ごきげんロードトリップキービジュアル
文=高橋 剛/写真=佐々木実佳/イラスト=田中 斉

ぶりしゃぶに舞鶴かにを求めて、海の京都へ! 絶景と美食満載、冬の海を堪能する旅へ

京都府・舞鶴市、宮津市

旅に出るのは、その土地にしかない「何か」に触れたいからだ。景色、歴史、グルメ、人の機微……。普段の暮らしとは違う「何か」に触れたとき、それは旅情となって胸いっぱいに広がる。
今回訪れた京都府北部の「海の京都」は、その言葉からしてすでに、普段とは違う「何か」を予感させる。そして「海の京都」の中心地、京都府舞鶴市と宮津市は、まさに旅情に満ちた土地だった。
見るもの、感じるもの、そして食べるもののすべてに、当地ならではの「何か」がある。文明開化の風や昭和レトロなど、隠れた魅力がたっぷりだ。
だが、しかし。差し当たって目指す「何か」は、解禁を迎えた舞鶴かにだ。そして、寒ブリをぜいたくにいただくぶりしゃぶだ。鼻息を荒くしながら、海の京都に向けて車を走らせた。

目次

傘松公園から望む自然の最高傑作・天橋立
股のぞきではイマジネーションを全開に…

天橋立の景観

●天橋立傘松公園/京都府宮津市大垣75 https://www.amano-hashidate.com/

自然は最高のアーティストだとつくづく思う。なんの意図も思惑もないまま、ただありのままに造形し、それが素晴らしいデザインとなって人々を惹きつける。

昭和2年に作られたというケーブルカーに揺られること4分。海抜130mの傘松公園から見た天橋立(あまのはしだて)は、まさに自然による傑作だ。宮津湾と阿蘇海をふたつに分ける全長3.6kmの砂嘴(さし)は、日本神話の舞台にもなった奇観である。

海を渡る細くて長い松林は、それだけでも見応えがある。しかし古人は面白い。「股の間から天橋立を覗くと、天上の風景が広がる」と考えたのだ。天橋立の北側に位置する傘松公園での股のぞきは、対岸側が空に浮かぶ島のように見える……とのこと。

イマジネーション全開で股のぞきをする。「逆さになった景色」以上の「何か」を感じたい。自然というアーティストに負けたくない。

天橋立ケーブルカー

15分おきに運行している天橋立ケーブルカーは、全長400m。最急25度もの急勾配を4分間かけてじっくりと上る。アトラクションのような楽しさ

レストランの景観

●天空のレストラン Ama Dining/宮津市大垣19 傘松公園AmaTerrace内 (コーヒー 500円)【JAF優待】

かわらけ

股のぞきに次ぐ傘松公園の人気アクテビティが、かわらけ投げ。3枚200円の薄い瓦・かわらけを投げ、知恵の輪に通れば幸福になれるとのことだが……

かわらけ投げ

かわらけは微妙に歪んでいることもあり、狙った通りに投げられない! 手首のスナップを利かせても、あらぬ方向に飛んで行くかわらけ。幸せはそう簡単には手に入らない

ここでしか食べられない!
「丹後お宝丼」は贅沢の極み

地イカとアカモクとバイ貝の丹後お宝丼 (2,280円)

地イカとアカモクとバイ貝の丹後お宝丼(2,280円)●つるや食堂/宮津市中野848 Tel.0772-27-0114 【JAF優待】

海鮮丼の中央にデーンとのっているのは、色鮮やかな黄身がぷっくりと盛り上がる生卵だ。「お、おう……」と、一瞬ひるむ。「そう来たか」と。海鮮丼+卵の組み合わせに対する評価は好みによるところが大きく、賛否が分かれるポイントである。

僕としては、過去の経験上「あってもいいけど、なくてもいい」というのが正直なところだ。嫌いではないが、熱烈な愛好者とも言い切れない。「お店として卵のせで供したいなら、粛々といただきます」といったスタンスだ。しかし、つるや食堂の「丹後お宝丼」に関しては、卵アリを両手放しで大絶賛したい。

卵もろともガーッとかき混ぜたお宝丼は、卵の甘みとフレッシュな海鮮の旨みが絶妙に混じり合い、本当においしい。

同店店主の森美忠さんの、「まずはそれぞれの具材を個別に召し上がってください。その後は、一気に混ぜ合わせてどうぞ」というオススメに沿っていただいた。新鮮な各具材は、別々に食べてももちろんおいしかった。

