2017年04月12日 09:15 掲載

長尾智子のお菓子風土記 第6回
阿波の国にてたおやかな鹿と出会う
●澤鹿(さわしか)


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今まで四国は高知県しか知らなかったので、今回は初の徳島県でした。阿波踊りと鳴門海峡、金時芋に半田そうめん、鳴門わかめ、和三盆糖。よく知られたものがたくさん思い浮かびます。
実は何度も食べているものが2つあります。まずは阿波尾鶏。この質のいい鶏肉は、東京でも割合よく見かけます。そして、小豆と山芋の蒸し菓子である「澤鹿」です。徳島出身の友人が帰省する度に送ってくれたのがこのお菓子で、徳島は知らねど鹿の姿を表した優しげな銘菓の味わいは、何度も楽しんでいたというわけです。
澤鹿は、あんと卵の生地を蒸した浮島と、山芋と卵白の生地を蒸した軽羹の間にあるようなお菓子です。蒸し菓子ならではの、しっとりとした湿度のある生地は、薄い小豆色の中に大納言の粒が散っています。澤鹿を主に作る澤鹿文明堂4代目主人の近藤竜也さんは、京都で修業後、先代とともに澤鹿の製造に携わって、今までに和三盆糖を生かした独自のお菓子を作られています。お茶席のお菓子に注文される方も多いらしく、幅を2等分して切り分けることもあるとか。どんな切り方をしても風情のあるお菓子です。

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澤鹿と力強い文字で書かれた巻紙には、親子と思われる鹿が二頭。水面に映る鹿の姿を想像すれば、このお菓子の柄も納得できます。
蒸し菓子は、日本のあちこちに見られる伝統の製法で、お饅頭を筆頭にかなり素朴な蒸しパン的な郷土菓子まで、お馴染みの和菓子は蒸して出来上がっていると言ってもいいくらいです。あんの風味を蒸して生かすのが、浮島と呼ばれるお菓子ですが、出来上がりがふんわりとして、中に茹で小豆などを入れても美味しいので、私も作るのがとても好きなお菓子です。
この澤鹿は、浮島の美味しさに薩摩菓子の軽羹のように、すりおろした山芋を加えて、さらにしっとりとした生地に仕上げています。山芋を生地に加えると、ほのかに山芋が香ったり、生地がより保湿されるだけではなく、山芋独特のぬめりのある食感が加わって、それが個性になっていると思います。
個性と言うと、何かアクセントのように強調されたもののように思えますが、このお菓子においてはちょっと違います。飛び抜けた何かではなく、全体が一体となった中にふと感じるもの。大納言の粒も含めた生地全体のハーモニーというのか、食べて感じる材料の調和が、ずっしりとボリュームのある澤鹿を飽きずに繰り返し食べたくなる理由のようにも思えます。

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まずお菓子を知って興味を持ったなら、次は訪ねて行きたくなります。どこで買っても同じものなのですが、いつも気になるのは、どんな佇まいのお店でどんな家族が作り商いをしているか、ほかにどんなお菓子を作っているのか。一つのお菓子は、その背景を全て表しているからです。そんな興味から、徳島駅から少し離れたところにある「澤鹿文明堂」を訪ねました。
想像通りの控えめな店構え。小ぶりなケースにいろいろなお菓子が並んでいます。
4代目は京都で修業されただけあって、どこか京菓子の風情もありました。
「香う木」(こうぼく)は、和三盆糖の干菓子に大徳寺納豆を忍ばせてあります。菓銘の通り、確かに独特な香りのあるお菓子です。
和三盆糖の産地だけあって、干菓子の類は和三盆糖が多く使われているのも、徳島の和菓子の特徴かもしれません。"特別な国産の砂糖"というイメージを持っていますが、それが当たり前のように、ふんだんにお菓子に使われているのです。
ケースには、一週間で変わるという主菓子(生菓子)も並んでいますから、旅行の途中であっても食べるタイミングを作って楽しむことをお勧めします。日持ちのしないお菓子こそ、作った日に居合わせたご縁というものです。逃したら勿体ない。

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そんなことを言っていたらきりがありませんが、お菓子を食べるタイミングは、お菓子に合わせてこそ。一期一会とも言える旅の楽しみでもあるのです。
私がお店を訪ねた時は、ちょうど雛祭りのあたりでした。斜めに仕切った箱に詰められた雛あられは、いかにも美味しそうな色合い。やはりこれも、修業時代の京都のお菓子がヒントになっているようです。
ほかにも、小ぶりな箱に詰めあわされたお菓子がいろいろ。ここでも、和三盆糖の徳島ならではなんだな、と感じます。楕円形の麩焼煎餅の名は「阿波三味」。模様は鳴門の渦潮でしょうか。何とも軽やかな小判形の麩焼です。
隣は、ほのぼのとした色合いの干菓子の詰め合わせ。可愛らしい形ばかりなのは、やはり雛祭りの時期だからでしょうか。しばらく眺めていたいようなお菓子です。
干菓子の色合いというのは、とても難しいものではないかと思います。濃ければしつこく品のない感じにもなり、薄すぎてもぼんやりとしてしまう。やや控えめな、絶妙なるバランスというものがあるような気がします。
「金剛杖」と名付けられたお菓子は、卵と砂糖を泡立てた黄身の入ったメレンゲを、羊羹と合わせて乾かしたお菓子。干菓子の仲間といえます。なるほど、この名前からは四国八十八ケ所を思い起こします。こんな美味しそうな杖なら、いくらでも歩けそう? 旅のお供にしたくなります。
隣の小さな箱2つは、先ほど紹介した大徳寺納豆入りの「香う木」と、浮き出た渦の模様が美しい「鳴る潮」。鳴門の渦潮を表した干菓子です。もしこれを買って帰ったら、お茶を淹れる度に徳島のことを思い出しそうです。

さて、右上の箱は「しも柱」です。まるでキャンディーが包まれているよう。このお菓子は、糸寒天とグラニュー糖を炊いて煮詰め、固めたものです。いわゆる錦玉羹(きんぎょくかん)ですが、これが特筆すべき「はかなさ」で、すぐに消えてゆく食べ心地は、お菓子ならではの甘さを含んだはかなさでした。これも特筆すべきはまぶされた和三盆糖。この黄色がかったお砂糖をまぶす事、さらに薄紙に一つずつ包む事で、薄い衣をまとったような風情です。和菓子なのか? それとも洋菓子にもあるかもしれない? と思わせるようなお菓子です。
入口は澤鹿でしたが、その他の繊細なお菓子の数々に、作り手の力を感じた滞在でした。

●澤鹿文明堂
徳島市富田橋4-55-5 ℡088-652-7251
【営】9:00~19:00 【休】休日曜、年始の3日
澤鹿1竿 2,160円

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