漁港直送の生マグロを満喫! 世界遺産に絶景温泉…すべてがある町、那智勝浦を味わい尽くす旅へ
和歌山県那智勝浦町南紀白浜空港に降り立った瞬間に、清らかに澄んでいる空気に気づいた。レンタカーを走らせて那智勝浦町に向かう。フロントウインドー越しでも、景色が目に迫ってくる。 漁獲から一度も冷凍しない生マグロが水揚げされる、那智勝浦港。世界遺産登録20周年を迎えた、美しき熊野古道。地元の食材を惜しみなく使った美味の数々。神が宿る那智の滝と、素朴な信仰心。那智勝浦町を舞台にしたドライブには、日本人の心をつかむすべてがある。
大切に、丁寧に扱われる那智勝浦の生マグロ
圧巻の競りに、生命への敬意を見た
●勝浦地方卸売市場/那智勝浦町築地7‐12 Tel 0735-52-6153 (那智勝浦観光機構事務局 平日9:00~18:00)
マグロマグロマグロ……。「マグロ」の3文字だけでもテンションが上がるのに、これだけマグロマグロマグロ……と並んでいると、もう息を呑むしかない。
船釣りが好きな身としては、年々海が変化していることを感じる。それは決してポジティブなものではなく、危機感に近い。だが、日本の近海でこれだけの数のマグロが獲れることを目の当たりにすると、やはり海は圧倒的に広く、豊かなのだとも思う。そして、持続可能性に配慮しながら漁業が行われていることも感じるのだ。
那智勝浦漁港に水揚げされるマグロは、主にビンチョウマグロ、キハダマグロ、クロマグロ、メバチマグロの4種類だ。いずれも、とても丁寧かつ大切に取り扱われているのがよくわかる。延縄(はえなわ)で漁獲されて水揚げされるまでの間、一度も冷凍されることがない完全な「生」。「大切なマグロを、最もおいしく食べていただこう」という消費者への思いと同時に、マグロへの深い愛を感じる。
漁師さんたちにとって、マグロは「商材」ということになるだろう。だが那智勝浦港に水揚げされ、競りにかけられ、運ばれていくマグロたちと、それを取り巻く人々の所作を眺めていると、一尾残らず生命として敬われ、丁重に扱われていることがよくわかる。
天然マグロが卵から成魚になるまでの生存率は、2000万分の1とも言われている。わずか0.000005%の確率は、宝くじで1等を当てるに等しい。1等当選者が目の前に並んでいると思えば、そのありがたみがよくわかる。
勝浦地方卸売市場を、売場の2階から見学できる「生まぐろ市場競り(入札方式)ガイドツアー」に参加した。マグロや競りについて学びながら、通常は立ち入りできない場所からホンモノの競りを間近に見学可能なスペシャルなツアーだ
目利きの仲買人たちが、素早く、丁寧にマグロを取り扱っていく。あまり目にする機会がない競りは、聞き慣れない用語が飛び交い、とても興味深いものだった
地元のガイドさんがマグロ愛たっぷりの説明をしてくれる。今回ガイドしてくださったのは、明るく朗らかな福辻京子さん。突然マグロクイズが出題されるので油断は禁物(笑)。マグロと競り、そして那智勝浦について楽しく学べる
那智勝浦港の生マグロは、延縄漁法で漁獲される。一本釣りに近いので魚体を傷めにくい。延縄に使われる針を見せていただいた。これにサバやイカなどをエサとして付ける。大きなエサを使えば、小さな魚はかからない。乱獲を防ぐ仕組みだ
もっちりした食感とクリアな味
これぞ一食の価値ある生マグロ!
