文=高橋 剛 / 撮影=阿部吉泰 / イラスト=田中 斉

雪見温泉、焼き肉、キタキツネ、そして郷土愛…魅力あふれる冬の北海道・道東ドライブ!

北海道・上川町、北見市。冬のグルメや温泉、氷瀑まつりをめぐる旅

冬に、北の大地を走る。なんともロマンチックで、なんとも深みがあり、そしてなんとも贅沢だ。広大な北海道の中央部から東部にかけて、豊かな味覚と自然を満喫する冬のドライブは、見応え、走り応え、そして食べ応えたっぷりだった。

目次

人口比ラーメン店舗数、日本一。ラーメンは上川(かみかわ)町の魂だ!

特みそラーメン

あさひ食堂の一番人気、特みそラーメン(1,050円)。分厚いチャーシューが3つものっている

大雪山の麓に広がる上川町には、「上川町ラーメン日本一の会」がある。町の人口は、3,153人(2023年11月現在)。そして町内のラーメン店は、6軒(上川町ラーメンMAP掲載分)。人口も少なければラーメン店舗数も少ないのだが、いったい何が日本一なのだろうか……?

上川町は、人口1万人あたりのラーメン店数が約19軒なのである。これがどういう数字かと言えば、東京都全体では人口1万人あたり約1.4軒。上川町、圧勝である。「いやいや、町と都じゃ比較にならないだろう」という意見もあるだろう。しかし、ラーメン店の多い新宿区に絞っても、人口1万人あたり同じく約1.4軒と、上川町にはまったくかなわないのである。

人口3,000人ちょっとの町に対し、人口1万人あたりで計算するのが妥当なのかとか、本当に全国の全市町村を完璧に調べ上げたのかとか、そういう細かい話はひとまず置いておこう。大事なのは、上川町の人々が「ラーメン日本一」という誇りを持っていることなのだ。

こういう「おらが町は日本一」というアピールは、その信憑(しんぴょう)性や正確性があやふやであればあるほど、地元愛とユーモアが感じられて、大変に心地いい。「上川町ラーメン日本一の会」の発起人、鎌田康雄さんが営む「あさひ食堂」ですすった特みそラーメンは、見た目こそこってりしているものの、素朴にして深みのある味わいだった。

分厚いチャーシューと分厚いメンマが、鎌田さんのサービス精神を表している。だいたい、鎌田さんの小ギャグを交えたトークが面白すぎて、それだけでもおなかいっぱいだ。外は寒いけれど、「あさひ食堂」の店内は暖かい。そしておなかの中はもっと温かい。北の大地のドライブは、ぬくもりとともに始まった。

あさひ食堂の店主、鎌田さん

あさひ食堂のご主人、鎌田康雄さん。「ラーメンで町を活気づけたい」と頑張るアイデアマンだ

あさひ食堂外観

●あさひ食堂/上川郡上川町南町135 ☎︎01658-2-1738

雪景色の中でいただく、家族愛と郷土愛たっぷりのおしるこ

ニセイカウシュッペ山

もちごやマムの店内からはニセイカウシュッペ山が見える。●もちごやマム/上川郡上川町菊水483 ☎︎080-9001-5406 https://www.instagram.com/mochigoyamam/

当地を訪れた2023年12月下旬は、まだそれほど冬が本格化していなかった。場所によってはまったく雪がなく、白尽くしの景色を期待していた僕としては、ちょっと寂しいほどだった。

そういう意味では、ニセイカウシュッペ山の麓にあり、雪原の中にぽつんと立つ真っ青なカフェ──「もちごやマム」は、僕のイメージ通りの「ザ・冬の北海道」だ。コントラストの利いた爽やかな光景に、テンションが高まる。

こぢんまりとしていながら居心地のいい店内は、「なぜこの場所に……?」と若干失礼な疑問が湧き上がってしまうほど、オシャレな空間だ。二つの大きな窓からはニセイカウシュッペ山の壮大な山容が望め、まるで絵画である。

「もちごやマム」は、近隣にある辰巳農園の直営店。そして店主は、辰巳佳子さん。つまりご両親が農園を経営し、娘さんが直営店の「もちごやマム」を切り盛りしている。

「私自身、両親が作った農作物を食べて育ったんですが、本当においしいんですよ! このおいしさとヘルシーさを、より多くの方にお届けしたくて」と佳子さん。ご両親が作った農作物のおいしさを広めたくて、娘さんが経営するカフェ。これだけでおなかも胸もいっぱいになる。

辰巳農園の畑では、もち米、大豆、そば、トウモロコシなどさまざまな作物を作っているが、最も作付面積が広いのはもち米だという。「甘みと旨みが他とは違います」。朴訥(ぼくとつ)とした語り口調ながら、佳子さんの言葉に熱がこもる。