だが、卵、ブリ、アオリイカ、バイ貝がガシガシッと混じり合ったとき、口の中でとんでもなくハイレベルな合奏が始まるのだ。コリコリ、トロリ、シャクシャク、ぷりぷり、ふんわり。個々の具材がそれぞれのメロディを奏で、地元産のコシヒカリがリズムを整える。

「最大の秘密は、アカモクです。このお宝丼は、アカモクなしには成り立ちません」と微笑む森さんである。東北地方や新潟、そして京都などで郷土食として愛されている海藻、アカモク。お宝丼の中でも主要なポジションに鎮座していた。このアカモクが混ぜ合わされたとき、すべての具材にふんわりと柔らかい磯の香りをもたらし、文字通りのお宝に仕上がるのだ。

陸の卵の粘り気と甘さ。海のアカモクの粘り気と風味。そして、魚介。すべてが渾然一体となりながら、完璧に調和している。ここでしかいただけない、地元料理の極みだ。

丹後のお宝丼

上から時計回りに、お宝丼の影なる主役アカモク、甘みたっぷりのアオリイカ、脂が乗ったブリ、コリコリと旨味が弾けるバイ貝。もともとアカモクが旬の春先に、地元漁師が春到来を祝ってアカモクを食していたそう

店内と筆者

泥壁による清らかな空気に包まれながら、地元の特産品を惜しみなく使った贅沢なお宝丼をいただく。季節によって旬の食材を厳選しているから、何度でも訪れたくなる

智恩寺にお参りし、「智恵の餅」をいただく
文珠菩薩さまのご利益で、賢くなれた!?

天橋立智恩寺

●天橋立 智恩寺/宮津市文珠466 Tel.0772-22-2553 https://www.monjudo-chionji.jp/

「三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵」。僕のような凡人でも、3人集まって相談すれば文殊さまにも負けないぐらい優れた知恵が出せる、ということわざだ。ところで、文殊ってどなた……?

文殊さまは、仏教で智恵を司る菩薩だ。「智恵」にはいろいろな意味があるが、仏教では真理をはっきりと知り、悟りを得ることを指す。いやいや、僕が3人集まったところで、真理や悟りに近付けるとは思えない。そこで少しでも「三人寄れば……」を実現すべく、文殊さまを祀る古刹、智恩寺を訪れた。

境内に植えられた松が、海からの爽やかな風に揺れた。文殊菩薩さまが祀られている文殊堂を中心に、室町時代に建立された多宝塔、「黄金閣」とも称される三門など、歴史的で重厚な建造物が並んでいる。

一方で、智恩寺にはとても開けた雰囲気がある。訪れる参拝客や観光客は、天橋立を散策したり、境内のあちこちを眺めたりと、伸び伸びした時を気ままに過ごしている。お香の煙が優しくたなびく。荘厳でありながら親しみやすさを感じられるのも、文殊菩薩さまの御利益のひとつだろう。

「せっかくだから」と智恵の輪燈籠(とうろう)の周囲を3回まわってみたが、賢くなった気はあまりしない。かつて燈籠が砂浜に立っていた時代、赤ちゃんや子供を輪の部分をくぐらせていたそうだ。文殊さま、大人になってからでは遅かったでしょうか……。

すえひろ扇子おみくじ

境内の松には、「すえひろ扇子おみくじ」が花を咲かせている。扇子を広げると吉凶がわかるという独特なおみくじは、記念品として持ち帰る方も多い

禅宗様式三門

丹後地方で最大の禅宗様式の三門は、京都府指定文化財。ここから先は俗界と隔絶された幽玄の地だった。この門は1767年に上棟されたものだが、延べ8,780人もの大工を要し、細部まで唐様が施されている

智恵の輪燈籠

江戸時代に、航海の安全を願って建てられた灯籠。その灯火(ともしび)に、文殊菩薩さまの慈悲の光を感じ取った地元の方々が、いつしか「智恵の輪燈籠」と呼ぶようになった

学業成就はお餅から!?
「智恵の餅」で賢くなる

知恵の餅

●総本家ちとせ茶屋/宮津市文珠472-1 Tel.0772-22-5807 知恵の餅 抹茶セット (950円)
【JAF優待】

すがれるものなら何にでも……。受験生たちの偽らざる本音だろう。文殊を祀る智恩寺の絵馬には、合格を祈る切実な言葉が並んでいた。それだけでは物足りない受験生の心の拠り所が、「智恵の餅」だ。

