2019年06月20日 01:00 掲載

次世代技術 スーパーカーも軽自動車も! 高剛性ボディの今:ホンダ編【クルマ解体新書】


JAFメディアワークス IT Media部 日高 保

 最後は、G-CONを採用していない車種を取り上げる。非採用車種は9車種あり、スーパーカー「NSX」、ホンダの主力車種「シビック」シリーズ3車種(セダン、ハッチバック、タイプR)、環境車「クラリティ」シリーズ2車種(FUEL CELL、PHEV)、ハイブリッド・ミドルセダン「インサイト」、大型SUV「CR-V」、商用車「アクティ トラック」となっている。

 今回は、この中から、「NSX」とスポーツカー「シビック タイプR」の2車種を取り上げた。

複数の素材を用いたスペースフレーム構造を採用した「NSX」(2017年2月発売)

ホンダ NSX 2019年式|honda nsx 2019 model year

2代目「NSX」2019年式。「モータースポーツジャパン2019」にて撮影。

 2代目「NSX」はスーパーカーであることから、モノコックフレームを採用している一般的なホンダ車とはまた異なった技術が投入されている。基本骨格もそのひとつで、一般的なモノコック構造ではなく、クルマの形状をした骨組みである「スペースフレーム」を採用しているため、「G-CON」は採用されていない。

 もちろん衝突安全性も考慮された設計となっている。前面衝突時は前方スペースフレーム部が連続的につぶれるように変形して衝突エネルギーを吸収。そして、クルマへの採用が初となる「アブレーション鋳造」(※3)アルミ材を使用した接合部が、衝撃を受け止めてキャビンの変形を防ぐ。後面衝突でも同様の接合部がエネルギーを吸収すると同時に、リアミッドシップのパワーユニットがキャビンに侵入しないようになっている。

 スペースフレームで高剛性と軽量化を実現するためには、素材に強い力をかけて金型から押し出す「押出成形」アルミ材を中心とした複数の素材が用いられた。その実現のため、アブレーション鋳造アルミ材や、こちらもまたクルマへの採用が初となる「3次元熱間曲げ焼き入れ」(※4)超高張力鋼管フロントピラーなどが導入された。

 初代「NSX」では、オールアルミモノコックボディが採用されて大きな話題となった。それに対して2代目では、同一の素材で構成することにとらわれないようにしたという。部位ごとに最適な素材や製法が選ばれたのである。


※3 アブレーション鋳造(ちゅうぞう):鋳造とは、素材を高い温度で溶融させて液化させてから型に流し込む加工方法のこと。アブレーション鋳造はその一種で、砂型に液化した素材を流し込んだ後、ウォータージェットで急速に冷却しながら砂型を除去する加工方法。従来の単純に流し込む(重力)鋳造に対し、延性(引き伸ばされる性質)と強度の高い機械特性を実現できるのが特徴である。
※4 3次元熱間曲げ焼き入れ(3QD):複雑な形状の超高張力鋼管を高精度で行える成形方法。精密な形状仕様と公差を満たす薄肉断面化が可能で、2代目「NSX」のフロントピラーでは、従来の成型方法よりも幅をスリム化し、同時にルーフのつぶれ性能要件としての構造的な強度も向上している。3QDの行程としては、熱してから連接ロボットアームによって3次元に形成後、水によって冷却。1500Mpa(メガパスカル)という超高張力を実現している。

素材別に色分けしたスペースフレーム。押出成形アルミ材をアブレーション鋳造アルミ材に結合しており、取り付け点の全方向に対して高剛性化が可能なトラス構造の採用により、高速でコーナリングをするなど大きな荷重が車体にかかっても、シャシーが歪むことなく保持される。アブレーション鋳造アルミ材が使用されている理由は、高剛性を実現すると同時に、衝突時にエネルギーを効率よく吸収するためだ。

先代モデルよりもねじり剛性のアップと軽量化を実現した5代目「シビック タイプR」(2017年9月発売)

ホンダ シビック タイプR|honda civic type r

スポーツカー「シビック タイプR」。走りを追求したモデルに、「タイプR」の名が冠される。「東京オートサロン2018」にて撮影。

 2017年9月から発売を開始した、10代目「シビック」。「セダン」、「ハッチバック」に加え、走りを追求したモデル「タイプR」が設定された(「タイプR」としては5代目)。従来の「タイプR」とは異なり、「セダン」や「ハッチバック」とは別の独自の新型プラットフォームを採用している。先代「タイプR」に対し、エンジンのハイパワー化に対応するため、基本骨格のねじり剛性は約38%の向上を果たした。またホワイトボディにおいて、ボンネットフードをアルミ化するなどにより、約16kgの軽量化を達成した。

 基本骨格の高剛性化は、ボディ全体の骨格部材を組み立ててから外板パネルを溶接する「インナーフレーム構造」を採用したことによるところが大きい。インナーフレーム構造は主要フレームの結合効率を高められるので強固な骨格を形成でき、補強材を最小限にできる点もメリット。軽量化にも貢献しているのだ。

 また、「タイプR」のボディタイプはハッチバックであるため、セダンのようにリアバルクヘッドを持たない。そこで、ダンパー取り付け部と強固な構造を持つテールゲート取り付け部をつなぐ環状骨格構造を採用。開口部の大きなリアゲートを採用しつつ、同時に剛性のアップも実現した。

ホンダ シビック タイプR 基本骨格(前)|honda civic type r frame front view

「シビック タイプR」用のフレームを前方から。フロアは、大断面のセンタートンネルと、井桁状に配置した骨格部材で構成されている点もポイント。これにより、低重心化、低いドライビングポジション、そして低全高化を達成した。同時にフロアの振動を抑制する効果もあることから、重量があった制振材が不要となり、軽量化に大きく貢献した。そのほか、センタートンネルに対して左右方向の補強用ブレースが配置されており、高剛性化に寄与している。

ホンダ シビック タイプR 基本骨格(後)|honda civic type r frame rear view

「シビック タイプR」用の基本骨格を後方から。赤いラインは、「接着接合」適用部位。接着接合とは接着剤を用いた接合方法のこと。広い面で接合できることにより、応力を分散でき、これもまた高剛性に大きく貢献。同時に「走り」において重要な、タイヤが路面をとらえるための「しなやかさ」を実現した。


 今回、ホンダにおける基本骨格の技術的進展を見ていただいた。2013年から2018年までわずか5年ほどの間だが、超高張力鋼板の採用率の変化などで、その進展を見てもらえたのではないだろうか。

 今後、基本骨格は、使用されている高張力鋼板の割合が、より引っ張り強度の高いものに置き換わり、より軽量でより高い強度が確保されていくことだろう。しかし、すべての骨格の引っ張り強度を上げればいいかというと、そう単純な話でもない。逆に、曲がったりつぶれたりすることで衝撃を受け止める役割の骨格もあるからだ。それらを踏まえた基本骨格の進化や、高張力鋼板の採用のされ方がどのように変化していくのか、実に興味深いところである。

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