そして、その言葉には偽りも誇張もなかった。いただいた「おしるこ緑茶セット」は、なんとも滋味深く、スウッと喉を通ると同時に心まで洗われていく。どこまでも優しい自然な甘みは、親の仕事を誇りに思う娘心そのものだ。

店内の調度品は、古いもののリユースがほとんど。捨てられてしまうような家具などに手を入れ、上質なインテリアに蘇(よみがえ)らせている。佳子さんに上川町のよさを聞くと、「いいところですか? ありすぎます!」と即答した。親子の絆と郷土への想い。愛にあふれる「もちごやマム」なのだった。

お汁粉

手作りあんこに上川町産の焼き餅が2つ入ったおしるこ緑茶セット(800円)

もちごやマム店内

大きな窓から眺める雪景色は、まるで絵画のよう。ニセイカウシュッペ山が優しく見守る

辰巳佳子さん

もちごやマム店主の辰巳佳子さん。両親の農園で作られた作物を、よりおいしく提供したいと奮闘する「できた娘さん」

カフェインレスの大豆コーヒー

地域の特産品でもある大豆コーヒー。カフェインレスでありながら香ばしい味わいが楽しめる(450円)

雪道を登る価値あり! 一度は見たい、凍りついた夫婦滝

双瀑台(そうばくだい)展望台

●双瀑台展望台/上川郡上川町層雲峡 ☎︎01658-2-4058(上川町産業経済課)

ザクザクと鳴く足元の雪。ハァハァという自分の吐く息。聞こえる音は、それだけだ。風もなく、木々がこすれる音もしない。静寂の中で、でも、多くの動物たちがこっちを見ているのかもしれない。本当の大自然の中で、独特な緊張感に包まれる。

目指しているのは、双瀑台(そうばくだい)展望台だ。「層雲峡に行くなら、ぜひ足を運ぶべき」とされる観光スポットである。双瀑──2つの滝は、「銀河の滝」と「流星の滝」と名付けられている。銀河の滝だけなら駐車場からでも眺められるが、やはり1本では物足りない。せっかくなら銀河と流星の両方を同時に眺めたい。眺望に期待しながら、雪道を踏みしめている。

急勾配な階段は、滑り落ちたらそのまま一番下まで落ちてしまいそうだ。学生時代に少し嗜んでいた登山を思い出し、足の裏全体を接地させるようにしながら、ひたすら上る。つづら折りを何度か折り返す。そして──。

展望台に到着すると、左手に銀河の滝、右手に流星の滝が見えた。凍てついた滝は寒々しくも峻厳(しゅんげん)で、水墨画のように美しい。繊細なふくよかさがある銀河の滝を「女滝(めだき)」、一本調子でダイナミックな流星の滝を「男滝(おだき)」とし、2つ合わせて夫婦(めおと)滝とも呼ばれる。

長い長い時間をすぐ隣で過ごしながら、決して相まみえることのない2つの滝。大自然が途方もない時間をかけて生み出した造形美を、夫婦という身近な人間関係になぞらえるのが面白い。夫婦滝を擁する層雲峡の語源は、「滝の多い川」を意味するアイヌ語の「ソウウンベツ」なのだそうだ。

至上! 静かな夕日と雪山を眺めながらの露天風呂

ホテル大雪露天風呂

雪山を眺めながら露天風呂「天華の湯」に浸かれば、大自然に溶け込むかのような感覚が味わえる

層雲峡は、石狩川が幾万年もの時をかけて大地に刻みつけた断崖絶壁だ。壮大な大自然の彫刻を眺めながら、たっぷりのお湯に浸かる。「ぷはぁっ!」と大きく深呼吸すると、ひんやりとした冬山の空気が体中を駆け巡ってシャッキリする。温かい湯と清々しい空気のコントラストは、露天風呂の醍醐味だ。

「ホテル大雪」は、北海道でも有数の景勝地である層雲峡で今年創業70周年を迎える老舗だ。館内には5つものお風呂があるゴージャスさ。そのうち2つは露天風呂だ。僕は今、ダイナミックな雪山を眼前にした「峡谷露天風呂 天華の湯」に浸かっている。

「チチチッ」と小鳥のさえずりが聞こえるほかは、豊かな湯が立てるちゃぷちゃぷという波音だけ。これ以上何がいるのだろう。(当然ながら)真っ裸で温泉に浸かっている僕は、もはや層雲峡の一部と言ってもいい。それぐらいリアルに自然との一体感を感じるお風呂だった。