食べれば知恵を授かるとされているこのお餅は、江戸時代初期から現在に至るまで、智恩寺の三門前に並ぶ四軒茶屋でしか製造を許されていない。四軒茶屋とは、吉野茶屋、彦兵衛茶屋、勘七茶屋、そしてちとせ茶屋のこと。今回はちとせ茶屋ののれんをくぐった。

観光客で賑わう平日昼間の店内に、当然ながら受験生の姿はない。勉学に勤しんでいるはずの時間帯だ。大人の贅沢に若干の後ろめたさを感じながら、智恵の餅をいただく。ふわりとなめらかな食感のお餅に、小豆の風味をしっかり感じる甘すぎない餡。シンプルなのに、奥深い。

「当日の朝に蒸し上がったお餅を使っているんですよ」と、同店の新宮宗則さん。智恵の餅の繊細な味わいには、日本という国のきめ細やかさが詰まっている……ということに気づくぐらいの賢さを、どうやら僕も得たようだ。

ちとせ茶屋創業写真

江戸時代、智恵の餅を供する簡素な腰掛茶屋として始まった四軒茶屋は、明治時代にそれぞれ旅館を設けるまでに。やがて智恩寺の門前町は日本を代表する観光地になった

ちとせ茶屋外観

同じ「智恵の餅」と銘打っていても、味は四軒茶屋のそれぞれで異なる。食べ比べても面白い。各店とも、智恵の餅以外の料理も提供している

まっすぐな橋に、海と空をゆく列車
シンプルな美しさに胸を打たれる丹後鉄道

京都丹後鉄道宮舞線

●京都丹後鉄道宮舞線
1924(大正13)年に竣工した由良川橋梁は、100年を経た今も良好な保存状態で京都丹後鉄道を支えている。見学などの際には、近隣の有料駐車場を利用し、私有地には立ち入らないよう注意を

高い空。白波躍る海。たゆとう川。一直線の橋。そして、1両だけの列車。由良川の河口にかかる京都丹後鉄道の由良川橋梁には、シンプルを極めた美しさがある。

トラスも架線もない橋は、視界も心の動きも遮らない。心の奥底まで、まっすぐに届く。海と空の澄んだ青い光の中を、ガタンゴトンとかわいい音を立てて列車が走る。ただそれだけのことなのに、胸に込み上げてくるものがある。101年前に竣工した橋を眺めながら、「これでよかったのに」と思う。

ザ・昭和のドライブイン!
懐かしの自販機とレトロゲーム

自動販売機群

●ドライブインダルマ

由良川を遡りながら国道178号を南下すると、ドライブインダルマがある。創業は昭和46年。まさに昭和全開の建物だが、僕より2歳若いだけ……。現代における自分の立ち位置を思い知らされる。

うれしいことに、この「昭和」は忘れ去られてはいない。ひっきりなしに車が立ち寄り、生き生きとしている。そして店内に足を踏み入れた瞬間に、クラクラとめまいがした。自分も時代も熱かった昭和の空気が、そっくりそのまま残っているではないか。

ラーメン、うどん、そしてハンバーガーの自動販売機が本当に懐かしい。うわ、この箱入りハンバーガー、小学生のときに食べた覚えがある! インベーダーゲームは、さすがにリバイバル品っぽいぞ。名古屋撃ち、今もできるかな。回転盤に乗った景品を棒で落とすゲーム、何て名前だったっけ?

