事故ファイル

秋冬は、正面から射し込んでくる西日の眩しさに注意

サンバイザーや偏光サングラスで視界の確保を

2023.11.01

文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

2023.11.01

文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

昼間の時間が短くなる時期は、夕方の西日が眩しく感じがち。正面から射し込んでくる西日で目がくらみ、事故の原因にもなるためしっかり対策を。過去に起こった交通事故から、それを防ぐ方法を解説する。

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2021年11月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

西日の眩しさで信号を見落とし、重大事故に

今年1月下旬の良く晴れた日の午後3時前、東京都内で1件の追突事故が発生した。事故が起きたのは、見通しの良い直線道路の、歩行者用信号がある横断歩道の手前で、車側の信号は赤。赤信号待ちで停止していた車に後続車が衝突するという追突事故だった。

事故原因を脇見と思った人も多いかもしれない。しかし、後続車を追突事故へと誘ったのは西に傾いた太陽、つまり西日だったのである。

「それまで北に進んでいたのですが、交差点で左折したところ、いきなり真正面から太陽に両目を直撃されたのです。西日の眩しさに視力を奪われつつもサンバイザーを下げ、なんとか光を遮りました。しかし、5m先の路面ぐらいまでしか見えなくなり、信号灯火が赤色に変わったことはもちろん、前走車が停止するために減速していたことも視認できず、気が付いたら追突事故を起こしていました。追突相手にけがをさせることなく、物損事故で済んだことだけは幸いでした」(50歳代の男性ドライバー)

太陽の光による眩しさが生む事故は決して珍しいものではない。毎年、秋が深まり始めた頃から各地で散見されている。2014年1月には、栃木県内の交差点で、青信号の横断歩道を渡っていた親子連れが、50歳代の男性が運転する乗用車にはねられ、女児は頭などを強く打って死亡、母親は左足に軽傷を負った。また、18年1月には、埼玉県内の県道で、青信号の横断歩道を渡っていた下校途中の女子児童4人が、60歳代の女性が運転する乗用車にはねられている。どちらの事故でもドライバーは「西日が眩しくて前がよく見えなかった」と供述したという。

西日による眩惑は誰にでも起こりうる。時に重大事故にも

西日や朝日などの太陽光による、まるで目つぶし攻撃のような眩しさは、ドライバーなら誰もが一度は経験したことがあると思う。西日による眩惑は死亡事故にもつながり、そして誰にでも起こり得るものであることを忘れてはならない。

警察庁の附属機関である科学警察研究所(科警研)の交通科学部交通科学第一研究室が行った「太陽の眩しさが交通事故に与えた影響の分析」によれば、太陽高度が地平線から10〜30度のときに運転中のドライバーの目に太陽の光が直接入りやすく、交通事故率が高いことがわかった。事故類型別による分析では、人対車両事故や右左折時、出会い頭などにおいて、太陽の正面に近い状況での事故発生割合が高くなっていた。

西日が眩しい時間帯は冬は夏の1.5倍に

また、科警研は事故率の高い太陽高度10〜30度に該当する時間帯を、千葉県内で発生した事故を例に調べている。夏至と冬至に近い日にちで比較したところ、事故率の高い太陽高度の時間帯は、夏至に近い場合が16時10分から17時50分の「100分」、冬至に近い場合が12時50分から15時20分の「150分」となった。晩秋から冬場の西日が眩しく感じるのは、秋冬の乾いた大気によって空気が澄んでいるため、太陽光の透過率が高まって眩しく感じられることに加え、夏より1.5倍も眩しい時間帯が長いことが影響している。

眩しい太陽の光による事故防止策としてサンバイザーの利用が考えられるが、モータージャーナリストの菰田潔氏は、サングラスとの併用が良い方法と説明する。

「サンバイザーを下げて太陽の光を遮ることができれば、視界は確保できます。しかし、光がサンバイザーより低い位置になるとお手上げ。背筋を伸ばして少しでも太陽を遮る方法もありますが、高い位置に設置された信号機が見にくくなり、信号を見落とす危険が増すので、サングラスの併用が有効となるわけです。なお、太陽が低い位置にあるときは、路面や先行車に反射する光にも眩しさを感じるので、反射光等の雑光を遮る能力が高い『偏光サングラス』がお勧めです」(菰田氏)

また、太陽によって見にくいと感じたら、すぐに速度を落とすことも事故防止の大事なポイントだと菰田氏は力説する。急な減速は後続車に迷惑をかけることになるので、緩やかに減速することを意識したい。減速する際は必ずブレーキペダルを踏むこと。後続車も前が見にくい状況は一緒であり、自車の存在を知らせるためにブレーキランプを点灯させることが大切になるのだ。

「サングラスがない場合、あってもすぐにかけられない場合は、眩しいと感じた光源を直視しないこと。少し視線を外すことで、まったく見えない状態から少しは見えるようになります。また、緊急時は手で光を遮ることも有効です」(菰田氏)

ふだん走るときから、4〜5秒先を見るように運転する癖をつけておくことも肝要だという。たとえ急な眩しさを感じても、事前の視覚情報を使って1〜2秒走ることができるので、その間に事故防止策を取ればいいのである。

  • 西日を背にして走る車のヘッドライトをオンにした場合(写真右)とオフにした状態(左)を比較。ライトをオンにすると、西日の眩しさがあっても被視認性が高まる。「まだ明るいからライトは不要」とは考えず、積極的にヘッドライトを使うこと。

まとめ

秋から冬にかけて西日が眩しく感じる時間が長くなる。サンバイザーや偏光サングラスの活用で視界を確保しよう。

この記事のキーワード
この記事をシェア

この記事はいかがでしたか?

関連する記事Related Articles