●生まぐろ市場競りガイドツアー(3種類から選べる朝食コース 4,200円) https://nachikan.jp/activity/4482/
競りでいかにマグロが大事に扱われているかをたっぷりと見学した後に、マグロをいただく。参加した「生まぐろ市場競り(入札方式)ガイドツアー」は、見学後にマグロ料理が供される。3種類のコースが用意されているが、今回は「3種類から選べる朝食コース」をチョイスした。
A「生まぐろ御膳」、B「旬の生まぐろ二色丼」、そしてC「旬の生まぐろと地魚定食」の中からメニューを選べる。今回は「思いっ切りかき込もう」とBの丼にした。
せっかくなので丼らしくガーッとカッ食らいたい……という気持ちは、しかし、不思議なほどなかった。漁師さんから始まり、仲買人さん、加工業者さん、そして調理人さんなどなど、多くの方が那智勝浦の生マグロを大切にしていることがヒシヒシと伝わってきたからだ。
しっとり、もっちりした食感と、スッキリとした脂の甘み。マグロのうまさをクリアに味わえるのは、生ならではだ。ひと切れ、ひと切れをじっくりと味わう。口いっぱいに広がるのは、おいしさと同じぐらいのありがたさだ。「いただきます」という言葉がこれほど似合う料理もない。
生マグロは、ひと切れひと切れをじっくりと味わいたくなる逸品。ふだんから釣りで新鮮な魚を食べているから、頬張った瞬間に冷凍していないことがよくわかる
ガイドツアーではまぐろ寿司の食べ比べができる「デラックスお寿司コース」も。左から本マグロ大トロ、もちキハダ、もちビンチョウ、マカジキ、そしてメカジキ。気前のいい身の分厚さで、ねっとりもちもちの新鮮なマグロを楽しめる(仕入れの状況でネタに変更があります)
丼ものを中心に、定食などでマグロ尽くしの料理が楽しめる「鮪の脇口」。生で水揚げされたばかりの獲れたて新鮮マグロは、食べる価値あり。マグロ本来のソフトな口当たりと爽やかな甘みが、子供から大人まで満足させてくれる
●鮪の脇口 にぎわい市場店/那智勝浦町築地7‐12 勝浦漁港にぎわい市場内 Tel 0735-29-3500 【JAF優待】
変化に富んだ那智勝浦周辺の海岸線は、交通量が少ない爽快なドライブルートの宝庫だ
シーサイドドライブを満喫し
歩いて渡れる「ときもある」弁天島へ
●弁天島/那智勝浦町
那智湾に浮かぶ弁天島は、干潮時に道ができ、歩いて渡ることができる小島だ。潮回りによっては干潮時でも渡れないし、潮が満ちるスピードは思ったよりも早いから、渡ったからとのんびりもしていられない。
だが、島からは那智の滝を望むことができるし、そもそも歩いて島に渡るなんて、なかなかできないスペシャルな体験だ。十分な注意を払いながらでも、渡る価値がある。
素足で島に渡ると、陸から柏手を打つ音が何度も聞こえた。地元の方たちが、散歩がてら島に祀られている弁財天に手を合わせているのだ。素朴で近しい信仰が、今もなおこの地に息づいている。
白蛇弁天が祀られている弁天島。商売繁盛などにご利益があるとされ、地元の人たちが島に渡りお参りする姿も珍しくない。天気など条件がよければ、島から那智の滝を望むことも
空の澄み切った青に、雲の白と大地の緑がアクセントを添える。どこまで走っても、那智勝浦の道は目と心に優しい
おじさんも童心に返って大満足!?
カスタマイズが楽しい甘味「滝一御膳」
●滝一御膳(1,100円)
那智勝浦の港町には、アーケードが広がる。かつては大変な賑わいを見せていたそうだが、今は静謐(せいひつ)で味わい深い昭和風情の宝庫だ。純喫茶と呼びたくなるような懐かしい構えの店もあり、郷愁を誘われる。
その一角にあって異色のスタイリッシュさを見せるのが、お菓子とカフェの店「福助堂」だ。創業昭和42年、地元に愛される名店だが、「コロナ禍に、いっそ勝負したろと思いまして(笑)」と、2021年、3代目オーナーが思い切って店舗を改装。地域密着は変わらぬままに、若い観光客たちが集う名所となった。
「映える」ことで人気の看板メニューは、滝一御膳。「御膳」と名付けられているが食事ではなくスイーツだ。ふわふわのブッセをベースにした同店の銘菓「滝一番」に、各種クリームや季節のフルーツを自分でトッピングして楽しめるという、かわいらしいメニューである。
甘さ。甘酸っぱさ。爽やかさ。しっとり。弾ける。軽やか。さっぱり。こってり……。自由に組み合わせられるトッピングが、スイーツの多彩なシアワセを堪能させてくれる。実年齢も性別もすっかり忘れ、とろける世界に浸った。