現在とは異なる時が流れるこの空間は、妙な居心地のよさが困る。ラーメン、うどん、そしてハンバーガーも、本来の味以上に、やけにおいしく感じてしまうのだ。ゲームだって最新モノに比べればツッコミどころ満載なのに、やたらと楽しい。

でも、ずっとここに留まっていてはいけない気もする。甘く懐かしい思い出に絡め取られると、動けなくなってしまいそうだ。そういえばドライブインダルマにやってくる地元らしき人々は、みんな一様に足早だった。パッと軽食をカッ食らってサッと去って行く。

過去との付き合い方は、それぐらい淡泊でいいのかもしれない。

自動販売機メニュー

左から時計回りに、きつねうどん、ラーメン、天ぷらうどん(各300円)

ドライブインダルマ外観

●ドライブインダルマ/舞鶴市丸田822-1 Tel.0773‐82‐0213

ハンバーガー自動販売機

箱詰めされたハンバーガーが転がり落ちてくる自販機。メカメカしい機械音もたまらない。やや加熱不足気味で、併設の電子レンジでさらに温めることが推奨されている

ハンバーガー

「……えっ!? こんな感じだったっけ?」と恐る恐る口に運ぶが、予想以上にうまい! カレー風味がピリッと効いており、あっさりと平げてしまった。正直なところ、また食べたい(ハンバーガー 250円)

ドライブインダルマ内観

レトロゲームに囲まれながら自販機バーガーを食していると、45年ほどタイムスリップした気持ちになる。あの頃から何も変わっていない部分もあり、変わった部分もあり……

美しき京の海沿いを走りながら
至極の美味・舞鶴かにに思いを馳せる

走行シーン

京都府北部は、「海の京都」として一大観光圏をなしている。今回は舞鶴市と宮津市をドライブし、リアス海岸が生み出した爽快なワインディングロードを楽しんだ。複雑に入り組んだ大小の湾は潮の干満差が少なく、山々に囲まれ風を避けられることもあって、天然の良港が数多い。

穏やかな海のすぐそばを行く快走路を走りながら、舞鶴かにを思う。舞鶴港に水揚げされるズワイガニの中でも、重さ800g以上で姿の整ったものだけが名乗ることが許されている、舞鶴かにの称号。地元の方が「一度食べたら、よそのカニは食べられなくなるよ」とまで称賛する至極の美味。ああ舞鶴かに、舞鶴かによ……。

11月6日、カニ漁の解禁日を狙って当地を訪れた。静まり返った平穏な海。「これはイケる!」と鼻息も荒く「道の駅舞鶴港とれとれセンター・海鮮市場」に車をつけたが……、おや? 妙に落ち着いているではないか。

大ショックなことに、シケによりカニ漁船は出漁できていなかった。舞鶴かに、不発である。悔しい。本当に悔しいが、船釣りを愛好する身としては、自然の厳しさにしばしば直面している。特に冬の日本海の苛烈さは、誰もが知るところ。海で育まれたズワイガニをいただくのだから、海に逆らうことはできない。

いったんは落胆したものの、気分は清々しかった。「海が荒れる、漁に出られない、ゆえにカニが食べられない」の三段論法は、どこからどう見ても正しい真理だ。文珠さまにお参りし、知恵の餅を頬張ったおかげでほんの少しだけ賢くなった僕は、次回のリベンジに期待しながらとれとれセンター・海鮮市場を後にした。

……ちなみに、解禁日から遅れること3日、ついに舞鶴かにの初競りが行われたそうだ。道の駅舞鶴港とれとれセンター・海鮮市場にも舞鶴かにがズラリと並び、あまりのおいしさに人々を驚かせ、そのおなかを満たしている。惜しかった……。

舞鶴かにに思いを馳せる筆者

「こ、これが幻の舞鶴かにか……」。道の駅舞鶴港とれとれセンターの海鮮市場に展示されている模型と触れ合う。原寸よりだいぶ大きい模型が、余計に食欲をそそる。食べてみたい……

舞鶴かに

こちらは本物の舞鶴かに(写真はイメージです)。身がギッシリと詰まった800g以上で姿の整ったズワイガニを指す。同センターでは、焼きかに、かに刺し、そしてボイルで提供。いずれも絶品だとか

舞鶴港とれとれセンター外観

道の駅舞鶴港に併設されている海鮮市場は、日本海側最大級の480坪。舞鶴魚市場の鮮魚仲買人が出店しており、新鮮さ、安さ、そして種類の豊富さが自慢だ。買った魚介はその場で調理してもらえる
●道の駅 舞鶴港とれとれセンター/舞鶴市下福井905 Tel.0773-75-6125 【JAF優待】

文明開化の風が吹いた舞鶴
赤れんがパークはハイカラの象徴

舞鶴港赤れんがパーク外観

●舞鶴赤れんがパーク /舞鶴市北吸1039 -2 Tel. 0773-66-1096 https://akarenga-park.com/


舞鶴港を散策する。風が少し強い。港がこの様子なら、沖合は間違いなく大荒れだ。「うむ、これなら仕方ない。仕方……な……い……」と舞鶴かにに後ろ髪引かれつつ、舞鶴赤れんがパークを歩いた。

