第21回

この状況は「サンキュー事故」の側面も?

JAFMate 2016年10月号掲載

編集部:今回は住宅街の信号のない交差点で、左から来ていた白い車が停止したので、そのまま直進したところ、スマートフォン(スマホ)を見ながら自転車に乗っていた男性が一時停止せずに車の陰から飛び出してくるというものです。問題の場面では、自転車は車の陰に隠れていたので、自転車の存在自体を見落としてしまう可能性もありますね。

問題写真

結果写真

動画で見てみる

長山先生:そうですね。白い車が目立つので、まずそこに目が奪われ、白い車との優先関係が気になるでしょう。問題の場面をよく見れば、白い車のほうに停止線があり、車の屋根越しに「止まれ」の赤い標識もかすかに見えますが、パッと見ただけでは、どちらに優先権があるのか判断がつきづらい状況です。

編集部:たしかにそうですね。信号がない交差点では、道幅が広いほうに優先権がありますが、この交差点の場合、どちらの道幅もほとんど変わりませんし。

長山先生:そうですね。道交法36条で「交差点における他の車両等との関係」が規定されていて、そこにご指摘の「広路車両への進行妨害の禁止」がありますが、交差する道路が“明らかに広い道路”との定義があるので、問題の道路には当てはまりません。そこで考えられるのが、“左方優先”です。

編集部:左方優先?  そういえば、ありましたね。左から来る車を優先させなくてはいけないルールですね。

長山先生:そうです。同じ道交法36条には「左方車両への進行妨害の禁止」があり、「車両は、交通整理の行われていない交差点では、交差道路を左方から進行してくる車両の進行妨害をしてはならない」とされています。

編集部:では、相手側にも一時停止の規制がなかったら、こちらが白い車に道を譲る必要があったのですね。

長山先生:そういうことになります。だから、「左方優先」を知っているドライバーほど、今回のように左から来た白い車が止まっていると、どうすればよいか迷うことになるでしょう。

編集部:見合ってしまうわけですね。そんなときは、相手の目を見て意思を読み取る“アイコンタクト”が重要になるのですね。

長山先生:そうですね。ただ、今回の場合、運転席の窓に空が映り込んでいてドライバーの顔が見えづらくなっているので、相手の「意思」が読めません。

編集部:白く反射しているのは、空の映り込みでしたか。顔が見えなくては、譲ってくれたのかどうか判断が付きませんね。

長山先生:そうです。相手の意思が読めないため、相手の様子に注意しながら進むことになります。そのため、車の後ろに自転車がいることなど、車の周囲の状況まで読み取る余裕がなくなります。

編集部:白い車の様子ばかり注意してしまい、後ろから出てくる自転車の存在に気づくのが遅れてしまいますね。

長山先生:そうです。一方に注意が集中していると、もうひとつのことがおろそかになる「心理的な落とし穴(心理的な危険源)」と言えるものです。すなわち今回の危険予知で学んでもらおうとする内容は、相手が止まって先に行くように促してくれる「サンキュー事故」に当たるもので、車の陰になっている危険対象、この場合は「白い車の陰から出てくるスマホを手にした男性が乗る自転車」を、車のボンネット越しや床下情報としていち早く察知することが重要です。サンキュー事故というと、対向車が待ってくれてその前を右折するケースを考えがちですが、今回のように左右からきた車が待ってくれるケースにも起こるものです。下図は過去に私が分析した事例になります。

編集部:押しボタン信号は歩行者用で、車は左右の安全確認ができれば、いつでも進むことができる交差点なのでしょうか?

長山先生:そうです。aが出てくる路地には信号がなく、手前の車線の車は途切れ、向こう側の車線は渋滞中でcが止まってくれたので、そのまま道路を横切ってしまい、車の側方を通過してきたバイクと衝突してしまったのです。

編集部:右折時のサンキュー事故はよく知られていますが、このようなパターンのサンキュー事故はあまり知られていないので、気を付けないといけませんね。

長山先生:そのとおりです。いろいろな事例を知っていれば、同じような状況に遭遇した際にそれを思い出して注意できるので、事故を避けられます。この事例で言うとバイクになりますが、事故の加害者だけでなく被害者も、このような事故が実際に起きていることを知っておく必要がありますね。ただ、今回の場合は、自転車側が事故事例を知っておくこと以前に、一時停止を守ることやスマホを使いながら自転車に乗らないなど、まずルールを遵守することが重要になりますね。

長山泰久(大阪大学名誉教授)

大阪大学名誉教授長山泰久1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAFMATE』危険予知ページの監修を務める。

バックナンバー

トップに
戻るで