おじさんひとりでは入店すらはばかられるオシャレな店内だが、「男性のお客さまも珍しくありません」とのこと。カフェメニューも豊富に用意されており、安心してくつろげる
た、楽しい……。ブッセ「滝一番」に思い思いのトッピング。それぞれ組み合わせてもいい。いつまでも、こういうアトラクションにヨロコビを感じる自分でいたいと思う
隣町の新宮(しんぐう)市は城下町で、昔から和菓子屋が多かったそうだ。福助堂もオシャレなカフェスタイルの那智勝浦店の他、新宮店を構えている。実績と歴史があるからこそ、チャレンジも実る
●福助堂/那智勝浦町築地4-3-1 Tel 0735-52-1082 https://k-fukusuke.com/
離れ小島で堪能する特別なひととき
極上の宿と至福のディナー
那智勝浦港の駐車場に車を預ける時点から、素晴らしいもてなしに出迎えられる。ほんのしばらくの待ち時間の後、船着き場に案内される。専用の送迎船に乗って向かうのは、勝浦湾に浮かぶ離島、中の島だ。
乗船時間はわずか5分程度だが、島には「熊野別邸 中の島」しかない。宿泊客だけの特別な空間だと思うと、島が近づくほどに気分が高揚する。旅の中でさらに味わえる旅気分が、ひたすらに楽しい。
スタッフの心からの笑顔に出迎えられ、豪奢(ごうしゃ)にしてセンスのよい宿をひと通り案内していただく。落ち着きのある部屋でひと息……つく前に、見晴らし台を目指して遊歩道を歩いた。
20分ほど行くと、見晴らし台に着いた。待っていたのは、素晴らしい海の景観だ。「紀の松島」と呼ばれるエリアだけあって、大自然が創り出した小島や洞窟、美しい海岸線に目を奪われる。海と空は隅々まで紺碧で、白い航跡を残しながら遊覧船がゆったりと進む。
帰途、遠景に太平洋を望みながら足湯に浸かった。ぷはあっと大きく息を吐き、新鮮な空気を思いっ切り吸い込む。至れり尽くせりとはこのことだ。
専用の送迎船で紺碧の海を行くこと、約5分。エントランスと新館「凪の抄(なぎのしょう)」が出迎えてくれる。中の島は「熊野別邸 中の島」の宿泊客だけの島。極上のひと時が待っている
見晴らし台からの眺めは格別。山道を20分歩くだけの価値がある。途中には足湯「空海(そらみ)の湯」も設けられており、リラックスできるという隙のないもてなしぶり
華やかに彩られた料理の数々は、目にも楽しい
那智勝浦は、豊かな自然に恵まれた地だ。地元の方は「陸路の交通アクセスがもうひとつで、『日本で一番遠い町』なんて呼ばれています」と苦笑いするが、その恩恵が、深い森と美しい海である。
「熊野別邸 中の島」で供される会席料理は、地元産を中心にした紀伊半島の食材が贅沢に用いられている。しかも単に「地元の食材」として採り入れられているだけではなく、歴史的な背景まで加味しながら、創作料理へと姿を変えるのだ。
先付から水物まで、多彩な料理の一つひとつを解説していては、いくらWEBとはいえ、とうてい紙幅が足りない。ここでは「いざなみ米」と「熊野地鶏」だけ例に挙げる。
いざなみ米は、伊弉冉尊(いざなみのみこと)を祀る「花の窟(いわや)神社」への奉納米である。生産量もわずかな、貴重な古代米だ。「熊野地鶏」は、厳しい飼養管理基準のもと、伸びやかに育てられた熊野市の地鶏。弾力とコクに富んだ鶏肉は、著名なシェフからも高く評価されている。
……といった具合に、会席料理の隅々から、紀伊半島の自然と歴史が香り立つのだ。一つひとつの味覚にふくよかな奥行きがあり、箸を進めるたびに新たな発見の喜びがある。前菜から始まり、魚介からお肉、そしてデザートに至るまで紀州の魅力がぎっしりと詰まっていて、紀伊半島を舞台にした壮大な交響曲を奏でる。願うのは、ただひとつ。この豊かさが、末永く守られますように。
贅を極めた心尽くしの会席料理は、紀伊半島産の食材がメインに用いられている。それぞれの持ち味を生かした創作料理は、目で、舌で、そして心で味わえるものばかり
しゃぶしゃぶは「熊野の夏の肉尽くし」と銘打たれており、松阪牛、伊賀牛、熊野牛を食べ比べ。とろけるような自然な甘さは共通しているが、それぞれに味わいが異なり、甲乙つけがたい
海と大地の恵みを、もっとも幸福な形で感じられるのが、料理だ。聖地・熊野をテーマにした会席料理には、食材の魅力を余すことなく引き出そうとする人々の思いが込められていた