舞鶴港は、かつて旧日本海軍の軍港だった。複雑に入り組んだ海岸線と山々に囲まれた地形は、防衛面で有利だったのだろう。赤れんがパークを織りなす8棟の倉庫群は、軍港時代の名残だ。かつてここには、魚雷などの軍備が収められていた。

明治時代に建てられた赤れんが倉庫は、軍の関連施設とは思えないほど趣があり、均整が取れている。旧海軍が単に機能だけを求めたのではなく、フランスやイギリスなどを手本に、西洋文化を積極的に採り入れようとしたからだ。

赤れんが倉庫は、主にイギリス積みで造られている。海軍ラムネは、イギリス海軍のレシピを参考にしたものだ。文明開化の風が、舞鶴に独特なハイカラさを授けている。

今も舞鶴港には海上自衛隊の基地がある。迫力たっぷりのグレーの艦艇は、訓練のためだけに海に出てほしい。舞鶴という美しい地名を冠する港が、いつまでも平和であり続けることを願うばかりだ。

海軍ラムネ

旧海軍の「海軍四等主計兵厨業教科書」に記載されていた「フレッシュ・レモネード」のレシピを参考に復刻した海軍ラムネ(700円)。英語の「レモネード」が訛って「ラムネ」に

海軍ラムネとカフェ

海軍ラムネは、赤れんがパーク2号棟のcafe jazzでの提供。同店では、旧海軍の料理本「海軍割烹術参考書」を元に再現した海軍カレーなどの海軍メニューが人気

赤れんが博物館

赤れんがパーク内の赤れんが博物館では、紀元前まで遡るれんがの歴史や、舞鶴とれんがの関わりなどを学べる。世界の建造物で使用されたさまざまなれんがも多数展示されている

赤れんが博物館外観

1903(明治36)年建設の旧海軍の「魚形水雷庫」を活用した、赤れんが博物館。現存する鉄骨れんが造りの建物としては国内最古級で、2008年に重要文化財に指定されている
●赤れんが博物館/舞鶴市浜2011 Tel.0773-66-1095 https://akarenga-park.com/facility/facility_01/

見て美しく、食べて美味
発祥の地で贅沢にいただくぶりしゃぶ

ぶりしゃぶ

●天橋立 宮津温泉 茶六別館/宮津市島崎2039-4 Tel.0772-22-2177 https://www.charoku.com/

残念ながら舞鶴かには不発だったが、どっこい、当地にはぶりしゃぶがある。本来はカニ&ブリで攻めるつもりだったが、ここはひとつ、全力でブリを満喫したい。

宮津天橋立は、ぶりしゃぶ発祥の地と言われている。1978(昭和53)年、当時の宮津天橋立観光旅館協同組合青年部によって、松葉ガニと並ぶ冬の名物として、ぶりしゃぶは生み出されたそうだ。今回は、当初から、ぶりしゃぶを提供し続けている宿の一つ、料理旅館・茶六別館の「食事処・四季膳花の」で、ぶりしゃぶ7品をいただく。

整然と並べられているのは、豊潤な脂を乗せた旬の寒ブリだ。素晴らしい色とツヤに、思わず見惚れる。絶妙な厚みは、中までほんのりと温まるよう、火通りの良さに配慮してのもの。いつも以上に慎重に箸を運び、昆布だしに大根おろしを入れた雪見鍋にブリの切り身をサッとくぐらせる。

特製ポン酢を軽く付けて頬張ったぶりしゃぶに、言葉を失った。さっぱりとしながら奥行きがある味わい。噛むほどに染み出てくる海の香り。寒ブリならではの甘い脂が、爽やかなだしとまろやかなポン酢に絡み合い、ギュッと濃縮された味わいが口の中でとろける。

ぶりしゃぶは、熱の入れ方で味や食感が変化する。僕は生の部分が残り、新鮮な寒ブリの歯応えが楽しめるレア気味が好みだ。だしにくぐらせる時間を微妙に調整しながらいただいていると、飽きることがない。いくらでも食べ続けられるうまさだ。