ひとしきり湯を浴びて、お楽しみの食事だ。モダンさと温かさ、スタイリッシュさとナチュラルさが入り交じる楽しいダイニング、「HINNA(ヒンナ)の森」に足を運ぶ。和洋中の料理は、北海道の食材を中心に作られた約100品目が用意され、もう、見ているだけでわくわくする。落ち着いていられるはずがない。アレも食べ、コレも試し、ソレも味わっているうちに、知らず知らずのうちに時が経つ。どれもおいしいからだ。

「いろんな出来事がありましたが、その都度乗り越えてきました」と総支配人の大西稔さん。コロナ禍の影響も少なくなかったが、「ピンチはチャンス」とばかりにリニューアルを敢行した。しかも、従業員の皆さんの雇用も守り抜いたのだと言う。

その攻めの姿勢が、コロナ禍がほぼ明けた今、完全に花開いている。リピーターが多いのは、料理も施設もどんどんレベルアップしているからだ。変わらない姿を見せてくれる層雲峡にあって、たゆまぬ進化を続ける「ホテル大雪」。次に訪れるときが楽しみになるホテルだ。

ホテルのビュッフェ

ビュッフェダイニングHINNAの森では、北海道の食材を使った和・洋・中の料理が常時100種類以上並ぶ

ベーカリー

1階にはベーカリーカフェコーナーも。店内では毎日焼きたてパンが楽しめるほか、オリジナルブレンドのコーヒーも人気

ホテル大雪外観

●ホテル大雪/上川郡上川町層雲峡 ☎︎01658-5-3211 https://www.hotel-taisetsu.com/ 【JAF優待】

冬だからこそ、上川町は熱く盛り上がる!
氷瀑まつりは1月27日〜3月17日に開催

層雲峡氷瀑まつり

写真=(一社)層雲峡観光協会

北海道・冬の三大まつりの一つとして知られる「層雲峡温泉氷瀑まつり」。滝が凍るほどの寒さを生かして作られたさまざまな氷のオブジェやモニュメントが色とりどりに美しくライトアップされ、幻想的な風景が生み出される。

氷のオブジェは、前年秋から骨組み作りが始まる。冬の訪れとともに石狩川の水を骨組みに吹きかけ、凍ってできたつららを少しずつ大きく育てながらオブジェへと仕上げていく。

できあがったオブジェが照らされると、まるでファンタジーの世界。大人向けの氷酒場や、子供から大人まで楽しめるイベントやチューブスライダー、そして花火大会と、期間中は上川町を熱く盛り上げる。

層雲峡氷瀑まつり

層雲峡氷瀑まつり

氷瀑まつりは1月27日(土)~3月17日(日)、17:00〜21:30に開催。夜には花火も上がる。●上川町層雲峡温泉氷瀑まつり特設会場(入場料は協力金として1人につき500円)/上川郡上川町層雲峡温泉 ☎︎01658-2-1811(層雲峡観光協会)https://sounkyo.net/hyoubaku/

モッフモフのキタキツネがすぐそばに! 立ち寄り必須の北きつね牧場

北きつね牧場

動物好きな僕からしてみれば、夢のような経験だった。キタキツネが自分のすぐそばにいて、くつろぎ、あくびをし、寝転び、そして木に登っているのだ。……木に!? 木の上に、キタキツネが!?

その名も「北きつね牧場」。キタキツネを間近で見ることができる施設ということで、これはもう、立ち寄らざるを得ない。キタキツネは北海道のマスコット的な存在だ。道内では決して珍しくないし、実は今回のドライブ中にも走り去る野生のキタキツネを見かけた。

しかし「北きつね牧場」は、約50匹ものキタキツネがのびのびと放し飼いにされているエリアの中に、人間が徒歩で入っていく施設だ。いわば、歩くサファリパーク。ワクワクする……。

二重扉を開けてエリア内に入ると、さっそくキタキツネたちが出迎えてくれた。モッフモフである。触りたい……が、触らないのがルール。残念だが、飼いならされているわけではないキタキツネならではのワイルドさは、少し距離を置いて堪能すべきだ。

それにしても、かわいい……。モッフモフの柔らかそうな毛並みはもちろん、犬のように人に興味を示し、猫のようにしなやかかつ軽やかに走る。そんなキタキツネがワサワサしているのだから、犬と猫の両方が好きで、両方を飼っている僕からしたら、パラダイスである。

しかも、「キタキツネは木に登る」という新しい知見まで得ることができ、大満足だ。野生のキタキツネを見かけてもエサをあげたりせず、遠くからそっと見守るだけにしてほしい。そして間近で彼ら・彼女らの愛らしい姿を見たければ、ぜひ「北きつね牧場」に足を運んでいただきたい。