穏やかな入り江を望む露天風呂に浸かり
和歌山名物でノスタルジックな食体験
●碧き島の宿 熊野別邸 中の島/那智勝浦町勝浦1179-9 Tel 0735-52-1111 【JAF優待】
「熊野別邸 中の島」を発つ前に、圧巻のスケール感を誇る絶景露天風呂で湯を浴びた。眼前に広がる入り江の眺めと、源泉掛け流しの天然温泉に、日常の澱(おり)というものがすべて洗い流された。
気持ちよく出発し、再び送迎船で那智勝浦港に戻るや否や、スムーズに「にぎわい市場」を再訪していた。昨日はマグロ三昧だったが、今度の狙いは「雑賀屋(さいかや)」の和歌山ラーメンだ。
こってりと濃厚な豚骨醤油スープが、ストレートな細麺によく絡む。食べ進むと、意外にもあっさり風味。いくらでもイケてしまう素朴な味は、昭和生まれにはうれしいノスタルジックな食体験である。
「にぎわい市場」に飾られているマグロのモニュメントは、那智勝浦港で水揚げされたクロマグロとしては最大の重量450kg、全長2.74mのものを模したもの。このモンスターが海の中を駆けている……
深いコクがありながら、決してしつこくない豚骨醤油スープが食欲をそそる。自家製のチャーシューが口中でホロホロととろけ、旨みを加速する。飽きがこない素朴さが魅力の和歌山ラーメンである(和歌山ラーメン 900円、めはり寿司 200円)
●雑賀屋 にぎわい市場店/那智勝浦町築地7-12 Tel 0735-29-3500(にぎわい市場) 【JAF優待】
巡礼と祈りの道・熊野古道を行き
日本随一の名瀑・那智の滝を訪れる
●那智の滝
今からちょうど20年前の2004年、「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界文化遺産に登録された。その象徴的な存在が、熊野古道だ。熊野三山を参詣するための参詣道には、伊勢、吉野、高野山、京都などさまざまな経路がある。いずれも険しい峠をいくつも越え、憧れの熊野へと向かう巡礼の道だ。総延長は1,000kmにも及ぶ。
昔の人は、ルートによっては1か月もの時間をかけ、祈りを込めながら歩いた。残念ながら、現代人の自分にはそこまでゆったりした旅は許されない。当時の面影を色濃く残す大門坂から、那智の滝に向かって少しだけ歩いてみた。
夏の強い日差しを和らげるのは、樹齢800年と言われる杉の並木だ。柔らかい苔に覆われた石段はすっかり角が取れ、途方もない数の人々がここを歩んだことを物語る。人々の敬虔な思いの積み重ねだ。静かな風が渡る。
那智の滝を目の前にして、言葉を失った。133mもの落差を一気に流れ落ちる白い水は、あまりにも神々しい。ただ眺めているだけで、心身が清められていくかのようだ。
その飛沫を浴びれば、延命長寿のご利益があると信じられてきた。滝のすぐそばにある熊野那智大社別宮飛瀧(ひろう)神社には、神を祀る本殿がない。那智の滝そのものを御神体としているからだ。自然崇拝の聖地。人知をはるかに超えた時の営みに畏敬の念を抱くのは、人の心の自然な動きなのだと改めて思う。
しっとりと薄暗い熊野古道に、平安時代の鮮やかな旅装束が際立つ。古の人々が眺めた光景が、そのまま蘇る。平安衣装を纏った現代の母娘は、「暑いので引き返します……」と笑った
●熊野古道大門坂
1400万年前に形づくられた地層を川の流れが徐々に削り、ついには落差133mもの滝になったとされている。現生人類の誕生は30〜20万年前。「偉大な先輩」である那智の滝に神を見出すのは、人として自然な心の動きだ
吉野熊野国立公園にある那智の滝も、熊野古道や熊野那智大社などとともに「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録された。その範囲は日本では最大の約1万1800haにも及び、環境が保全されている
雄大な滝を模したかわいらしい銘菓
もてなしの茶屋でひと休み
●お滝もち抹茶セット(700円)
古の時代から現在に至るまで、参詣者が絶えることのない熊野三山。その象徴的な存在である那智の滝は、時を超えて今も多くの人々を惹きつける。那智の滝のそばには、いくつもの茶屋がある。かつては参詣者が足を休めた茶屋は、今は参詣者と観光客を楽しませる場だ。
「和か屋本店」の名物は、那智の滝の姿を模した「お滝もち」だ。勇壮な那智の滝に比べるとずいぶんかわいらしいフォルムのお餅には、上質な餡とともに延命長寿を祈念する店主の思いが込められている。
