに戻ってきた我々。最後にピラミッド元氣温泉のこれからの展望について伺いました。
——
伊藤さんは現在92
歳ですが、後継のことは考えてるんですか?
どうだろう、息子か妻が継ぐんじゃないかな。私が死んでもなんも変わんないよ。女将やってる妻は年が離れてて若いから、彼女がそのまま引き継げるし、息子がやるならさらに若い世代でやればいいし。
でも彼らには、ここを継ぐならピラミッドの上にさらにピラミッドを建てるくらいじゃないと意味ないよって言ってんの。
——
それはただ継ぐのではなくて、その人なりのカラーを出してほしいってことですか?
それくらいの情熱がないならやらなくていいし、他人に売ってもいい。そのほうがここも喜ぶからね。ただもし万が一繁盛しても別の場所に違う温泉を建てたりしないで、この土地を有効活用してほしいとは思ってる。空間は腐るほどあるんだから。
——
まだまだこの場所のポテンシャルを生かしきれるだろうと。
そうそう。ちなみに私がいま考えてるのはね、ピラミッドテント。
——
ピラミッドテント……
?
平たく言えばピラミッド型の小さなロッジ。食材だけ提供してそこでバーベキューしてもらう。今はやってるグランピングってやつだな。それだったら手間もかかんないしね。その他にもいろいろ考えてるよ。
——
後を継ぐどころかまだまだやる気満々ですね!
そりゃあ人生は泡だから、できるときにやらないと。あなたたちも人生を自分のために使いなさいよ。それは、利己主義なんかじゃないからね。 人生ってのはそれが一番。死んで金は持っていけないんですから。
取材を終えて。泡沫の人生をピラミッドに託す
那須塩原にそびえ立つ謎のピラミッドの裏には、さまざまな顔を持つ伊藤雄次郎さんの未来を見据える眼差しと、人を癒やしたいという優しさがありました。
「人生は儚い泡沫だから、やりたいことをやりなさい」と教えてくれた伊藤さん。経営者・発明家という分野で多大な実績を残しながらも、60歳でスパッとその地位を手放した人の言葉は、説得力にあふれていました。
『もう』92歳ではなく『まだ』92歳。伊藤さんの挑戦はこれからも続くことでしょう。ピラミッド元氣温泉の今後の動向に注目です!
ピラミッド元氣温泉
栃木県那須塩原市接骨木493-4
TEL: 0287-35-4141
営業時間:10:30~20:00(最終受付 19:00)
定休日:年中無休
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