JAF Mate Neo 長尾智子のお菓子風土記

2017/03/15

第5回
京都のお菓子は上質、可愛い、微笑ましい ●しぐれ傘

201704.png

京都といえば、まずは和菓子を思い浮かべる方も多いと思います。春の桜、秋の紅葉の季節だけでなく、一年中賑わっている印象の京都に、私が繰り返し行くようになったのは随分前ですが、仕事がきっかけで通っているうちに、お寺に寄って、市場に寄って、コーヒー店に、少し遠くの和菓子屋さんに、と一回の滞在が長くなっていきました。
それと同時に、和菓子=小豆の面白さに興味津々になり、京都とは? 和菓子とは? と考えるようになったのです。奥深い京都のお菓子。今回は、二条通りを東に入った京華堂利保(きょうかどうとしやす)を訪ねました。

賑やかな四条河原町を出発点とすると、例えば河原町通りを三条、二条と北上したところで鴨川を東に入り、少し歩いたあたりに京華堂利保の店舗があります。いつ訪ねても変わらない佇まいに、毎度のこと京都にいるという実感が湧くというもの。また買いに来ることができたという嬉しさで、必要な数をメモして来たつもりでいても、やっぱりもうひとつ、と欲張る気分も出てきます。
代表的なお菓子と考えると、どれもが同列に並ぶと思いますし、実際ひとつ選ぶのはとても難しいのですが、誰が見ても食べても喜びそうな、一番可愛らしい形、そして自分で食べるだけではなく、誰かに贈りたくなるのが「しぐれ傘」です。
これは、戦後間もなく蕪村の俳句に因んで、二代目主人が考案したお菓子で、生活にゆとりができて旅行をする人も増えてきた頃、日持ちする焼き菓子として販売を始めたそうです。その頃も、珍しくてもらって嬉しいお土産だったことでしょう。
以前、取材に伺った時に製造過程を少し見せていただいたことがありますが、あれから時間も経っているので、四代目ご主人の内藤さんにふと道具のことを聞いてみました。長年の間に、職人が減ったり変わったりしていくと、道具もそれにつれて作ることが難しくなったり、職人の技術が絶えてしまったりということも珍しくはなく、かつて柳宗悦が書いたような「手仕事の日本」の一部は消えかかっているとも言えます。
特に、葦(あし)のような自然素材を使って手作りしていた簾(す)などの道具が、プラスチックで作られるようになったりすると、当然使い勝手も違ってきます。蒸し物の水分を程よく吸収する機能が自然と備わっていたのが、その部分は他のもので代用しなければならなかったり、ちょっとしたことのようで長年続けてきた作業の流れが変わるとしたら、それは結構大変なこと。私も以前、長年の間使い続けてきた片口のお鍋を買い足そうとした時、口の形が変わっていることに気づきました。注ぐ部分が鋭角に尖っているのが特徴だと思っていたのが、すっかり小さくなって角度も違っていたということもありました。日々使う道具は、毎日同じように手に馴染んで欲しいもの。道具の工夫をしながら、またいい材料を探しながらのお菓子づくりをされているようです。

17M04okashi_01.jpg17M04okashi_02.jpg17M04okashi_03.jpg

しぐれ傘の全貌をお見せしましょう。宝尽しのような可愛らしい柄の紙箱に、まん丸な形に焼き上げられたお菓子が入っています。封を開けると8本の小さな黒文字が。一台のしぐれ傘は8人分ですから、表面の放射状の線を頼りに切り分け、黒文字を刺して完成です。茶色いどら焼きに似た生地と少し柔らかい羊羹と、地味な色合いながらこれほど可愛げのあるお菓子も珍しいのではないでしょうか。日持ちは2週間ほど(開封後は2、3日)、上下の生地と羊羹は、次第に馴染んで一体化していくといいます。出来たてよりむしろ時間を経たほうが美味しくなる、まさに遠く離れた土地への手土産にふさわしいお菓子です。

17M04okashi_04.jpg17M04okashi_05.jpg

こちらは、お茶席に使われ続けてきた「涛々(とうとう)」。大徳寺納豆が加えられた餡を、香ばしい麩焼で挟み込んでいます。表面の美しい砂糖蜜の模様は、千家好みの波を表しているそうです。気楽にいくつも食べるタイプのお菓子ではありませんが、麩焼の香ばしさゆえか、あるいは生地に刻み込まれた大徳寺納豆の熟成した塩気のせいか、ついもうひとつ食べたいと思わせる魅力があります。

17M04okashi_06.jpg17M04okashi_07.jpg

17M04okashi_07-2.jpg

次は、小豆を包んだきな粉、青のり、そして甘納豆がそれぞれ袋に入って並んでいる「福寶(ふくたから)」。これも、おめでたい雰囲気が満載の掛け紙が巻かれた、なんとも幸福感に溢れた箱入りです。食べてみれば、丁寧に作られた和製のプチフールという感じでしょうか。丁寧にお茶を淹れてゆっくり味わいたい、小さなお菓子です。
ここまでの3種類が、京華堂利保を代表する3つのお菓子といえます。それぞれは、決して大きなものではなく、こじんまりとちょうどいいボリューム感なのですが、それにも増した味の充実で、誰もが満足するはずです。毎回、誰かにこの美味しさをお裾分けしたいと思うのですが、たまには逆に、誰かからお土産にもらってみたいなぁと思ってしまいます。

17M04okashi_08.jpg

このこんがりと焼き色がついた筍と松茸は、ボリュームのある懐中汁粉です。その名は「たけの露」。「京に田舎あり 春は筍 秋 松茸」と説明が入っていました。京の都とはいえ、昔の洛中を考えると、洛外とされる範囲の広いこと。現在は、街の中心とされるところが広がったようでいて、街中から山が見える景色や、少し外れてすぐに畑が広がることなどで、京に田舎あり、という言葉がよくわかります。そして、その田舎が料理やお菓子にとってどれほど大事かも見えてきます。何の飾りもない素朴と洗練の良いバランスが、京華堂利保のお菓子、いやもしかすると京都のお菓子から読み取るべきことなのかもしれません。

17M04okashi_09.jpg

予約注文で、季節ごとに意匠が変わる上生菓子は、今回訪ねた時は冬と春の間で両方の雰囲気が箱に詰め合わされていました。冬のかぶらと春駒、梅の花。季節を満喫する方法は、ここにもあるというわけです。

17M04okashi_10.jpg

●京華堂利保
京都市左京区二条通川端東入難波町226 ℡075-771-3406
【営】9:00~18:00 【休】日祝・第3・4・5水曜
しぐれ傘ミニ1,404円

→次ページ:京都を歩く