疑問解決!? JMO特命調査団

安全運転に支障をきたし、運転姿勢も悪くなる「片手12時ハンドル」を調査!

オラオラ感たっぷり? 悪いハンドルの持ち方の象徴で百害あって一利なし!

2023.06.05

文=高橋 剛/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

2023.06.05

文=高橋 剛/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

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リラックスした状態で快適なポジションで運転したい……、と考えるドライバーは多いのでは? そこで取り上げたいのが、ちまたで見かけるハンドルの頂点を片手で持つ「片手12時ハンドル」。ここからさらにシートを引いて背もたれを寝かせ、ハンドルを握っていない腕を肘掛けなどにのせて運転するその姿は、リビングのソファーでくつろいでいるかのようなリラックスさに見えますが、果たして運転にとって適正なポジションなのでしょうか!? 実際に「片手12時ハンドル」で運転をしているドライバーを現地調査し、その結果を基にモータージャーナリストの菰田潔さんに解説していただきました。

必ずしも違法ではない片手運転だが「片手12時ハンドル」は即やめるべき

「日頃から『ハンドルは両手で9時と3時の位置を持つこと』を推奨している私ですが、道路交通法には『ハンドルは両手で持ちなさい』といった規定はありません。下記に道路交通法第70条を示しますが、ここにも『両手でハンドルを持つべし』とか『片手運転は違法である』とは書かれていないのです。

その理由は、運転の実際を思い起こせばすぐに理解できるでしょう。ウインカーやライト類、エアコンやオーディオの操作、またマニュアル車ならギア操作など、片手運転をせざるを得ないシーンは多いのです。

今回の調査テーマである『片手12時ハンドル』も、直ちに違反とは言えません。しかし、『片手』で、なおかつ『ハンドルの12時の位置を持ち続けている』状態は、大変危険であることは間違いありません。詳しくは後述しますが、即やめるべき悪癖と言えるでしょう。

では、街ゆくドライバーの実態は……? さっそく調査団の結果を見てみましょう」

道路交通法第70条(安全運転の義務)

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。(罰則 第119条第1項第14号[3月以下の懲役または5万円以下の罰金])

ここには「両手でハンドルを保持せよ」「片手でハンドルを持つな」といった明確な規定はない。実際の運転シーンでは、片手ハンドルにならざるを得ないことが多々あるからだ。しかし、「ハンドルを確実に操作し」とは明記されている。悪質な場合や、片手運転が原因で事故を起こした場合など、状況によっては安全運転義務違反と見なされ、罰則が科せられる可能性もある。

通過する車を陸橋の上から録画してカウント

幹線道路での調査の様子

調査地点は、片側2車線で交通量の多い幹線道路と、住宅街にある片側1車線の道路、2か所を設定。調査地点を通過する車を1時間にわたり陸橋上から動画撮影し、再生しながらドライバーのハンドル保持方法を確認した。

車種は乗用車、ミニバン、商用車(ワンボックス車、商用バン)、トラックに分類。片手12時ハンドル、片手ハンドル(ながら含む)、両手ハンドルの3パターンでカウントした。

26%が危険な「片手12時ハンドル」という驚きの結果に!

2か所での調査結果をまとめると、計642台中415台(約65%)が何らかのスタイルで片手運転をしており、「片手12時ハンドル」をしていた車は168台(約26%)。非常に危険な「片手12時ハンドル」がかなり蔓延(まんえん)しているという実態が明らかとなった。

「片手12時ハンドル」をしているドライバーの多くが、センターコンソールや肘掛けに肘をついていた。また、ハンドルの下側に片手を添えている「片手6時ハンドル」も目立つ。車種やドライバーの属性別では、商用車(バンタイプ)に「片手12時ハンドル」がやや目立った一方で、若いドライバーや女性ドライバーは両手ハンドルが多く見受けられた。

642台中168台が片手12時ハンドル(26%)

168台の車種別の割合(商用車39%、ミニバン37%、乗用車22%、トラック2%)

改めて伝えたい「片手12時ハンドル」の危険性とは?

「この調査では毎度おなじみのフレーズですが、私の印象ではもっと多くのドライバーが『片手12時ハンドル』で運転しているように思います。直ちに違法とは言えない所作ですが、私はかなりの大問題だと捉えています。

というのは、『片手12時ハンドル』には想像以上の危険性が潜んでいるからです。『片手12時ハンドル』のドライバーは、ほとんどがシートに浅く腰かけ、シートバックも寝かせ気味で、ふんぞり返っていることが多いと思われます。これでは、まずメーターがきちんと見えません。運転中に常に注意を払わなければならない速度計や各種警告灯が見えていないのですから、そもそもが危険です。

さらに、正確なハンドル操作もできません。ハンドル操作はかなり繊細で、高速になるほどわずかなハンドルの動きが車の動きに現れるのです。ふんぞり返った『片手12時ハンドル』では、とっさの時に車のコントロールが正確にできません。

