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2018/11/08

体調変化によって起こる事故を調査。高齢化社会における事故予防に必要なこととは? 

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日本自動車会館で行われた講演に登壇した一杉正仁・滋賀医科大学医学部社会医学講座法医学部教授。

 日本自動車会館の「くるまプラザ」で10月17日、一杉正仁・滋賀医科大学医学部社会医学講座法医学部教授による講演が行われた。テーマは「高齢化社会における効果的な事故予防対策の実践」。体調変化に起因した事故予防が大きな課題であることが紹介された。

運転年齢の高齢化

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交通事故死者数に占める高齢者の割合(平成29年 警察庁交通局発表)。平成29年をみると、交通事故死者数の54.7%を高齢者が占めている。

 一杉教授の講演内容に踏み込む前に、その背景を振り返っておこう。警察庁交通局の調査によると、平成29年の交通事故の死者数は3,694人と、昭和23年以降の統計で最少となっている。しかしながら、上グラフの通り、死者数に占める高齢者の割合は高まる傾向にある。直近の平成29年では、死者数のうち65歳以上の割合は54.7%と高い。(関連記事:2018年上半期・交通事故死者数)

高齢運転者が起こす事故の原因

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年齢層別の死亡事故件数(免許保有人口10万人あたり)。平成29年12月末の運転免許保有者数から算出(警察庁交通局発表)。

 次に死亡事故件数を年齢層別に示した上グラフを見てみよう。16~19歳では13.5件、75~79歳で5.7件、80~84歳で9.4件、85歳以上で14.6件と全年齢層に比べて若年者と高齢者の事故件数が多いことが分かる。運転免許を取得して間もない若年ドライバーが死亡事故を起こしやすいことは周知のとおりであるが、点線の赤枠で囲っている通り、75歳以上ドライバーもまた事故を起こしやすい様子が見て取れる。(関連記事:70歳過ぎると急に高くなる?自動車保険の保険料)

運転ミスだけではない原因

 なぜ75歳以上のドライバーは、事故を起こしやすくなるのだろうか? 一杉教授によると、事故の原因として、危険な事態に遭遇した時、慌てたりパニック状態となり、適切な危険回避行動をとれないこと、体調不良によって適切な操作を行えないことが挙げられるという。さらに、交通死亡事故の1割以上が運転者の体調変化が原因(*1)となっているそうだ。

 運転中に生じる体調変化の原因として、心疾患、脳血管疾患、てんかんが多いことが知られている。職業運転者を対象とした調査(*2)では、脳卒中と心疾患で約半数を占め、失神、消化器疾患、めまいなども正常な運転を妨げる原因となっているという。さらに、高齢になるほど何らかの疾病の有病率も高くなるので、高齢者では特に、体調変化に起因した事故の予防に配慮すべきであるそうだ。

 また、運転中に大きな発作や重篤な体調変化が生じると、事故を回避することは困難であるという。事故現場の状況から車両の軌跡を調査し、ハンドルあるいはブレーキの操作などの回避行動があったかの調査(*3)では、事故直前に回避行動が認められたのはわずか26.5%。意識が完全に消失した場合はもちろんだが、意識レベルの低下、痛みや感覚異常にでも正常な運転に支障をきたすという。

 近年、ドライバー異常時対応システムを搭載した大型バスが導入され、今後乗用車へも広がりそうだ。自動車の技術進歩による解決はぜひ期待したいところだが、最先端の技術は普及までに時間がかかるうえ、たいていは高級車から導入される。そういった最新装備が多くのクルマに広く普及するまで、体調不良に起因した事故を予防するためにできることはあるだろうか。

体調変化による事故予防のために行うこと

 運転中の体調変化は突然襲ってくると思われているが、多くの人では、発症前に何らかの異変が感じられている。症状は本人しか自覚できないことであり、感覚には個人差があることから、一律の基準を設定することは難しい。しかし、米国における研究では、自動車運転中に失神発作を起こした人の87.4%が、発作前になんらかの症状を自覚したという(*4)。さらに、何らかの疾患を持ち、薬剤を処方されていながら、服用せずに体調不良に起因した事故を起こす運転者も少なくないそうだ。

 一杉教授は、社会全体に運転中の体調変化が事故につながるということを啓発し、運転者自身が疾患を自覚し、良好にコントロールすることが、結果的に体調不良に起因した事故を予防することになると主張している。薬剤の用法を守り、確実に服用しないと急な発作に襲われる可能性があることを、運転者本人および家族に認識させることが各医療従事者に求められるという。

 一方で、加齢とともに判断能力や操作能力低下していても、訓練や工夫によって、技術や能力を維持できている人もいるそうだ。したがって、常に自分の能力と体調変化を確認し、それぞれを自己でコントロールすれば安全な運転が可能になる。また、高齢者の身体特性や脳機能、運転能力に関する科学的知見を多く集め、何らかの疾患や障害があっても、それを補う工夫や運転装置の導入で運転を可能にすることが期待されるという。

 内閣府の調査によると平成29年度現在、65歳以上の高齢者の人口は27.3%を占める。さらに、2050年にはこの割合が 39.6% になり、15 歳から 64 歳までの生産年齢の割合は 51.8% に下がると推計されている。つまり今後、生産年齢人口だけで日本経済を支えることは到底困難となり、高齢者が社会活動に参加し、経済の活性化に貢献することが必須になると考えられている。

 高齢者が安全に社会活動に参加するために、どのような支援を行えば運転が可能になるのか、さらに議論を深めていく必要があるだろう。

参考文献

*1 一杉正仁:体調変化に起因した事故の現状と予防対策 自動車技術 2016; 70: 18-24
*2 Hitosugi M, Gomei S, Okubo T, Tokudome S: Sudden illness while driving a vehicle, a retrospective analysis of commercial drivers in Japan. Scand J Work Envn Hea 2012; 38: 84-87
*3 Y.Motozawa.et al.:Sudden death while driving a four-wheeled vehicle an autopsy analysis,Med Sci Law 20018;48,64-68
*4 Sorajja D, Nesbitt GC. et al: Syncope while driving, clinical characteristics, causes and prognosis. Circulation 2009; 120: 928-934.

2018年11月08日(JAFメディアワークス IT Media部 大槻 祐士)

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