2020年04月13日 18:20 掲載

交通安全・防災 創設25年、進化し続けるJNCAP。バリアが動く「MPDB」など、2023年度以降の衝突安全

1995年から始まった、国土交通省と独立行政法人 自動車事故対策機構(NASVA)によるJNCAP(自動車アセスメント)。2020年度以降も新たな評価試験が追加されたり、評価方法が変更されたりするなど、常に進化し続けていく。そんな近い将来のJNCAPの新たな姿について、シリーズで解説する4回目は、2023年度以降に追加される衝突安全性能評価の新たな試験を紹介する。

神林 良輔

 JNCAP(Japan New Car Assessment Program)は、新車を対象としたクルマの安全性能評価試験のことだ。JNCAPの試験は、安全性能を含めたクルマの基準を定めている保安基準よりも、さらに厳しい条件で実施されている。つまり、すべての市販車が保安基準を満たしているが、JNCAPではさらに高いレベルでの安全性能が評価されているのだ。それを点数化して公表することで、メーカーにはさらなる安全性能の追求を促し、ユーザーにはより安全性能の高いクルマを選択できるようにしているのである。

画像1。JNCAPの衝突安全性能評価試験で実施される、フルラップ前面衝突試験の様子。

画像1。JNCAPの衝突安全評価性能試験の「フルラップ前面衝突試験」の様子。

 JNCAPには、衝突時の安全性能を実車によるクラッシュテストで評価する「衝突安全性能評価」(画像1)と、事故を未然に防ぐ予防安全技術を評価する「予防安全性能評価」の2種類の試験がある。今回は、衝突安全性能評価に関して、2019年度に公表された「令和元年度第1回自動車アセスメント評価検討会 資料5-1 自動車アセスメントロードマップ(2018)改訂版」(以下ロードマップ)を基に、2023年度以降に導入が検討されている新たな試験について取り上げる(画像2)。

画像2。JNCAPの衝突安全性能評価試験において、2023年度以降に正式導入が決まっている項目に関するロードマップ。

画像2。JNCAPの衝突安全性能評価試験において、2020年度から2025年度にかけてのロードマップ。2024年度と2025年度は編集部で追加した。

2023年度に導入される前面衝突試験「MPDB」とは?

 JNCAPは1995年に、乗員保護性能を評価する「フルラップ前面衝突試験」(※1)と、歩行者保護性能を評価する「ブレーキ性能試験」の衝突安全の2種類からスタートした。その後衝突試験に関しては、1999年度に「側面衝突試験」が、2000年度に「オフセット前面衝突試験」(※2)が追加。それ以来変更がなかったが、四半世紀近い時間を経て2023年度から導入されようとしているのが「MPDB」だ。

※1 フルラップ前面衝突試験:コンクリート製の堅牢な障壁(バリア)に対し、時速55kmで真正面から衝突する試験。同じクルマ同士が正面衝突したことを想定している。
※2 オフセット前面衝突試験:つぶれることで衝撃を吸収するハニカム構造のアルミ製デフォーマブル・バリアに対し、運転席側の半分弱(オーバーラップ率40%)が時速64kmで前面衝突する試験。対向車を避けようとして、時速55kmで対向車と衝突したことを想定している。オーバーラップ率とはクルマを正面から見たときに衝突する割合のことで、100%なら正面衝突だ。

 MPDBとはMobile Progressive Deformable Barrier(モービル・プログレッシブ・デフォーマブル・バリア)の略だ。邦訳が未決定なので直訳すると、「前方可動式の変形可能なバリア」といった意味になる。オフセット試験で使用されているデフォーマブル・バリアを、台車の前面に取り付けたイメージだ。側面衝突試験で用いられているムービングバリアもその1種といえるだろう(画像3)。サイズ的には、高さを除けば乗用車と同程度である。

画像3。JNCAPの側面衝突試験で使用されているムービングバリア(左)。これも可動式バリアなので、MPDBの1種といえる。

画像3。JNCAPの側面衝突試験で使用されているムービングバリア(左)。これも可動式バリアなので、MPDBの1種といえる。

 MPDB前面衝突試験は、対向車同士の衝突を想定したものになる。試験車両とMPDBがお互いに向かっていき、すれ違えずに前面衝突するという内容だ。同じ対向車同士の衝突を想定した試験でも、固定式バリアに衝突するオフセット試験より、MPDB試験の方が対向車同士の衝突事故の再現性が高いと考えられている。

変更されるのは試験ではなくバリアの方式?

 MPDB試験は2020年度に調査・研究、2021年度に試験・評価方法検討、2022年度に予備実験というスケジュールだ。それと同時に、2021年度からフルラップとオフセット(画像4)の両試験も2年間かけて試験・評価方法の再検討を行う。これは試験の入れ替えというよりも、フルラップ試験とオフセット試験のバリアを固定式からMPDBに変更するかどうかを検討するということのようだ。衝突試験の再現性の高さから、オフセット試験に関しては固定式バリアからMPDBに変更することも考えられているようである。

画像4。JNCAPの衝突安全性能評価試験で実施されているオフセット前面衝突試験の様子。2023年度からバリアが固定式から可動式(MPDB)になる?

画像4。オフセット試験の様子。現在は固定式バリアが使用されているが、これが試験車両に向かっていける可動式のMPDBになる可能性がある。

 一方のフルラップ試験に関しては、MPDBに置き換わる可能性は低い模様。ただしフルラップ試験も2年間かけて試験・評価方法が再検討されることから、こちらも固定式バリアからMPDBに切り替えられる可能性がゼロというわけではないようだ。

MPDBに併せて導入される可能性のある新型ダミーとは?

 衝突安全性能評価試験は、センサーを装備したダミー人形を運転席、助手席、後席などに1体もしくは2体座らせて行われる(画像5)。そして衝突時にダミー人形の頭部や胸部など各部に加わる衝撃を測定するなどして、乗員保護性能を評価しているのだ。

画像5。JNCAPの衝突安全性能評価試験のオフセット前面衝突試験では、運転席の男性型ダミーのほか、後席には女性型がセットされて衝撃の計測に使用される。

画像5。オフセット試験で後席にセットされた女性型ダミー。衝突時の衝撃で激しく身体が動いているのがわかる。

 現在のダミー人形はヒトの身体構造を忠実に再現すべく、頸椎や脊椎なども精密に作られている。関節の可動範囲をヒトに近付けることで、衝突時にヒトの身体がどのように動き、その結果どこに強い衝撃が加わるのかを調べるのである。

 MPDB試験の導入に合わせ、ダミー人形も最新型として、より人間らしい(生態忠実度が高い)ことを特徴とする米NHTSA(米運輸省道路交通安全局)製「THOR」(※3)の導入が検討される。MPDBに関する2020年度の調査・研究から2022年度の予備試験まで、すべてTHORも含めて行われる予定だ。

※5 THOR:Test device for Human Occupant Restraintの略で、直訳すると「乗員拘束の試験装置」。読み方は「ソー」。

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2025年度にはより過酷な衝突試験が追加される?

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