北きつね牧場

好奇心旺盛な若いキタキツネが近寄ってきた。手を出すことはできないが、モフモフをこんなに間近で見られるのは牧場ならでは

北きつね牧場外観

●北きつね牧場/北見市留辺蘂町花丘52-1 ☎︎0157-45-2249(入場料500円)https://kitakitsune-farm.com/ 【JAF優待】

人々に幸せと笑顔を届ける、おんねゆ温泉名物の白花豆スイーツ

ふじや菓子舗の菓子

ふわふわのカステラ生地に白花豆あんが入っている白花かすてら(150円)と、先代から受け継いで作り続けているたぬきケーキ(315円)

創業1913年。大正2年に始まり、昭和と平成を超え、令和の今まで110年もの歴史を有する老舗が、おんねゆ温泉の「ふじや菓子舗」である。……などと書くと、重厚な木造の建物でたったひとつの味を守り抜く頑固一徹の和菓子屋さん、というイメージだが、「ふじや菓子舗」はいかにも街角のケーキ屋さん。明るく、親しみやすい雰囲気だ。

「ふじや菓子舗」の人気商品は、北見市が生産高日本一の「白花豆(しろはなまめ)」を使ったスイーツ。数多い豆類の中でも白花豆はひときわ大きく、ふくよかな厚みが特徴だ。正式名称は「ベニバナインゲン」だが、白い大きな花をたくさん咲かせることから白花豆と呼ばれる。

「北見の冷涼な気候に育まれた白花豆を、餡にするとすごくおいしい……」。そう気づいた3代目の藤田照さんが、手間と工夫と改良を重ねて「白花かすてら」をはじめとした白花豆スイーツを開発。今ではすっかり名物となった。

「すっきりとした上品な甘さが特長なんですよ」と藤田さん。その言葉通り、「白花かすてら」はスイーツ好きの僕にとってはたまらない逸品だ。ふわっとした生地に優しく包まれた餡からは、自然な甘みが広がる。生地自体も白花豆はちみつが練り込まれており、ほっとするおいしさ。いくらでも食べられてしまう。

藤田さんは、少し表情を引き締めてこんな話をしてくれた。「北見は今、多くの田舎と同じように、人口減が大きな問題になっています。当店はおかげさまでご高齢のお客さまにもご愛顧いただいていますが、やっぱり子供たちの笑顔も見たい。地元の子たちが喜ぶような商品もおろそかにしないように心がけています」

その代表格が、たぬきケーキだ。先代から受け継がれるたぬきケーキは、まさに昭和スイーツの代名詞。ちょっと懐かしいバタークリームと、ちょっととぼけたたぬきのフォルムが、昔も今も子供たちの舌と目をとりこにする。

白花豆スイーツが北見の名物となった一方で、地域密着型スイーツも守り続ける「ふじや菓子舗」。今日も北見の人々に幸せを届けている。

ふじや菓子舗の店主藤田さん

ふじや菓子舗店主の藤田照さん。大正2年の創業時は和菓子屋だったが、今では和菓子、洋菓子どちらも製造している

白花豆

上品でさっぱりした甘みが白花豆の特長。同店では10種類以上の白花豆スイーツを提供している

ふじや菓子舗外観

●ふじや菓子舗/北見市留辺蘂町温根湯温泉194 ☎︎0157-45-2228 https://fujiya-confectionery.com/

自然の豊かさのバロメーター、巨大イトウと出会える水族館

イトウ

引き締まった体躯。精悍(せいかん)な顔立ち。イトウは獰猛(どうもう)な性格で、他の魚やネズミ、ヘビまでも食べてしまうのだという

「山の水族館」。このネーミングだけで、魚好き、釣り好きの僕の心はときめく。間違いない。きっと、あの魚に出会えるはずだ。今はもう、本州には生息していない、あの魚。漫画『釣りキチ三平』で三平と死闘を繰り広げたあの魚、イトウに……。

いた。本当に、いた。巨大水槽の中を、イトウが悠然と泳いでいる。感動だ。「山の水族館」では、幻の魚イトウの天然魚を20匹以上飼育している。そのサイズは、ゆうに1m以上。わずかに体をくねらせゆったりと泳ぐ様子に、心を奪われる。

水槽の中のイトウは、くつろいでいる王者のようだ。逞(たくま)しく、風格があり、迫力を放っている。いつまでも眺めていたい。1mになるまで約15年かかるといわれているイトウについて、同館の山内創館長がこんな生態を教えてくれた。

