次世代技術 これは宇宙版ランドクルーザーだ! JAXAとトヨタが月面探査のためのローバを開発

宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタは3月12日、国際宇宙探査ミッションの協業で合意。その第1弾として、燃料電池車(FCV)技術を用いた月面での有人探査活動に必要なモビリティ、「有人与圧ローバ」のコンセプトモデルを披露した。

2019年03月21日 16:29 掲載

JAF メディアワークス IT Media部 秋月新一郎

2029年に打ち上げ予定

 先日、小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功した小惑星探査機「はやぶさ2」で、世界中の天文ファンを沸かせた宇宙航空研究開発機構(JAXA)。次に挑むビッグプロジェクトは月だ。

 JAXAは3月12日に開催したシンポジウムで、米国が中心となって進める国際宇宙探査への参画に向けてのシナリオや、具体的なミッションについて披露した。

「私たちはロケットや人工衛星の開発、国際宇宙ステーションの運用に関しては知見がありますが、その他の分野ではノウハウがあまりありません。2029年に打ち上げを目指している有人月面探査では、日本の優れた産業技術を活かし、"チームジャパン"で挑みたいと考えています」

 そう語るのは、宇宙飛行士でありJAXAの理事を務める若田光一氏だ。

 JAXAでは、月面で持続可能な生活を送るために必要不可欠な「到達する」「建てる」「住む」「作る」「移動する」「探る」という6つの大項目を設定し、各分野に精通した国内企業と手を組み、宇宙探査の基盤技術の確立を目指す。

 今回のミッションでトヨタは、月面での有人探査活動のためのモビリティ「有人与圧ローバ」の開発企業として参加することを表明。国際宇宙探査の"新たな仲間"としてチャレンジする。

地球と月の違い

 若田さんの説明によれば、トヨタが開発するローバの運用期間は2029年から2034年で、5つの領域を5回にわたって探査していく計画だという。

 このローバは、地球から無人ロケットによって直接月面に搬送される予定だ。宇宙飛行士は「ゲートウェイ」と呼ばれる月軌道を周回する宇宙ステーションを一度経由し、月面に着陸後、ローバに乗り込む。

 興味深いのはローバの運用だ。ひとつの探査が終了すると宇宙飛行士は一旦、ローバを離れゲートウェイに帰還。"無人"になったローバは、自動運転によって次の探査目的地へと移動を開始し、目的地に到着後、再びクルーと合流する。

 なぜ、そのようなスキームを採用するのかというと、月面の移動が人体にとって想像以上に厳しいからに他ならない。レゴリスと呼ばれる悪路、地球の1/6の重力、真空環境、-170度から120度までの寒暖差の激しい熱環境、さらには宇宙放射線と、劣悪な環境下をローバは次の目的地に向けてひた走る。

求められるスペックは月面を1万km走破できる能力

 トヨタ副社長の寺師茂樹氏の説明によれば、現在、同社はJAXAから提供された要件を元に、机上で構想を練っている段階だという。発表したコンセプトモデルのボディサイズは、全長6.0m×全幅5.2m×全高3.8mとマイクロバス2台分よりも少し大きく、居住空間は四畳半のワンルームよりも少し小さい13 平米を想定。車両には2名が滞在可能で、人がスーツを脱いで普通に暮らせる広さだそうだ。

 JAXAが計画する今回のプロジェクトは1回のミッションに42日間を要し、約1万kmの月面走行が必要になるという。そのためトヨタでは、走行に十分なエネルギー量を確保するために、同社が研究開発を進める次世代の燃料電池技術を投入する予定だ。水素と酸素1回の満充填で1000kmを走れる性能を目指すという。

 なお、現時点では水素と酸素を地球から持参する予定だが、"月に水がある"という最新の観測結果から、2020年代の後半には月の水資源から水素と酸素を分解して活用するための実験も検討しているそうだ。

 寺師氏によれば、地球よりもまず先に月が水素社会になる可能性は十分に考えられるという。

「トヨタのクルマはダサい、とよく言われるんですが、このローバに関してはカッコいいと思っていて、次のランドクルーザーにはこのデザイン要素を取り入れたいと思っている」とは、トヨタ副社長の寺師茂樹氏の弁。

月は第六の大陸だ

 そして有人与圧ローバの開発におけるハイライトとなるのが、自動運転技術だ。トヨタはクルーを安全にかつ確実に目的地に送り届けるためには、過酷な環境下でも耐えうる高い走行性能に加え、ローバを完全に自律自動走行させる必要があると考えている。

「月は道路の舗装もされていなければ、地面の起伏しているかが分かるデータもありません。我々は月を第六の大陸として考えています」と寺師氏。

 現在開発が進められている"地球上を走る"自動運転車は、カメラやセンサー、ライダー(LiDAR)といった情報を処理する機器から得たデータと、事前に準備してある高精度3Dマップを比較しながら走る場合が多いが、月の高精度な地図データはまだないため、別の工夫も必要になりそうだという。

「ランドクルーザーの開発現場を見ていただければ分かる通り、これまでトヨタは常に品質、耐久性、信頼性を確保した車両を開発してきました。その考え方は、月面を走るローバの開発にもきっと役立つはずです。地球より遥かに厳しい環境下でのプロジェクトは、トヨタの総合力をさらに鍛えてくれるでしょう」

 寺師氏は最後にそう述べ、有人与圧ローバの開発に自信を示した。月面探査に向けて有人与圧ローバが地球を旅立つ2029年まで、あと僅か10年。近年、こんなに胸踊らせる宇宙プロジェクトがあっただろうか。日本の、トヨタのクルマが月面に降り立つ日は、もうすぐだ。