鉄道他 菰田潔の【良い車、売れる車】その2
「売れる車」は「よい車」か?

2018年11月21日 15:47 掲載

ちゃんと設計しても、その通り生産されない事情

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 ところで、販売面ということを脇に置いておいて、工業製品としてはどうでしょうか。アメリカ車は、細部まで気を配って作られていない車が多いというのが正直な印象です。世界の車のレベルが上がってきている中で、雑なところが目立つんです。米自動車メーカーでは、設計ではきちっと作ってちゃんと仕上げています。ところが、製造・生産技術があまり高くない。ちゃんと設計しているのに、それを工場で生産する場面にまで落としこめずに、結果製品が粗くなっている節があります。不思議なことに、アメリカで乗ると気にならないのですが、日本で乗ると、他の日本車がきちっとできている。軽自動車やエントリーカーだって、細かいところまで本当によくできているんです。そういう中で比べられてしまうので、アメリカ車の作りの粗さが目立つということになる。逆にドイツ車は細部まで作り込みます。そこも日本人に合っているのかな、と思います。

 生産の話に立ち返ると、ドイツメーカーでは、誰が作っても狙い通りの品質で作れるように設計してあるといいます。例えばBMWが米サウスカロライナ州に工場を作りました。そのとき、内外から「アメリカで車を作ってBMW大丈夫か?」と嘲笑されました。けれどBMWは「大丈夫だ。ウチは誰が作ってもBMWクオリティを担保できるよう開発している」と言ってのけたのです。「ドイツ国内だって車の生産工場で働くのはトルコ人など外国籍の人が多い」とも。つまり「Made in USA」ではなくて「Made by BMW」だとしているわけなんです。生産技術が高ければ、確かにどこで誰が作っても相応のものが出来上がるというものです。

せっかく生産品質を向上させても、売り場がないと意味がない

 そうした誰が作ってもきちっとしたものが出来上がる生産技術は、日本車とかドイツ車だけのものなのか、というと、最近ではそうでもなくなってきているので、アメリカ車はますます分が悪い。フランス車やイタリア車のプレミアムカーは最近めっぽう質が良くなってきています。

 例えばアルファロメオ。これまではブランドの名声と作る車が一致しないようなところがあったメーカーですが、「ジュリア」は作りもすごくよくなった。それから「ステルビオ」とか、新生代の車はFCAがすごく力を入れて作り始めた好例です。大金を投じて大きく変えたんです。シトロエンのプレミアムセグメントの「DS」もすごく質の高い車を作り始めています。

 ドイツ車やラテン系の車以外で、最近メキメキと品質を向上させてきたのがスウェーデンのボルボです。日本では2016年に登場したSUVの「XC90」は、新しいプラットフォームで作りました。この隅々まで新しい考え方で作り直し、1車種を開発する金額としては通常の5倍以上の1兆3000億円もの開発費をかけて作ったのです。その結果、非常に品質が高くなった。本当に細かいところまで手を抜かずに作ってあるので、はやり日本人にも受け入れられました。これを元に「V90」、「V90クロスオーバー」、「S90」 と大きいサイズの車種を続けざまに出しました。さらには、17年にXC90より少し小型の「XC60」、「V60」を、18年にはヤングファミリーにも手が届く「XC40」を発売しました。特にXC40は、発売当初から6ヶ月待ちの状態になっているといいます。このためボルボ・カー・ジャパンでは、日本向けの割り当て台数を増やしてもらうように本国と交渉し、多少は増えたようです。それでも世界的に売れているので、日本での販売台数が限られてしまった。これは、販売店の数以前の問題であるといえます。

 生産だけではありません。例えば「ルノーメガーヌRS」というのは、すごい「走り」に振った車です。もう運転するとすごくおもしろい車に仕上がっている。これ一つとってみても、相当にウリなわけで、もっともっと宣伝しないといけないのです。でもユーザーがルノーを買おうかなと思っても、売っているところがない。「アルピーヌ A110」が出ました。伝統の車名が復活したのでぜひ欲しいけれど、買おうとしても販売店が全国に数箇所しかない。車は買っておしまいではありません。メンテナンスや、事故・故障での修理などが必要なんです。販売店の絶対数が少な過ぎて、車が好きな人が買おうとしても、隣の県に行かないと買えないという状況だとなかなか買えない。ですから、「数が売れるかどうかということと、いい車かどうかということはまったく違う」ということが言えるのです。

2018年11月21日(モータージャーナリスト 菰田潔)

菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。 タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 /NPO法人 日本スマートドライバー機構 理事長/ 国土交通省 道路局環境安全課 検討会 委員 / BMW Driving Experienceチーフインストラクター / 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。