「サケ科のイトウは、川で卵から孵(かえ)り、ある程度成長すると海に下ります。そして産卵のために、生まれ育った川に戻ってくる。これを母川回帰性と言います。同じサケ科でもカラフトマスは母川回帰性が弱く、生まれた川の環境が悪化していれば同水系の別の川へ……という柔軟性があります。でもイトウは頑固。どの川のどの支流のどの沢、といったレベルで、正確に故郷に戻ろうとするんです。

そして、ある支流で繁殖したイトウは、別の支流では繁殖できないようなんですよ。つまり、ある支流のイトウがいったん途絶えてしまうと、別の支流から補充することができない。環境変化に極端に弱いんですよね……」

ということは、河川が開発されればされるほど、イトウは減る一方ではないか……。「残念ながら、その通りなんです」と山内館長。イトウを守ることは、環境そのものを全体として守ること。目の前を悠然と泳ぐイトウは、北海道という大地の豊かさのバロメーターなのだ。

この魚を絶やしてはいけない。強くそう思った。「山の水族館」は、冬の凍りついた川の下で過ごす魚の様子や、滝つぼの泡で外敵から身を隠しながらエサを待つ魚を観察できる。イトウはもちろん、それら多様な魚たちの営みを守ることは、環境を守ることであり、ひいてはそれが人間の健全な暮らしを守ることでもある。イトウをきっかけに、いろいろと考えさせられた。

イトウの水槽の前にいる男性

イトウは豊かな自然環境の象徴。「絶対に絶やしてはいけない」と強く思う

オショロコマの水槽

滝つぼを再現した水槽では、激流を泳ぐオショロコマの姿を下から見ることができる

山の水族館外観

●山の水族館(北の大地の水族館)/北見市留辺蘂町松山1-4 (入場料670円) ☎︎0157-45-2223 https://onneyu-aq.com/

ホルモン焼き屋さんで人気の「メドン」とはいったい!?

板門店の目丼

白ごはんの上に秘伝のタレで味付けした目玉焼きをのせた丼「目丼」(並盛450円)

難しいことを考えていると、何が起こるかご存じだろうか? おなかが空くのである。北見の町をそぞろ歩いていると、香ばしい煙が漂ってきた。「ホルモン焼 板門店」の赤提灯(あかちょうちん)に誘われて扉を開けると、炭火のはぜる音。食欲全開だ。

名物を聞くと、「やっぱりメドンかなあ」と3代目店主の松山智望さん。恐竜か巨大ザメの名前ではないかと思ったが、もちろん違った。「目に、どんぶりの丼。目丼です」と松山さんは笑う。知る人ぞ知る北見の人気メニューで、同店では締めでの注文が多いという目丼。いったいどんな丼なのだろう?

まずは焼き肉をいくつか注文する。ホルモンを中心に、牛サガリや牛カルビなど、炭火でこんがり焼くお肉は、どれをいただいてもうまい。「北見は焼き肉の町なんですよ」と松山さん。北見市民が集まると、焼き肉パーティーがごく普通。海に行くにも焼き肉セットを持参するそうだ。

ひとしきりお肉をいただいてから、いよいよ目丼である。「はいっ、どうぞ〜」。登場した目丼は、絶妙な半熟加減の目玉焼きがドーンとのった丼メシだった。目玉焼きの丼だから、目丼。青のりこそ散らされているものの、シンプルの極み。こういう食が愛される町は、いい町に決まっている。

「食べ方は自由なんですよ。焼き肉をのせて食べてもいいし、もちろんそのまま食べてもOK。皆さんマイスタイルで楽しんでいらっしゃいます」。ますます気に入った。秘伝のタレで味付けされた目玉焼きを、まずはそのまま……。う〜ん、こってり濃厚な卵の風味が口いっぱいに広がってから、タレの旨みが追いかけてくる。ご飯とのマッチングは言うことなし。これはうまい!

そして今度は焼いたホルモンと一緒に……。ま、ますますうまい……! 歯応えのあるホルモンと柔らかい目丼が織りなす最上級のマッチングに、箸が止まらない。さぞや開発に時間をかけた逸品なのだろうと目丼の成り立ちを聞くと、「いつできたのか先代に聞いたら、『もう忘れちゃったよ』とアッサリ言われちゃいました」と笑う松山さん。

その起源自体、「お店の賄いメシだった」とか、「目玉焼きをおかずにご飯を食べているお客さんに、『それならのせちゃおう』と丼にした」とか、諸説あってはっきりしないそうだ。いずれにしても、今や目丼目当てで板門店を訪れる人が増え、繁華街でひとしきり飲んだ後、締めの一杯として目丼を食べて帰る熱烈なファンも多いのだとか。