コースでは、ぶり大根、お造り、西京焼きなどのぶり料理のほか、紅葉豆腐などが供された。どれひとつを取ってみても、料理人の細やかな気配りが感じられる。心づくしの繊細な料理だからこそ、ひときわおいしくいただけるのだ。ぶりしゃぶに始まり、締めの雑炊、そして完熟江戸柿のジュレに至るまで、上質なもてなしに包まれた。

ぶりしゃぶ7品

しゃぶしゃぶ、西京焼き、ぶり大根、そしてお造りでいただく贅沢ぶり三昧。日本人には親しみ深いブリが、すみずみまでもてなしの心が行き渡った繊細な料理に仕上がっていた(ぶりしゃぶ7品 11,000円、写真のぶりしゃぶは3人前)

ぶりしゃぶ

昆布だしと大根おろしの雪見鍋に、寒ブリをくぐらせる。どれぐらい熱を入れるかによって、変化する味と食感を楽しめる

茶六別館内観

女将の茶谷環さんから丁寧な説明を受ける。寒ブリは12月から2月にかけてもっとも脂が乗り、さらに味わいが増すのだとか

五老スカイタワーで
華やかな夕焼けに包まれる

五老スカイタワーの夕景

海のすぐ脇をドライブできるのが、当地の魅力だ。海岸を縫ういくつものカーブを曲がりながら、山頂に塔が立っていることに気づいた。五老スカイタワーだ。この海を高所から眺めたら、それはもう、すごい景色が待っているに違いない。期待しながら、五老スカイタワーに向かった。

海抜325mの展望室に上がると、素晴らしい眺望だった。舞鶴のほぼ中心に位置する五老スカイタワーから望めるのは、入り江、小島、港、行き交う船や車、山、街、川……。自然と人のほどよい調和が、景色をひときわ心地よいものにしている。

遠景には幾重にも山々が連なり、雲の切れ間から日が差す。陽光が当たった山の斜面から、静かに雲が湧き上がる。ゆったりと太陽が傾き、真っ青だった空が少しずつ赤みを帯びていく。僕は目と心を大きく開き、今、この瞬間にしか見られない景色を刻み込む。

空は柔らかい橙色に染まり、地表は少しずつ暗くなる。舞鶴の街に、ひとつ、またひとつと明かりが灯る。展望台を降りてテラスに出ると、感じるのは風にそよぐ木々の気配だけだ。穏やかな景色はダイナミックに変化し、やがて夜を迎えようとしていた。

五老スカイタワーへ向かう走行

潮の干満差が少なく穏やかな「海の京都」では、海岸線の間際を道路が走る。海と一体となったかのような爽快なドライブは、当地ならではの悦楽

タワー上の筆者

変化に富んだ海は、豊かさの象徴だ。自然とともに歩もうとする節度のある人々の営みが、今、目の前に広がる美しい景色の源になっている
●五老スカイタワー/舞鶴市上安237 Tel.0773-66-2582(大人1名 300円)【JAF優待】

不意に、「海の京都」という言葉を思い起こした。この地が「海の京都」と呼ばれるのは、京都府北部に位置し、日本海に面しているからだけではない、と、僕は思う。昔からある「ここだけの魅力」がたっぷりと残され、それらが今の時代に溶け込んでいるからだ。まさに京都のイメージそのものである。

さりげなく、心地よく、ただありのままに。せわしない現代社会にあってとても難しいことだが、海の京都では景色からも、人の営みからも、十分にそれらを感じ取ることができる。「いい土地だな」と、しみじみ感じ入る。旅をするなら、こういう土地だ。

返す返す残念なのは、舞鶴かにが食べられなかったことだ。だが、そのことにしても、自然に逆らわずすべてを受け入れる姿勢の表れだと思えば、気持ちよく納得できる。「まぁ、また来ればいいか」と、のんびりハンドルを握った。

京の海を望む筆者

今回のごきげんロードマップ

舞鶴市、宮津市イラストマップ

A.傘松公園 Ama Dining B.つるや食堂 C.天橋立 智恩寺 D.総本家ちとせ茶屋 E.茶六別館 F.京都丹後鉄道宮舞線(由良川橋梁) G.ドライブインダルマ H.道の駅 舞鶴港とれとれセンター I.五老スカイタワー J.舞鶴赤れんがパーク K.赤れんが博物館

「ごきげんロードトリップ」掲載自治体のご紹介

JAF Mate Onlineに掲載していないドライブコースやおすすめスポットなども掲載!

