2016年12月14日 16:37 掲載

すごい先人に会いに行く 第8回
「雪は天から送られた手紙である」
●中谷宇吉郎(なかやうきちろう)(1900~1962)


こんなロマンチックな言葉を残した中谷宇吉郎は、雪の結晶の美しさに感動し、世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出すことに成功した国際的な物理学者で、名随筆家でもありました。

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若かりし日の中谷宇吉郎(写真=中谷宇吉郎記念財団)。

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宇吉郎が描いた詩画。物理学者としての知性・理性と、芸術的才能やロマンチシズムなども持ち合わせていました。

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北海道・十勝岳で3,000枚もの雪の結晶の写真を撮り、形別に41種類に分類しました。

1900(明治33)年に石川県作見村片山津(現在の加賀市片山津温泉)の呉服兼雑貨商を営む中谷家の長男として生まれた宇吉郎が、北海道・十勝岳で天然雪と人工雪の研究に着手したのは32歳のとき。4年後には天覧実験を成功させるなどの成果を達成、その後も世界を舞台に氷の研究などを行いましたが、それまでも、それからも、宇吉郎の人生は、決して順風満帆というわけではありませんでした。

教育熱心な両親の考えで、幼稚園入園と同時に親戚の家に預けられ、父母と暮らしたのは6歳まで。幼いときから成績優秀でしたが、旧制高校の受験に失敗。1年間の浪人生活も体験しています。また、小学校卒業と同時に父を病気で失い、経済的にも厳しい環境に置かれました。その後も、28歳のとき、最初の結婚の翌年に妻を病気で亡くしたり、36歳で人工雪の実験に成功した年には、仲の良かった弟を病気で亡くし、自身も肝臓ジストマを患い、2年間の転地療養を余儀なくされています。その後も一人息子がわずか11歳で病死するなど、数々の悲しみにも出会いました。

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片山津温泉にある「中谷宇吉郎生誕の地」の碑。

そんな、普通の人ではめげてしまうほどの環境の中で、世界的に有名な「雪博士」になり、数々の名随筆を残せたのは、もともと持っていた才能やセンス、そして、人生の師となる寺田寅彦との出会いによるところが大きかったのでしょう。しかし、素直でまじめ、前向きな性格で、出会った人や出来事からさまざまな影響を受け、それらをすべてプラスに変えていったから、というようにも思えます。たとえば、受験に失敗したときのことを、後に宇吉郎はこう書いています。

「試験に落第することは、決して名誉な話ではないが、そうかといって、人生の上において損をしたことになるとは限らない。落第した当時は大いに悲観もするが、一年間の浪人時代に得たいろいろな経験は、人生勉強という意味で、大いに得るところがあった」(「私の履歴書」)

また、肝臓ジストマの療養中には随筆を書き、初の随筆集『冬の華』を出版しました。

その後病を克服し、対象を霧や氷にも広げ、アメリカでも研究活動を行った宇吉郎ですが、61歳で亡くなる直前、夫人に残した最後の言葉は「人にはよくして上げなさいね」で、「人様にはお世話になっている、何をするにも心がけが大切で、いつも相手の身になって考えること」が口癖だったそうです。
恩師・寺田寅彦をはじめ、旧制中学時代から匿名で学費を援助してくれていたサントリー創業者・鳥井信次郎、岡潔、幸田露伴など、ゆかりのあった有名人が登場するものから、自らの経験や科学についてわかりやすく綴ったものまで、残された随筆の数々にも、たくさんの珠玉の言葉が散りばめられています。

出身地の片山津温泉の近くにある「中谷宇吉郎 雪の科学館」では、中谷宇吉郎の人柄や研究の成果などを紹介するとともに、宇吉郎が魅了された自然の不思議と美しさが体験できる実験コーナーが設けられています。
「そもそも人工雪の研究に打ち込んだのは、当時は雪の事故や災害が多かったから。雪の性質を明らかにすることが目的で、世の中の役に立つことを第一に考える、やさしい人だったのだと思います」と、学芸員の石川さん。

人間的な魅力にあふれる中谷宇吉郎に、あなたも会いに行ってみませんか。

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北大の「常時低温研究室」を再現したもの。下は人工雪製作装置。

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雪結晶の写真乾板を整理保存するために、特別に作らせた戸棚。

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ダイヤモンドダストを作る実験(上)や、氷のチンダル像(下)を作る実験などが体験できます。

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白山を望む柴崎潟のほとりにある建物は、磯崎新が雪をイメージして設計。中庭には、宇吉郎の次女・芙二子が制作した「グリーンランド氷河の原」も。

中谷宇吉郎 雪の科学館
石川県加賀市潮津町イ106 ℡0761・75・3323
【開】9:00~17:00 (入館は16:30まで)
【休】水曜(祝日は開館) 
【料】一般500円、満75歳以上250円、高校生以下無料
☆JAF会員証提示で、一般80円引き(5名まで)

撮影=村上宗一郎