さらには転勤族の憩いメシにもなっている、目丼。「次の赴任先が決まると、後任の方を連れてきてくれるんですよ」と、目丼の引き継ぎ式が行われるらしい。こういう地に足が着いた食文化もまた、イトウと同じく、絶対的に守るべき存在だ……。いっぱいのおなかをさすりながら、つくづくそう思う。

店主の松山さん

「目丼は自由な食べ物。皆さんマイスタイルで楽しんでいらっしゃいます」と、板門店店主の松山智望さん

焼き肉でタケノコを焼く

右側のホースのようなホルモンはタケノコと呼ばれる血管の部位。希少部位で、弾力のある食感が癖になる

北見炭火焼肉板門店外観

●北見炭火焼肉板門店(はんもんてん)/北見市北7条西4丁目8-1 ☎︎0157-24-2626 https://kitami-hanmonten.com/

サロマ湖畔のホテルで、静寂という贅沢を味わう

サロマ湖の畔

北見の人たちに「今日はサロマ湖に泊まるつもりなんです」と話すと、決まって「ああ、鶴雅(つるが)ですか」と返ってくる。「サロマ湖鶴雅リゾート」は、自然が守り抜かれたサロマ湖畔の国定公園エリア内に建てられている瀟洒(しょうしゃ)なホテルだ。

サロマ湖は、静寂で雄大な湖だ。自然さえあれば他に何もいらないタイプの僕にとっては、非常に魅力的である。こういうひたすら伸びやかな場所で、ただあるがままの自然を全身に感じる。もっとも贅沢な時間の使い方だと思う。「サロマ湖鶴雅リゾート」は、そういうちょっと大人なひと時を過ごすには最適だ。

昨夜は、北見のホルモン焼きを経てから、ホテルのビュッフェまでいただいてしまった。季節の海鮮盛り合わせ付きバイキンクを心ゆくまで堪能し、我が体内は北海道の恵みに満ち満ちている。上質な眠りをたっぷりとり、少し早起きしてサロマ湖畔を散策した。

目の前に広がっているのは、音のない世界だ。風もなく、波音もしない。ぺったりとした水面がはるかかなたまで続いていて、朝の霞の向こうに水平線が消えていく。空気はピシッと冷たいのに、朝日の柔らかい暖かさをほのかにはらんでいる。霜に覆われた大地を、踏みしめながら歩く。空は淡いパステルカラーのグラデーションに彩られ、湖岸に横たわる巨木の丸太が時の流れを思わせる。

昨日は目丼の誘惑に負けてつい時間を費やし、サロマ湖の美しい夕日を見逃してしまった。しかしこうして爽やかな朝を味わえているのだから、なにひとつ文句はない。そして僕の細胞の叫び声が聞こえる。「ここが好きだ!」と。次の機会には、夕日から朝日まで何もせずに過ごしたい。そのために、北見の目丼はもう少し早めに食べよう。

季節の海鮮盛り合わせ

ディナーはビュッフェを選択。季節の海鮮盛り合わせを追加オーダーした

客室からサロマ湖を眺める男性

●サロマ湖鶴雅リゾート/北見市常呂町栄浦306-1 ☎︎0152-54-2000 https://www.s-tsuruga.com/ 【JAF優待】

サロマ湖周辺を走る車

せっかくなので、サロマ湖を一周してみた。サロマ湖鶴雅リゾートから第1湖口までは軽く50km近い道程で、なかなかの走り応えだ

drop-inのスープカレー

帰り際に立ち寄った北見のdrop-in。定番のやわらかチキンと野菜のスープカレー(1,300円)。辛さは8段階から好みで選べる

drop-inの看板

●ドロッピン(drop-in)/北見市北進町4-1-18 北進フリーダムビル2階 ☎︎0157-31-1061

夕暮れの道東を走りながら思う。「もっと巡りたい」と

夕暮れの旭川周辺

北海道を訪れていつも思うのは、「足りない」ということだ。見足りない。食べ足りない。そして、走り足りない。北の大地はあまりにも広大で、ちょっとしたドライブではとうてい足りない。だが、だからこそ何度でも訪れたくなるし、何度訪れてもまた来たくなる。

今回のドライブで、北海道の何かがわかったなんて、まったく思わない。自然の豊かさの一端を知ることができたし、とんでもないグルメや、冬に負けない人の温かさや、深く強い地域愛に触れることもできたけれど、それも北海道の魅力のほんの一部だ。

広い土地というのは、大変な価値と可能性が埋め込まれているものなのだ。僕はひとりの旅人として、そのごく一部──わずか400km弱を車で走ったわけだが、それだけでおなかと心がいっぱいになった。

そして、やっぱり足りない。この地をもっと、巡りたい。

今回のごきげんロードマップ

上川町、北見市イラストマップ

A.あさひ食堂/B.もちごやマム/C.双瀑台展望台/D.上川町層雲峡温泉氷瀑まつり/E.ホテル大雪/F.北きつね牧場/G.山の水族館(北の大地の水族館)/H.ふじや菓子舗/I.北見炭火焼肉板門店/J.サロマ湖鶴雅リゾート/K.ドロッピン(drop-in)

「ごきげんロードトリップ」掲載自治体のご紹介

JAF Mate Onlineに掲載していないドライブコースやおすすめスポットなども掲載!

