充実カーライフ 日本人が生き残るには、モノ作りの原点を見つめ直すべき【魂の技術屋、立花啓毅のウィークリーコラム最終回】

「グローバル化が進み日本の個性が薄まりつつある今、日本人の得意なモノ作りの中に成長のヒントがある」。かつてマツダに在籍し、ユーノス ロードスターやRX-7などを手掛けてきた技術者の立花啓毅氏はいう。どういうことか。立花氏は論理と感覚という相対する判断基準を己の中に確立すべきだと訴える。

2019年03月12日 掲載

立花啓毅

「新しい仕事の仕方、新しい考え方、新しいビジネスにおいて日本は後れをとっている。だが日本人には日本人の得意なやり方で世界に立ち向かえばいい」。かつてマツダに在籍し、ユーノス ロードスターやRX-7などを手掛けてきた技術者の立花啓毅氏はいう。そのためには今こそモノ作りの原点を見つ直す必要があるとする。

 物事には「論理的」に答えを出す面と、「人の感覚」によって判断する面がある。今後はこの2つの組み合わせで決断することが成功のカギと言われている。ところが私の知る限り、日本人はこの両面ともに弱いようだ。

 欧米企業と仕事をすると、日本人は論理面でも負けてしまうことが多々ある。これは我々の癖で手前の問題から解決しようとすることが多いからだ。

 例えば日本企業と欧米企業の会議だ。日本側は担当者が資料に沿って説明し、判断する経営者側も、その資料の中で質問をする。ところが欧米側は、すでに資料には目を通しているため、日本人同士のやり取りが終わるのを待っていることすらある。そして次のように切り出す。「現状の問題点は、今、担当者が説明した通りで、本来はこうあるべきだろう。今はここだから、こういったステップで進めよう」と、全体像を示す。こう切り込まれると、日本人側は自分の視点の低さに気付かされる。

後れをとっているのは論理でなく感覚

 だが、このような論理的な手法は、勉強すれば対応できる。むしろ真似て改善するのは日本人の得意技。論理的思考法の向上には心配はないだろう。しかし感覚面での判断は非常に深刻だ。我々日本人の脳は、新しい何かを生み出すよりも、決められた枠の中で活動するのを得意としているからだ。原因は良く言われるように、個性より横並びを重視する教育にあり、社会に出てからも協調性という評価項目が重視されることにも一因する。

 クルマの商品開発では、市場動向や競合車の分析、投資などのデータを基に企画・開発を行う。最近は精度を高めるためAIを駆使し、顧客の好みも細やかに取り入れている。これは間違えることが少ないという意味では正しい手法だが、すでに限界に来ている。というのは、どこのメーカーも同様の方法をとるため、メーカーが違えど同じような結論が出る。そしてその結果、あるのは同じような商品ばかりとなってしまった。日本の企業は「カイゼン」の掛け声の下コツコツ真面目に品質改善とコスト削減を行ってきた。1970~80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれ、世界をリードした。

世界に相対したときの、日本人の武器とは

 他方米国では、「クルマの次時代」は情報社会に変わるであろうと読み、そしてGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が誕生することになる。GAFAは世界中の個人情報を独占し、社会のプラットフォームを支える大企業となった。モノから情報に舵を切り「無から新たな物事を生み出す力」を持ったのだ。彼らは日本人が得意としたコツコツ真面目な品質改善やコスト削減とは全く別次元の仕事の仕方をする。これでいよいよ我々は大きく後れを取ってしまった。

 では、日本人はどうすべきか。

 今、経営などの論理的世界にデザイナーを参画させる動きがある。要は論理的な判断に加え、「感性」を入れるのだ。この感性とは、以前に「マーケティングなんてウンザリだ! 目利きは人生を豊かにする」で記した「手に油」して成しえた目利きのことに他ならない。頭の中や机上だけで考えるのではなく、実際に自分の手を動かすことで真理を見据える感性を磨き、本質を突き詰める目を養えば、GAFA後の世界でも日本人は得意なモノ作りに、堂々と取り組めるはずである。

立花 啓毅 (たちばな ひろたか):1942生まれ。商品開発コンサルタント、自動車ジャーナリスト。ブリヂストン350GTR(1967)などのスポーツバイク、マツダ ユーノスロードスター(1989)、RX-7(1985)などの開発に深く携わってきた職人的技術屋。乗り継いだ2輪、4輪は100台を数え、現在は50年代、60年代のGPマシンと同機種を数台所有し、クラシックレースに参戦中。著書に『なぜ、日本車は愛されないのか』(ネコ・パブリッシング)、『愛されるクルマの条件』(二玄社)などがある。