事故ファイル

農繁期に増える、農耕車との事故。薄暮時は特に注意

2023.09.01

山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

2023.09.01

山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

澄み渡った空の下、黄金色に輝く稲穂が爽やかな風に波立つ光景に、心癒やされるドライバーは少なくないだろう。田園地帯は、視界を遮る建造物も少なく、通行車両も多くはない。しかし、思いもよらぬ危険が、ここには潜んでいる。

※写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2019年10月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

速度が低い農耕車に、普通乗用車が追突

2016年初秋のある朝、青空が広がる茨城県南東部の田園地帯の県道を、1台の普通乗用車が走行していた。産業道路でもある片側2車線のこの県道は、通勤時間帯前ということもあって走行車両はわずか。普通乗用車のハンドルを握る40歳代前半の男性は、走り慣れた通勤ルートの両側に広がる黄金色の景色に秋を感じつつ、時速60㎞前後で左側の車線を走り続けていた。

見通しのよい緩やかな右カーブを抜け、直線道路へと入った普通乗用車。数秒後、朝の静かな田園地帯に、思いもよらぬ衝突音が轟いた。前方を時速10㎞ほどの低速で走行していたコンバイン(稲や麦などの収穫に使われる農耕車)に、ノーブレーキで追突したのである。

追突されたコンバインは左に横転。体がむき出しの状態で、シートベルトも装備されていないコンバインを運転していた70歳代後半の男性は、道路へと投げ出されて頭部を路面に強打。搬送先の病院で死亡が確認された。茨城県警の調べによれば、事故原因は、普通乗用車を運転していた男性の漫然運転による前方不注視だったという。

農耕車への追突は、薄暮や日没後に多発する

「普通乗用車のドライバーは、自宅から稲刈りに向かう途中だったコンバインの存在にまったく気が付かずに追突してしまったようです。毎日のように走る通勤路ということで道路状況を熟知していたこともあり、漫然と運転していたと思われます」(茨城県警交通部交通総務課・前田英明管理官)

漫然運転による追突事故は珍しいものではない。しかし、追突された車が農耕作業用自動車(農耕車)であったことに、注目してほしい。秋の観光シーズンは農繁期でもあり、この季節ならではの事故が多発しているのである。

「茨城県内では、2014年から18年の5年間に、農耕車が関係する人身事故が43件発生し、うち死亡事故は今回の事故も含め9件。発生月別では、9月が最も多く8件、次いで11月の6件、3月と4月の5件と続きます。また、事故類型別で見ると、農耕車が一般車に追突されるケースが最も多く、出会い頭、その他車両相互、単独事故(転落・横転等)と続きますが、今回のような追突事故が22件と全体の5割以上を占め、突出しています。追突の原因としては、やはり、脇見や漫然運転が多く、交通量が少なく、見通しもよく、走りやすい道ということからくる緊張感の欠如が事故につながっていると思われます」(前田管理官)

農耕車が関係する事故の大きな特徴は、事故の発生が16時から20時の夕方から夜にかかる時間帯に19件と、とび抜けて多いことだ。

「この時間帯も追突事故が多く、特に前方が見えにくくなる夕暮れ時や日没後に多発しています。農耕車は尾灯が泥汚れなどで視認しにくくなっていることも珍しくなく、見落とされる危険が増すことは否定できません」(前田管理官)

農耕作業がメインとなるコンバインやトラクター、田植え機などは、公道走行時でも時速15㎞以下のものが一般的だという。農耕車は自転車とほとんど変わらない速度で走っていることを、ドライバーは覚えておきたい。

警察庁交通局交通企画課が今年3月に公表した資料によれば、昨年までの過去5年間に、全国で農耕車の交通死亡事故は156件発生。単独事故が7割超を占めるが、追突事故も27件と次いで多い。

農林水産省や警察庁などは、農業従事者に対し、シートベルトとヘルメットの着用や低速車マークと反射板の取り付けなどを呼びかけている。しかし、高齢化が進む農家の人々には金銭的な問題も絡み、なかなかその注意喚起が届かないという。追突する側となるドライバーの注意が欠かせないのである。

夜間や日没前後だけでなく、トンネル内も注意

「秋の農繁期に、ドライブはもちろん、通勤などで交通量の少ない田園地帯を走行する際は、速度を控えめにし、前をよく見て運転に集中すること。特に夜間や日没前後の時間帯に走行する場合は上向きライトを活用し、農耕車や農作業中の歩行者などの早期発見に努めていただきたい」(前田管理官)

同様の追突事故が少なくないという田園地帯のトンネル内でも、注意を怠らないことを忘れずに。

  • 現在販売される乗用型農用トラクターの多くには、認識性を高める「低速車マーク」と呼ばれる反射板(左写真○)がついている。(写真提供=農研機構)

まとめ

速度が遅く、見えにくい農耕車。田園地帯では速度を抑え、上向きライトを活用して走ろう。

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