現地へ足を運ぶといいことあるかも!?
JAF会員対象特別キャンペーン

2月13日(火)~3月31日(日)まで、北見駅前観光案内所にてJAF会員証を提示し「JAF Mate Onlineを見た」とお伝えいただいた方に、北見特産品「オニオンスープミニギフト」をプレゼントいたします。
※会員本人のみ
※なくなり次第終了

※JAF優待の内容や利用方法などの詳細は、記事内の各施設「JAF優待はこちら」をクリックしてください。JAFナビ からも検索可能です。
※記載のデータは2023年12月現在のもので、料金は大人1名分(税込)です。変わる場合もありますので、お出かけ前にご確認ください。
取材協力=北海道・上川町、北見市、大雪国道広域観光推進協議会

北海道・上川町、北見市の魅力たっぷり! ご当地名産品プレゼントに必要なキーワードはこれ!

ごきげんロードトリップで登場した北海道・上川町、北見市よりとっておきの名産品をプレゼント。応募にあたっては応募フォームにログインしてキーワードの入力が必要です。名産品プレゼントの詳細は、別公開となっている下記リンクにてチェックしてください。

プレゼント応募用キーワード

きたきつね

名産品プレゼントビジュアル

北海道・上川町、北見市の絶品グルメをプレゼント!

北海道・上川町、北見市ドライブガイド

1.北海道アイスパビリオン

世界最大級のスケールを誇る、寒さ体験を年中楽しめる美術館。通年マイナス20℃に保たれた幻想的な氷の世界を体験できる。1月20日からは冬期イベント「雪だるまとカマクラの里」を開催。大人も子供も大興奮の、そり遊びが大人気! 上川郡上川町栄町40 ☎︎01658-2-2233 北海道アイスパビリオン

2.KINUBARI COFFEE ROASTERS

イベント会場など、さまざまな空間でコーヒーを提供してきたKINUBARI COFFEE 初の実店舗ロースタリーカフェ。ナチュラルプロセスのコーヒー豆を中心に、じっくり時間をかけて自家焙煎したコーヒーを提供する。ランチの利用もおすすめ。 上川郡上川町南町1058 ☎︎01658-7-7285 KINUBARI COFFEE ROASTERS

3.KAMIKAWA KITCHEN

上川町で搾乳された生乳からチーズを作る工房。店内では出来立てのモッツァレラチーズをはじめ、ヨーグルトや焼き立てパン、ピザも販売。各種チーズは量り売りもOKなので、おいしいチーズが気軽に楽しめる。 上川郡上川町北町189-3 ☎︎01658-7-7201 KAMIKAWA KITCHEN

4.上川大雪酒造 Gift Shop 緑丘蔵

上川大雪酒造は、大雪山系の湧水を源流とする天然水と、北海道産の酒造好適米を使用し、地元産のおいしい素材にこだわり、伝統的な手法で小仕込み・高品質の酒造りを行っている。併設の「Gift Shop緑丘蔵」は、道路からもよく見える大きな家紋が目印。 上川郡上川町旭町25-1 ☎︎01658-7-7380 上川大雪酒造

5.フラテッロ・ディ・ミクニ

フレンチの巨匠・三國清三氏がプロデュースしたオーベルジュ。上川の地元食材を中心に、ここでしか体験できない最高の料理が味わえる。目の前に広がる雄大な牧草地を眺めながら、ゆったりと流れる贅沢な時間を楽しみたい。 上川郡上川町菊水旭ヶ丘 ☎︎01658-2-3921 フラテッロ・ディ・ミクニ

6.BLACK MOUNTAIN COFFEE by Columbia

黒岳ロープウェイ駅舎3Fにあるカフェ。木の温もりを感じる、Wi-Fi完備のカフェスペースで、心地よいコーヒータイムを。奥にはアウトドアブランドColumbiaのグッズを販売する「Columbia Field Store」があり、ショッピングにも便利。 上川郡上川町層雲峡温泉 黒岳ロープウェイ駅舎3F ☎︎090-9438-1720 BLACK MOUNTAIN COFFEE by Columbia