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日本遺産のロゴ

画像クリックで、日本遺産・京都府のストーリー一覧へ

日本遺産とは、文化庁が地域の歴史的魅力や特色を通して、我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として認定する制度です。
今回訪れた京都府舞鶴市・宮津市にも日本遺産があります。旅の続きで訪れてみてはいかがでしょうか?

※JAF優待の内容や利用方法などの詳細は、記事内の各施設「JAF優待はこちら」をクリックしてください。JAFナビ からも検索可能です。
※記載のデータは2024年11月現在のもので、料金は大人1名分(税込)です。変わる場合もありますので、お出かけ前にご確認ください。
取材協力=舞鶴市、宮津市

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プレゼント応募用キーワード

ぶりしゃぶ

京都府・舞鶴市、宮津市ドライブガイド

1.西国第二十八番札所 成相寺(なりあいじ)

1300年の歴史をもつ古刹。「願いが叶う(なりあう)寺」として知られ、本尊は身代わり観音、美人観音として名高い秘仏・聖観世音菩薩。境内には「撞(つ)かずの鐘」「底なし池」など見どころも多く、成相山パノラマ展望台から望む雪の天橋立は格別。
宮津市成相寺339
Tel.0772-27-0018

西国第二十八番札所 成相寺

2.松井物産本店

天橋立の観光ポイント「傘松公園」行きケーブルカーの乗り場近く。観光客の休憩所や待ち合わせ場所としても賑わうお店。店内には名物「黒豆塩きんつば」や「黒豆せんべい」、丹後ちりめんの小物など土産物がずらり。
宮津市大垣48
Tel.0772-27-0028

松井物産本店

3.天橋立ワイナリー

自社農園でぶどうを栽培し、天橋立産ワインを醸造しているワイナリー。購入はもちろん、併設の絶景レストランでは自慢のワインとともに、丹後の山海の恵みを使った料理を堪能できる。ぶどう畑やワイン発酵室、ワインセラーの見学も可能(無料)。
宮津市国分123
Tel.0772-27-2222

天橋立ワイナリー

4.橋立海産センター・瑞松苑(ずいしょうえん)

国道178号沿いにあり、天橋立の観光途中に立ち寄りやすい海産物店。日本海の海の幸を中心に丹後のお土産を取り揃え、冬季は「松葉ガニ」の販売で大賑わい。海鮮丼が人気のレストラン「瑞松苑」を併設し、テラス席ならペットと一緒にお食事OK!
宮津市国分10
Tel.0772-27-1488

橋立海産センター・瑞松苑

5.天橋立温泉 智恵の湯

天橋立駅の横に建つ、宮津市唯一の外湯。木造の趣ある佇まいで、しっとりとした「美肌の湯」が自慢。大浴場「はしだて(内湯・壺湯・手足湯)」と「ちゑの輪(内湯・露天風呂)」は男女日替わりで休憩処も完備。観光で歩き疲れたときに利用したい日帰り湯。
宮津市文珠640-73
Tel.0772-22-1515

天橋立温泉 智恵の湯

6.ちりめん問屋

丹後ちりめんを使った小物や雑貨をメインに販売するセレクトショップ。ほかにも海産物加工缶詰(オイルサーディンが有名)や「天橋立ワイナリー」の地元産ぶどう100%で作るワイン、地酒など、宮津のおすすめ品が勢揃い。お土産探しにぴったりのお店。
宮津市字文珠481-1
Tel.0772-25-1594

ちりめん問屋

7.はしだて茶屋

特別名勝・天橋立のなかにあるお茶屋さん。店内や店外ベンチで、松並木や海を眺めながら食事が楽しめる人気スポット。名物の「あさり丼」や「黒ちくわ」「智恵だんご」など、軽食や甘味、ドリンクメニューが充実。テイクアウトOK! ※駐車場はありません(近隣の駐車場をご利用ください)。
宮津市文珠(天橋立公園内)
Tel.0772-22-3363

はしだて茶屋

8.宮魚魚(みやとと)水産

目の前は船小屋! 宮津湾で水揚げされた魚を味わえる観光商業施設「宮津天橋立 漁師町 ととまーと」内にあるお魚屋さん。店頭には鮮度抜群の魚介類がずらり。購入するとその場でお刺身や焼き物などに調理してもらえるので、イートインスペースでお魚三昧を楽しんで!
宮津市漁師1775-25
Tel 0772-25-9006

