事故ファイル

夏の暑さが奪う、ドライバーの集中力。

暑さを原因とした「夏型事故」を防ぐには?

2023.07.01

山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

2023.07.01

山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

※タイトル下の写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2019年7月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

暑さが厳しくなる季節。暑さを原因とした「夏型事故」を防ぐため、運転時もこまめな休憩や水分補給を。


7、8月に多発する夏型事故とは?

車線を逸脱した先に待つ事故といえば、対向車との正面衝突や路外の電柱に突っ込むなど、生命に関わる重大事故が多い。しかし、このような重大事故が増える季節があることは、あまり知られていない。

2018年7月中旬のある日、山形市内を横断する国道を、1台の普通乗用車が西進していた。梅雨が明けたばかりの市内は、朝から曇り空ながらも気温は上がり、午後1時を回る頃には30℃近くまで上昇。70歳代前半の男性がハンドルを握る普通乗用車は、上下線ともに交通量の少ない国道を、規制速度の時速50㎞前後で順調に走り続けていた。

午後1時半過ぎ、カーブの続く山間部を抜けた普通乗用車は、ほぼ平坦な直線区間に入った。見通しはよく、片側1車線の国道の右側にはガードレールが設置され、左側には縁石によって区分された広めの駐車帯がある。この直線区間に入って間もなく、突然、普通乗用車は車首を右へと傾けた。

「ガシャンッ!」

何の迷いもないかのようにセンターラインを踏み越えた普通乗用車は、一気に対向車線にはみ出し、対向車線を走っていた125㏄バイクと正面衝突した。時速50㎞前後の車とバイクによる正面衝突となれば、バイク側の被害は大きかった。

「車が対向車線内に進入したとき、バイクはすでに目の前に迫っており、両車ともにブレーキをかけたとしても間に合わないタイミングで衝突したと思われます。バイクは車に押し返されるように後退した後に横転し、メインフレームが〝くの字〟に曲がるほどの衝撃を受け、運転していた50歳代前半の男性は、進行方向へと投げ出され、頭蓋底骨折などにより、搬送先の病院で約3時間後に亡くなりました」(山形県警交通企画課・奥山悟交通事故等分析兼交通安全対策室長)

夏の午後は、居眠りや漫然運転に注意

事故の原因は、車を運転していた男性の居眠り運転だったという。

「早朝に山形市内の自宅を出発し、宮城県内のゴルフ場でプレーを楽しんだという男性は、事故現場の手前を走っているときから、何度かぼんやりとして、緊張感を欠いた運転をしているなと思っていたそうです。カーブが続く山道を走行している間は残っていた緊張感が、直線区間に入ってなくなってしまったのか、気が付いたら目の前に向かってくるバイクがいたと話していましたので、居眠り運転をしていたことは間違いないと思われます。今回の居眠り運転事故は、県内でここ数年、7、8月になると増える『夏型事故』の典型だと言えます」(奥山室長)

夏型事故は死亡や重傷という重大事故に発展しやすい

夏型事故に具体的な定義はないが、暑さからくる気の緩みや疲労などによる居眠り、漫然運転に起因する事故を指す。事故の大きな特徴としては、自分の走るべき車線から逸脱し、今回のように対向車との正面衝突や、路外に設置された電柱などに衝突する単独事故が多く、死亡や重傷という重大事故に発展しやすいという。

「気温が高く、暑さが厳しくなる時期に多発することから、夏型事故と呼ぶようになりました。山形県内では、数年前から目立ち始めたことから、ドライバーの方々に注意を呼びかけています」(奥山室長)

山形県警交通企画課が夏型事故を統計分析したところ、過去5年間に県内で発生した人身事故件数を5、6月と、7、8月で比較すると、人身事故件数は後者で約5%増加し、うち死亡事故は約23%増加。さらに、このうち夏型事故の典型とされる正面衝突と単独事故の合計件数を比較すると、7、8月に約16%増加し、うち死亡事故は約64%も増加していた。夏型事故の存在とその危険性が裏付けられたのである。

夏の運転はこまめに休憩と水分を取り、疲れがちな帰路の休憩をしっかり確保

「日中の強い日差しと暑さは、じっとしていても体力を奪いますし、仕事や海水浴、山登り、ゴルフなどのレジャーやスポーツを楽しんだ後となればなおさら。また、夜中の暑さは睡眠不足につながり、それらは確実に危険な居眠り、漫然運転へと誘います。眠気を感じたら、すぐに休憩を取るのは当然ですが、眠気を感じる前からこまめに休憩を取ることが、自分の命を守るためにも、最も大切だということを忘れないでください」(奥山室長)

同県内の夏型事故は、国道や幹線道路で多く、昼過ぎから午後3時頃までの時間帯に多発するという。猛暑・酷暑が珍しくなくなった最近の夏。誰もが感じやすい午後の眠気や、熱中症につながる脱水症状への対策なども考慮しながらこまめに休憩を取り、特に疲れがちな復路での休憩をしっかり確保することが肝要だ。

  • 眠気や疲れを感じ始めたら、すぐに休憩を。冷たい水を飲むと、脱水症状の予防にもなる。

まとめ

エアコンの効いた車内でも、集中力が切れることがある。
午後は特に、こまめな休憩を。

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