焼きたてのお滝もちを、店内の茶屋でいただく。国産の上質なもち米、そして北海道産の小豆で作られた餡。ひとつひとつ丁寧に手作りされたお滝もちは、素朴で自然な甘さが特徴だ。焼きたてならではの香ばしさは、止まらなくなるおいしさ。端っこをくわえてびよーんと伸ばしても落差133mの那智の滝には敵わないが、滝の霊験が体内に取り込まれたように感じた。
名物のお滝もちは、店内で丁寧に焼かれたものをその場ですぐにいただける実演スタイル。焼きたてのお餅は香ばしく、中に詰められた餡の甘さが引き立つ。郷愁すら誘われる、癒やしの和スイーツだ
那智の滝を模した形は、どこか愛らしい。年配のお客さんを中心に、若者たちの間でも人気を呼んでいるそうだ
熊野那智大社・那智山青岸渡寺への参道入り口前にある和か屋本店は、お滝もちをはじめ、銘水くず餅、紀州てまり餅、名産の那智黒石などさまざまなお土産を販売している ●和か屋本店/那智勝浦町那智山456 Tel 0735-55-0720 【JAF優待】
神々の気配が、すぐ近くに感じられる
熊野那智大社で八咫烏の導きを願う
●熊野那智大社
焚き上げられた護摩木が音を伴って燃え盛る。礼殿から聞こえてくるのは、厳かな祝詞と清らかな鈴の音だ。熊野那智大社は、熊野三山の一社であり、全国に4,000社以上ある熊野神社の御本社でもある。
那智の滝を望む高台に位置し、夏の暑気の中でも涼やかな風が通り抜ける。境内には3本足の八咫烏(やたがらす)の銅像があった。日本書紀や古事記によると、この八咫烏は大和国に進軍する神武天皇を道案内し、熊野の海岸への上陸を導いたとされる。熊野の神の使いである。
日本という国の成り立ちを記した神話に登場する八咫烏と、熊野の地。深い山々に閉ざされ、俗界から隔てられた熊野には、人知の及ばない神々の領域がある。熊野那智大社は、そういった聖域と人間界の狭間にあって、厚い信仰を集めてきた。
鮮やかな朱色がまばゆい。古代の人々が神と崇めた太陽をイメージしたとされるこの色には、魔除けや病気除けの願いも込められているそうだ。災厄を遠ざけたいと願う気持ちには、古代も現代もない。だから今もなお多くの参詣者が訪れる。そして敬虔な信仰者とは言えない身ながら、ごく自然に祈りを捧げる。この地に満ちている心地よい力に、素直に従いたい。
「何に、何を」という具体性はなかった。ただ自然に、祈りを捧げたくなる。熊野那智大社には、そういうさりげない風が吹いていた
3本足のカラス、八咫烏は熊野の神々の使い。日本サッカーの始祖にして那智勝浦町の出身の中村覚之助にちなみ、日本サッカー協会のシンボルマークになっている
熊野那智大社には、那智山青岸渡寺が隣接している。手水舎では、ほおずきが踊っていた。熊野は神仏習合の地でもある
西国三十三所観音巡礼の第一番札所である那智山青岸渡寺・三重塔越しに、遠く那智の滝を望む。心に刻まれる、趣深い光景
那智勝浦町の「那智」という言葉が好きだ。由来は例によって諸説あり、よくわからない。だが「那」には「美しい」「豊か」「ゆったり」という意味があり、「智」はもちろん智恵であり、真理を知るといった意味がある。そういう「那」と「智」が組み合わさっているのだから、最強だ。
悠久の時を経て形づくられた、熊野の豊かな自然の造形美。それを目の当たりにして、畏れ、敬った古の人々の心。それはまさに、自然と人のありのままの関わりだ。生命をいただくという行為を大切にし、地元の食材に誇りを持ち、八百万の神々に信仰心を抱く。すべてが那智勝浦にあって、すべてが自然だった。
足早なドライブ旅では、山深く海碧い熊野の魅力をほんの一端しか覗けなかった。それでもこれほど深みのある時を過ごせたのだ。昔の人のように1か月をかけて歩くことができたら、どんなに贅沢だろう。
●那智山スカイライン
今回のごきげんロードマップ
A.勝浦地方卸売市場/B.勝浦漁港にぎわい市場・鮪の脇口/C.弁天島/D.福助堂/E.碧き島の宿 熊野別邸 中の島/F.勝浦漁港にぎわい市場・雑賀屋 /G.熊野古道大門坂 /H.那智の滝 /I.和か屋本店 /J.熊野那智大社/K.那智山スカイライン
「ごきげんロードトリップ」掲載自治体のご紹介
JAF Mate Onlineに掲載していないドライブコースやおすすめスポットなども掲載!