宮魚魚水産

9.aceto (アチェート)

富士酢醸造元 ・飯尾醸造が運営する南イタリア料理店。シチリアで腕を磨いたシェフが、宮津の山海の幸と当蔵の酢を使ってつくる料理は、ここでしか出会えない味。築120年の古民家を改装した、風情たっぷりの空間で堪能できる。
※営業はディナーのみ(要予約)。
宮津市新浜1968
Tel.0772-25-1010

aceto

10.Laboratoire(ラボラトワール)

「おしゃれで食事だけでなくスイーツもおいしい店!」との呼び声高い東舞鶴のカフェ。こだわりのコーヒーに、ボリューム満点のハンバーガーやサンドイッチ。焼き菓子やケーキも種類豊富で、早めに完売する商品も。気になる方はお早めに!
舞鶴市浜2006-85
Tel.0773-60-6680

Laboratoire

11.Cafe & Deli AZUR(アズール)

小浜市でフレンチレストランを営むオーナーが「気軽に楽しめるビストロフレンチを」と舞鶴市総合文化会館内にオープンしたカフェ。季節の食材を使ったランチは前菜・メイン(魚or肉)・パン・コーヒー付きで、「満足度が高いのにリーズナブル」と大好評!
舞鶴市浜2021
Tel.070-3248-1152

Cafe & Deli AZUR

12.海軍料理 松栄館

旧日本海軍の「海軍割烹術参考書」を元に、「海軍カレイライス」や「ロールキャベジ」など、当時の味を再現した洋食メニューが味わえるレストラン。建物は明治37年に開業した海軍御用達の旅館「松栄館」別館を利用。重厚な建築様式も楽しみのひとつ。
舞鶴市浜18
Tel.0773-65-5007

海軍料理 松栄館

13.ホテルアマービレ舞鶴

東舞鶴の中心街にあり、観光の拠点として便利な立地。近隣では珍しく大浴場を備えたホテルで、大きな湯船に浸かって寛ぎたい旅行客に人気だ。客室は洋室のほか、和室や大部屋も用意。夕食付プランなら、隣接の「海軍料理 松栄館」で食事を楽しめる。
舞鶴市浜18
Tel.0773-65-5000

ホテルアマービレ舞鶴

14.舞鶴焼肉 八島丹山(やしまにやま) 本店

昭和30年から3代続く焼肉店。長年培ってきた目利きで選んだ牛肉を、初代考案のオリジナル鍋と秘伝のタレで焼き、名物「ホルモンうどん」で締める。それが舞鶴焼肉スタイル! 全国からファンが訪れ、寄港の度に来店する海上自衛官も多いのだとか。
舞鶴市浜467-2
Tel.0773-62-2140

舞鶴焼肉 八島丹山 本店

15.金剛院

平安時代創建、「丹後のもみじ寺」として親しまれている寺院。境内には数千本のもみじがあり、秋の紅葉、冬の雪景色に、三重塔(国の重要文化財)が溶け込む美しさは圧巻。鎌倉時代の名仏師・快慶の作品がおさめられた宝物殿(要予約)は必見。
舞鶴市鹿原595
Tel.0773-62-1180

金剛院

16.お茶の流々亭(るるてい)

JR松尾寺駅の木造駅舎内にある日本茶専門店。銘茶「宇治茶」の原料となり、その品質を支えているという“舞鶴のお茶”を味わえる。抹茶、煎茶などをベースにしたアレンジメニューが豊富で、人気はクリームラテ。かわいいパッケージの茶葉はお土産にぴったり!
舞鶴市吉坂113-4 JR松尾寺駅舎内
Tel.0773-63-7770

お茶の流々亭

17.舞鶴ふるるファーム

日帰りでも宿泊でも利用できる農村体験施設。園内には牧場や野菜畑、レストランやコテージが点在。体験教室やレンタルバイクなど自然を満喫できるメニューが親子連れに好評だ。冬季名物「真牡蠣のバケツ売り」を目当てに、毎年訪れるファンも多い。
舞鶴市瀬崎60
Tel.0773-68-0233

舞鶴ふるるファーム

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