7.道の駅 おんねゆ温泉
果夢林(かむりん)の館

北見の奥座敷として、地元客が多く利用する道の駅おんねゆ温泉に併設された「果夢林の館」。木の温もりを感じる工芸品や特産品、お土産の販売をはじめ、木の砂場や木製釣り堀などの遊具や、初心者でも安心のクラフト体験工房がある。 北見市留辺蘂町松山1-4 ☎︎0157-45-3373 道の駅 おんねゆ温泉 果夢林の館

8.美白の湯宿 大江本家

源泉かけ流し100%の天然温泉と、地元食材を使った四季折々の食事が人気。目の前に広がる北海道の自然の息吹を感じながら、開放感いっぱいのひとときを。※男性大浴場のみ3/24~4/26までリニューアル工事につき一部利用不可。詳細は下記公式HPより。 北見市留辺蘂町温根湯温泉466-1 ☎︎0157-45-2511 美白の湯宿 大江本家

9.北見の菓子司 羽前屋

創業明治43年の老舗菓子店。名物の「赤飯まんじゅう」は、北見産もち米のお赤飯が入った縁起の良いおまんじゅう。北見名産の玉ねぎを使ったハート型の「玉ねぎパイ」はお土産におすすめ。和菓子から洋菓子まで幅広い甘味を揃える。 北見市中央三輪9-1-6 ☎︎0157-36-7777 北見の菓子司 羽前屋

10.回転寿し トリトン 三輪店

遠軽・旭川・札幌・東京にも店舗を展開する北見生まれの回転寿司店。毎朝市場で仕入れる北海道産の新鮮な魚介や、腕利きの寿司職人が一手間かけて仕込む独自のネタが自慢。新鮮さと品質にこだわった「最高に旨い一貫」をご賞味あれ。 北見市東三輪4-12-20 ☎︎0157-23-5555 回転寿し トリトン 三輪店

11.sabbath bar

北見は、腕のいいバーテンダーが数多く集まる「カクテルの街」。全国大会出場常連のオーナー・黒田氏が作る極上のカクテルを飲みながら、くつろいだ気持ちでお酒を楽しめる。人気の高いオリジナルカクテルもぜひ味わって。 北見市北5条西3-1-2 銀座ソシアルビル2F ☎︎0157-26-1266

12.四条(よじょう)ホルモン

1977年開業の人気ホルモン店。冷凍しない生の肉を仕入れ、1週間~10日程度熟成させるのがおいしさの秘密。タレは開業当時から引き継いでいる秘伝の特製生ダレ。炭火でじっくり焼いたホルモンや焼き肉がリーズナブルに堪能できる。 北見市北4条西1-14 ☎︎0157-23-1927 四条ホルモン

13.ホテル黒部

北見開拓の草創期に創業し、100年以上の歴史を持つ老舗ホテル。北見駅から近く観光にも便利な立地で、温かいおもてなしに定評がある。ご当地グルメ「オホーツク北見塩やきそば」発祥のレストラン「シェルブルー」もおすすめ。 北見市北7条西1-1 ☎︎0157-23-2251 ホテル黒部

14.遊木民族

河西ぼたん園の中にある、白壁に瓦屋根がレトロな築70年のカフェ。四季折々のぼたん園の景色を眺めながら、地元食材を使ったおいしい料理やデザートを楽しめる。グループでも使いやすい個室や、子供連れに嬉しいお座敷も完備。 北見市花月町6番3(河西ぼたん園内) ☎︎0157-33-1324 遊木民族

15.お食事処 三福 東店

もともとはそば屋なのに、一番人気メニューはなんと「あんかけ焼きそば」。しっかり炒めた特製自家製麵と、具だくさんでボリュームたっぷりのアツアツ餡がたまらない! 地元で知らぬ人はいない、北見のソウルフードをぜひ。
北見市大町107-11 ☎︎0157-23-8190
お食事処 三福 東店

16.菓子工房Shiga

創業1917年。100年続く伝統を守り、手間を惜しまない丁寧な製品づくりを続けている。バター、卵、生クリームは北海道産、小麦粉や塩はオホーツク産を使用し、看板商品「ワッフル」をはじめとした地域色豊かなスイーツを提供。 北見市端野町三区2-4 ☎︎0157-56-2030 菓子工房Shiga

17.【流氷窯】北見市常呂町手工芸の館

常呂の特産品「ところ流氷焼」の窯元。オホーツク海を象徴する流氷をモチーフにし、地元の粘土やホタテ貝などを使って焼き上げる流氷焼の製造販売を行っている。オリジナルの器が作れる工房利用や、気軽にできる一日陶芸体験も人気。 北見市常呂町土佐2番地34 ☎︎0152-54-2272 【流氷窯】北見市常呂町手工芸の館

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