※JAF優待の内容や利用方法などの詳細は、記事内の各施設「JAF優待はこちら」をクリックしてください。JAFナビ
からも検索可能です。
※記載のデータは2024年7月現在のもので、料金は大人1名分(税込)です。変わる場合もありますので、お出かけ前にご確認ください。
取材協力=和歌山県那智勝浦町
和歌山県那智勝浦町の魅力たっぷり! ご当地名産品プレゼントに必要なキーワードはこれ!
ごきげんロードトリップで登場した和歌山県那智勝浦町より、とっておきの名産品をプレゼント。応募にあたっては応募フォームにログインし、キーワードの入力が必要です。名産品プレゼントの詳細は、別公開となっている下記リンクにてチェックしてください。
プレゼント応募用キーワード
まぐろ
和歌山県那智勝浦町ドライブガイド
1.勝浦漁港にぎわい市場【峯達商店】
勝浦漁港に隣接する「にぎわい市場」の中にある土産店。勝浦漁港の生マグロの水揚げ高は全国トップクラス! お土産にぴったりのまぐろ昆布巻やまぐろハムなど、海産物加工品を中心とした那智勝浦ならではの商品がずらりと並ぶ。 東牟婁郡那智勝浦町築地7-12 Tel 0735-29-3500 勝浦漁港にぎわい市場【峯達商店】
2.勝浦漁港にぎわい市場【常世屋】
「にぎわい市場」の中にある土産店。勝浦の銘菓・名品をはじめ、勝浦限定Tシャツや熊野古道の「KODO」キャップなどの雑貨商品も充実。休憩には地域限定の梅ソフトクリームや黒飴ソフトクリームがおすすめ。 東牟婁郡那智勝浦町築地7-12 Tel 0735-29-3500 勝浦漁港にぎわい市場【常世屋】
3.海乃湯(足湯)
勝浦漁港に隣接した、無料で利用できる源泉かけ流しの足湯施設。足だけでなく手を温める「手湯」があるのが特徴。目の前に広がるエメラルドグリーンの海と港を出入りする船を眺めながら、のんびりと手足を温めたい。 東牟婁郡那智勝浦町築地7-1181-442 Tel 0735-52-5311(那智勝浦町観光案内所) 海乃湯(足湯)
4.鮪十屋(まぐろとや)
マグロ一筋100年。老舗マグロ屋直営の生マグロ丼専門店。赤身本来の濃い旨みと上品な甘み、独特なもちもちとした食感の天然生マグロを存分に楽しめる。併設のセルフ直売所での自家製加工品販売や、生マグロの量り売りも好評。 東牟婁郡那智勝浦町築地8-6-5 Tel 0735-52-0071 鮪十屋(まぐろとや)
5.ハーバー食堂 日の出丸
朝7時のオープンから夜の営業まで、新鮮なマグロをはじめとした絶品の魚料理が味わえる。朝はボリュームたっぷりでコスパ抜群の「健康朝ごはん」がおすすめ! 上質なマグロをぜいたくに盛りつけた「まぐろ丼」も大人気。 東牟婁郡那智勝浦町築地4-4-1 Tel 0735-52-0606 ハーバー食堂 日の出丸
6.Kitchen nicori (キッチンニコリ)
那智勝浦の魅力が詰まった創作イタリアンレストラン。看板メニューの「那智勝ピザ」は、生マグロの自家製オイル漬けをたっぷり使用。石窯で焼き上げたパリッとした生地とマグロの相性は抜群で、思わず笑顔になるおいしさ。 東牟婁郡那智勝浦町築地5-2-33 Tel 0735-30-4435 Kitchen nicori(キッチンニコリ)
7.中西商店