また、装備が当たり前になったエアバッグの効果が半減し、かえって危険性が増す、というデメリットもあります。ハンドルエアバッグやサイドエアバッグは、正しいドライビングポジションを取ってこそ、最大の効果を発揮します。しかし『片手12時ハンドル』でふんぞり返っているとエアバッグが十分に効かないばかりか、エアバッグ展開の勢いでケガをするおそれすらあります。

まさに百害あって一利なしですが、なぜ多くのドライバーが『片手12時ハンドル』になってしまうのでしょうか。答えは簡単。根本的にドライビングポジションが悪いから。これに尽きます。シートに浅く腰かけ、シートバックを寝かせているので、必然的にハンドルが遠くなり、腕を伸ばし切った状態でハンドル上部を持つ『片手12時ハンドル』になるのです。

さらに、片肘をセンターコンソールや肘掛けなどに置いているケースなど、もう最悪ですね。危険性の高さは先に挙げた通りですし、本人は疲れにくいと思っているかもしれませんが、むしろ疲れやすいポジションです。何より、オラオラ系ドライバーに見え、とにかくカッコ悪い(笑)。調査結果から判断すると、身に覚えのある方もかなり多いと思われますが、すぐに直していただきたいものです」

菰田さんオススメは、メリットが多い適正な「両手9時3時ハンドル」

「私が推奨しているのは、『両手9時3時ハンドル』。左手でハンドルの9時、右手でハンドルの3時の箇所を持つハンドルポジションです。親指付け根の膨らみの手のひらに近いあたりで、ハンドルの9時と3時の位置を軽く押すようにして持ちましょう。もちろん、シートに深く腰かけ、ペダル操作がしやすいようシートの前後位置を調整し、シートバックの角度などもきちんと調整されていることが大前提です。

『両手9時3時ハンドル』には、ハンドルの操作量に対してどれぐらい車が動くのかが非常にわかりやすい、というメリットがあります。ハンドルをどれぐらい切ったか、どれぐらい戻せばいいかがすぐにわかるので、車のコントロールが上手になるでしょう。

さらに『両手9時3時ハンドル』は、最も疲れにくいハンドルの持ち方です。長距離運転時の肩こりに悩んでいた知人に『両手9時3時ハンドル』を教えたところ、『肩こりゼロになったよ!』と喜ばれたことがあるほどです。

長距離を、長時間走っているうちにいつしか『片手12時ハンドル』になってしまうドライバーも多いようですが、それは危険信号。ドライビングポジションが崩れているようなら運転時間が長すぎたと捉え、ぜひ休憩を取ってください。

もっとも今回の調査地点では、長距離、長時間というより、短距離、短時間の方が多いはず。出発した瞬間から『片手12時ハンドル』のドライバーもいることでしょう。これはもう、悪癖と言わざるを得ません。今まで大ごとにならなかったことがよほどのラッキー、すぐにでも『両手9時3時』を心がけていただきたいと思います。

なお、『両手10時2時ハンドル(10時10分とも)』と教わった方も多いかもしれませんが、エアバッグ作動時に腕に当たり、ケガをするおそれがあります。これも私が『両手9時3時ハンドル』を推奨する理由のひとつです」

現代の車に合った適正ポジションで「いつでも正しくリラックス」

「9時3時、つまりハンドルの中心を通る水平線より上を持つ人は、ハンドルを高い位置から大きく引き下げるようにグイッと切るクセがついているようにも思います。これは、パワーステアリングがなく、ハンドル操作が非常に重かった遠い昔の話。今やほぼ全車にパワステが装備され、軽く操作できる時代ですから必要ありませんし、むしろ無駄に大きく車を動かしてしまう危険性さえあります。

また、今回たびたび言及しているように、ハンドルエアバッグはもはや標準装備と言っていいものですし、サイドエアバッグもかなりの勢いで普及しています。これらの安全装備に最大限の効果を発揮してもらうためにも、今まで以上に正しいドライビングポジションの重要性が増しているのです。

残念ながら日本車の多くがシートにお金をかけていないため、お尻が痛くなりやすく、徐々に浅く腰かけたくなる気持ちも、わからないではありません。しかし、変にラクをしようとして『片手12時ハンドル』になり、危険運転のリスクを高めるのは本末転倒です。

正しいドライビングポジションこそ、実はラクでリラックスできますし、リスクを減らすことも可能です。また、シートを後ろに下げて背もたれを倒す『片手12時ハンドル』に比べ、『両手9時3時ハンドル』はシートを前方に出し、背もたれも起こすことになります。結果、後部座席が広くなり、『ウチの車、こんなに広かったのね』と家族から見直してもらえる可能性も(笑)。

安全、快適で、家族にもグッド。『両手9時3時ハンドル』は、現代の車にマッチした適正なドライビングポジションの象徴です」

菰田 潔

こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。

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