欧州車から国産車までエンブレムのフラット化が進む理由とは?|自動車交通トピックス
文=諸星陽一

日産・ホンダ・マツダ・スズキ……なぜクルマのエンブレムは“平たい顔”に? フラット化が進む理由とは?

欧州から国産メーカーまで次々とフラット化。その本当の理由は“デジタル時代”にあった!

近年、クルマのエンブレムやブランドロゴが、次々と凹凸の少ないフラットなデザインへと変わってきている。アウディやBMWといった欧州メーカーをはじめ、日産やホンダ、マツダなど国産メーカーにもその流れは広がっている。なぜ各社そろってフラット化を進めているのでしょうか? そこにはデジタル化の進展や、クルマに求められる役割の変化といった、時代ならではの理由が……。

目次

気づいた? クルマのエンブレムが“平たい顔”になってきた

日産、マツダ、スズキ、ホンダの新エンブレム

上段左から日産、マツダ、スズキの新しいエンブレム。下段はホンダが次世代EVに採用予定のエンブレム。いずれも立体的なデザインから平面的なデザインになった

近年、クルマのエンブレムや自動車メーカーのブランドロゴが平たくフラットなデザインになってきたと感じている人も多いのでは? 実際、その傾向は事実。映画「テルマエ・ロマエ」では日本人を「平たい顔族」と表現していたが、いまやクルマのエンブレムやブランドロゴも、まるで「平たい顔族」になったかのようにフラット化が進んでいる。

この流れはヨーロッパから始まったとされている。2010年代中盤、アウディは立体的だったフォーリングスのロゴを平面的なデザインへ変更。当初は企業ロゴのみだったが、次第に車両にも採用されるようになった。その後、ルノー、フォルクスワーゲン、ミニ、BMWなど、欧州ブランドを中心にフラットエンブレム化が広がった。

国産では2020年の日産からフラット化が波及

日産アリアのフロントエンブレム写真

日産のロゴは透過光で光らせることも考えられている。写真はアリアのフロントグリルに装着された新エンブレム。フラットといいながら若干のラウンド形状を持つ

2020年代に入ると国産車メーカーにもこの動きが波及。先陣を切ったのは日産で、2020年7月から企業ロゴと車両ロゴの両方をフラット化した。

ホンダは2024年1月、アメリカで開催されたCES2024にて新しいロゴを発表。ニュースリリースでは「次世代EVへの新たな決意を示す新『Hマーク』」と説明され、Honda 0(ゼロ)シリーズを含む次世代EVに採用されることが明らかにされている。一方で、既存モデルへの展開については明言されていない。

直近では、2025年のジャパンモビリティショーでマツダがブランドシンボルの変更を発表した。翼をイメージした「M」の基本デザインは踏襲しつつ、従来の立体表現を平面的なものへ刷新。ただし、新旧のブランドシンボルは、場所や媒体に応じて使い分けるとしている。

なぜ、みんな同じ形に……フラット化の本音とは?

クルマに限らず、メーカーなどがロゴやエンブレムを変更すること自体は珍しくないが、多くのメーカーが同じ「フラット化」という方向性に進んでいる点は、やや不思議な感じもする。そこで各メーカーがフラット化にした理由や、その狙いを整理してみた(以下はいずれもメーカー各社のコメント)。

【日産】
工業的で硬い印象から、上品で親しみやすく、デジタルとの親和性が高いデザインへ移行した。

【ホンダ】
次世代EVの開発にあたり、Hマークを新たにデザインし、変革への思いと挑戦し続ける企業姿勢を表現。

【マツダ】
シンプルかつ大胆なフォルムとすることで、特にデジタル環境での視認性を高めた。

【スズキ】
スズキCIの象徴である「S」のアウトラインを継承しつつ、新たな可能性の表現として、デジタル時代に適応したフラットデザインを採用。

BMW
BMWブランドは、よりデジタル世代にふさわしい視覚的スタイルを提供する。

【ルノー】
拡大するデジタル化に対応するため、立体的なデザインからフラットな2次元デザインへ刷新。

【アウディ】
2016年、デジタル媒体に適した表現として2Dのフォーリングスを採用。2Dディスプレイに3Dロゴを表示することは、美的要件を満たさないと判断した。

【フォルクスワーゲン】
電動化とコネクティッド化、カーボンニュートラルを見据え、統一された新ブランドデザインによって、時代に即したブランド体験を創出。

もうお気づきでしょう。共通するキーワードは「デジタル」。電気自動車(EV)が増えることも前提にあり、EVやデジタルとの親和性を高めることを目的としている。

デジタル時代がクルマもエンブレムも変えた!?

ウェブサイトでのプジョーのロゴ使用例

プジョーはフラットなデザインだからこそ可能な表現できる一例を示している

かつてクルマは富の象徴であり、エンブレムにも贅沢な意匠が用いられていた。ロールス・ロイスやジャガー、メルセデス・ベンツなどでは、エンブレムに加えて「マスコット」と呼ばれる象徴的な造形物がボンネット先端に装着されていた(一部は現在も採用されている)。エンブレム自体も、七宝焼きや複雑な立体造形が使われるなど、高級感が重視されていた。近年は安全面からマスコットは減少傾向にあるが、ロールス・ロイスは例外で、走行時や触れられた際に収納される安全・防犯機構を備えている。

しかし時代とともに、クルマに求められる価値観が変化。贅沢品だったクルマは実用品としての性格を強め、親しみやすさが重視されるようになった。かつて主流だったテレビや雑誌、新聞では立体的なエンブレムも効果的だったが、2010年代以降はメディアが急速にデジタルへ移行。

PCやスマートフォンなどのデジタルデバイス上では、立体的で複雑なデザインよりも、アプリケーションのアイコンのようにシンプルなデザインの方が視認しやすく、表示の自由度が広がることなどもフラット化が進んでいる理由のひとつと言えそうだ。

また、フロントのエンブレム付近には先進安全装備のセンサーやレーダーなどが装備されることも多い。フラット化した方がセンサー機能などへの影響が少くないという要因もありそうだ。実際、凹凸があるデザインだと雪や雨水が付着しやすく、正常に機能しないケースもあるため、安全性を高めるためにも有効なのかもしれない。

フラット化されたエンブレムやロゴには賛否あるが、現代的だと評価する声がある一方、チープに感じる人もいる。これが正解かどうかは、いずれ歴史が答えを示すことになる……?

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