紀州みかんと梅の専門店。紀州みかんのソムリエである店主が、数ある生産者の中から甘み、酸味、食感、香りなどを厳選して仕入れたみかんや梅、ジュースなどを販売。年間を通してその時期一番おいしいみかんと梅を堪能できる。 東牟婁郡那智勝浦町築地4-3-6 Tel 0735-52-0206 中西商店
9.bodai
紀州勝浦産の新鮮な生マグロや、農家から直接仕入れる地場産野菜をふんだんに使った創作和食の店。多彩なメニューの中でも不動の人気を誇る「生まぐろ中とろカツ」は、外側のサクッとした食感と中の半レアのトロトロ感が絶品! 東牟婁郡那智勝浦町築地5-1-3 Tel 050-5492-6956 bodai
10.いざかたスタンド
「本当においしいお米を一番おいしい状態で」をモットーに、羽釜炊きにこだわったおにぎり専門店。粒が大きく甘みが強い伊賀米コシヒカリを使用し、丁寧に作られたおにぎりは具材たっぷりで種類も豊富。全種類食べたい! 東牟婁郡那智勝浦町築地4-1-13 いざかたスタンド
11.熊野のめざめ
熊野の食の魅力を発信するレストラン。勝浦漁港で水揚げされたマグロをたっぷり味わえる「まぐろ定食」や「新宮産しらすおろしのだし巻き定食」「韓国風熊野牛の焼肉定食」など、地元の食材にこだわった定食メニューが充実。 東牟婁郡那智勝浦町朝日3-34 Tel 070-8912-1367 熊野のめざめ
12.喫茶ユータウン
昭和レトロな雰囲気の喫茶店。名物はボリュームたっぷりのホットケーキ! 中庭で飼っている愛らしい小鳥を眺めながらコーヒーと一緒に楽しみたい。人気の手作りドーナツは持ち帰りもできるので、ドライブのお供におすすめ。 東牟婁郡那智勝浦町朝日4-79 Tel 0735-52-2387
13.焼きたてのパン サンタ
地元の良質な天然水や無調整牛乳を使い、手ごねにこだわった香り豊かなパンを提供。おすすめは北山村産の柑橘「じゃばら」を使ったパンやスイーツ。ここにしかない、じゃばらブレッドやじゃばらチーズケーキをぜひ味わって。 東牟婁郡那智勝浦町朝日2-239 Tel 0735-52-6624 焼きたてのパン サンタ
14.道の駅なち 丹敷(にしき)の湯
社殿風の駅舎が目を引くJR那智駅に隣接した道の駅。2階にある温浴施設「丹敷の湯」では、雄大に広がる太平洋を眺めながら入浴できる。くつろぎ広場や特産品コーナー、旅の情報案内などもあり、南紀観光の拠点としても便利。 東牟婁郡那智勝浦町浜ノ宮361-2 Tel 0735-52-9201 道の駅なち 丹敷(にしき)の湯
15.休暇村 南紀勝浦【めざめの湯】
熊野灘を一望するホテル「休暇村 南紀勝浦」の温浴施設。野趣あふれる露天風呂「岩風呂」や、かけ流しの壺湯「陶器風呂」、微細な気泡で全身をほぐす「絹肌の湯」などが日帰りで楽しめる。目の前に広がる大海原の絶景は格別。 ※料金、営業時間、営業日はご利用の前に電話にてご確認ください。 東牟婁郡那智勝浦町宇久井719 Tel 0735-54-0126 休暇村 南紀勝浦【めざめの湯】
17.くらしごと
地元で獲れた鹿の革を使い、ポーチやアクセサリーなど普段使いのできる雑貨を制作。自然に囲まれた暮らしの中で、人にも環境にも優しく、ぬくもりの感じられるものづくりを心がけている。少人数での鹿革クラフト教室も開催。 ※店舗の営業は毎週金曜日のみ 東牟婁郡那智勝浦町大野269 くらしごと