セーフティ・交通 菰田潔氏、時速120km規制に警鐘。速度が上がると何が危険なのか。普段は実感しにくい危険性の秘密

高速道路の新東名や東北道の一部区間で、時速120km規制が試行されている。クルマの性能が上がるとともに道路も高規格化されてきている。そうしたことを背景に、規制速度の高速化が実現しつつあるが、これに警鐘を鳴らすのが、モータージャーナリストでドライビングインストラクターでもある菰田潔氏だ。菰田氏がその危険性について解説。

2019年04月08日 掲載

菰田潔

 高速道路の新東名や東北道の一部区間で、時速120km規制が試行されています道路交通法で高速道路の法定速度は時速100kmと決められています。ちなみに一般道の法定速度は時速60kmです。この法定速度と異なる規制の場所では別に制限速度が決められています。普通は法定速度より低くなるのですが、今回はそれが時速120kmになったのです。これまでも試験的に時速110kmで運用されていましたが、それによる危険性が少なかったということで時速120kmmで引き上げられました。

そこで今回は、法定速度が時速120kmになると運転にはどう影響するのか、クルマの停止距離を中心に解説します。

 時速100kmから110kmになり、今回さらに時速120kmに上がっただけなので、これまでの運転でも対応できると考えてしまいがちですが、そんな甘い考えでは危険が増します 。これまで止まれていたケースでも、時速120kmからは止まれないかもしれない!と考えてもらいたいです。その理由はスピードが上がると制動距離(ブレーキを踏んでから停止するまでの距離)はうんと伸びるからです。

 例えば、時速30kmのときに4mの制動距離で止まれるクルマがあるとします。スピードが倍の時速60kmになるとどうなるか。制動距離は4倍の16mになるのです。さらにスピードが3倍の時速90kmになると、制動距離は9倍の36mにも達します。制動距離は速度の2乗に比例します。つまり、高速度領域ではスピードが落ちにくいということです。

 これだけではありません。人が危険を認知して判断して実際に制動を開始するまでの「空走距離」があるからです。通常の運転時の空走距離は1秒間といわれていますが、この空走距離の分だけ全体の停止距離は延びるのです。もちろん脇見をしていればもっと長くなるのは明白です。ちなみにこの空走距離は速度に比例しています。時速100kmで走っている車は1秒間におよそ27.8m進みます。これが時速120kmになると33.3mになります。

 この空走距離と制動距離を足したものが停止距離です。速度が上がるに従って空走距離は伸びますが、制動距離はそれ以上に伸びるということです。これを意識しないと追突事故を起こす可能性が高まります。

 では、時速100kmから40.0mで止まれるクルマの場合で考えてみましょう。時速120kmになると、止まるまでに57.6mを要します。これに先ほどの空走距離を足すと、全体の停止距離は時速100kmの場合67.8m、時速120kmになると90.9mで大幅に増えるのです。それは、ドライバーが実際にこの差を体験すれば、「まったく止まらない」と感じるほどの差です。ではどうしたらよいのか。実際に時速120kmで走っているときに前方で渋滞していることがわかったら、これまで以上に早めに速度を落とし、前にスペースを作りながら減速していくと良いでしょう。

 このように減速ひとつとってみても、特性が大きく変わります。ですから、クルマに時速120kmで走れる力があるからといって、安易に速度を上げて走っていいという理屈にはならないわけです。

 東名高速を例に取りましょう。法定速度が時速100kmであるにもかかわらず、空いている時間帯の追い越し車線では時速120km程度で流れていることがよくあります。法定速度が時速120kmの新東名では、追い越し車線では時速140kmで走るクルマが発生する可能性が出てきます。これはドイツのアウトバーンの推奨速度をも超える速度です。これまでの速度域に慣れているドライバーがこの速度で走るのは危険です。

 先の停止距離の話だけではなく、時速100kmで走っている時と比べて、ハンドル操作も非常に繊細さが要求されることも知っておきたいものです。3秒間かけて右に行きたいと思ってハンドルを切り始めても、あっという間に思っていた以上に右に寄ってしまう。ハンドルがすごく敏感に反応するわけです。このように、枚挙に暇がないほど運転感覚がシビアになってきます。ですから、法定速度を時速120kmに引き上げるのであれば、ドライバーに高速度域での運転をしっかりトレーニングする必要があると思うのです。

菰田潔(こもだきよし):モータージャーナリスト。1950年生まれ。 タイヤテストドライバーなどを経て、1984年から現職。日本自動車ジャーナリスト協会会長 / 一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)交通安全・環境委員会 委員 / 警察庁 運転免許課懇談会委員 /NPO法人 日本スマートドライバー機構 理事長/ 国交省ラウンドアバウト検討委員会 委員/ BMW Driving Experienceチーフインストラクター / 運送会社など企業向けの実践的なエコドライブ講習、安全運転講習、教習所の教官の教育なども行う。